2014年5月27日火曜日

追憶の夜想曲

中山七里著
講談社

「贖罪の奏鳴曲」で大怪我を追った御子柴弁護士が帰ってきた!高額報酬を要求する弁護士VSリベンジに燃える検察官。裁判の行方に目が離せない!!




「贖罪の奏鳴曲」の続編。

平凡な主婦が、仕事もせず部屋に引きこもっている夫に愛想を尽かし殺害する、という事件があった。
裁判員裁判を受け、懲役16年という判決が下る。
控訴手続きをした直後、担当弁護士のもとに御子柴弁護士が現れ、担当を代われと要求する。

この御子柴は、どんな裁判も減刑させたり、時には無罪を勝ち取ることで有名だが、そのために手段を選ばず、敵対者も多い。
ダークヒーロー的な主人公なのだ。
前作で明かされた驚愕の過去を持ち、腕は確かだが依頼人に高額報酬を要求することで有名な御子柴が、なぜ大した金にもならないのに弁護をしたがるのだろうか?

一方、かつて裁判で御子柴に完膚なきまでに粉砕された岬検事は、次席検事の立場ながらリベンジを果たすべく、自ら担当を買って出る。

御子柴が裁判を担当した本当の理由とは?
御子柴VS岬検事の対決の行方は?
その二つの謎をメインに速いテンポで話が進んでいき、誰にも共感できないながらも、一気読み必至のリーガル・サスペンスである。

また、岬検事は「さよならドビュッシー」などの主人公・岬洋介の父親であるなど、他の中山七里作品と人物や出来事がリンクしているのを発見するのも、ファンにとって楽しみの一つである。

私の好きな演奏シーンがほとんどない、真相が痛ましくやりきれない、といった部分が個人的には残念だが、御子柴がこれをきっかけにどう変化したのか?それとも変わらないのか?気になるので、続編を期待したい。

2014年5月25日日曜日

まぐだら屋のマリア

原田マハ著
幻冬舎

海沿いの寂れた町にある食堂「まぐだら屋」。そこには、互いの過去をさぐり合わない人々が集まっていた。原田マハさんの再生小説。





高級料亭で厳しい修行に耐えていた紫紋は、ある事件をきっかけに住んでいた寮を飛び出し、死に場所を求めさまよう。
所持金が尽きたところでバスを降りると、そこは尽果(つきはて)という寂れた海辺の町だった。
フラフラと「まぐだら屋」という名前の食堂にたどり着き、手伝うことになる。
「まぐだら屋」では、明るい笑顔のマリアという女性が働いていた。
紫紋と同じくマリアにも暗い過去がありそうだが、お互い過去をさぐり合わず、月日が過ぎていく。

傷ついた人々が尽果という町で静かに癒されながら、自分の過去と向き合う決意をしていく、そういう物語である。

「まぐだら」とは、
マグロとタラをかけあわせたような世にも美味な魚「マグダラ」を食べるとどんな病気も治る、尽き果てかけた命も救われる・・・
という伝説から来ている。

感動的な話、なのだと思う。
癒され、勇気を与えてもらう話、でもあるだろう。
私もそう思い、夢中で読みふけった、途中までは。
でも、マリアの過去が明かされると、途端に興ざめしてしまったのだ。

よくありがちな過去が、あらすじのように語られていて、言い方は悪いが陳腐すぎるのでは?と思ってしまった。
そうなると、他も気になってくる。
「マグダラのマリア」を意識したのだろうが、マグロとタラをかけあわせて「マグダラ」って(。-_-。)
登場人物が、紫紋(シモン)に丸弧(マルコ)に与羽(ヨハネ)って。
勤務先の産地偽装・食材使い回しも、どこかで聞いたことある事件だし。

原田マハさんの再生小説は好きなんだけど、いい話なんだけど、入り込めなくて残念。
読むタイミングが合わなかったのかなぁ。
違う時に読んだら、私だって素直に感動できたかもしれない。

また、母親と二人暮らしで長年引きこもりだった少年が出てくるのだが、つい最近読んだ話とエピソードがそっくりだった。
でも、どの小説とそっくりなのか全く思い出せず゚(゚´Д`゚)゚
過去のレビューを見てもそれらしきものは見当たらず、困っている。
週刊誌で読んだ小説かも?
どなたか「母と二人暮らしの引きこもり少年が再出発する話」(たぶん短編)をご存知でしたら教えてください。

2014年5月21日水曜日

いとみち 二の糸

越谷オサム著
新潮社

「おがえりなさいませ、ごスずん様」津軽弁のメイドさん・いとちゃんの第2弾。やっぱりめごいなぁ♡



先日、かねてより念願だった秋葉原のメイド喫茶に行ってきました。
以前行ったメイド喫茶は、おひとり様の男たちが静かに座っている異様な雰囲気でしたが、そこは明るくエンターテインメントに徹した空間で、楽しいひと時を過ごすことができました。

