2011年12月29日木曜日

エロティク・ジャポン

エロティック・ジャポン
アニエス・ジアール著
にむらじゅんこ訳
河出書房新社

フランス人女性ジャーナリストが見たヘンな日本。違うよ、そうじゃないんだよと言いたいけれど、これが彼女の分析なのだから仕方ない・・・のだろうか?



1969年生まれのフランス人女性ジャーナリストが、日本の様々な風俗について独自の視点から斬りまくった本の邦訳。
七夕・宝塚・やおい・メイドカフェ・ブルセラ・ラブドール・ハプニングバー・・・など、一般的なものからソフト、ハードなもの、超過激なものまで100以上の項目が図版と共に真面目に解説されている。引用文も、神話・紫式部から近松門左衛門、谷崎潤一郎・三島由紀夫・酒井順子など多岐にわたっている。

読み始めると、いきなり日本は「汚れたパンティを自動販売機で売る国」と定義づけられ面食らう。そして違和感と疑問でいっぱいになるが、「訳者あとがき」を先に読むと少しは納得できた。

著者は、日本のアニメ専門家として有名で、日本に心酔していたが、日本語は得意ではない。
それ故、参考・引用している文献は、英語・仏語の研究書に頼っているという。
そして、この本は、それらの研究書を読んだ著者自身の想像と自由な発想から生まれたものだと解説してある。
著者の友人だと言う日本人の訳者もこの日本社会の描写にしばしば戸惑いを覚えている。
そして、その戸惑いにこそ、本書が日本で翻訳出版される文化的意義があるという。
そう考えれば読み方も変わってくる。
「日本のエロ系サブカルチャーはフランス人からどう見られているのか」を知る本だということになる。
自分のことはなかなか客観的に見るのは難しく、欠点を指摘されると怒りを覚えるものだと思いながら読み進める。

確かに、「日本女性の美しさは、つつましさという美徳を前提にしている」という点は肯ける。現代の女性のことではなく、あくまで「ぐっと来るポイント」という話だが。
そのため、盗撮・パンチラ・恥じらいの方が、外国の挑戦的・直接的な映像等より日本人の好みに合っているのではないか。「Come on」と「やめて」の違いであろう。
キリスト教の原罪や、日本の土着信仰・八百万の神・死への考え方などと共に論じている部分は
なるほどと考えさせられた。

しかし、例えば七夕の項で「この日、女の子たちは織り姫に、機織りと裁縫が上手くなるようにと願う。一方、男の子たちは、書道の腕前があがるようにと願うのが習わしになっている」と定義づけられている。また、OLとは「1日に266回お辞儀をしなければいけない企業の飾りものであり、女中である」とされている。仲間由起恵を「最も胸の薄い女」と断定していたり、日本人ならこの文章に違和感を持つだろう。
こういった調子で様々な風俗を著者独自に考察していく本なのである。

書いてあることは、まるっきりの捏造ではなく、実際に少数とはいえ日本で行われていることなのだから認めることも必要なのかもしれない。
また、私自身も初めて知った項目もいくつかあり、新たな発見であった。

ただ、嘔吐ショー等一部の箇所では、不快感・嫌悪感でいっぱいになる。
声を大にして、これは日本でも極少数の人たちのことで、大部分はこんなこと見たり聞いたりもしたことない人たちだよ!と言いたくなる。

しかし、この本は約4000円という高額本にも関わらず、異例の売れ行きを見せ、
出版から5年たった現在でも順調に版を重ねているという。
ということは、アニメおたくやコスプレおたくの多いフランスで、日本に興味を持つフランス人たちがこの本を読み、日本について誤解する可能性が高いのではないか。
全てを信じ、日本人全員がこうであると思う人はいないだろうが。

私自身は興味深く読め、著者の努力に感服したが、一方で日本の明るいいい面もたくさん紹介してほしいと痛切に願った。

2011年12月23日金曜日

水晶玉は嘘をつく?

水晶玉は嘘をつく?
アラン・ブラッドリー
東京創元社

化学大好き少女が探偵役となるミステリーの第3弾。もうちょっと落ち着いてと言いたくなる小生意気な女の子が魅力的に描かれている。



舞台は1950年代の英国。
片田舎にある広大な敷地の古いお屋敷に住んでいるあたし、フレーヴィア11歳。
我が家の財政が逼迫していると悩む父と、
いじわるな姉二人に囲まれてたくましく生きている。
姉たちにいつもいじめられているから、
いつかぎゃふんと言わせてやると機会をうかがっているの。
あたしの好きなことは、家の実験室で化学の実験をすること。
事件に遭遇して、大量の血を見たけど大丈夫。
だって化学の実験をしたことがあるから覚えているんだけど、赤血球というのは実は水分とナトリウムとカリウムと塩化物と燐の楽しい混合液が大半を占めているって知っているから。

そんな女の子が探偵役となる楽しいミステリーの第3弾。

原題は「A RED HERRING WITHOUT MUSTARD~マスタード抜きの燻製ニシン」
何の知識も持たずに読んだのだが、後で著者が70歳過ぎた男性と知ってびっくりした。
しかも、専攻は電子工学だったという。
執筆に専念するため早期退職したらしい。
そんな方が、 11歳の女の子を主人公に、3姉妹のバトルを描くってすごい!

読み始めて、なんと生意気な女の子だろう。
これなら姉2人に意地悪されても仕方ないのでは? と思った。
だって、姉の持ち物を勝手に持ち出したりした上、壊したり捨てたりするなんてひどい。

だけど、読み進めるうちに、「姉たちに負けるな!がんばれ!」といつの間にか応援していた。
賢く知識も豊富なませた女の子フレーヴィア。
勇気も人並み以上にあるけれど、やっぱり11歳。
「あたしのように科学的な考え方をする人間にとって、そういう話を鵜呑みにするのは難しかった」なんて言いながらも、水晶占いに出てきた亡き母の話に動揺したり、
子供らしいところがあちこちに垣間見られる。

「もうちょっと落ち着いて」って言いたくなる小生意気な女の子が魅力的に描かれているミステリーであった。

そして、舞台となる古いお屋敷。
地下室や家具の描写から、挿絵はないものの勝手に想像し、一人でうっとりしてしまった。

このシリーズは6作まで刊行されているので、次の翻訳が楽しみである

2011年12月21日水曜日

SEX会話力

SEX会話力
溜池ゴロー著
小学館101新書

題名は刺激的だが、著者の人生訓がギュッと詰まった一冊。草食系男子にこそ読んでもらいたい。



著者は、1964年生まれで明治大学法学部を卒業後、800本近いAVを撮ってきた監督。

著者の言う「会話力」とは、相手を理解しようとする力・コミュニケーション能力のことだと
私は理解している。

最近よくあるハウツー本(読んだことはないが)の著者たちと溜池氏とは決定的な違いがあるという。
医師やセラピストは学術的・医学的な解説をするが、実践面で弱い。
男優やマッサージ師は体験の豊富さから実践的な解説をする。
ところが、彼らは自分以外の男女の実践の場をあまり見ないので、
男目線で独りよがりになりがちである。
そこへ行くと監督業は、男と女両方の立場を客観的に観察・分析をすることができると、
著者ご本人はおっしゃる。
言われてみればなるほどと納得する。
この本は技術の話ではない、そんな著者が女性への溢れる愛を語った本である。

構成的には、著者の半生、女性に対する姿勢・人生訓、業界コラム、妻との対談となっている。
さすが百戦錬磨の方だけあって、女性の気持ちをよく理解し、大切に想ってくれるということが
よくわかる。

自信満々で強くカッコよく見せようと思う男ほど、カッコ悪い。
わからないことはわからないと言い、コンプレックスもさらけ出して
女性に真摯に向かい合うことが大切と著者は説く。
その通り!と拍手を送りたい。
知らない土地で道に迷った時、一人であれこれ悩むより、人に聞くのが一番近道なのに、
お店で商品について店員さんに聞けばよくわかるのに、
恥ずかしい・そんなことも知らないのと馬鹿にされるのではないかと思ってしまう人も多いと思う。
しかし、自分をさらけ出すと心も楽になる。そして相手も心を開きやすくなる。
そう著者は言いたいのだ。

長年連れ添った妻に著者の言うことを実践しても、浮気を疑われるか、
何を今更と蹴飛ばされるか・・・
それより、急に妻に優しくすることは心情的に難しいだろうと女の私でも思う。

だからこそ、まだ若い未婚の草食系男子にこそ読んでもらい、将来的に実践してほしい。

だからと言って、女性は無条件に素晴らしいとも思わない。
相手をよく観察し、思いやることは男女問わず大切なことだと改めて思う。
「観察して慮ることが、コミュニケーションの基本です。」と著者は言う。
恋愛だけでなく他人と円滑な関係を築くことは社会上重要なことであろう。
ビジネスでも応用できそうな極意である。

ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~

ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~
三上 延著
メディアワークス文庫

ビブリア古書堂第二弾。内気な栞子さんと大輔のもどかしい距離が少しずつ接近していく。



北鎌倉にひっそり佇む古本屋「ビブリア古書堂」。
就職浪人の俺はここでアルバイトをしている。
店主の栞子さんは、極度の人見知り&内気だが、本に関する知識は膨大で、
本にまつわる謎ならたちまち解いてしまう。そして何より美人・・・
軽く楽しいミステリーの第二弾。

読みやすく、サクッと最後まで読めてしまう。
そして、古書が絡む謎が出てくるので、本好きには興味深い。
今回は『クラクラ日記』(坂口美千代)『時計じかけのオレンジ』(アントニイ・バージェス)
『名言随筆 サラリーマン』』(福田定一)『UTOPIA 最後の世界大戦』(足塚不二雄)
の4冊にまつわるお話が出てくる。

「古書が絡む謎」というのが私にとってのこの本の最大の魅力で、
「スリップ」「値段のつけ方」等の本にまつわる雑学が今回も面白い。
もっとも、殿方の中には栞子さんが最大の魅力でって方も多いと思うが。

だんだん二人の距離が縮まって内容も、
もどかしい恋愛・二人はこれからどうなるのでしょうか?的な方向に進んでいく。
面白くて読みやすいことには違いないのだが、第一作と比べると少しだけ熱が冷めてきた。
栞子さんの設定があまりに男目線の、理想の「萌え女」のように私には感じられてきたからである。
でも、第一作目でも思ったが、これは漫画の世界。
そして、たまに食べたくなるフライドチキンの世界。
そんなことは気にせず読まなくてはならない。

少しさめたとは言っても、次作もきっと読むだろう。

2011年12月19日月曜日

ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~

ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~
三上 延著
メディアワークス文庫

題名は気になっていたのに、こんな面白い本どうして今まで読まなかったのだろう。



わたし、古書が大好きなんです…人の手から手へ渡った本そのものに、物語があると思うんです…中に書かれている物語だけではなくて

北鎌倉の駅前にひっそりとある古本屋「ビブリア古書堂」。
俺は「夏目漱石全集」について聞きたいことがあリ、訪ねた。
そこの店主は極度の人見知りでおどおどしているが、本のことになると別人になる。
古い本については膨大な知識を持ち、並はずれた洞察力を発揮する人。そして何より美しい・・・

古書にまつわるなぞを豊富な知識で見事に解決していく楽しいミステリー。

これだけ人気のある本で、この題名だから、本好きとしてはずっと気になっていた。
でも、表紙の軽さが気になるし、面白いのだろうか。
と読むのを躊躇していたが、まさに食わず嫌いだった!

冷静に考えれば、美しい若い女性が店主、湯上りの色っぽさ、実は巨乳・・・とか色々あるけれど、
それが気にならないのは、「本」が絡んだ話だからか。
いや、漫画を読んでいる気になるからかもしれない。
そうまさに漫画の世界。
特殊な才能のある美しい女性、舞台が古都鎌倉、20代の男女、恋愛の予感、そして様々な本たち
それらの要素を織り込んだ漫画の世界。
ただ、視点が男性のため少女漫画風ではないが。
漫画好きだった少女の頃を思い出して夢中になれたのかもしれない。

時々、無性に○ンタッ○ーフライドチキンが食べたくなる時がある。
それと一緒の感覚で、無性に軽い本が読みたくなる時がある。
そんな時に最適の、ほほえましい温かさを感じられる物語で安心して読める。
「せどり屋」「私本閲読許可証」など本に関するちょっとした雑学も楽しい。

ラノベも意外と読めるっと思ったら、ラノベ派の方に言わせるとこの本はラノベの中でも異色で
一般の本に近いらしい。
私個人では、『おさがしの本は』と同じ読みやすさと思った。

題名が気になっている方、ラノベだからと躊躇している方、漫画が好きな方、
時々チキンが無性に食べたくなる方、そんな方々にお勧めです。

あぁ、それにしても夏目漱石再読したくなる。

2011年12月15日木曜日

平安文学でわかる恋の法則

平安文学でわかる恋の法則
高木 和子著
ちくまプリマー新書


「平安文学に見える、恋や人生についての、物語や和歌の法則」の本。高校生の古文学習の入門書としても最適。というが、古文が苦手な大人の私にも最適。



平安貴族の恋の駆け引きなんて、聞いただけで想像が膨らみ憧れてしまう。
ところが私は歴史アレルギーに加えて、古典の文法嫌い。
源氏物語の世界も大好きだけど、もちろん読むのは現代語。
でもこの本は、そんな私でも読めそうと思い購入してみた。

「はじめに」で、大学で「源氏物語」を研究している著者でさえ、
高校の古文の授業のつまらなさをおっしゃっている。
著者 すらかつ 苦手。いわんや わたしをや。

著者は1964年生まれで関西学院大学文学部教授。
そんな方が苦手なわけないのだが。

でも、この中に原文は少ししか出てこない。
もちろん、品詞分解も必要ないので安心する。
試験もついてないので気楽に読めた。

著者によると、昔は著作権なんてないので、 みんな人気のあるお話をパクっていたそうである。
そのため、教科書に載っているような有名な場面を読みこなせば、試験でも「あっ、これどこかで見たことある文章だ」となるらしい。
「好みの女をさらって逃げて最後に死ぬ」などいくつかのパターンについて、その背景と共に説明してくれている。

「社会制度や風習の全く異なる千年前の世界に、現代の常識を無自覚に持ち込む」と、
とんちんかんな解釈になってしまう。
古文の内容を理解するためには、その「背景」が重要なのだろう。
その上、現代の事象に置き換えて説明してくれるので、当時のことがよくわかり、
古文を勉強する手助けになると思う。
もっとも、私ははなから古文を勉強するのはあきらめて、
平安時代の恋愛事情や雰囲気を知りたくて読んでいたのだが。

例えば、最初に恋文を送るとき、いきなり「好きだ。君しか見えない。」と書いても、
もらった方はよく知らない相手からの直接的な文面に面食らうことだろう。
だから、はじめは「桜の咲く頃君を見かけ、桜のように美しい君に感動した。」
くらいにしときなさい。
返事をする方も、いきなり「オッケー!」なんて返事をせず、
乳母やお手伝いさんに相談して代筆してもらいなさい。
などと、実践的に解説してくれている。

これを読めば古文の成績がアップする・・・とまでは言えないが、古文を読む手助けにはなる。
なにより古文を読むことが楽しくなりそう。

タイムマシンがあったら、高校時代古文に苦しんでいた私にこの本を手渡してあげたい。
そんな気分になる本だった。

2011年12月13日火曜日

三十光年の星たち 下

30光年の星たち下
宮本輝著
毎日新聞社

宮本輝氏の長編大作。下巻。学生さん達に読んでほしい本だが・・・



主人公の30歳の坪井は、2流大学を卒業し職を転々としていた。
金貸しの佐伯に見込まれ彼の運転手となる。
佐伯に「跡をついでくれ」と言われ、彼の夢を引き継ぐ決意をする。
そのために30年歯を食いしばり、耐えながら精進していくことを誓う。
京都を舞台に一生懸命生きている人々の感動の物語。

殺しもなく、死体もない。
大きな事件もない。
まっとうに真面目に生きている人々の物語。
久しぶりに感動的な温かい話に出会った。
終わり方も余韻を残し、未来へ繋ぐ希望が見えてくる。

現代の話で、携帯電話・デジタル機器・「イケメン」という言葉が出てくるが、
読んでいて昭和時代の話のような気がしてくる。
安定感、安心感がある代わりに、今どき感・若者感がなかった。

著者が、歯がゆい若者たちにエールを送っているのがよくわかる。
挫折しても大丈夫、これから歯を食いしばって耐えて頑張れば、
長い間---30年間頑張れば花開く。
高校生、大学生、つらい修行中の方などに最適な本だと思う。

