2013年5月31日金曜日

銀二貫

高田郁著
幻冬舎



寒天を食べると痩せる・・・いつだったかそんな情報に踊らされて、毎食熱いお茶に粉寒天を溶かして飲んでいた。
効果がなかったので、いつの間にかやめてしまったが。
別に寒天が悪いわけではない、情報に振り回された私が悪いのだ。

本書は、大阪の寒天問屋を舞台にした時代小説である。
まもなく還暦という寒天問屋の主・和助は、ある日仇討ちの現場を目撃する。
父親と息子の前に若者が立ちはだかり、「仇討ちである」と父親を斬りつけたのだ。
和助は、残された息子・松吉をその若者から銀二貫という大金で救い、寒天問屋で丁稚として修行させることにした。
慣れない厳しい生活、火事・・・様々な困難に立ち向かいながら、松吉は大きく成長していく。

登場人物たちの前に次々と不幸な出来事が襲いかかり、これでもかと痛めつける。
「みをつくし料理帖」シリーズでもそうだが、高田郁さんはどうして彼らをこんなにも辛い目にあわせるのだろうか。
お陰で読者も読みながら、一緒に苦しむことになるというのに。

転んでは立ち上がり、潰されては息を吹き返す。
その不屈の精神と強い信念に涙し、そして己の怠惰を猛省したくなる。

この文庫本の巻末に、高田郁さんの友人である水野昌子さんの解説が載っていた。
それによると、高田郁さんは「非効率の人」であり、作品に登場する料理を全て作り、ささやかと思うようなことを丹念に調べ尽くすのだという。
そういった膨大な労力のお陰で、読者は美味しそうな料理の描写に舌なめずりし、苦しみながらも助け合う人々に感動できるのだろう。

2013年5月27日月曜日

ちょっと干すだけで驚くほどおいしくなる 干し野菜レシピ 特製干し野菜ネット付き




最近、無農薬野菜を配達してもらう契約をした。
大根1本100円、キャベツ1玉100円、サニーレタス1株100円・・・
安くて新鮮で言うことなしなのだが、我が家にとってはちょっと量が多い。
どうしようと考えていたところ、「さんまのからくりTV」の料理男子というコーナーで「干し野菜」を作っている芸人が出てきた。
これはいい!私もやろう!と思い、干し野菜用のネットを探していたところ本書を見つけた。
ネットと簡単なやり方、レシピまでついて980円だからお得だ。

干し野菜は、
野菜の青臭さ・酸味が和らぎ、甘み・旨みが凝縮されて味わいがup
大根に含まれるカルシウムなど、干すことで含有量が増す栄養素もある。
日持ちがして、調味料が少なくてすみ、短時間で調理できる・・・
なんだかいいことばかり書いてある。

さっそく大根1本を厚めに切って干してみた。
 
ベランダで干しているところ。
天気が悪い時や夜は室内干しで。
 
 
2日半干した大根。
1本がこんなに小さくなった。

 

本書に載っていた「大根と鶏挽肉の煮物」
少し水分が残った状態のセミドライで作ると書いてあったが、
完全に水分が抜けた状態で作った。
水分を含んで少し大きくなるのかなと思ったが、
あまり変わらず、シャキシャキした歯ごたえだった。
 
 
付録のネットは市販のものに比べて小さめで、紹介されている野菜の種類やレシピが少ないということもあり、干し野菜について何も知らない、続けられるか不安、だけどやってみたいという私のような初心者向けといえそうだ。
試してみて、物足りなければネットやレシピ本を買い足せばいいのではないだろうか。


2時間干しただけでも味わいがぐんとよくなり、大根だけでなく葉物野菜やフルーツまで干せるという。 
私の干し野菜生活は始まったばかり。
次は何を干そうか楽しみだ。




2013年5月25日土曜日

Number Do 太らない生活2013



 


もう騙されない。
そう思ってはいても、「これであなたもナイスバディ!」「10日で10kg痩せた!」・・・
そんな広告を食い入るように見てしまう。
いやいや、美味しいものをたらふく食べながら楽して痩せる方法なんてないんだ。
でも、もしかしたらあるかもしれない・・・
ああ、この乙女心に付け入らないで欲しいなぁ。