《メイド喫茶体験記》
「お帰りなさいませ、お嬢様♡」と明るく出迎えてもらい、席に案内してもらいました。
メニューから飲み物を選び、メイドさんの写真が貼ってあるボードから一緒に写真を撮るメイドさんを指名しました。
(よくわからなかったので、案内してくれたかわいいお嬢さんを指名しました。)
いくつかあるカチューシャの中から「ねこミミカチューシャ」を選んで頭につけ、萌え萌えポーズをキメながら、かわいいメイドさんと一緒に写真を撮りました。
その後、メイドさんがその写真にかわいいメッセージを書いてくれました。

注文した飲み物に、かわいい絵を描いて〝美味しくなる魔法〟をかけてくれました。




向かって左は研修生が描いてくれた「ダーリン」と「ふなっしー」。
左が、メイド歴3ヶ月というメイドさんが描いてくれた「メイド服」と「にゃんこ」。

メイドさん達は本当にアイドルのようにかわいくて、〝萌え〟だけでなく〝元気〟も注入してもらい、夢のような時間を過ごすことができました。
あとでバイト募集要項を確認してみると、出勤前にプロのスタイリストさんが髪の毛をセットしてくれるそうです。
いえ、ただ確認しただけで応募しようと思ったわけではありません(^^;

アイドルのようにかわいいメイドさんもいいけれど、この「いとみち 二の糸」に出てくるメイドさん いとちゃん もとってもめごいのです。
いとちゃんの魅力に完全にノックアウトされてしまった前作「いとみち」の続編です。

主人公のいとちゃんは、人見知りが激しくて、口下手で引っ込み思案だけれど、メイド喫茶「津軽メイド珈琲店」で、メイドさんのアルバイトをしています。
いつもおどおどしていますが、津軽三味線の腕前は確かで、ミニコンサートまで開催しているのです。
そして、働き始めて1年にもなるというのに、いまだに「お帰りなさいませ、ご主人様」が言えずに、「お、おがえりなさいませ、ごスずん様」と訛ってしまいます。

さて、高校2年生になったいとちゃんは、新しい担任の先生を見て仰天します。
なんと、メイド喫茶の常連さんだったのです!
しかもその先生は、いとちゃんが友達と立ち上げた「カメラ同好会」の顧問も引き受けたのです。
なんという気まずさでしょう!!

楽しい高校生活を送っていたいとちゃんですが、親友と初めて喧嘩をしてしまいました。
仲直りしたいのに、きっかけが掴めません。
その上、メイド喫茶でもなぜか周りのメイドさん達が急によそよそしくなったのです。
人間関係に悩みながら、いとちゃんは成長していきます。

女子高生たちがキャッキャと楽しそうにおしゃべりする様子を読んでいると、なんだかこちらまで楽しくなってきます。
その上今回は、喜ばしい出来事があったり、仲間の旅立ちがあったりと、いとちゃんもいろいろな経験をするのですが、私も一緒に、寂しくて泣いたり、嬉しくて泣いたり、感動して泣いたりと忙しかったのです。

そしてなんと!!
まさかのいとちゃん恋の予感!?
続きが気になるではないですか!

続編の「いとみち 三の糸」はもう発売されているそうです。
早く、たんげめごい(すごくかわいい)いとちゃんに会いに行かなくちゃ。

2014年5月18日日曜日

いつまでも美しく: インド・ムンバイの スラムに生きる人びと

キャサリン・ブー著
石垣賀子訳
早川書房

ムンバイのスラムを3年半にわたって取材したノンフィクション。



インド・ムンバイの国際空港近くにあるコンクリート壁。
そこには、鮮やかな広告が一面に書かれていた。
「いつまでも美しく(Beautiful Forever)。いつまでも美しく。いつまでも美しく。・・・」
延々と続くその広告のそばにあるスラムを取材したノンフィクションである。
原題は、「Behind the Beautiful Forevers Life,Death,and Hope in a Mumbai Undercity」

もともと貧困問題に関心があったという著者は、インド人男性との結婚を機にムンバイのスラムを訪れ、彼らの生活を3年半にわたって記録していく。


世界の貧困層の1/3をかかえるといわれるインド。
そのインド最大の商業都市・ムンバイに、小さなスラム「アンナワディ」がある。
そこでは、空港当局が所有する土地に粗末なバラックを建て、約3000人が不法に暮らしている。
ますます豊かに、ますます不平等になっていくムンバイで、いつか中流に這い上がれるかもしれないとの希望を胸に抱えながら。