だけど、やはり学生たちには説教臭く感じられると思う。
今の私なら素直にうなずけるのだが。
「10年で、やっと階段の前に立てるんだ。20年でその階段の3分の1のところまで登れる。30年で階段をのぼり切る。そして、のぼり切ったところから、お前の人生の本当の勝負が始まるんだ。本当の勝負のための、これからの30年間なんだ。」

たくさんのいい言葉と出会った。
少しは自分も丸くなったのだなと思う。

三十光年の星たち 上

三十光年の星たち 上
宮本輝著
毎日新聞社

 
宮本輝氏の長編大作の上巻。



俺は二流大学を出て就職したが、上司とけんかして2年で辞めた。
その後、派遣とか契約社員とかであちこちの会社を転々としてから、
女と皮革製品の商売を始めたが、立ちいかなくなってしまった。
女は去り、親には勘当され、借金だけが残った。
とうとう30歳になってしまった。
俺に金を貸した金貸しの佐伯が、借金返済の代わりに車の運転手として雇ってやると言う。
選択の余地がなかった俺は佐伯と共に、彼が金を貸した人々に会いに行く旅に出た。

少しずつ佐伯のことがわかってくると共に、主人公も成長していく長編大作の上巻。

重鎮・宮本輝氏の本を読んで、その説教臭さと女性への偏見口調に閉口したことがあった。
私自身が若くとんがっていた頃だからそう感じたのだろう。
久しぶりに著者の本を読むにあたって、姿勢を正して拝読しなければと思っていたが、
30歳の男性が主人公だからか読みやすく、すいすい進む。
だが、あちこちに光り輝く表現がちりばめられていて、うっかり読み飛ばしてしまいそうになる。
ゆっくり読み進めると、今なら著者の言葉がすぅーっと心に入ってくる。

「現代人には二つのタイプがある。見えるものしか見ないタイプと、見えない物を見ようと努力するタイプだ。」
「我々ひとりひとりの身の廻りで起こることに、偶然てものはないってことだよ。」


ポトフはじっくり丁寧に煮込んだ方がおいしくなる。
志ん生が花開いたのは60歳になる頃から。
苗木を植えてから長い年月をかけて森となる。

何事も長い時間耐えた後に実になる--そんなの誰でもわかっていること。
そういうところが昔は説教臭く感じてしまったのだろう。
何も成し遂げてもいない、ただのわがまま娘だったくせに。
でも、今もたいして成長はしていないが、素直に聞ける。
それは私が歳を重ねたからか、著者のストーリー運びがうまいからか。

何より主人公が好感が持てる。
父親との確執、反抗、飽きっぽさ・・・どこにでもいそうな等身大の男性が戸惑いながらも
成長していく過程を、いつの間にか微笑ましく見守っている自分がいた。

そして、主人公が丁寧に作るポトフがとにかく美味しそうで、作ってほしいと切に願ってしまう。
借金取りの旅で終わるのかと思ったら、そうではないらしい予感が・・・
下巻も期待したい。

2011年12月9日金曜日

開かせていただき光栄です

開かせていただき光栄です
皆川 博子著
早川書房

週刊文春2011ミステリーベスト10で国内部門3位に入った本。18世紀ロンドンが舞台の極上ミステリー。読ませていただき光栄です。




舞台は18世紀のロンドン。
外科医で解剖学教室を主宰するダニエルは、墓あばきから買った貴族令嬢の死体を解剖していた。
そこに警察が踏み込んだため死体を隠したが、なぜか違う死体が次々と現れてくる。
一方、田舎で暮らしていた薄幸の少年詩人・ミカエルは、古い書物を携えロンドンに上京した。
解剖学に熱中するあまり周りが見えなくなる教授。
緻密画が得意などバラエティに富んだ弟子たち。
素朴で自尊心の強い才能あふれる若き詩人。
盲目の判事。
判事の姪であり目となる優秀な助手。
など、個性豊かな登場人物たちが織りなす極上のミステリー。
著者は1930年生まれ。

鍵屋さんのお話と勝手に思って読み始め、面食らってはいけません
登場人物の名前がカタカナだ、翻訳ものか?と思うでしょうが、違います。
妊婦の死体の解剖から始まるのでグロテスク過ぎて読めないかもと思っても大丈夫です。
冒頭、登場人物がたくさん出てきて頭がこんがらがり、
この本面白いのか?と不安に思っても心配ありません。(以上、全て経験談)

コミカルな場面でクスッと笑えると思ったら、シリアスな場面にせつなくなる。
応援したくなったり、理不尽な出来事に腹を立てたりする。
いつの間にか本の世界に引きずり込まれていた。
貴族の令嬢が出てきたり、食事・道行く七面鳥・女性たちの化粧や風俗、
羊皮紙を革装した書物など、18世紀にタイムスリップしたかのように感じられる。
そして二転三転する高度な謎解きに、最後には納得する。
とにかく盛りだくさんのサービス満点の本であった。

読み終わってふと、これは後世に残る傑作なのではないかと気付いた。
私も十分堪能したが、教養があり尚且つ英語に造詣の深い方ならもっと楽しめるのではないか。
それほど奥深く、言葉遊び、シニカルな笑いなどがちりばめられていた。
きっと私が気付かない面白さがまだまだあるのだろうと思い、いつか必ず再読すると誓う。

しかし、なぜこの作品が今年の3位なのか解せない。
「1位じゃダメなんですか?」と仕分けしたくなる。
そして「読ませていただき光栄です。」と心から言いたい。

2011年12月7日水曜日

バブル獄中記

バブル獄中記
長田庄一著
幻冬社


一代で東京相和銀行を築き上げた長田庄一氏の110日間東京拘置所滞在記。



長田庄一氏は、尋常高等小学校を卒業後15歳で単身上京し、
戦後貸金業から一代で東京相和銀行を築き上げた。
2000年に見せかけ増資の疑いで逮捕、東京拘置所に拘留され、
110日間にわたって拘置所生活を送った。
この本は、その拘置所内部・生活・取り調べなどを綴った獄中記である。

東京拘置所。
右斜め前に立つマンションに住む友達を訪ねたことがあった。
上階にある友達の部屋から拘置所の全貌を見ることができた。
拘置所の裏に職員宿舎があって、当時小娘だった私は、
凶悪犯と同じ敷地内にいるなんて職員の家族たちは夜ぐっすり眠れるのかな?と疑問に思っていた。

娑婆暮らしの長い、というか塀の外しか知らない私は、
そんな近くて遠い存在の拘置所に興味を持ちこの本を読んでみた。

女性検事とのやりとりが興味をひく。立場上対立している二人なので、どちらも譲れない。
違う場所で出会っていたら、二人はいいコンビになれたのかもと想像する。
“小娘”検事に対して「イライラして生理かな?」
などとつぶやくのもこの年代の立志伝中の人物らしく面白い。

でも、やはり戦争を体験してきた人は精神的にも肉体的にも強いと改めて思う。
食事、気候、睡眠など、戦時中より拘置所の方がましだというのは、重たい言葉だった。
麦飯は苦手だったようだが。
心を強く持たないとおかしくなってしまうような環境の中、77,8歳という年齢で
たくましく過ごすというのは心底凄いと思う。
「自由が制限されているこんなところでは日常生活のあらゆる面に、昔物資不足の時代に考え出した生活の知恵、その過ごし方が役に立つ。」
便利さに慣れてしまった現代人にはなかなか難しいことに思える。

蚊やゴキブリとの闘いもまた面白く書いてあって、
数多の波を乗り越えてきた御仁も虫にはてこずるかと、くすっとさせられた。

また、長田氏は、バブル崩壊直前に大口不良融資先からの緊急回収を命じたという。
そのおかげでその時は経営危機を回避できた。
札束が狂喜乱舞していた時に、自ら引くというのはなかなかできるものではない。
やはり一時代を築いた人は臭覚が鋭いのか、培ってきた経験の賜物か。


どうしても気になってしかたのないものが、拘置所に置いてあるという
「灰色をした安物の粉歯磨き」。
そんなものが今でもあるのか、とても気になる。
直接歯ブラシにつけるのか、それとも振りかけるタイプなのか。
枝葉末節にこだわってしまう私であった。

2011年12月5日月曜日

九月が永遠に続けば

九月が永遠に続けば
沼田まほかる著
新潮社

「まほかる現象」を引き起こした話題の衝撃作。デビュー作にして「ホラーサスペンス大賞」受賞作。なせ、著者はこんなにも読者を苦しめるのだろうか。



精神科医の夫は私を捨て、夫の患者であった女性と歩む人生を選んだ。
それから8年、私は高校生の息子と二人、肩を寄せ合って生きてきた。
15歳も年下の男の体に溺れてつかの間の幸せを味わったりもした。
最愛の息子はあの夜、ゴミを捨てに行ったきり、戻ってこなかった。
それ以来私は、息子を求めて探しまわる。

「まほかる現象」と著者の略歴
この「九月が永遠に続けば」は、2004年に「第5回ホラーサスペンス大賞」を受賞したが、
2万部で動きが止まったままだった。
今年に入り「おすすめ文庫王国 国内ミステリー部門第1位」という帯を付けて販売したところ、
爆発的に売れて、60万部を突破した。
1948年生まれの著者は、若くして結婚し息子1人をもうけ、
普通の主婦をしていたところ、母方の祖父の寺の跡を継いで僧侶となる。
その後離婚し、建設コンサルタント会社を立ち上げたが、倒産。
人と接触しなくて済む小説家を目指そうと思い、55歳で執筆したこのデビュー作が大賞を受賞した。
(週刊新潮12/8号の記事をはにぃが要約・加筆)

前半は息子を求めてさまよう憐れな母の姿に胸を痛めていたが、
このままでは終わらないのが「まほかる」なのだろう。
本を読み始めるとその世界にどっぷりつかってしまう私は、
中盤から不快感・嫌悪感そして息苦しさに何度も本をパタンと閉じる。
もう読むの止めようかと思う。
でも、著者の筆力がそれを許してくれない。
目をそらそうとしても、目の前に突きつけてくる。
なぜ著者はこれほどまでに私を苦しめるのだろうか。
娯楽のために本を読んでいるのに、精神的にも体力的にも消耗させられる。
私は何のためにこの本を読んでいるのだろうか。
疑問に思いながらも止められない。

読み終わった後に考える。
著者は何を書きたかったのだろうか。
ゆがんだ愛の形なのだろうか。
それとも倒錯した性だろうか。

登場人物も好感の持てない人ばかりで、感情移入もできない。
ドロドロに絡み合った人間関係、それも納得いかない。
でも、なぜか惹きつけられて一気に読まされる。

描写がリアルだからだろうか。人物の服装・食事の作法・家の中の様子・・・
それらが、まるで映像を見ているように頭の中に入り込んでくる。
人の心を捉えることに秀でている著者の筆力の賜物なのか。
特に心を病んだ人物の描写は鬼気迫る。
もつれた髪にこびりついた汗と脂、それが垂れ幕のように顔に覆いかぶさって
唾液で肌に張り付いている様子はありありと思い浮かんでしまい、消し去るのに苦労してしまう。

好き嫌いがはっきり分かれる衝撃作、問題作であるが、
著者の才能には感服せざるを得ない。

2011年12月2日金曜日

おさがしの本は

おさがしの本は
門井慶喜著

図書館で働いている主人公が、本にまつわる無理難題を解決していくストーリー。ライトノベルのようにさらっと読める。



連作短編集。
主人公の和久山隆彦は、図書館で働き始めて7年、
今は相談を受け付けるレファレンス・カウンターで働いている。
そこに、女子大生が課題についてわからないと途方に暮れて泣きついてきたり、
50年近く前に忘れていったうろ覚えの本を探してほしい、といった問題を解決していく。
そんな中、財政難から図書館の存続が危ぶまれるという問題が起きる。
果たして、結果は・・・。

問題を解決していく過程が、回り道ながらおもしろい。
こういう思考でこう調べるのかという過程は参考になる。

大きな図書館ならいざ知らず、普通の財政難の市立図書館にレファレンス・カウンター(しかも暇そうな)なんてあるのだろうか?質問あるなら、貸出カウンターの人に聞くけどな、
などと考えてはいけない。
突っ込みどころは満載ながら、軽く最後までさらっと読める本であった。
ミステリー、恋の予感、ちょっとした知識、等が少しずつミックスされたライトノベルのようだった。

主人公は「図書館など、単なる貸本屋か、コーヒーを出さない喫茶店にすぎないのだ。」と、
役人に徹した態度で市民に対応している。
それが、図書館廃止論者の新館長と接する頃から少しずつ変わっていく。
私にとって図書館は大切な頼りになる場所だが、確かにお昼寝されている方もみかけるし、
本を返さない困った人もいるかもしれない。
もし自分の家庭の家計がひっ迫していたら、本を買うことなど考える余裕はないだろう。
その上本にも書いてあるように、市民全員が利用するわけではないのだし、
そう考えると図書館の存続や経費削減が問題になるのは仕方のないことなのかもしれない。

でも、わくわくしながら本を選んだ子供時代、
古典と言われるものを読み漁っていた中高生時代、
課題の調べ物をしていた大学時代
数少ない日本語の本を片っ端から借りていた海外在住時代と
図書館とは切っても切れない関係にあった私は、
やはり図書館はなくさないでほしいと願う。

図書館と本について考えるいいきっかけにもなる本だった。

2011年11月30日水曜日

AKB48ヒストリー

AKB48ヒストリー 研究生公式教本

AKB48のオーディションからデビュー、2010年じゃんけん大会までの歴史をメンバーの証言と写真付きで紹介した本。



AKB48のオーディションから2010年のじゃんけん大会までの少女たちの歴史をメンバーの証言と共にたどっていった本。

秋葉原に「会いに行けるアイドル」として、毎日公演を行うグループを作ると秋元康氏が発表して、
オーディションが行われたのが2005年。
初日の公演はメンバー20名だった。
そのチームAに続いて、第二期チームKのオーディションが行われる。
それまではメンバー同士の競い合いだったのが、チーム同士の争いになった瞬間であった。
その後チームB・研究生・SKEとどんどん増えて彼女たちの争いも熾烈になっていく。
一方、CDに特典としてレアな特典を付けたり、総選挙・じゃんけん大会などの企画によって、
ファンもどんどん熱くなっていく過程が描かれている。

今年の総選挙が人気のピークだったのではないかと個人的に思うAKB48。
私の周りにはいまだ熱烈なファンがいっぱいいる。
私個人としては好きでも嫌いでもないが、周りの影響からメンバーの名前も半分くらいはわかるようになった。

一応ファンに向けての「公式」ヒストリー本なので、それを差し引いて読んだのだが、
意外にも夢中になり、不覚にもひたむきな努力に感動すらしてしまった。
彼女たちのキーワードは「競う」ことなのだなぁと思う。

オーディションで競い、メンバー同士で競い、チームKができてチーム間で競い、
チームAとチームKのそれぞれのファンが喧嘩するほど競い・・・
と少女たちの思惑とは別に、周りに煽られて嫌でも競わされている彼女たち。
今は国民的スターになったからよかったものの、初期の頃の苦労と努力はスポ根漫画のようであった。

AKB劇場の舞台と客席のあまりの近さにびっくりしたが、
これだけ若い女の子が大量にきゃぴきゃぴしてたら、魅力的に思う人もたくさんいるのは当然だと思う。
普通の女子高生の大群も眩しく感じるし。

ただ、メンバーたちの周りで企画されている特典商法はいかがなものかを思ってしまう。
最初のうちは上手いこと考えるなぁと思っていただけだったが、
ここまでエスカレートすると眉をひそめてしまう。

2011年12月現在、大手流通グループで行われている「クリスマスオリジナルケーキ」の特典も
ファンには垂涎の物である。
クリスマス後の、ケーキ大量廃棄が問題になるのは必須であるのに、
なぜこんな企画を通したのか、疑問に思う。
せめて日持ちのするお菓子にでもすればよかったのに。

これから、グループとしての活動は下り坂だろうから、
どれだけ個々の活動を伸ばせるのかがカギになるのだと思う。遠くの方から見ていたい。

でも、実は自分が10代でちょっとばかりかわいかったら、
メンバーになることを夢見たかもしれない。
いや、できることなら加入したかった・・・

2011年11月29日火曜日

鷹匠の技とこころ

鷹匠の技とこころ 鷹狩文化と諏訪流放鷹術
大塚紀子著
白水社


大学の卒業論文で鷹匠を取り上げたことがきっかけでその道に進んだ著者が、数百年間門外不出とされてきたその伝統の技とこころを後世に残すべく書いた本。



1971年生まれの著者は、早稲田大学人間科学部の卒業論文「鷹狩と日本文化」を書いたことをきっかけに、鷹の魅力に魅せられてその道に進むことを決意した。徳川将軍家・天皇家に仕えてきた諏訪流の女性鷹匠となった著者がその伝統を詳細に語った。