そんな時、本書を見つけた。
「痩せる」ではなく「太らない」。
イコール現状維持。
奥ゆかしいではないか。
思わず飛びついてしまった。

本書は、「糖質制限」「食べる順番」「時間栄養学」の徹底研究に加えて、
睡眠・入浴・姿勢・呼吸で太らないようにする方法など、
まるごと一冊「健康と軽い体を手に入れよう」をコンセプトにした雑誌だ。

目次を見ると他にも、
「運動しても痩せない謎」
「なぜみんなが成功する『計るだけダイエット』に失敗するのか?」
「挫折しないためのヒント」・・・とある。
きっと編集部の方は、私のためにこの雑誌を作ったのだ。
普段の私を見ていたに違いない。

ホリエモンのように刑務所ダイエットはできないけれど、
甘いものが大好きなので糖質制限もできないけれど、
本書からたくさんのヒントをもらった。
自分ができることを少しずつ取り入れてみよう。
言うなれば「いいとこどりダイエット」だ。
ほら、やる気がみなぎってきた。

本音は10kgやせてモデルのような体型になりたいが、そんな夢を見るには歳をとりすぎてしまった。
ならば現実的に1年間で3.5kg減らそう。
1ヶ月で約300g、1日で10g。
それならできそうではないか。

人生○度目かの固い決意をさせてくれた本書に感謝したい。
いつ痩せるの?今でしょ!

2013年5月22日水曜日

バナナが高かったころ―聞き書き 高度経済成長期の食とくらし2

バナナが高かったころ―聞き書き 高度経済成長期の食とくらし2
赤嶺淳編
新泉社



「バナナは高かった。病気の時しか食べられなかった。」とはよく聞く話だが、私自身にはそういった思い出はない。
「なぜさっちゃんはバナナが半分しか食べられないんだろう、私はちっちゃくても何本でも食べられるのになぁ。」と思っていた。

バナナ貿易が自由化されたのは、1963年。
国民一人当たりの年間バナナ消費量は、自由化前年に0.87kgだったのが、1963年には2.6kg、1972年には9.8kgと激増している。

本書は、名古屋市立大学の学生たちがバナナが高かった頃~高度経済成長期の生活について、身近な人に聞き取ったレポートを再編集したものである。

聞き手は大学生、そして話し手は大正11年生まれから昭和18年生まれの12名で、生まれた場所や育った環境はそれぞれ違う。
食糧難の時は本当に困ったという方から、農家だったため食べるものは豊富にあったという方まで様々な生き方をされてきた。

力道山のテレビを近所の人が集まって観戦する。
食料を分けあって食べる。
人と人との付き合いが密で助け合って生きていく・・・助け合わないと生きていけなかった時代。

大変な時代だった、苦労されてきたんだろうと想像していた大学生たちは
「みんながそうだったから苦労だと思ったことはない」という前向きな発言に驚く。

大きな磁石をTVにくっつけて色が真ん中に集中し、周りが白黒になってしまった。
冷蔵庫に霜がついてそれをノミで削る。
タンクに水を入れるクーラー・・・

大昔ではなくちょっと前のことだからと思っていたが、昭和生まれの私でも知らない話がたくさん出てくるのだから、平成生まれの大学生たちが驚くのも無理はない。
彼らにとって高度経済成長とは、歴史の教科書に出てくる話である。
教科書には書かれていない生きた歴史を学ぶ貴重な体験だっただろう。

身近で暮らしているごく普通の人々の過去に、価値ある貴重な話がたくさんあるのだと実感した。
私ももっと積極的に両親はじめ周りの人から話を聞いてみよう。

そしておばあちゃんになったら、若い人たちに昔の話を聞かせよう。
黒くて丸くて真ん中に穴があいてるレコードっていう物で、傷をつけないように注意しながら音楽を聴いていたんだよ。
電話は黒くてダイヤルが付いていて、ジーコジーコと回してかけたもんだ。
電車に乗るときは切符を買って、改札で駅員さんにハサミを入れてもらったんだよ・・・

2013年5月18日土曜日

美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い

美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い
サンディ・ネアン著
中山ゆかり訳
白水社

8年と145日を費やした奪還作戦の全貌。



1994年7月28日。
フランクフルトのの展覧会場から、2点の絵画が強奪された。
英国のテート・ギャラリーが貸出していた19世紀英国の偉大な画家、J.M.W.ターナーの「光と色彩」(表紙に掲載)と「影と闇」(裏表紙に掲載)、合わせて約37億円もの価値を持つ英国の宝だ。