16歳のアブドゥルは、住民たちが収集するゴミを分別し、業者にまとめて売ることで一家を支えていた。
真面目で無口なアブドゥルは、トラブルを避けるように目立たず暮らしていたが、隣人の女が灯油をかぶって火を点けるという事件を起こしてから、生活が一変する。

権力者を利用してのし上がろうと企む野心家の母親を持つマンジュは、このスラムで初の大学卒業を控えていた。

その二人を中心として、スラムの喧騒が描かれていく。
鳴り響く音楽、笑い声や怒鳴り声。
立ち上る土煙、あちこちで起こるいざこざ。
目まぐるしい日常の中で、彼らはたくましく暮らしている。

一日に1ドル以下で生活する住民たち。
学校へ行かず、ゴミを集める子供たち。
彼らの凄まじい生活ぶり、とりわけ子供たちの境遇に胸が痛む。
主語はスラムの住人たちで、文章の中には著者の影すら出てこないため、いつしか小説を読んでいるような気になってくるのだが、これは現実なのだ。

また彼らは、お金がないというだけで何度も理不尽な目にあう。
勾留され、無実の罪を着せられたくないと追い詰められた人に、持っている金をすべて出させ、借りられるだけの金を借りさせて搾り取る警察官。
金を出さなければ、不利な検査結果を提出すると脅す医師。
ここまで「地獄の沙汰も金次第」なのかと愕然としたのだが、彼らもまた生きるのに必死なのだ。

公正とは程遠い選挙、袖の下の横行、偽造書類、あまりの腐敗ぶりに驚いたが、複雑に入り組んだ宗教やカースト制度もあって、部外者にはなかなか手が出せない問題だろう。

彼らはこれからも、力と金を持っているものだけが恩恵を受けられる社会で、「いつまでもたくましく」生きていくのだろうか。

2014年5月13日火曜日

ルーズヴェルト・ゲーム

池井戸潤著
講談社

二番煎じ?二匹目のどじょう?いやいや、それでもやっぱり面白い。「倍返し」の次は「大逆転」だっ!!



TBSで放送されているドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」を毎週録画して見ている。
「半沢直樹」が当たったからってまた安易な企画通して…と思っていたが、見始めたらこれがなかなか面白い。
カメラワークや演技が似通っている、出演する俳優が重なっている、ということもあり、「まさしく半沢直樹や~!」と突っ込みながらも、楽しく見ている。
それにしても、香川照之が画面に登場すると一瞬にして「香川劇場」となってしまうのはどうなんだろうか。
半沢直樹の時よりだいぶ抑えた演技なんだけどなぁ。

ドラマの原作本がこの「ルーズヴェルト・ゲーム」
今、飛ぶ鳥を落とす勢いの池井戸潤さんの小説である。

中堅電子部品メーカーの青島製作所は、不景気の中、経営不振に喘いでいた。
大口取引先からは生産調整や単価の引き下げを要求され、競合他社から目の敵にされ、銀行からは融資を渋られ、どんどん窮地に追い込まれる。
一方、かつて社会人野球の強豪チームであった野球部も、今では弱小チームとなってしまった。
年間3億円の経費がかかる野球部は廃部にすべきだとの声があがる。
会社も野球部も、まさに崖っぷちなのだ。

題名の「ルーズヴェルト・ゲーム」とは、かつてルーズヴェルト大統領が、「野球の試合でもっとも面白いスコアは8対7だ。」と言ったことから来ている。
(本当に言ったのかどうかは知らないけど。)

池井戸潤さんの小説は、わかりやすい勧善懲悪で、最後は主人公が勝利するというパターンが多い。
本書も、倒産寸前まで追い詰められた会社と、廃部の危機に瀕する野球部の存続をかけた戦いが並行して描かれ、追い詰められては反撃し、また苦境に立たされては這い上がっていく逆転物語である。

現実には善悪が混在していて、こうもはっきり分かれることはない。
そんなに都合よく話が進まない。
そうわかっていても、読んでいると物語の中に入り込み、登場人物たちと一緒に熱くなってしまうのだ。
銀行勤務の経験を活かし、ストーリーにリーマンショック・企業のスポーツ離れ・リストラなど社会的事柄を織り交ぜている上手さがあるからだろう。
野球部の試合を一緒に応援し、えげつない仕打ちに悔し泣きし、それぞれの熱い想いに感動しながら楽しむことができた。

2014年5月10日土曜日

禁断の魔術 ガリレオ8

東野圭吾著
文藝春秋

やっぱり短編は面白い!!湯川教授が活躍するガリレオシリーズ第8弾。



警視庁捜査一課の刑事・草薙の大学時代の友人である物理学者・湯川教授が様々な事件を解決していくガリレオシリーズの第8弾。

透視す(みとおす)
湯川は、草薙に連れられ訪れた銀座のクラブで、透視ができると評判のホステス・アイに名前や職業を言い当てられ、驚く。
その直後、アイが何者かに殺されてしまう。
アイの殺害と透視は関係あるのだろうか?