まず、鷹狩の鷹とは、猛禽類のワシ・タカ・ハヤブサの中で、生きた獲物を捕食する習性のあるものをいう。
一度だけ見たことがあるが、翼を広げて飛ぶ鷹(ワシだかタカだかハヤブサだか定かでないが)のあまりの大きさと威厳のある飛び方に慄いたことがある。
その獰猛というイメージの鷹を女性が操るのだから、興味を持ってこの本を手にとった。

・放鷹の歴史・発展
およそ6000年前から鷹を調教してきたという説もあるらしく、鷹狩は現在でも70カ国以上で積極的に行われているという。
日本でも「日本書紀」に仁徳天皇の鷹狩の話が載っているらしい。

・鷹の飼育・道具など
ふんだんな写真と図を用い、微に入り細に入り鷹の習性から、餌や小屋などの飼育方法、
伝統的な道具などを説明している。
覚悟があればすぐにでも鷹を飼えそうなほどである。

・狩りの現場・調教の仕方
具体的な調教の仕方と実践を事細かに説明している。
昔から口頭で受け継がれてきた秘伝の技を、惜しげもなく披露してくれている。

・これからの鷹狩
アラブでの鷹狩の研修の様子や文化の継承にかける著者の思いなどが綴られている。

獰猛だと思っていた鷹は知能が高く、繊細で気位の高い生きものであることにまず驚きを感じた。
そして、「神の化身であったとされる鷹を敬うこころ」「鷹に仕えさせていただく」という鷹匠の鷹への尊敬の念に感動させられた。それがあるからこそ、鷹とこころを通わせ初めて「人鷹一体」の素晴らしい感覚を得られるのだろう。

全体的に専門家から、これから鷹を飼いたい人、また、私のような素人まで興味深く読める貴重な本であった。

「まだまだ鷹匠としては未熟ながら、日本だけでなく世界の鷹狩文化の保存と伝承のため、何ができるのか、どのような貢献ができるのかを考え続けている。」という著者の思いは揺るぎなく、心をうつ。
鷹匠という職業を選択した著者の生き方にも興味を覚え、その半生を本にして欲しいと願う。

2011年11月28日月曜日

魔女のサマーキャンプ

魔女のサマーキャンプ
サラ・ムリノフスキ著
今泉敦子訳

思春期の娘の気持ちがわからない、そんな悩めるお父さん。この本を読むと少しは少女の気持ちがわかる・・・?かもしれませんよ。



魔法的ハイスクール・ファンタジー第3弾。
明るくドジなレイチェルはミドルティーン。
母・妹に次いで自分も魔女であることがわかったからもう有頂天。
この夏、妹のミリと共にサマーキャンプに行くことになった。
魔女だし、大好きなラフも一緒だし、今年の夏は最高の夏になるはず・・・だったが、
性悪女も登場し、色々な災難がレイチェルを襲う。大丈夫か?レイチェル。

そそっかしく、あわてん坊のレイチェルは魔女だとわかったばかり。
自分で魔力を制御できないくせに、どんどん使ってしまう。
自分の棚に荷物を整頓して入れるとき、「服の並びはまるでギャップ」と言ってしまう。
ギャップのお店のようにきれいに並んだはいいが、サイズはベビー・キッズ・メンズとばらばら。
寝起きのぐちゃぐちゃの髪を直そうと、「いますぐまっすぐになれ」というと、
まっすぐになったはいいが、やまあらしのように直立してしまう。

あぁ、もうレイチェルったら、もう少し落ち着いて。
ダメダメそんなことしたら。
ほらね、だから言わんこっちゃない。
読んでいるとだんだん保護者の気分になってくる。

そんな無鉄砲なレイチェルにもピンチが訪れる。
辛いピンチを自分の力で乗り越え少しずつ大人になっていく・・・たぶん。

思い起こせば、自己中心で怖いもの知らずだった10代。
恥ずかしくも、甘酸っぱい想い出。
消し去りたい過去(私だけ?)
もし、その頃に突然魔法が使えると知ったら、私だって調子に乗って自分の都合のいいように魔法をかけていたと思う。
誰もが通り過ぎてきたあの頃を思い出させてくれる本だった。

アメリカのサマーキャンプの様子も楽しそうでよかった。
日本の子供たちは塾の夏期講習なのに。


でも、次回はもうちょっと思慮深くなろうね、レイチェル!

2011年11月24日木曜日

麒麟の翼

麒麟の翼
東野 圭吾著
講談社

2012年1月公開の映画「麒麟の翼」の原作。東野圭吾氏本人も認める自己最高傑作・・・らしい。




日本橋の中ほど、二体の麒麟像が置かれた装飾柱の下で建築部品メーカの製造部長・青柳武明55歳の死体が見つかった。刃物で胸を刺されていた。現場近くで交通事故にあい意識不明の重体になっている無職の八島冬樹が、青柳の財布を持っていた。八島は派遣社員として青柳の会社で働いていたことがあった。果たして犯人は青柳なのか?

冒頭、物語は主人公の加賀と同じように淡々と進む。
殺人事件が起き・登場人物が出そろい・状況がわかってきた中盤あたりから、
あとは一気に最後まで進み、目が離せなくなる。
最後はきちんとまとめてくれていて、読者の立場として欲求不満にならずありがたい。

今回のテーマは「父と息子の絆」。
加賀と亡父、殺された青柳と高校生の息子、それぞれに「絆」ある。

舞台は東京・日本橋周辺。
実際にある麒麟の像があることは気がつかなかった。
翼を広げて空を見上げる麒麟の像――読み終わった後に表紙を見るとまた違った印象を受ける。

ってここまで書いたけれど、やっぱり私らしくない。
だから、本音でいこう。
「自身最高傑作」との呼び名の高い作品だし、東野圭吾だしということで、こちらの期待も高まるばかり。
最近の長編大作は考えさせられる重たいテーマが多く、さすがと思って今回もそのつもりで読んでいた。
でも、肩すかしを喰らったようだった。
「上手い」というのが今の率直な感想である。
最後も上手くまとめてあるし、「絆」というテーマもいい。
でも、期待度が高かっただけにいまひとつ胸をうつものがないような気がする。

なぜだろうと考えてふと、登場人物の内面がよくわからないからだと思い当たった。
それぞれの心理描写があまりなく、細かい心の変化は読者それぞれが想像するしかないのだが、
殺された青柳の妻・娘キャラクター設定もよくわからず、誰にも感情移入ができない、
大げさに言うと長いあらすじを読んでいる印象すらある。

「最高傑作」とかの謳い文句を頭から消して、過度の期待をせずに素直に読んだら楽しめた作品だったと思う。
 

2011年11月23日水曜日

ふむふむ おしえて、お仕事!

ふむふむ おしえて、お仕事!
三浦 しをん著
新潮社

三浦しをんさんが様々な職業の女性にインタビューしたものをまとめた一冊。



三浦しをんさんが、職人・芸人を中心に仕事に打ち込んでいる16人の女性に話を聞いた
インタビュー集。
靴職人・漫画アシスタント・動物園飼育係・ウエイトリフティング選手・・・等、
年齢も職業も様々な職に打ち込んでいる女性たちが自分の仕事について語った。

白黒の写真に写るインタビューに答える女性たちの顔。
みなさんなんて美しいんでしょうと、まずそこに目が行ってしまった。
ひっつめ髪の方が多く、着飾ってもいないのに、共通して凛とした・涼やかな美しさがそこにあった。
このカメラマンに撮ってもらえば私でもきれいに・・・ってそういうことじゃなくて。

世の中にあらゆる種類の職業があるけれども、一人の人間がなれる職業の数は限られている。
平凡な毎日を送る私から見たら、ちょっと特殊な職業の方たち。
普段接することのない職種ばかり。
だから、知らない世界をちょっとのぞき見したいという好奇心をこの本は満たしてくれる。

その女性たちに著者が「ふむふむ、なるほど」と興味の赴くままに聞いていく。
そこがこの本の最大の魅力だと感じた。
冷静な研究者や専門家の分析交じりの目線ではなく、おばさん目線で「へぇ~。」と聞きながら、
次から次へと仕事の話を聞き出していく。
若くて品のある三浦しをんさんのことを、おばさんというには申し訳ないが、
他にぴったりの言葉が見つからないので勘弁してほしい。
おばさん化してきている私にぴったり合ったポイント。
たくさんの職場に行って、色々聞けるなんて羨ましい。

出てくる女性たちはみなさん大好きなことを職業にしている方ばかりで、こちらも羨ましいかぎり。
小さい頃から両親や環境に無理やりならされたのではなく、紆余曲折しながら好きなことを見つけて職業にしていったからなのだろうか。
生物の発生学を研究している方に三浦しをんさんが、研究に駆り立てる情熱はどこから来ているかと問うと、「好奇心から。おもしろいから。顕微鏡の下で、細胞をはじいていくのが楽しくて、これがやりたかった。」と笑っておっしゃる。
細胞をはじく面白さは、哀しいかな私にはわからないが、なんと幸せな方なんだろう。

クスッと笑える箇所もたくさんあり、楽しめた。

ぜひぜひ続編もお願いしたい。

2011年11月22日火曜日

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
大鐘良一 小原健右著
光文社新書

究極の「人間力」を試される宇宙飛行士。具体的にはどのような試験で選ばれるのだろうか。そんな興味を満たしてくれる一冊。




NHKスペシャル「宇宙飛行士はこうして生まれた ~ 密着・最終選抜試験」(2009年3月放送)を制作したNHKスタッフ2人が、取材した様子を書いた本。
応募者963人 → 書類審査・英語試験で230人 → 一般教養・専門試験・医学心理検査で48人
→ 医学検査・面接試験で10人。
その絞られた10名の最終試験にスポットを当て、課題をこなす10名・それを見守る審査員たちを
第三者の目から客観的に描いていく。

試験と名のつく物は数多くあれど、これほど「人間力」を試される試験は他にないのではないか。
もし宇宙に出て宇宙人と出会ったら、その宇宙飛行士が地球の人類代表となるのだから
厳しい選抜試験があって当たり前であろう。
でも、具体的にはどんな試験をくぐりぬけてきたのだろうか。
興味がわいてこの本を手にとった。

宇宙に対する憧れだけではやっていけない世界---それが宇宙飛行士。
もし合格したら、それまでの輝かしいキャリアを捨て、新人として一から修業しなければならない。
収入も公務員並らしい。アメリカに行かなければならない。
それでも宇宙飛行士になって宇宙へ行きたい、という強い信念がなければやっていけない。

では、どんなことがこの試験で問われるのであろうか。
ストレスに耐える力
リーダーシップとフォロワーシップ
チームを盛り上げるユーモア
危機を乗り越える力

それらが宇宙飛行士に求められる資質だという。

挑戦者たちは閉ざされた空間に一週間閉じ込められ、監視カメラで見られながら、
次から次へと与えられた課題をこなしていく。
食事の量が増減していないか?睡眠はちゃんと取れているか?など24時間監視されている上に、
候補者たちを多忙にしてストレスをかけ続ける。
ここまで残った優秀な人たちなんだから全員合格にしようよ!と、思わず言いたくなるほど過酷な状況の連続。

その後NASAに移動し、また試験の連続。
果たして選ばれるのは誰か?と挑戦者には申し訳ないが推理を楽しんでしまった。

同じ目標を持つ10名の固い絆も心をうつ。

奇しくも今日、古川さんが国際宇宙ステーションの長期滞在から帰還した。
この本を読んでそのニュースを見ると感動もひとしおだった。
子供たちの夢・大人の憧れ・国家の期待を一身に背負った宇宙飛行士。
高所恐怖症の私は、地球上から見守りたい。

興味を満たすだけでなく、感動をも与えてくれたこの本に出会えたことを幸せに思う。

建築家 安藤忠雄

建築家 安藤忠雄
安藤忠雄著
新潮社


建築家・安藤忠雄氏の自伝。プロボクサーから独学で建築家になるという異色の経歴がずっと気になっていました。



建築関係に疎い人でも彼の名前を知っているほど有名な安藤忠雄氏。
生まれてすぐ、1人娘であった母の実家の後継ぎになるため祖父母の家に養子に出された。
勉強は嫌いな少年であった。工業高校に通っているときボクシングに出会い、始めて1か月足らずでプロテストに合格する。
6回戦まで進んだ頃、、ファイティング原田のスパークリングを見て「次元が違う。」と才能の違いに気付き、ボクシングをやめる。
高校卒業後、インテリアの設計などをしながら、丹下健三の建築を巡る日本一周旅行・欧州旅行をしながら独学で建築を学ぶ。
そのエネルギッシュな半生を作品と共に自ら語った一冊。

コンクリートの打ち放しにこだわっている著者だが、後半部分はその作品の紹介・解説となっている。
芸術的センスゼロの私が見ても美しいと思う。
コンクリートにこだわる理由も書いてあった。
ただ、実際に住んでいる人・働いている人にとってはどうなのだろうか。
住み心地は?美にこだわる人でなければ辛いのではないかと考えてしまう。
冬の暖房効率はどうなのだろう?底冷えしそうな気がするけど。

六甲の集合住宅群は写真で見ると本当に美しい。
ただ、真ん中に何段あるの?というような大階段があるが、そこを子育て中の主婦は買い物袋と小さい子の手をひいて上り下りするのだろうか?
建物の真ん中を中庭のようにした住宅やショッピングセンター。
雨の日には、部屋から部屋へ移動するときには傘が必要って、私はそんな家住めない。
真冬に買い物に行ってお店からお店へ移る時、コート着たり、また脱いだりって面倒臭い。
こういう芸術を理解しない私のような人は、普通の住宅メーカーの家が一番なんだろう。

仕事場では、著者の机の周りにのみ電話を置き、海外との取引以外、fax・メール・個人の電話禁止だそう。それだと、電話の内容から部下の仕事の進捗状況やトラブルもすぐにわかり、作品に対する責任をもてるからという。
ときに怒鳴り・殴り・部下を叱りつけて真剣に仕事に取り組む姿勢と覚悟が、あの美しい建物を作るのだろう。

「何を人生の幸福と考えるか、考えはひとそれぞれでいいだろう。」と著者は言う。
私は遠くから美しい建物を眺めるだけでいい。

2011年11月18日金曜日

珍日本超老伝

珍日本超老伝
都築 響一著
ちくま文庫

80歳過ぎても現役のAV男優。元大学教授の女装家。そんな元気なじいさんたちがいっぱい出てくる本。みなさんなんて素敵なんでしょう。



著者に倣ってじいさんと呼ばせていただきます。

年齢を重ねてこられた方というのはそれだけで尊敬に値すると思う。
辛いこと・苦しいことたくさんあるこの世間の荒波を越えてきたのだから。
ましてや戦争を経験なさっている方々はやっぱり根性が違う。

そしてこの本。
ここに出てくるじいさん達は元気なだけではなく、みなさん自分の好きなことに情熱をささげている。その好きなことが人とはちょっと変わっているだけ。
人の目をあまり、いや全く気にしないだけ。
そんなディープなじいさんがてんこ盛り。

著者による「絶滅危惧種じいさんにガツンとやられる旅」にガツンとやられちゃいました。

オリンピックおじさんは、知っていた。
でも、スポーツが好きで愛するが故に応援に行くとまでは知らなかった。
「スポーツなしでなにが人生か」
という信念で自費で応援。お金持ちだからという次元では考えられないエネルギー。
さすがです。

そして気になっていたAV男優。
私は存知あげなかったが、「安田老人の秘密のコレクション」などで一部では大変有名な御仁だそう。残念ながら2008年にお亡くなりになられたそうだが。
安田老人のAVはシリーズ化されていて50本以上あるという。
お相手も73歳のばあさん!孫たちも出かけたから久しぶりに・・・という設定らしい。
取材当時87歳だった安田老人は
「いや、最近はもう弱くなっちゃって。いまじゃ、2時間で2回しかできないですから」

とおっしゃる。そういうものなんでしょうか。
供給はできても需要があるのだろうか。ふと、うちの両親を見る。

あと気になったのが、大学教授(記号論理学)だったが、女装にのめりこみ大学を辞めてしまったじいさん。
「きれいじゃなくなったら女装を辞める。きれいじゃなくなったらむしろみっともない。恥だと思うんです。」らしい。
写真集を出したのが68歳。取材当時74歳。現在83歳、お元気で活動中。う~ん。

その他、城を作っちゃったじいさん、DJデビューしてクラブで踊りまくるるじいさん等々、
29人連続で読むと頭がくらくらする。

「ヘンなじいさん」とか「馬鹿な奴」とか笑うのは簡単だけれども、ここまで突き抜けている方々は、
笑いをも超越して尊敬・感動の域に達している。
なんて素敵な愛すべきじいさんたち!!!こんなじいさんたちがいる限り、日本の未来は明るい・・・かな?

2011年11月17日木曜日

2011年11月15日火曜日

シューメーカーの足音

シューメーカーの足音
本城 雅人著
幻冬舎


うっとりするような注文靴の世界を舞台にしたミステリー。靴マニアにはたまらない一冊。靴マニアではない人も靴フェチにしてしまう一冊。



20歳の時、靴作りを学ぶためロンドンに渡り20年。
ロンドンの繁華街・紳士靴の名店が軒を連ねる通りに高級店を構えている、靴職人の斎藤。
超一流の腕を持ち、ビジネスにも野心を抱き仕事に邁進している。
一方、皇居近くの雑居ビルの狭いスペースで修理店を営みながら、
靴の注文を細々と受けている25歳の智哉。
亡き父の靴を解体しながら、独学で靴について学んだ。
ロンドンと日本。遠く離れた地にいる靴職人二人のロマンと嫉妬が交差する極上のミステリー。

物を誂えることをビスポーク(Be spoke)と呼ぶ。らしい。
この本で初めて知った。
靴のオーダーなんてしたことない私。まして、紳士靴についての知識はゼロ。
でも、この本はのっけから引きつけられた。
若い日本人が斎藤に靴を注文し、サイズを測る場面から始まるのだが、その描写が細かく専門的。
一足約42万円。まるで自分がセレブになって注文しているかのよう。

詳細な描写が続く。
専門的な道具を駆使し、最高級の素材を使って靴を作る。
昔のビスポークの靴をを解体して研究する。
「極上の靴磨き」の仕方。

ああ、なんて甘美で耽美な紳士靴の世界なんでしょう、とうっとりしてしまう。
超一流の職人たちが、ぴったりなサイズに靴を仕上げていく様は官能的ですらある。
自分が男ではなく、お金持ちでもないことが悔しい。
男でお金があればすぐにでもロンドンに飛んで靴を注文するのに。

大事な仕事に行き詰まったらまず靴を磨くべきだ。
そうすれば、心の迷いが吹っ切れ、曇った鏡から湯気が取れるように困難が取り除かれていく

なんだかすぐに靴を磨きたくなってしまう。

そんな魅力的な靴の世界に、男たちの野心と嫉妬と靴への飽くなき愛情が絡んだミステリーだから、
面白いに決まっている。

読み終わった後に改めて表紙を見ると、なんて美しいんだろうとため息が出る。
今度生まれ変わったら、絶対セレブ男になる!と決意させられた本でした。

2011年11月13日日曜日

最強の婚活、それは「お見合い」よ!

2000人を幸せにした怪物カウンセラーの最強の婚活、
それは「お見合い」よ!
山田一代著
現代書林

結婚相談所を開設して600組以上のカップルを成立させた著者が書いた「お見合い」推薦本。




「恋愛は一般道路、お見合いは高速道路」本当に結婚を望むなら、目的地がハッキリ設定されている専用道路に乗ったほうが絶対早いし、確実というのが著者の持論。
お見合い結婚すれば冷静に自分に合った人を探せて、離婚が少ないらしい。
驚異の成婚率を誇る著者が書いたお見合いのススメ。
1.お見合い結婚で本当に幸せになれますか?
2.こんな悩みのある私でも結婚できますか?
3.あなたの結婚をさえぎるモンスターペアレントたち
4.ハイリスク・ハイリターン!?オレ様男との結婚
5.ハンディキャップというデリケートな問題
6.シニアの結婚、再婚を成功させる!
7.この道22年の年季が編み足した(ママ)、最強のお見合い必勝法

基本的には女性目線から話し言葉で書かれているのであっという間に読み終わる。
結婚を考えている人、子供が結婚適齢期の親御さんにはそれなりに参考になりそう。

マザコン男の攻略法。徐々に男をお母さまから引き離し、最終的に自分の味方につければうまくいくと著者は言う。
でも、人ってそう簡単に変われるものなのかな?けんかした時、奥様よりお母さまの味方についてしまうのでは?
それより、そもそもそういう人と無理にでも結婚したいのだろうか?

30近い娘さんのお見合いに親が同席するなんて、この仕事22年やっていて聞いたことないわ。
という個所があってびっくり。お見合いとは親が同伴するものとばっかり思っていたので。
ドラマやCMでも、お見合いの席には親やお仲人さんが同席してるように思うけど、
こういう結婚相談所のお見合いは私が考える昔ながらのお見合いとは違うのかもしれない。

私自身は、恋愛結婚でもお見合い結婚でも変わりなく一定の割合で幸せいっぱいの夫婦もいれば、
離婚する夫婦もいる、喧嘩ばかりして家庭内別居状態だけど離婚はしていないと様々な夫婦がいるんだと思う。結局は結婚することより、長い「結婚生活」の方が重要なんだし。

まず、なぜ結婚したいのか?つらい現状から抜け出したくて結婚に逃げるのでは?と自分自身に問いかけてみるのも必要なのではないか。結婚だけが幸せじゃないしね。

2011年11月12日土曜日

レンズが撮らえた幕末の日本

レンズが撮らえた幕末の日本
山川出版社

「幕末の日本」の写真がこんなにあったなんて。歴史好きにはたまらない一冊。歴史好きではない私にもたまらない一冊。



幕末~明治にかけての写真を解説付きで楽しめる本。
多数の歴史上の人物の肖像、当時の街並みなど貴重な写真が満載。

ところが、私は歴史アレルギー。
坂本竜馬や福沢諭吉・渋沢栄一など(みんな載ってます。)の名前は知ってるけど。
試験に出たら自信ない。
テストはしないでいただきたい。
私に歴史的考察は求めないでいただきたい。

でも、古いものを見るのが大好き。
正倉院展にもここ4年毎年行っている。
知識ないなりに勝手に想像するのが私の楽しみ。

ここに掲載されているのは、コスプレや時代劇の俳優ではなくみなさんホンモノ。
ちょんまげもヅラじゃない。
こんな貴重な本があったなんて。

ワイシャツ・蝶ネクタイに袴に刀というとてもシュールな方や
これは散切り頭すぎるだろうというお茶目な方もいらっしゃる。
叩かなくても文明開化の兆しがよくわかる。
誇り高きはずのお侍さんたちがなんだか気を抜いているように見える。
なんでだろうとよく見たら、袴がしわくちゃ。
襞がきちんと折り目正しい方が少ない。
それから椅子に深く腰掛け、後ろにもたれすぎているからだらしなく見えてしまう。
女の人の着物の着方もこんなに半襟見せるの!とびっくりしたり。
○○に似ている人あり・髪型すごい人あり・イケメンありといくら見てても飽きない写真が満載。

街並みもどこまで行っても電線や高層ビルがない。
本物の大八車・天秤棒。なんて素敵なんでしょう。

私にとって永久保存版の本です。

でも、やっぱり歴史の知識があった方がもっと楽しめるのかも。
勉強しなおそうかな?

2011年11月10日木曜日

気にしない技術

気にしない技術
香山リカ著
PHP新書

精神科医の香山リカ氏が書いた気にしないためにはどうすればいいのかを具体例と共に示した本



今まで全くこういった自己啓発系の本は読んできませんでした。
興味がわかなかったのもあるけれど、自分自身を見直すとか内面を見つめるとかは苦手だから。
というより、怖かったのかもしれません。

なので、ディープな精神論の本より、もっと気軽に読めそうなこの本を選びました。
著者も気軽にさらっと書いているなと窺える内容なので、読み手側も気軽に読めました。
実際「気にしない技術」があったら誰も苦労しないだろうし。

サクサク読めるのですが、途中でなるほどと思う場面も多々ありました。
たくさんの経験・具体例が示されているので、読む人ごとになるほどの個所が違うのだろうなと思います。
   頑張らなくていい
    目標は小さくアバウトでいい
   責任感は強ければいいわけでもない
   ネガティブ思考のままでいい
   テキトーでいい
   人づき合いが悪くてもいい

要するにありのままでいいんですね。

私が一番なるほどと思ったのは、「自分が話さなくてもコミュニケーションはとれる」でした。
相手に一方的にしゃべらせて、ひたすら相手の言葉をオウム返しにしながら、あまり感情を込めずに聞く
・・・相手に大変失礼な態度ですけど、相手は十分しゃべったから気分がよくなるわけで。
すごくわかります。
実際、今日も3時間占いの話をし続けたおばさまがいました。私は苦痛だったのですが、仕方なく聞いていました。口を挟もうにもあの口撃には対抗できませんでした。
でも、おばさまは大変すっきり気分がよろしかったようで。

あと、自分でも反省したことは「誰かの発言や行動に対して、ほぼ自動的に自分の感情の針をマイナス方向に動かしてしまう人が増えている」という個所でした。
「どうせこう言うつもりなんだろう」と悪い方に早合点してしまう・・・心当たりあります。
気をつけなければ。
「最近太った?」と言われたら「私のナイスバディに嫉妬してるんだな」と考えればいいのかな?
著者の意図とはずれているかもしれませんが。

2011年11月8日火曜日

なぜ日本人だけが喜んで生卵を食べるのか

なぜ日本人だけが喜んで生卵を食べるのか
伊丹由宇著
ワニブックス

食についてのあれこれがギュッと詰まった一冊。「なぜ日本人だけが喜んで生卵を食べるのか」その答えは・・・



本屋さんで題名にひかれて買いました。
「なぜ日本人だけが喜んで生卵を食べるのか」という答えは私には見つけられませんでした。
著者は、藪の中に投げ入れたようです。

新書という形態をとっていますが、広く浅く怪しくの雑学書・自慢話のエッセイ集と思った方がいい本でした。
色々なデータを提示しながら・あちこちに話題が飛びながら、著者独自のうんちくが学べます。

一人で突っ込みながら読むという楽しみを見つけながら読みました。
日本料理を一品ずつ運ぶというところで魯山人に言及していない。
北海道には、卵の自動販売機がある(らしい)。と書いてあるが、
北海道ではないが、我が家の近隣に卵の自動販売機は複数ある。
など、突っ込みどころ満載でいい鍛錬になる。

でも、マクロビオティックを一通り軽く説明した後で、かなり噛み砕いて説明したが、やはり少し難しいか?
というところではさすがに突っ込めず、完敗。

軽妙な語り口で寒いギャグも満載でいいお手本になります。
さりげなくない自慢話も豊富でさすがと唸ってしまいます。
~というらしい、~だそう、~のではないか、という文章が延々と続きますが、
断定を避けた言い方も勉強になる。

題名だけで本を選んだ私がいけないのです。
やはり、みなさんの書評を読んでから購入した方がいいですね。

この題名付けた人、この本出版した人・編集者は反省してほしい。

2011年11月7日月曜日

暴力団

暴力団
溝口 敦著
新潮新書

ノンフィクション作家で、暴力団取材の第一人者の溝口氏が書いた暴力団入門書ともいうべき本。




長年暴力団の取材を続けてきた著者が書いた暴力団の解説書。
用語/構成員と準構成員・暴力団関係者・みかじめ・しのぎ・・・
何となく意味は知っている単語を分かりやすく解説してくれている。

また、組員たちの性格や生活などもよくわかり、暴力団とはこういうものだという概略がつかめる。

よく、暴力団排除条例でこの先日本の暴力団もマフィア化していくであろうと言われているが、
その「マフィア化」っていうのもなんとなくわかったようでわかっていなかった。
暴力団は、代紋をバックに相手を恐れさせるという性質上、顔を知られてナンボのところがあるが、
マフィアは犯罪を隠密に遂行するため、極力表に出ないよう行動するという。
この本を読んでそのことがよくわかり、納得がいった。

前に書評であげた「潜入ルポ ヤクザの修羅場」に溝口氏のことがいくつか書いてあった。
暴力団取材の第一人者ですごいと。

著者は、1990年背中を刺されている。
犯人は捕まっていないが、山口組関係者が実行者だとわかっているらしい。
また2007年には長男が、同じく組関係者に路上で太ももを刺され重傷を負っている。(犯人は逮捕)
そういうことがあっても、ひるむことなく取材を続けている。

本書でも、毅然とした態度で暴力団に対応している。
皆でサッカーを楽しんでいるのに、一人だけ手を使って反則して、威張っている人たちには、退場してもらってよいのではないでしょうか。暴力団を決して特別扱いしてはいけないのです。

しかし、著者も言うようにもう暴力団の時代は終わっていて、
「昔暴力団っていうのがあってね・・・」ということになるのかもしれない。

著者には言えなかったこと・書けなかったことが山ほどあるに違いない。
いつかそれを吐き出してもらいたい。

2011年11月6日日曜日

日本の女性風俗史

日本の女性風俗史
切畑 健編
紫紅社文庫


日本の女性は何を纏ってきたか。古墳時代から江戸時代までの女性の服飾をふんだんな写真で解説した本。


日本の女性は何を纏ってきたか。その服飾は時代ごとにさまざまな変容を遂げてきた。
日本女性の古墳時代から江戸時代までの服飾をふんだんな写真で解説している。

昭和59年に宮崎友禅生誕330年記念行事として「染織まつり」が行われた。
その際、古墳時代からの歴代服具を纏った行列を開催し、その記念図録が編まれた。
その時の図録を基にした改訂版がこの本。

昭和7,8年に作成された、下着・間着・帯などを揃えた歴代服具。
(誰が作成したかは不明。社団法人か?)
その保存されていた服具を基に、化粧・髪型も忠実に(一部忠実ではないらしいが)100名を超す女性が行列に参加した。
その時の写真が時代順に解説とともに掲載されている。

カラーで、髪型・化粧・小物など復元された写真を見られるのはとても貴重なのでは?
厳格な時代考証・復元を考えるとその意欲・負担・実現には感服させられる。

時代を追ってみていくと、
琉球の衣装・チマチョゴリと共通点が数多く見つけられる。
身幅が広くダボダボ感たっぷり。
袖も小袖が多い。
帯は狭い紐のようで、ゆったり着こなしている。
江戸時代に入ってからやっと今の着物のように帯で結び、きっちり感が出てくる。
など、色々わかって見ていて楽しい。

私は単に興味があり見て楽しく、なるほどと思うところがあるため購入したが、服飾を勉強している人・イラストを描く人・衣装の時代考証が必要な人には大変貴重な本だと思う。
見て楽しい度:★★
勉強になる度:★★★
参考になる度:★★★★

天皇家の隠し子 謎につつまれた悲劇の皇女

天皇家の隠し子 謎につつまれた悲劇の皇女
河原 敏明著
ダイナミックセラーズ出版

昭和天皇に隠された妹君がいた!という衝撃的なサブタイトル。三笠宮には双子の妹がいて、奈良の尼寺で一生を終えたという。「悲劇の皇女」の数奇な人生を明かす。




昭和天皇の弟・三笠宮は双子で生まれた。
しかし、当時多産は畜生腹と忌まれ、まして男女の双子は前世の情死者の生まれ代わりと言われており、
いかに迷信とはいえ天皇皇后の正嫡にあっては、皇室の尊厳性に傷がつくため何としても隠ぺいせねばならなかったのだという。
生まれてすぐ養子・里子に出され、5歳で尼寺へ入山。そこで一生を静かに終えた静山ご門跡について、
皇室ジャーナリストの第一人者である著者が、多数の証言と資料から明らかにした本。

私には初耳で、衝撃的な話なので読んでみた。
しかし、初スクープでも何でもなく、昭和55年には発表されていた話で、知る人ぞ知るという
話らしい。

宮内庁側としては否定も肯定もできず困惑気味なのだろう。

円照寺の歴代の門跡たちは、花を生けるのを楽しみにしていた。
それが独自性を持つようになり、大正末頃「花は野にあるように」の山村御流となったという。
戦後の経営難に際し、収入源確保のため高島屋で教え始めたのが広がるきっかけであった。
悲劇の皇女・静山ご門跡も家元として出張教授に奔走していた。
ずっと美智子さま始め妃殿下たちは、なぜ無名の山村御流をたしなむのか不思議に思っていたが、
これで納得がいった。