曲球る(まがる)
プロ野球選手の妻が駐車場で死体となって発見された。
犯人はすぐに逮捕されたが、助手席にはプレゼント包装された置時計が残されており、誰に何のために用意したのか、湯川が解明していく。

念波る(おくる)
双子の姉が危険な目にあっているとテレパシーで感じた双子の妹。
連絡してみると、本当に姉は殺害されていた。
超常現象を信じそうもない湯川が、なんとテレパシーについて研究を始める。
テレパシーは本当にあるのだろうか?

猛射つ(うつ)
湯川の高校の後輩が、姉が死亡した恨みをはらそうと機械を使った殺害を計画しているらしい。
その機械とは、湯川がかつて後輩と一緒に作成したものだった。
計画を阻止しようと湯川が奮闘する。

以上4編が収められている。

相変わらず冴えまくっている湯川教授。
最後は全て解決してしまうのだろうとわかっていても、やっぱり面白い。
今回は湯川が、テレパシーや透視などの超常現象を目の当たりにしたり、プロ野球選手の投球フォームを科学的に分析しアドバイスしたりと、またまた多方面で活躍している。
やっぱりガリレオシリーズは、長編より短編の方が面白いな。

何でもお見通しの湯川教授だったら、STAP細胞についての騒動も鮮やかに解いてくれるのではないだろうか?
えっ!湯川教授は物理学の教授だから、分野が違う?
でも、きっと解決してくれると思うなぁ。
だって、天才・湯川教授なのだから。

2014年5月8日木曜日

まほろ駅前番外地

三浦しをん著
文藝春秋

人気シリーズの番外編。登場人物たちの意外なエピソードが嬉しい半面、小説としては・・・



うっかりしていた!
もうすぐ図書館で予約していたまほろ駅前シリーズの第3弾「まほろ駅前狂騒曲」の順番が回ってきてしまう。
ということで読んだ第2弾「まほろ駅前番外地」

まほろ駅前で便利屋を営む多田と、そこに転がり込んできた高校時代の同級生・行天。
そのコンビと、二人を取り巻く人々を描いた大人気のシリーズで、瑛太・松田龍平で映画化、ドラマ化もされている。

本書は「番外地」というだけあって、多田と行天の過去を始め、
裏社会で暮らす星の驚きの規則正しい生活、
息子に頼まれ二人が時々お見舞いに訪れる、まだらボケしている曽根田のばあちゃんの過去のロマンス、
横中バスの間引き運転を見張る岡家の奥様のひとり言、
など7編の短編の中に、登場人物たちの意外なエピソードがギュッと詰まった、ファンにとって嬉しい一冊である。

読んでいるとなんとなく昭和っぽさを感じるのは、タバコが出てきたり、場末感があるからだろうか。
舞台の「まほろ」でも現在は路上喫煙禁止だから、多田も行天も困っているかもしれない。

ただ、私もファンの一員として裏話のようなエピソードは楽しく読んだのだが、ストーリー的にはどうなんだろう?と首を傾げてしまった。
話の起伏もあまりなく、「だからどうなんだ!」「オチがない!」と突っ込みたくなる箇所がいくつかあって・・・
いや、つまらなかったわけではない。
むしろ笑いながら読んでいたのだが。

今回はスピンオフの話でファンサービスに徹したのだ、次の「狂騒曲」でドカンといってくれるだろう・・・と期待している。

※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※
P70より抜粋

まほろ市民が、まほろ駅前に赴くことを「まほろに行く」と表現するのはなぜなんだろう。自分が住んでいるのも当然まほろ市内なのに、変じゃないか。たとえば中野区民も、中野駅前に赴くことを「中野に行く」と言うんだろうか?言わない気がするぞ。もっと具体的に、「マルイで買い物」とか「サンロードをぶらつく」とか・・・。

そうなのです。
我が心の故郷でありこの物語の舞台である町田では、駅周辺の繁華街に行くことをなぜか「町田に行く」と言うのです。
私は駅から徒歩圏内の割と近いところに住んでいたのですが、それでも「町田に行く」と言っていました。
周りの人も、駅の目の前に住んでいた友人も。
現在住んでいる場所では「〇〇(店名)に行く」「駅に行く」と言っているのに。
町田だけなのでしょうか?