ただ、ジャーナリストとしてきちんとルールにのっとった取材をしたと著者は言っているが、
相手が困惑・迷惑しているのを承知で取材していく様子は失礼なのではないかと気になった。
そのおかげでこうして興味ある本を読めるのは事実だが。

2011年11月3日木曜日

知ってる?正倉院

カラーでわかるガイドブック知ってる?正倉院今なおかがやく宝物たち
奈良国立博物館監修
読売新聞社編集

正倉院やその宝物について分かりやすく解説した本。小学校低学年から読めると書いてあるが、歴史アレルギーの私にはちょうどいい。



正倉院展。
歴史アレルギーで芸術音痴の私(謙遜では全くない)は、正倉院展が大好きで、今年も行ってきた。
宝物を見ながら、解説を音声ガイドで聞きながら、想像を巡らすのが私の楽しみ方。
こんな細かい文様作った人すごいなぁとか、どんな人がこれを着ていたのだろうとか。
勝手に想像していた。

それだけでも楽しいのだが、知識があったらもっと楽しいのではと思い、この本を買ってみた。
他に大人向けの本もたくさんあるが、なんせ歴史に疎いのでこの本がちょうどいい。
総ルビ・絵も写真もふんだん、そして、倉太君と正子ちゃんの質問に東大寺先生がわかりやすく解説してくれるという見るからに子ども用。
でも、侮ってはいけない。
奈良国立博物館監修の本格的なガイドブックである。

正倉院の宝物と、他の国で保存されている同じタイプのものを写真で比較して、
いかに正倉院の保存状態がいいかが解説されていたり。
復元の苦労・・・形・色・材料・技法の再現などは特に読み応えがあった。

これらの宝物の作成にかかわった人・遣隋使・遣唐使、1250年もの長い間保存にかかわった人・
復元にかかわった人・・・たくさんの人のお陰で今すばらしい宝物を見ることができるというのがよくわかり、感動的でもある。

少しずつ勉強して、いつかは大人向けのガイドブックが読めるようにしたいです。
って小学生かっ。

2011年10月31日月曜日

潜入ルポ ヤクザの修羅場

潜入ルポ ヤクザの修羅場
鈴木 智彦著
文春文庫

著者は極道専門のフリーライター。怖いもの見たさで読んでみたが、色々考えさせられる内容の濃さだった。



著者は、やくざ専門誌「実話時代」編集部にかつて所属していた。
それから極道系専門のライターとして数々の本を出している。

派手な修羅場の連続を大げさにあおって描いた本だと思ったが、全く違った。
確かに「修羅場」はたくさん出てくるが、取材者としてヤクザとともに生きてきた著者の
半生記のようだった。

もともと著者はカメラマン志望で、アメリカに滞在していた時知り合った元組員に、
ヤクザの写真を撮ればいいと勧められ、それなら、専門の雑誌社に入社したら手っ取り早いと
この仕事をするようになった。

歌舞伎町。本場の町。
そこの「ヤクザマンション」と呼ばれる、大部分が組関係者で占められるマンションに
居を構えた著者。
懐に自ら飛び込んでいく勇気、「玄関開けたら2分で現場、ラッキー」だかららしい。

恫喝・恐喝が日常茶飯事の著者は淡々と書いているが、修羅場の連続だった。
ただ、読んでいるこちらは現実感に乏しいためか、映画を見ているような感じで、
不思議と怖さは感じなかった。
付箋に「PM4時、○○組の××様より電話あり、内容=殺すぞ」とか、
ポン中の方からの電話で「いまマイケル・ジャクソンと一緒なんだ」
という下りは思わず吹き出してしまったほど。

恫喝されている時も、
「意識を取材目線に変えるのがいい。何かに使えると考えメモを取っている」
という著者のたくましさも怖さを中和しているのだろう。

愚連隊の帝王・加納貢の哀しき晩年の面倒をみたり、取材の拠点を関西に移し、
盆中に潜入したりと色々な経験をしてきた著者。
きっと、本に書けなかった本当の修羅場や苦労ももたくさん経験したのではと推測できる。

芸能界の黒い交際・暴力団排除条例制定の流れにより「社会的弱者」になってしまったヤクザたち。
今が彼らや彼らを取り巻く著者のような取材者・彼らに頼って生きてきた人たちの
大きな転換期なのであろう。

2011年10月29日土曜日

鳥人計画

鳥人計画
東野圭吾著
角川文庫

東野圭吾の1989年の作品。スキージャンプ競技のエースが殺された。犯人はジャンプ関係者なのか?




日本のジャンプ界を担うエースの楡井が大会で優勝した次の日、
毒殺された。
ライバルの選手たち、コーチ、恋人、彼を取り巻く人々の中に犯人はいるのか?
何のために殺したのか?

まずびっくりしたのが、犯人が最初の方でわかってしまうこと。
えっ!と思わず声を出してしまった。
犯人わかっちゃったら、残りの分厚いページは何について書いてあるの?
それとも、この犯人はフェイクなのか?

でも、そこは人気作家の著者。
読者をいい意味で裏切ってくれていた。

ジャンプ競技は、冬のスポーツニュースでチラッと見る程度の私。
そんなほとんど知識ゼロの私には、ジャンプ業界もとても興味深く感じた。
飛び方も、昔は手を前に出していたとか、
今は板をV字にするが、ちょっと前までまっすぐだったとか
知らなかったことがいっぱいあって面白かった。
ストーリーとは別に、そういう事を知るのも読書のだいご味。

ただ、「K点越え」という言葉は聞いたことあっても正確な意味はわからない、
飛型点や採点方法などはお手上げ。
そんなど素人のためにも、無知な警察官に説明する形とかで、解説が欲しかった。

選手やコーチたちの「勝ち」にこだわるひたむきさ、
それも魅力の本だった。

2011年10月26日水曜日

大阪のおばちゃん学

大阪のおばちゃん学
前垣 和義著
PHP文庫

大学で「現代大阪文化論」を教えている大阪研究家の著者が書いた大阪のおばちゃんについて。大阪のおばちゃんが世の中を救うらしい。



大阪のおばちゃんの生態を分析し解説した本。
著者は大阪研究家で、相愛大学や帝塚山学院大学で「大阪学」「大阪ビジネス論」などを教えている。

あこがれの大阪のおばちゃん。
生まれて初めて大阪に行った時、大阪のおばちゃんに会える喜びで、
わくわく・ドキドキ・きょろきょろ、一生懸命探した。
残念ながら、私の思い描いていたひょう柄・おばさんパーマの「大阪のおばちゃん」は
ついぞ見かけることができなかった。
電車に乗ったら、見知らぬおばちゃんから「飴ちゃんどうぞ」と言われちゃうかもと
期待したが、そんなことにもならず残念でした。

大阪のおばちゃんは絶滅したのか?
いや、そんなことはない。
テレビにはよく出てくる。
きっとどこかにいるはず、と思いこの本を手にとった。

なんと愛すべき大阪のおばちゃんたち。
突き詰めて考えれば、大阪のおばちゃんたちの行動は、大阪商人のサービス精神、
倹約精神からきているという。

著者によると大阪のおばちゃんは
厚かましい→しかし笑える
ルール無視→意志の強さと行動力が光る
ケチ→鋭い経済感覚と値切りは世界に通ず
おせっかい→親切
派手→サービス精神
大声→周囲を笑いの渦に巻き込む
飴ちゃん→飴ちゃん一つで誰でも友達に

などの特徴があるらしい。

やっぱり、私の思い描いていた大阪のおばちゃん像を裏切らない。
でも、著者はやはり実際は典型的なおばちゃんは少ない、
テレビカメラを見ると、サービス精神からコテコテを演じるのではという。

また、おばちゃんは立派な大阪観光の売りになるとも言っている。
その意見には私も大賛成。
メイド喫茶ならぬおばちゃん喫茶を観光名所にして欲しい。
そこに行けばおばちゃんたちに必ず会えるような。
大阪の皆さまよろしくお願いします。
あったら私必ず行きますので。

ほんまかいな・んなアホなと思うようなことも、
これは大阪だけに限らないだろうというようなこともたくさんあって、
決めつけ感が気になったが、そこは大阪のおばちゃんに免じて
スルーしましょう。

大阪のおばちゃん度チェックがあった。
やってみた。
100点満点中8点だった。
まだまだ修行が足りないようです。
大阪のおばちゃんへの道は厳しい。

2011年10月24日月曜日

鬼畜の家

鬼畜の家
深木 章子著
原書房

恐ろしい鬼畜の家。本当に怖い鬼畜は誰なのか。弁護士をリタイアした著者が書いた壮絶なミステリー。第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作



北川家。
医者であった父は自殺。
養女に出された末っ子の養親は焼死。
姉は転落死。
次から次へと人が死んでいく。
これは誰かが仕組んだ保険金殺人なのか。

「あの人は他人を殺すことはあっても、自分から死ぬなんてことは
絶対にあり得ませんから」
「あたしの家は鬼畜の家でした」

元警察官の私立探偵・榊原が、様々な人の証言を聞いて、真相を明らかにしていく。
語り口調で書かれているので、読みやすく、夢中で読み終わった。

1947年生まれの著者は、60歳で弁護士をリタイアし、この本を書いたという。
しかし、とてもデビュー作とは思えないくらい堂々とした書き方だった。
題材的にはよくある話なのかもしれないが、こうなるんだろうという想像が外れ、
二転三転する。

とにかく、登場人物たちが気色悪い。
暗く、救われない。
その中に、一筋の光でもあればホッとするのに、著者は容赦ない。

読み終わった後も、気持ち悪さが残ってしまう。
今夜は眠れるだろうか。

2011年10月23日日曜日

日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人

日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人
三輪 康子著
ダイヤモンド社

不夜城・歌舞伎町。そこにあるビジネスホテルの支配人になった女性の奮闘記。ヤクザに屈することなくお客様や従業員たちを守る姿勢はドラマよりドラマチック。



新宿・歌舞伎町。
私の個人的なイメージは、風俗とアウトローたちの魑魅魍魎の町、そう思っていた。
でも、最近は警察官がたくさんいて、それなりに秩序のある町だという。

そこに、東横インというビジネスホテルがある。
かつて、建築基準法に違反する改造工事をしたホテルである。

そのビジネスホテルの支配人になった著者。
客室係やフロント業務からステップアップして支配人になったわけではない。
銀座の画廊や、アパレル関係の仕事をしていて、いきなり歌舞伎町の問題ホテルの支配人に抜擢。
って、著者も凄いけど、配属決めた会社人事も凄い。

そこで著者が見たものは・・・
長期滞在のヤクザ達。
ロビーでカツアゲする、薬物の横行etc.

抜き身の日本刀を出され脅されても一歩前に出て
「お客様に、私は殺せません!」

カツアゲの最中、ド真ん中まで入って行って梃子でも動かない。
「死にてぇのかよぉ、コラァァァァ!」
「いいえ、死にたくはございませんっ!」


著者は女性である。
ドラマでは、あるかもしれない。
いつの間にかヤクザを諭して、仲良くなって、
最後はお涙ちょうだいの大団円。
しかし、これは現実である。
私だったら、まず無理。
日本刀を見る以前に、その筋の方には近づきたくない。

なぜここまでできるのだろう。
彼女も支配人とはいえ、雇われている身である。
著者は、人生をかけて人助けをする医者の父を見て育ったからというが、
それだけではないだろう。

スタッフたちが、上司である支配人を慕う気持ちが伝わってきて、感動ものだった。
それだけ、慕われる上司ってなかなかいないだろう。
体を張って自分たちを守ってくれているのを間近で見てそう思っているのだそう。

接客業の参考にというスタンスの本だが、生半可な気持ちでは真似できないのでは?

根性ある女性の生き方を見せてもらって、やるなぁと唸ってしまった。

・・・でも、私にはやっぱり無理。

2011年10月22日土曜日

聖なる怪物たち

聖なる怪物たち
川原 れん著
幻冬舎

医療ミステリー。身元不明の妊婦が死亡した。残された赤ちゃん。謎の男が、妊婦のことを口外するなと脅した。妊婦は誰だったのか?なぜ口止めされたのか?



経営難の総合病院に勤務する 外科医の司馬健吾は、当直で疲れ切っていた。
そんな時、救急で身元の分からない妊婦がやってきた。
健吾が執刀して帝王切開するが、妊婦は死亡する。
未熟児として生まれた男児が残される。
術後、立ち会った二人の看護師は、見知らぬ男に、妊婦のことは口外するなと
別々に脅された。
妊婦は誰だったのか?
看護婦はなぜ口止めされたのか?

読み進めるにつれ、だんだんと一人一人の嘘が明らかになっていく。
騙し・騙され、一体真実はどこに?

聖職者とは、一部の清廉高潔とされる職業に従事している人間を指す。
かつて、聖職者と呼ばれていた職業があった。

ここにも、何人かの聖職者たちが登場してくる。
彼らなりに、一生懸命使命感を持って仕事をしていた。
どこで、道を誤ったのだろう。
自らの保身のために、一線を越えてしまったのだろうか。

生まれた子供は、誰のものなのだろう。

倫理観・道徳観を問われているような本でした。

残念なのは、なぜ、道を踏み外したのか納得いく説明がないのと、
最後、突然出てこなくなる登場人物がいたこと。
もう少し、奥行きを深かったらもっと楽しめたのにと思いました。

2011年10月20日木曜日

島国チャイニーズ

島国チャイニーズ
野村 進著
講談社


たくましく生きる在日中国人たちの生活を追った本。これだけたくさん中国人がいたら、色々なタイプがいると改めて教えてくれた本でした。



劇団四季の俳優のうち24名が中国人だという。
日本の大学の教授・準教授になっている中国人は2600人にも上るらしい。
芥川賞作家の楊逸は、来日した時「こんにちは」しか知らなかったのに、
一年で日本語能力試験1級を取得したという。
そのほか中国人留学生・東北に嫁いだ中国人・いじめが皆無という神戸中華同文学校
池袋のチャイナタウン・・・

そんな在日中国人の日本での暮らしぶりを紹介した本。

中国といえば、毒餃子事件・尖閣諸島沖漁船衝突事件・北京オリンピックでの少女口パク事件
など最近の事件だけでもすぐに色々頭に浮かぶ。
その時の政府の対応・中国メディアの報道に、頭に来た日本人がたくさんいるだろう。

また、中国人犯罪者による犯行の報道により、
ステレオタイプの中国人-不法滞在・就労目的・マフィア・犯罪・・・というイメージもある。
いくら、パンダが来ようとも、日本での中国の好感度は当分上がりそうもない。

しかし、この本の中に出てくる中国人は、全く違う。
日本のいいところをたくさん見つけてくれている。
礼儀正しさ、挨拶を良くかわす・・・
また、日本人が忘れがちな、謙虚さ・誠実さを備えている人もたくさんいる。

ニュースで紹介されない無名の真面目な中国人もたくさんいるという当たり前のことに
今更ながら気づかされた。

逆に考えれば、海外に滞在している日本人も色々いる。
日本で罪を犯し、アジアに沈んでいった日本人もたくさんいるだろう。
現地で詐欺を働く日本人もいるだろう。
でも、大部分は真面目な一般的な日本人と思う。

そう考えれば、日本にいる中国人だって、多くが堅実に暮らしているのだろう。

中国という国を大好きにはならないだろうけれど、一人一人はやっぱり同じ人間なんだと
気付かせてくれたいい本でした。

2011年10月18日火曜日

ディズニーランドの秘密

ディズニーランドの秘密
有馬哲夫著
新潮新書

ウォルト・ディズニーがなぜ、どういう目的でディズニーランドを作ったのかを、彼の生い立ちから丁寧に探った本。





夢の国・ディズニーランドを作ったウォルト・ディズニーは、
大きく分けて、
「交通博物館」「映画ではなく、3次元の世界」「科学技術が築く明るい未来」
の世界を築き上げていきたかった。
なぜ、そういう考えに至ったのか、彼の祖父が開拓移民としてアメリカに渡ってきた
当時からの背景を丁寧に探っていった本。


第1章 ウォルトは何をつくりたかったのか
第2章 流浪するディズニー一家
第3章 鉄道マニア、ウォルトの夢
第4章 アニメの世界を三次元に
第5章 トゥモローランドは進化する
第6章 ウォルト亡きあとの大転換
終 章 ディズニーランドは永遠に完成しない

題名から、ディズニーランドの裏話が書かれた軽い本と思って手にとりました。
それが、見出しを見てわかるように、きちんと歴史をふまえて、
ディズニーについて考察した真面目な本でした。

なぜ、みんなディズニーがそんなに好きなのだろう。
普段ディズニー関係とは縁遠い私だが、たまに行くと夢の世界にどっぷり浸り、
ミッキーに会えばテンションあがり、パレードを見れば手を振っている。

アトラクションの数をこなすのに、情熱を注ぐ人もいる。
パレードの場所取りにかける人もいるだろう。
隠れミッキーを探すのに専念する人もいるかもしれない。
男も女も老いも若きもそれぞれの人に合ったディズニーワールドがある。
ほぼすべての年代・性別に合致する施設を作ったのは凄い。

世界のどこのディズニーランドも、同じように楽しむ場所と思っていた。
でも、この本を読むと、アメリカ人のノスタルジア・フロンティア精神など、
アメリカ人にとっては特別な思いがあることが分かる。

スプラッシュマウンテンは、「いばらのうさぎ」の物語だけと思っていたが、
アメリカの「南部の唄」がベースになっているという。

また、日本の特徴として、ゲストの構成比率のうち、大人の女性の割合が高く、
物品販売の売上高が突出しているという。

何も知識がなくても楽しめる場所ではあるが、色々知ると
新しい発見がありより楽しめるかもしれない。

久しぶりに行きたくなりました。
本音は、背景なんか知らなくても十分楽しめるんだけどねw

2011年10月17日月曜日

本朝金瓶梅 西国漫遊篇


本朝金瓶梅 西国漫遊篇
林真理子著
文春文庫

林真理子の「本朝金瓶梅」。またまた女好き西門屋慶左衛門でございます。今度は上方・京の町にやってきたのでございます。そこは慶左衛門、ただでは済みますまい。妾達も男を漁り、大変なことになるのでございます。



西門屋慶左衛門といえば、無類の女好きで江戸では有名でございます。
金はあり、顔もよし、妻子がいながら、妾も同居させるつわものでございます。
それだけでは飽き足らず、あちこちつまみ食いしているのですから、
困ったお人ではございませんか。
そんな慶左衛門の息子殿が萎えてしまったのだからさあ大変。
妾二人を従えて、息子殿が元気になるように旅立ったのでございます。
お伊勢参りをして、怪しげな女に元気にしてもらったのが、今までのお話でございます。

そして、今度の西国漫遊篇となるのでございます。
元気になったことを一緒に旅している妾達に知られたら毎晩せがまれて大変になるうえに、
つまみ食いもなかなかできないではございませんか。
何とか内密にしたい慶左衛門でありました。
妾達も、江戸一の性悪女と呼び名が高い女でございます。
二人で結託して、慶左衛門の不足を補うべく、男たちを漁るのでございます。
もう、狐と狸の化かし合いとでも申しましょうか。

そして・・・とんでもない珍道中なのでございました。

何といってもこの本の魅力は、ばかばかしい笑いに尽きるのではないでしょうか。
馬鹿丁寧な「~ございます。」言葉で、ばかばかしいことをいちいち報告してくれるのですから
おかしいではございませんか。
復活した息子殿を最初に使ったのがなんと、男の後ろだったのです。
天下の慶左衛門としたことが何と情けないことでございましょう。
海に入っていいことをすれば、亀に大事なところを噛まれてしまう。
お間抜けなことこの上ないのでございます。
この気持ちよさはいえいえ、このおかしさは、体験してみないといえいえ、
読んでみないとわからないのでございます。

途中、何の因果か道連れが増え、てんやわんやの大騒ぎになっていくのでございます。
無事にお江戸に帰った後も色々と騒動が待ち受けているのでございます。
全く人間というものは、どうしてこうも色の道が好きで好きでたまらない生きものなのでしょうか。

これで、このシリーズは打ち止めなのでございましょうか。
西門屋慶左衛門を欲してやまないのは、江戸の女ばかりではありません。
かくいうわたくしも早く続きが読みたくてうずうずしているのでございます。
たとえ、このシリーズが終わったといたしましても、
慶左衛門の色の道はまだまだ続くのでございましょう。

2011年10月16日日曜日

五感で学べ

五感で学べ ある農業学校の過酷で濃密な365日
川上 康介著
オレンジページ

「タネのタキイ」の全寮制の園芸専門学校。厳格な規律と過酷な実習。24時間一緒の生活。その中での青年たちの成長を描く



日本最大の種苗会社「タネのタキイ」で知られるタキイ種苗がもつ、
滋賀県の全寮制のタキイ研究農場付属園芸学校。
授業料・寮費・食費等全て無料。
その上、研究費として一人1万2千円程度もらえる。
農家の後継ぎ育成を主眼とした実践的教育を理念としている。
入寮資格は、年齢18~24歳の若者たち。
ここに来るまでの、背景は様々。
農家の後継ぎとして農業高校を卒業してすぐの人ばかりではない。
この年は、京大生もいた。
広大な敷地の移動は駆け足が基本。
実習だけでなく、講義・実習ノートを書くなど1日フルで農業と向き合う中、
規律・感謝・仲間とのコミュニケーションの取り方など学んでいく過程を著者の目から描いた本。

学校経営の経費は年間1億円もかかるという。
この不景気に見上げた心意気と思う。
「タキイ」によれば、今の実習生は、将来会社のお客様になるかららしい。
それにしても、まずは、タキイという会社に感銘をうけた。

そして青年たち。
高校時代、運動部経験のある人でも、まずは体力がついていかないらしい。
機械ではなく、手作業での整地・畝作り。
だらだら歩くのではなく、高校球児のように走って動く。
聞いただけでいかに過酷かわかる。
でも、志が高い人が多いからかドロップアウトもないという。

毎日体を思いっきり使って頭も使う。
食べても食べても痩せて精悍になっていく彼らを、著者は一緒に実習しながら見守っていく。
志が高いとは言ってもそこはちゃらい系もいれば、だらしない系もいる。
人間関係が苦手なタイプもいれば、衝突もある。
濃厚な時間を過ごすことによってそれが、相手を思いやる・お互い気配りしカバーしあう
といった関係に変化していく。

こんな学校があるなんて、知らなかった。
これだけを読むと、日本の将来は安心と思ってしまう。
でも、この年は在校生74名のみ。
こんな学校が日本中にあればいいのに。

でも、普段食べている農作物。
消費者の目は、安心・安全に限らず、味・規格等厳しい。
それを乗り越えて、また、天候・災害のリスクを負って農業の道に進んでいく青年たちは
とても眩しく・たくましく見える。

日本人にとって、いえいえ人間にとって、なくてはならない農業という職業を見直すいいきっかけにもなった本でした。

2011年10月15日土曜日

偉大なる、しゅららぼん

偉大なる、しゅららぼん
万城目 学著
集英社




日出涼介は、「力」を持つ日出一族の一員。
慣習に従って、高校入学を機に本家から高校へ通う。
本家は江戸時代から現存するお城だった。
そして、しゅららぼん・・・。

私の大好きな万城目作品。
パターンは「かのこちゃん-」を除いて同じなのかもしれない。
主人公の男が、自分の意志に反して、騒動に巻き込まれていく・・・
でも、全くワンパターンではない。
なぜなら、読者がどんなに想像しても内容は決してわからないから。
誰が「ホルモー」がゲームの名前ってわかった?
私は勝手に焼き肉関係と思っていた。
そして今度は「しゅららぼん」
全くわからん。

私の万城目作品の楽しみ方は、そのわからんまま読み進める。
事前情報なしに読み進める。
頭の中が???でいっぱいになってもそのまま読む。
その方がわかった時の衝撃が大きく、楽しめるから。
もしかしたら、わからなさに途中で読むの挫折してしまう人がいるかもしれない。
それくらい今回は???なまま話が進んでいく。

著者の力量に感嘆することがいくつかある。

一つは地理的なこと。
「プリセストヨトミ」の空堀商店街しかり、実在の地名・固有名詞がたくさん出てきて、しかも
とても詳細。
その中に著者の創造物が紛れ込んでいるのだが、架空と実在の垣根が
よくわからないほどに真実味がある。
だから、大坂の男の人を見ると、この人もお父さんから聞いてるのかな?と思っちゃう。
なので、奈良公園の鹿を見ると、この中に言葉をしゃべる鹿がいるかもと探しちゃう。。

また、知識の奥深さ。
ライトノベルのように軽く読めてしまう気軽さの中に、
硬軟取り混ぜた笑いがあちこちにちりばめられている。
浅学の私が気付かない笑いが、まだまだたくさんあるのかと思うともったいない気がする。。
特に苦手な歴史と地理方面。
今更ながら、勉強しとけばよかったと悔やまれる。
でも知識なくても十分楽しめる。

そして、なんといっても凄いのが想像力。創造力。
他の人には考えられないような荒唐無稽な、想定外の、おかしいストーリー展開。

そんなわけで、この本を一言で表すと、
青春、友情、淡い恋愛、エンターテイメント、スペクタクル・・・
アクション?オカルト?ミステリー?
やっぱり絞りきれない。

そして、次回作もまた期待してしまうのであった。

2011年10月13日木曜日

盆踊り 乱交の民俗学


盆踊り 乱交の民俗学
下川 耿史著

夏の風物詩・盆踊り。それが乱交の場だったなんて。古代日本から、現代まで膨大な資料を読み解き、丹念に探った一冊。



最近の盆踊りは、揃いの浴衣を着た貫禄あるお姉さま方が踊るのみで、その他の人が踊っているのを見たことがない。
小さい頃は私も夢中になって踊った記憶があるのだが、今は踊りたくても入りづらい雰囲気があり、見るだけで我慢している。
もう少し貫禄が出てきたら、揃いの浴衣の仲間に入れてもらいたい。
今の子供たちは踊った経験がないまま大人になるのだろうか?
それとも、他の地方では今でも盛んに踊っているのだろうか?

そんな夏の風物詩の一つである盆踊りが、実は乱交の場であったという題名にひかれ、この本を読んでみた。
著者は風俗史家で、「民俗学者ではない」と語っているが、非常に真面目で学問的な本だった。

万葉集の時代、人々は山などで歌を歌い、双方了解したら関係をもったという。
その後、歌の部分がなくなり、お堂などで若い者たちが一晩過ごす「雑魚寝」と形を変えて乱交は続いていく。
そして、宗教普及のための「踊り念仏」から、盆踊りへと変化していった。

明治に入り外国に混浴や乱交などを野蛮と指摘されてから、政府は躍起になって盆踊りも禁止にしたそう。
健全ならば禁止する必要がないのに禁止するとは、それが何より「風紀の乱れ」を証明しているのではないだろうか。

それとともに、交通・情報の発展により、よそ者の見物人が出てきたところから、当事者たちも次第にテンションダウンしていった。

こうして現代では盆踊りは踊るだけで乱交はなくなったはず・・・
と思っていたら、最後に仰天の文章が。

ある地域では、「有名な民俗行事で現在でも乱交が盛んと複数の人から聞いた。」とある。
なにぃ!嘘かまことか存じませんが、それは是非とも見に行かなくてはっ!

しかし実際、現代の盆踊りで乱交が許されていたとしても、どれだけの人数が参加するのだろう。
恥・貞操・羞恥心・・・近代の教育を受けてきた私たちは一部の愛好家を除き、なかなか踏み込めないのでは?

昔の人の性はおおらかだったの一言では済まない、学校では学習しない深い歴史を教えてくれた本だった。

2011年10月6日木曜日

刑事魂

刑事魂
松浪和夫著
講談社


福島県警で起こった本部長の娘の誘拐事件。警察を敵に回すとは、なんて大胆な犯人。身代金要求額は1億円。手に汗握る警察内部小説。




三島勇造は福島県警巡査部長。
元・捜査一課特殊犯第一課係捜査員、略称・特一係だった。
あることをきっかけとして、警察学校教官に左遷された。

そんななか、三島を左遷した張本人の村井県警本部長の娘が誘拐された。
要求は身代金1億円。
村井本部長の捜査方針は、被害者の人命優先ではなく、「容疑者確保を最優先する」だった。
捜査本部に戻される三島。

成り行き上、特一係の5人だけで、捜査することになる。
被害者の安全、容疑者確保に失敗したらただでは済まないことになる。

解決することができるのか?
また、三島はなぜ左遷させられたのか?

冒頭は、紹介・背景説明となってしまうのは仕方のないことなのだろう。
でも、身代金受け渡しに入ったところから、最後までノンストップ。

強引な話の持っていき方・こじつけ等もあったが、進んでいくストーリーに
引っ張られて、そんなには気にならなかった。
アクションシーンも満載。
後半には意外性もあり楽しめる。

ただ、キャリアは悪・ノンキャリアは正義の構図はもうおなかいっぱい気味。

だれか、堕落したノンキャリアをキャリアが活を入れる話を書いてほしいな。
ひねくれはにぃの目
どうしてそう決めつけるのという突っ込みを入れたくなる個所がたくさん。
著者の都合のいい方向に話を持っていきすぎ。
それなりには読めたけど。

2011年10月3日月曜日

ユリゴコロ

ユリゴコロ
沼田 まほかる著
双葉社

衝撃のラストまで一気読み。ミステリーなのか、愛の物語なのか、サイコちっくでもあり、哀しくもあり、温かくもあり・・の不思議な本でした。



主人公の亮介は、婚約者の失跡・母の突然の死・父の末期がんと失意のどん底にいた。
そんな時、押し入れから「ユリゴコロ」という題の手記を発見する。
中には、精神を病んでいるような、人殺しをしても罪の意識は感じないという
衝撃の内容が書かれていた。
誰が書いたものなのか。
幼い頃長期入院をして退院した後、母が入れ替わったと感じていたのはなんだったのか。

最初から最後まで飽きさせない一気読みの本でした。
それからどうなるの?なんで?という思いから、気になって気になって。
亮介が手記の続きを読みたくなるのと同時に、私も同じ気持ちでした。



いつも、著者の作品は衝撃的な内容だけれども、暗く・淀んだ・ゆっくりといったイメージが浮かぶ。
テンション高い登場人物も出てこないし、冗談もほとんどない。

だけれども、今回は、なぜか哀しく、温かい愛を感じる。
何の罪もなく殺された被害者たちがいる。
でも、なぜかそちらには考えが及ばない。

登場人物のだれにも感情移入できなかったけれども、本の中にはまりこんでしまった。

久しぶりにすごい本・すごい著者に出会えた感動があった。 

2011年10月2日日曜日

本朝金瓶梅 お伊勢篇

本朝金瓶梅 お伊勢篇
林 真理子著
文藝春秋



西門屋慶左衛門といえば、無類の女好きで江戸では有名でございます。そんな慶左衛門と女たちの繰り広げる、あんなことこんなことの第二巻でございます。




顔はよし、金はあり、立派な陰茎をお持ちの慶左衛門。
妻子のいるお屋敷に、妾のおきんを一緒に住まわせているというのですから、
江戸の庶民の興味を引き付けてしまうのは仕方のないことでございましょう。

その妾おきんが、亭主を殺してまで、慶左衛門をたらしこんだという噂ですから、
江戸一の性悪女といわれています。

そんなおきんに勝るとも劣らない性悪のお六という、亭主も孫もいるような女が
慶左衛門に近寄ってきたのでございます。

そんな時、なんと慶左衛門の一物が萎えてしまったのですからさあ大変。
今助六との呼び名の高い慶左衛門の股間にいえいえ、沽券にかかわることでございます。
四国の赤蛇が効くとのうわさを聞き、はるばる四国まで、おきん、お六、慶左衛門の3人で
三月も旅をするというのでございます。
江戸の庶民ばかりでなく、私も興味津々で読みすすめたのでございます。

「~ございます。」の話し言葉で書かれていて読みやすいことこの上ないのでございます。
その上、登場人物が皆揃いも揃って、好きもの揃い。
陰間・安女郎・・・いろんな人が次から次へと出てくるのでございますから、
読者を飽きさせることはございません。

女たちも、したたか揃いで決して慶左衛門だけにいい目を見させているわけではございません。

光源氏と言えばプレイボーイの代名詞とも言えるお方でございますが、
あの方は、一度まぐわった女は後々まで面倒を見てやったそうでございます。
ところが、慶左衛門はそこまで下半身いやいや、肝の据わった御仁ではないのでございます。
いたすことばかり考えていて、女の身の上話は大嫌い。
単なる好きものの俗人ではございませんか。

そんな慶左衛門と彼を取り巻く性悪女たちがこの本の最大の魅力でございます。
クスッと笑えるエピソード満載のこのシリーズ。
今回は最後この先どうなるの?というところで終っているのでございます。
読者をじらすとはさすが慶左衛門でございます。

まだまだ慶左衛門の色の旅は終わりそうもないのでございます。

2011年9月30日金曜日

本朝金瓶梅

本朝金瓶梅
林 真理子著
文藝春秋



林真理子が書いた江戸の官能時代小説。男も女も誰もかれもが、まぐわってまぐわって、あんなことこんなことする本です。




そもそも「金瓶梅」とは、明代の長編官能小説。

タイトルの「金瓶梅」は主人公と関係をもった人たちの名前から一文字ずつ取ったものだが、それぞれ金(かね)、酒、色事、を意味するとも言われている。

それを、女の底意地悪さを書かせたら天下一品の林真理子が、時を江戸に移し、
書いたのがこの本。

主人公・西門屋 慶左衛門は、31歳、男ざかりの札差業。(幕府から旗本・御家人に支給される米の仲介をする)
生まれつき金はあるわ、顔はいいわで女が寄ってくるのは当たり前。
でも、「好き者」は、それだけでは満足できず、そこらの女にちょっかい出しまくり。
妻子がいて、囲い者もいて、吉原にも通う。
その上、いい女がいると聞くとどうにもたまらなくなってしまう根っからの「好き者」。
手をつけた人妻のおきんが、妻お月のいる家に乗り込んで妻妾同居。
そんな慶左衛門が繰り広げるめくるめくあれやこれやの世界。

すごい。
何がすごいって、女は、慶左衛門にひっかけられるだけじゃない。
したたかで、女だって「好き者」。

妾のおきんがいい。
相当の性悪女だけれど、意外と小心者で、笑わせてくれる。

「~ございます。」の語り言葉で書かれていて読みやすい。
殿方のおかずになるほどの官能ぶりではございませんが、思わず笑ってしまう好き者たちの
好きっぷり。
とても楽しめました。
著者の底力には敬服します。

慶左衛門の色の旅はまだまだ続くそうでございます。

私の手芸箱

アンティーク素材集
私の手芸箱
SE編集部編
翔泳社



かわいいもの大好き女子必見の素材集。ボタン・リボン・レース・刺繍・・・など、ツボを押さえたラインナップで私の一番のお気に入り。






かわいい物が好きで、素材集もいくつか持っている私。
その中でも、イチオシがこの本。

百聞は一見にしかずで、これはもう見ないとわからないけど、なんとか文章にするなら。

5つの章に分かれていて、

第1章
大切な小物たち
アンティークの手芸用品、はさみ・色とりどりのボタン・アクセサリー・パールなど
の写真。

第2章
レース、リボン
色々な形のレース、いろんな色のリボンが満載。

第3章
糸、刺繍
小物やお花の刺繍、色々な糸で縫った罫線など。

第4章
タイポグラフィー、ワンポイント
アルファベット、枠など。

第5章
ファブリック
花柄を中心とした布など。

中でも私のお気に入りは、第3章の刺繍。
大好きすぎて、友人との会食に、必要もないのにこれで招待状を作る始末。
ちょっとしたお手紙用に、これをあしらった便せんも作ってます。

かわいいもの好きの方はぜひ見てみてください。

ただ、難点は、重たい。
すごくきれいに、鮮やかに出てくるのですが、そのため、データが膨大らしく、
パソコンに落として使ったら、普通の漢字変換も時間かかりまくりで、
使うたびにCD使ってます。

額縁に入った花瓶

額縁の中にある花瓶です。

花瓶部分は、オアシスに葉っぱを貼っています。

2011年9月29日木曜日

贋作と共に去りぬ

贋作と共に去りぬ
ヘイリー・リンド著
岩田佳代子訳

世界的贋作師の祖父を持つ主人公アニー。明るく前向きなアニーとイケメンたちが(想像及び願望)繰り広げるエンターテイメントミステリー。





アニーは、幼い頃から絵画の才能を開花させていた。
10歳の時、モナリザを見事に模写するほど。
贋作師の祖父より手ほどきを受ける。
かつてはあこがれの修復師になるため、美術館勤務をしていたが、
暗い過去が暴露され、辞めさせられてしまった。
今は、お金に困っている忙しい画家兼疑似塗装師。
ある日、元カレから元の職場に呼び出され、鑑定を頼まれる。
そこから始まるノンストップミステリー。
次から次へと、めまぐるしく事件が起こる。

とにかく読みやすい。
翻訳がいい。
海外物によくある不自然な「英文和訳」ではなく、自然な日本語でよかった。

主人公アニーは、お金はないが、前向きで明るくへこたれない。
彼氏はいないが、味方になってくれる仲間がいる。
ステイタスはないが、確かな絵画の腕がある。

そんな主人公の周りにイケメン二人。
しかもタイプが違う。
一人は、長身で高級スーツを身にまとう堅物お金持ち。
もう一人は、正体不明の遊び人風。

アニーは、食べ物に気を使い、運動も欠かさない、美しいスーパーウーマン
(アメリカの小説によく出てくる)ようなタイプじゃない。
日本人好みの、一生懸命だけどドジで憎めない、でも才能はピカイチというタイプ。
女の子の憧れ要素満載のこの作品。
それでいて、美術の豆雑学あり、事件多数あり、アクションシーンありあり。

私が好きなのは、都合が悪くなると、電話を切っちゃうおちゃめなおじいちゃん。
他にも、助手や、友人たちも魅力的な人がいっぱい。

読み始めると夢中で最後までいってしまう。
とくに、後半は、アクション映画を見ているように楽しめた。

シリーズの第1作で、第4作までできているという。
次も是非読みたいと思わせる本でした。

2011年9月26日月曜日

されど彼らが人生 新忘れられた日本人Ⅲ

されど彼らが人生
佐野 眞一著
毎日新聞社

40人以上の様々な人生を駆け足で描いた作品。鳩山一族・細木和子・元ヤクザのもずく養殖業者・・・有名無名な人たちの人間模様が50話。



沖縄にお金持ちの軍用地主がいるという。
反戦地主ではなく、土地を米軍に貸している。
賃料だけで、年20億は下らないって。
不労所得がそんな金額。
夢のようだけど、基地反対派の多い沖縄では暮らしにくいのだろう。

バブル期の大阪料亭の女将「尾上縫」IQ84しかなかったって。
算数は、引き算が少しできる程度。
そんなんで、証券マン・銀行マンをかしずかせていたなんて。
金融マンにいいように操られていたんだろう。

そのほか、ダイソーの創業者・代ゼミ創設者・鈴木俊一・・・など、
著者が今まで資料やインタビューで出会った人たちのちょっとした興味深い話が
50話もあってお得感あり。

特に、小泉純一郎の元義兄は、窃盗を繰り返しているという話は、よく調べたなと
思った。

ただ、もともと週刊誌に連載したものをまとめた本という性質上、1話1話が短いのは
仕方のないことか。

もっとこの人のこと知りたいと思うような、一癖も二癖もあるような、強烈な人ばかり。

内緒の話
著者の本は結構読んでいるからか、過去に読んだことのある話がたくさん。 あと、「桑田佳祐とサザンオールスターズの音楽は観客におもねっていて前々から嫌いだったので」とか、細木和子の章で、「あの女はなぜあんなにエラソーにふるまっていられたのか。」とか、私情丸出しの文章がたくさんあって、ちょっとなぁ、と思った。

2011年9月25日日曜日

拙者は食えん!サムライ洋食事始

拙者は食えん!サムライ洋食事始
熊田 忠雄著
新潮社



江戸時代末期・日本人がアメリカ・ヨーロッパに行ったとき、見慣れない洋食を見て・食べてどう思ったのか?そんな観点から書かれた「洋食事始」



江戸時代末期・一般の武士たちは、とても質素だった。
一汁一菜か一汁二菜。
ご飯も玄米か麦混じり。
魚も月に3回。
お侍さんたちでそうであったら、庶民は推して知るべし。

そんな彼らが、外国に行ったら?
そんな興味から生まれたこの本。

日本食食べられないだろうから、船に山と日本食を積もうとして、断られる日本人。
獣の肉や油・脂のニオイに閉口する彼ら。
初めて見るフォーク→熊手の小さいものと表現する。
汚したり、こぼしたり、マナーも悪い。

残ったものをなんでも紙に包み、懐にしまっちゃう。
国賓級で接待されて、一流料理を供されても、食べられないお侍続出。

そんな想像すると笑ってしまうマンガチックな話が満載の本でした。

そんな彼らも、果物は味付けもせずそのまま食べるからか、大好評だったようです。
ジュースにして氷を浮かべれば、のどが渇いた彼らは大満足。
帰国後も後々まで語り合ったという。

私も、東南アジアに住んでいた時、ドリアンに何度も挑戦した。
でも、胃が沸騰するようで、寝込む始末。
フィジー大使館に行ったとき、地面に穴を掘って色々蒸し焼きにしてくれた。
わくわくしたが、食べたら、いまいち。
タロイモは、アレルギーなのか、喉が腫れてしまった。

アフリカの奥地の料理や、ゲテモノ系は食べる自信がない。

笑って読んでいたけど、彼らのことを笑う資格ないかもしれない。

「~御座候」文がたくさん出てくるところを除けば、読みやすい本でした。

2011年9月24日土曜日

巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀 下

巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀 下
佐野 眞一著
文春文庫

正力松太郎(1885-1969)とその「影武者たち」の壮大なお話。横暴・暴君・傍若無人・・・そんな正力を緻密な取材で丁寧に描いた著者の大作。




正直、正力松太郎なんて知らなかった。
「巨人の正力オーナー」は聞いたことあったけど、それは息子だった。

自分の手柄は誇張して言いふらす。
人の手柄は、横取りして、自分の手柄とする男・正力松太郎。

猜疑心と嫉妬心の塊の正力。
でも、飛行機が怖く、生涯外国へ出かけなかった。

朝晩、両親のために、経を読み、月命日には肉断ちをしたそれもまた、正力。

「プロ野球の父」と言われた正力。
野球のルールすら死ぬまで理解しなかったのに。
でも、自分以外の者が始めたそれ以前の職業野球は歴史から消した。

「テレビの父」と言われた正力。
アメリカ通の柴田の奔走のお陰で実現したテレビ放送だが、すべて自分の功績。

「原子力の父」と言われた正力。
原子力のげの字も知らないけれど、総理大臣になるための切り札として、
急いで導入した。

晩年は、狂気の暴君と化し、誰もを困らせた哀しき正力。

この分厚い本を上巻から読み始めて、私は、正力で頭がいっぱいになってしまった。

こんな嫌なオヤジ、そばにいたら許せない。上司だったら、すぐ会社辞める。
政治家としてテレビに出てたら茶の間で文句言う。

だけど、読み終わった今でも、なぜか魅かれてしまう。
近くにいない、歴史に埋もれた過去の人だから。
自分とは接点もなにもない赤の他人だから。

正力の影で泣いた「影武者たち」の苦労と悔しさに、一緒になって悔しんだ。
「家族の面倒も後々までみるから」と、大学進学をあきらめさせて、巨人に入団させた沢村栄治。その後の辛苦を思うと私まで哀しくなる。

そのほか、怒鳴り散らされた部下たち。その家族たち。

インタビューに応じた人たちは、一様に、悪口を言いまくり、最後には、「正力と一緒に仕事をやり遂げることができたことに今は誇りを感じる」という。


膨大な量の資料にあたり、たくさんの人々にインタビューをし、
長い年月をかけて、鬼気迫るこの本を書いた著者。
著者に送る称賛の言葉を私の語彙の中からは見つけられない。

福島の原発問題を今、正力は天国でどう思っているのだろうか。
孫娘のことは、かわいがっていたのだろうか。

2011年9月20日火曜日

巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀 上

巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀 上
佐野 眞一著
文春文庫

正力松太郎(1885年・明治18年生まれ)の84年の生涯を描いた著者渾身の大作。(前編)膨大な資料を緻密に解説している迫力の伝記。





富山県の土木請負業の家の二男として生まれ、子供の頃からやんちゃだった正力松太郎。
四校・東大を優秀な成績で卒業ではなく、優秀でない成績で卒業後、内閣統計局を経て、警視庁へ。
そこで、「大衆」の操作・鎮圧を学ぶ。
また、たくさんの知己を得る。
その後警視庁を責任をとって辞めた後、大正13年読売新聞へ。

『「君の今日あるは、一体誰のおかげか」といわれなかった人間は皆無といってよかった。』
この一文だけでも、正力の性格が窺えよう。
「この社にあるものは、輪転機から鉛筆一本にいたるまで、すべておれの物である」
という、超ワンマンで、並はずれた猜疑心と嫉妬心・名誉欲の権化のような正力でも、
不思議と金銭に関してだけは、無欲だったという。


読売新聞は、正力が作ったものではなく、金により「乗っ取り同然」によって
獲得したものであるため、「創業者」ではないというコンプレックスから、
他の事業において、「造物主」としてこだわった。

また、著者は、正力襲撃事件(昭和10年 犯人はその場で逮捕されたが、
背後関係はうやむやのまま終結)の真相も、数多くのインタビューから引き出した。


すごい本です。
分厚い。
会話文ほとんどなしの、漢字多め・ひらがな少なめ。
登場人物がこれでもかと出てくる。
一人一人の背景も丹念に説明してくれる。
引用文が、漢字・カタカナのコラボレーションのオールドスタイル。
歴史上の人物・事件が次から次へと。
高校時代の歴史・漢文・古典の嫌な出来事を思い出させてくれました。

警視庁を辞め、読売に入ったくらいから(大正13年)だいぶ現代風になり、
読みやすくなりました。

こんな読むのに困難な本でも、夢中になってしまうのは、著者の迫力が感じられるから。
また、正力本人の、今ではあり得ないくらいの横暴ぶりと、振り回される人々が、
興味深く描かれているから。

私の興味の対象である「鈴木商店」「星岡茶寮」も同じ時代を彩る脇役として出てきて
花をそえていた。

読むのに、知力と、体力の必要な本です。
でも、書いた著者はもっとすごい。

でも、ここまでで前半戦。
頑張って後半戦突入します。

2011年9月18日日曜日

マリアビートル

マリアビートル
伊坂 幸太郎著
角川書店


「グラスホッパー」のその後。「グラスホッパー」読んでからの方が楽しめる。でも、読んでない人も楽しめる。




盛岡行きの新幹線に、それぞれ事情を持つ人たちが乗り込む。
小賢しく、恐ろしい中学生・王子。
王子を狙う木村。
峰岸の息子を助け出し、盛岡に連れていく檸檬と蜜柑。
トランクを運び出せと命令された不運な七尾。
個性豊かな登場人物たちが、各自の使命を果たすため繰り広げる騒動。
果たして、盛岡までたどり着けるのか。

最初から、最後まで、軽妙なやり取りが続き、飽きさせずに最後まで突っ走るのはさすが。

危ない仕事をしてる人たちが、偶然(偶然すぎる!)同じ列車に乗り合わせる。
死体やけが人続出。
となれば、ハードボイルド風にも、暗い重い話にもなりそうだが、伊坂作品のため、
そうはいかない。

とにかく、会話が面白い。
「トーマス」大好きで、何でもトーマスに結びつけてしまう檸檬と、相棒の蜜柑の会話が
特に面白かった。
七尾の不運さも、度を越していて笑える。

でも、一番スカッとするのは、木村父。
やはり、経験を重ねた人は重みが違う。

読み終わって、すっきりするのもよかった。


内緒の話
なんか、職人の技という感じがする。
物をつくるのに、こうすれば売れるだろうというような感じで作っているような。
作家はみんなそうなのかな?
でも、伊坂作品はそれが強いような気がする。

2011年9月16日金曜日

仕事の話 日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」

仕事の話 日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」
木村 俊介著




自動車開発者・陶芸家・心臓外科医・グラフィックデザイナー・脚本家・・・
多種多様な職業の、スペシャリスト32人。
世間的には、有名な人・無名な人様々だが、その世界では有名な方たちばかり。
一人称の口語体で、読みやすい。

小さい頃から憧れてた仕事に就いた人もいるが、そんな人ばかりではない。
世間と同じように、スペシャリストたちの中にも、嫌だけれどなってしまったという人も
いた。
親の職業(会社)を継いだ人もいた。

スペシャリストたちの共通点を挙げるとしたら・・・

若い時の体験---遊びであれ、苦労であれ、失敗・成功であれ、重要なんだなということ。
みなさん、寝る暇を惜しんでとか、才能だけではない努力がうかがえる。

あと、自分の頭でよく考えて、自分なりの工夫をするということ。
当たり前のようでいて、なかなかできることじゃないと思う。

また、研究者やデザイナーが、人に伝えるというプレゼンテーション能力が重要ということを
言っていたのが、印象的だった。

一人一人一冊の本にできるくらいの人生をギュッと凝縮した、お得な本なのでは?
まとめあげた著者(インタビュアー)もすごいと思った。

今度は一人一人の半生記をじっくり読んでみたい。
 

2011年9月13日火曜日

ふくらはぎ「もみ押し」健康法

ふくらはぎ「もみ押し」健康法
小池弘人著
静山社文庫




ふくらはぎは、第二の心臓と言われているが、辛い症状(むくみ・冷え・こむらがえりなど)は、
血流の悪さが原因である。
ふくらはぎを、さすって、もんで、ツボを押して・・・
血流を良くしたら、症状がおさまり、未病対策、免疫力アップにもつながる。

そういう内容を、図をまじえながら医師の立場から、わかりやすく解説した本。

むくみやすく、こむら返りをしやすい私は、ふくらはぎの重要性を認識していて、
著者が監修した『「ふくらはぎをもむ」と超健康になる』も読んだ。

「超健康」の本は、ゾーンセラピー(フットマッサージ)をしている人が書いた本だが、
ふくらはぎのどこが固いかで、性格がわかる、子供の頃の育てられ方がわかる・・・
というところが胡散臭く、いまいちはまれなかった。

この本は、そういったところは書かれていない。
きちんと、西洋医学と東洋医学を融合した「統合医療」の観点から、わかりやすく
解説していて、なるほどと納得できる。

実際に、ふくらはぎをもんでいるだけでは、健康になるとは思えないが、
むくみ、こむらがえりの症状に悩んでいる私には、重要なことのように思えた。

いままでも、自己流&「超健康」の本を参考に、ふくらはぎをもんでいたが、
これからも続けていこうとその重要性を再認識させてくれた本だった。

2011年9月12日月曜日

チヨ子

チヨ子
宮部みゆき著
光文社文庫




小学校時代仲良かった5人のうち、4人で久しぶりに出会う「雪娘」
商店街の寂れた玩具屋に、変なうわさがたつ「オモチャ」
ウサギの着ぐるみを着たら、周りの人が違って見えた表題作の「チヨ子」
中学生の麻子が汚名を着せられた被害者の名誉を挽回しようとする「いしまくら」
調査事務所を構えるわたしのところに少年犯罪を犯した息子の父親が依頼しにくる「聖痕」

以上の短編、中編が収められて476円+税の文庫本。

いい人たちが出てきて、温かく、ホッとする話かと思うと、そうはいかない。
優しいような表現で書かれていても、うすら寒かったり、ぞっとさせられたり。

宮部作品が凝縮されたような短編集。

読みやすく、漢字が読めれば、子供にもよめるかな?と思ったが、
ちょっと「自転車でラブホテル」「親の性的虐待」などが含まれるから、
お子様向けってわけでもない。

「聖痕」は、中編でまとめてしまうのはもったいない作品と思った。
もう少し、引っ張ってもらった方がわかりやすいのではないかな?

内緒の話
いい人ばかり出てくるのが気になる。特に、子供。
こんなかわいい、聞きわけのいい子ばかりじゃない。
かわいこぶってる感じがする。
もっと、人間の汚さ、いじわるさを出したらいいのに。

あと、短編はやっぱり、終わり方が中途半端になってしまって、余韻を残す感じになるのが好きになれない。
いいと思う作品もたくさんあるから、読むのはやめられないけど。

2011年9月11日日曜日

化合

化合
今野 敏著
講談社

今野敏お得意の警察内部小説。STシリーズの主人公・菊川の若かりし頃のお話。シリーズ未読でも全く問題なく楽しめます。




バブルがはじけた直後、板橋の公園で、刺殺体が発見された。
警視庁捜査一課の菊川は、所轄のベテラン刑事と組んで捜査にあたる。
被害者は、イベントサークルの主催者。
第一発見者が見た「黒っぽいスーツの男」

捜査本部には、珍しく検察官がはりついていた。
ベテラン刑事のやる気のなさにいらつきながらも、我慢する菊川。

エリート検事が、起訴を急ぐ。
果たして、犯人は?

特異なキャラが出てくるわけでも、事件が次から次へと起こるわけでもなく、
話は静かに進んでいくが、なぜかどんどん引き込まれていく。

まるで、自分も捜査本部の一員でなったかのように、菊川と一緒に、
理不尽な上司にいらだったり、あきれたり、感心したり・・・
臨場感たっぷりの警察内部。

そこが、著者の魅力なんだと思う。
当たり外れのない安定感。
一文一文が短く、会話文が多く、読みやすい文章。
読後感もすっきりしている。
また、次回作も読みたくなるような作品だった。


本当の警察もこんななのかな?と想像する。

著者は、元警察官かと思いきやレコード会社勤務だったという。
(今、レコードって死語だけど、レコード会社のことはCD会社とは言わない気がする。)

どうやって、考えるんだろ?
すごい。

内緒の話

面白かったけど、突っ込みながら読んでしまうひねくれ者の私。
著者はパターンがいつも一緒。
主人公と、理不尽な上司 表現力が乏しい。
「菊川は、そう思っていた。」 「菊川は、そう感じていた。」 って文が何回出てきたか 。
でも、結局この著者の本をまた読むんだろうなと思う

2011年9月10日土曜日

ホルモー六景

ホルモー六景
万城目 学著
角川書店

衝撃の「鴨川ホルモー」の裏話。
先に読んでからこの本を読んだ方が楽しめます。





最初、ホルモーって、焼き肉のことだと思っていた私。
よくわからぬまま「鴨川ホルモー」を読み始めて、この著者に夢中になってしまった。

友情か男か、二人の女が対決する「鴨川(小)ホルモー」
凡ちゃんの初デート「ローマ風の休日」
もっちゃんの恋と恋文「もっちゃん」
同志社にもホルモーあった?「同志社大学黄竜陣」
東京にもホルモーあった?「丸の内サミット」
第五百代立命館大学白虎隊会長・細川珠美の恋「長持の恋」

以上の六編が収録されている短編集。

いつもながら、著者に感嘆する。
真面目で不器用な若者たち(この言葉を使うと、自分が年寄りみたい)の様子が生き生きと
かかれている。

まず、表現力がすごい。
くすっと笑ってしまうような言い回し。

ストーリーがすごい。
ミステリーではないのに、先が想像できない展開の仕方。

どうしたら、こんなお話が作れるの?
想像力がすごいのかな?

男の子の前で、おっさんが嘔吐くような声を出さなくてはならない定子。

恋文を間違えて渡してしまうもっちゃん。

そんな、青臭い、恥ずかしい、哀しい、そして、おかしいエピソードが満載。

まだまだ謎だらけのまま終わっているので、是非、続編でも番外編でも
出してほしい。

でも、やっぱりホルモーに参加してみたい。
私の地元でもやってないかな?

2011年9月7日水曜日

婚活したらすごかった

婚活したらすごかった
石神 賢介著
新潮新書


ネット婚活、お見合いパーティーに参加した著者の体験記。





バツイチの著者は、ある日突然結婚がしたくなり、婚活開始。

まずは、ネット婚活。
月数千円の会費で登録し、プロフィールを掲載して、
交際を申し込んだり、申し込まれたり。
初対面で、CAにいきなりSMプレイを要求された。

お見合いパーティー。
一回ごとに申し込む。「医者限定」など色々ある。
値段も色々。人も色々。
ナンパ男もいれば、たかり女もいる。

結婚相談所。著者は申し込まず、経験者の談話。
あまりに消極的な男たち。

日本の男に見切りをつけ、NYの相談所に登録し、アメリカ人・もしくは大手企業駐在員に
狙いを定める女。

等など、面白エピソード満載。
&、著者の経験と反省に基づいた婚活マニュアル。


面白かった。
婚活パーティーに申し込んで、恥ずかしく思う著者。
なぜ恥ずかしいのかと考えてみれば、こういうシステムに頼らなければ、
相手を見つけられないという状況にプライドが削られたから。
知り合いに会っちゃたら恥ずかしいから。

気持ちは凄くわかる。
私だって初めは恥ずかしいだろう。
だけど、就職難・そして結婚難の世の中だもん。
こういう手段を利用してみんなで幸せになりましょう。

また、著者は、パーティーには中毒性があるという。
思い返して、反省して、次はもっとうまくやれるんじゃないか。
今度はこういう風に攻めてみようって思うんだろうな。

婚活中の人には是非読んでほしい。
異性としゃべるのが苦手という人には、ぜひ婚活パーティーに参加してみてほしい。
そこで異性としゃべる練習、異性の習性を知るいい機会と思ってほしい。

相手にされなくても、場数を踏めば、心に余裕ができるはず。

やっぱり、余裕がある人の方が持てると思う。

がんばれ、婚活者たち。

少子高齢化の解消のためにも!!

やせる食べ方

やせる食べ方
江部 康二著
東洋経済新報社

女性の永遠の憧れ・ダイエット。(私だけ?)





色々な方法があるけれど、器具も使わず、飢えも感じず、
「おいしいものをたくさん食べてキレイにやせる!」
ってホント?

半信半疑で購入してみた。
でも、読んだらきちんと理論にのっとった本でした。

著者は京都大学医学部卒業で、現在、京都の高雄病院理事長。
糖尿病・アトピー性皮膚炎に実績のある病院らしい(自称)

内容は、肥満ホルモンであるインスリンをなるべく出さないような食べ方を推奨している。
要は、糖尿病の治療方法と一緒なんだから、きちんとやれば、効果が出るのは当たり前。

前に、アメリカで流行ったアトキンス式とほぼ一緒。
その時は、アメリカの本だったので、肉・肉・肉でOKって逆に脂が怖くてトライもしなかった。

でも、こちらは日本人に合っている食材が書かれているから安心。

ただ、きちんとできるかが問題。
これをきちんとできる人は、どんなやり方でも真面目にこなして痩せていくんだろうな。
っていうか、そもそも、そういう人は太ってないでしょう(笑)

だって、ご飯・パン・パスタ・果物etc.炭水化物を生まれた時から、がばがば食べてきた
私にとって、それを抜くなんて!!

お菓子もケーキもでしょう?

まぁ、とりあえず、夕飯のご飯を夕べぬかしてみた。おかずのみ。
寝る前におなかすいた。
梨を食べた。

こんなんじゃ駄目だろうけど、少しずつがんばっていきます。
だって、私の永遠のテーマだもん。

お酒飲む男の人にはいいかも。
おかずとお酒で夕飯なんて普通でしょうから。

2011年9月6日火曜日

分身

分身
東野圭吾著
集英社文庫




北海道に住んでいる鞠子。幼い頃から母の愛に違和感を感じていた。
東京に住んでいる双葉。生まれた時から母と二人暮らし。
性格は全く違うが、なぜかそっくりな二人。
双葉のテレビ出演を機に、様々な渦に巻き込まれていく・・・

だいぶ前の医療サスペンスといえば、普通、医療の進歩に伴って古臭く感じてしまうもの。
でも、この本はそんなこと感じさせず、面白かった。
(専門家にはどうかわからないが)

最初から、暗く、薄気味悪いベールが一枚かかっているような気持ち悪さが最後まで続いていた。
自分と双子以上にそっくりな人がいたら?
まずは親の浮気を疑うかな?
でも、そんな話ではなかった。

東野作品の初期のいくつかは、終わり方が中途半端で納得できないものがあったが、
この作品は、余韻を残しつつも、とりあえずうまくまとまっていた。

考えさせられる点も多々あり、読み終わった後も、本能的な嫌悪感は尾をひいていた。

あと、一貫して「親の愛情」がテーマとして流れていた。
それが、気持ち悪さの中、救いだった。

改めて、昔の作品を読んでみたくなった。

2011年9月4日日曜日

モルフェウスの領域

モルフェウスの領域
海堂 尊著
角川書店





アツシ君は、網膜芽腫で右眼摘出術を受けるが、9歳の時に再発。
左眼も摘出しなければならなくなるが、新薬が開発され、日本で認可されるのを期待して、5年間コールドスリープ「凍眠」することになった。
それを見守る未来医学探求センターの非常勤の専任施設担当官・涼子。
おなじみの曾根崎伸一郎教授が考えた「凍眠8原則」にほころびはないのか?
スリーパーは無事に目覚めるのか?
もし目覚めたら、そのあとどう生きるのか?

まずは、Aiについて書かれていないのでホッとしました。(Aiセンターの名前は出てきましたが)
前半は、読みにくかった。
どうにも、杓子定規の官僚像・作者の意見の押し付け・・・等気になってしまって。
もう、海堂作品は卒業かなとも思ってしまった。

でも、中盤からは、ストーリー的におもしろくなり、夢中になって一気に読みました。
こういうこともあるから、やめられない。

「凍眠」している間、その人の基本的人権はどうなるのか?
その間、体は少しずつ成長するが、年齢はどうするのか?
色々考えさせられます。

いくつか気になる点も。

おなじみの愚痴外来の田口先生って、こういう普通のキャラだった?
今までと印象が違うのだけれど。

ロジック、論理のほころび、などの言葉が頻繁に出てくる。
世の中には、そんなに頭のいい人ばかりじゃないし、
論理的にばかりこだわる人ばかりでもない。
もっと感情的な人もいっぱいいるはず。
みんながみんな、「論理的なほころびはあるかないか」なんて考えない。
一人二人はそういう考えの登場人物がいてもいいけど、揃いも揃ってっていうのは考えもの。

でも、「凍眠学習」は興味ある。
誰しも一度は睡眠中に自然に学習できたらと憧れたのでは?
特に試験前。
音声を流すだけで暗記・理解できたらいいな。

著者は、お願いだから、押し付けがましく書かないでほしい。

2011年9月1日木曜日

心星ひとつ  みをつくし料理帖

心星ひとつ  みをつくし料理帖
高田 郁著
角川春樹事務所




シリーズの第6弾。

幼い頃両親を失い、大坂の料理屋で奉公していた澪。
今は、江戸の「つる家」の料理人。
店主・大坂時代のご寮さん・隣人など、みんないい人ばかりが出てくる物語。

正直、読みやすいし、文庫本で安いし、と軽い気持ちでこのシリーズを読み始めた私。
料理を作る過程や、食べてる人の描写が好きで読んでいた。食いしん坊だから?

ストーリー的には、いつもいい人多すぎっと、ちょっと斜に構えて読んでいたかも。

それが、今回は違った。

夢中で読んでしまった。

静かな、ほっこり系のお話と思っていたのに、大きく動いた。

坂村堂の意外な出自が明らかになったり、失敗作があったり(個人的には、失敗もなくちゃと
大歓迎)・・・

それから、大きな選択を迫られる場面が二つも!!

これからどうなるのだろうと、初めて次回作を早く読みたいと思ってしまった。

今回から瓦版が付いていたが、それによると1年に2冊執筆するのが限度って。
それはそうだろうとうなづけた。
時代考証も必要だろうし、レシピを考え、作ってみないと書けないでしょう。

澪がていねいに作る料理をいつも食べてみたい、近くに「つる家」があったらいいな。と思う。

自分で作ろうとも思うのだけれど、レシピを見ていつも挫折してしまう。

でも、今回の豆腐丼と大根の油焼きなら、私でも作れるかも。

2011年8月31日水曜日

往復書簡

往復書簡
湊 かなえ著
幻冬舎

手紙のやり取りのみからなる短編3つ。夢中になって一気に読みました。短編なのにちゃんと話がおさまっている。好きな作家です。

 


「告白」の著者の短編。
高校時代の友人の結婚式を機に、友人たちとの手紙のやり取りで5年前の「事件」の真相に迫る「10年後の卒業文集」
小学校の担任の先生と教え子の「事故」についての先生と教え子のやり取りの「20年後の宿題」
国際ボランティアで海外に行った恋人とのやり取りで、かつての「事故」を考え直す「15年後の補習」 の3編。

短編というと、どうしても終わり方が中途半端と思っていたが、 夢中にさせるストーリで、一気に読めました。

「手紙」のやり取りとはいえ、語り口調で、最初はよくわからないがどんどん真相に迫るという 「告白」と同じパターン。

有吉佐和子の「悪女について」も思い出しました。(高校時代大好きで何度も読んだ本です)
こういう形式の本が私は好きなんだなぁ。と改めて思いました。
いつもは、こんなの偶然すぎるとか、心の中で突っ込みながら読んでしまうのに、 この本は、そんなことすら思わず最後までどっぷり本の世界に浸れました。

だからと言って、冷静に考えると突っ込むところがないわけじゃないんだけど。
結末が、やりきれないまま終わるのが得意な著者ではあるけれど、最後はちゃんと まとめてくれていた。
1話目の女友達とのビミョーな関係はさすがと思った。