本書は、事件当時テート・ギャラリーの企画責任者で絵を取り戻すために奮闘した著者の「体験談」(第一部)と、「美術品盗難に関する歴史と考察」(第二部)で構成されている。

カッコいい犯人がケガ人も出さずに鮮やかな腕前で品物をさらって行く、ついでに恋愛も絡んで・・・
高額な美術品泥棒というと、どうしても映画や小説のフィクションを思い起こしてしまう。
「オーシャンズ11」「エントラップメント」(マレーシアのツインタワーが舞台なのでお勧め)など、犯人側を格好良く描くストーリーも多い。

実際の事件でも、ときには犯人側よりもむしろ盗まれた側の美術館の管理部門に大衆の怒りが向けられることもあるという。
よく考えてみたら、いや考えなくてもそれはおかしなことだ。

確かに、テロ事件や誘拐・殺人事件などに比べたら、恐怖は感じづらいかもしれない。
しかし、もう二度と手に入れることができない人類の偉大な宝を失う損失は大きい。

1年間に盗まれる美術品や古代遺物の国際市場は年間約4500億円相当の規模にのぼり、その大半は違法な麻薬取引のネットワークと関係があるという。

本書では、8年と145日かけて取り戻した過程が詳細に記されているが、フィクションと大きく違うところは、許認可や契約の複雑な問題だ。
美術館関係者、情報提供者、保険会社、政府関係者、警察など、様々な人物が国境を越えて関係してくるので、そのために連絡を取り合い、認可を取り契約を交わす煩雑さが、生々しく真に迫っていてスリリングだ。

日本でも海外名画を招聘した美術展がたくさん開催されている。
セキュリティ面は大丈夫なのだろうか。
こういった盗難事件に巻き込まれないことを願う。

2013年5月14日火曜日

健康男 ~ 体にいいこと、全部試しました!

健康男 ~ 体にいいこと、全部試しました!
A.J.ジェイコブズ著
本間徳子訳
日経BP社

死ぬほど健康に---完全な体を追い求めた男の挑戦




「驚異の百科事典男」で「ブリタニカ百科事典」の丸ごと暗記に挑戦し、
「聖書男」で旧約聖書に書かれたことを忠実に守った著者が、
今度は自身を世界一健康にしようと挑戦したのが、この「健康男」プロジェクトだ。

運動が苦手でポッコリお腹の中年男性である著者が、もっと健康になるために「やることリスト」を作成したら53ページにもなってしまった!

何十もの検査を受け、睡眠時無呼吸症候群・鉄分不足・鼻中隔湾曲症・鼻孔閉塞などなど、次々と悪い部分が見つかった著者は、起きている時のみならず睡眠中も無駄にせず取り組もうと決意する。

まずはダイエットだと食事改革に取り組み、選んだ方法が「チョコと酒とコーヒーをたくさん摂る」という食事法。
おいおい、大丈夫かっ!と思わず言いたくなるが、こうして彼の挑戦は始まった。

ジムのトレーナーに指導を受け、ばい菌博士の教えを乞い、心理学の教授の著作を読みと貪欲に知識を得ていく。
そして食や運動の改善のみならず、視力の向上、歯のホワイトニング、呼吸法・・・と様々な健康法に挑戦する。

長時間デスクに座りっぱなしを改善しようと考案したのが、トレッドミルで歩きながらパソコンのキーボードを打つ方法。
すっかり気に入った著者は、その後歯を磨くのもトレッドミル上ですることにする。
これはいい!
私も何とか真似できないだろうか。

著者の日課
・犬を撫でる
・鼻歌を歌う
・瞑想
・食事日記をつける
・昼寝
・クロスワードパズルなどでの脳のトレーニング etc.
(何のためにかはどうぞ本書で確かめてください)

健康になろうとすればするほど、やるべきことがどんどん増えて子供と遊ぶ時間も少なくなり、時間が足りないとストレスを感じ始めた著者。
果たして著者は「世界一の健康男」になれるのだろうか?

バカバカしい挑戦だと当初は思っていたが、著者はやみくもに何でも試すわけではない。
科学的に裏付けされているか、何が正しいのか見極め、実践してみて自分にあった方法を探っていくのだ。

私もいつかはPPK(参考:Wikipedia)と逝きたいので健康には気をつけているつもりだが、健康情報には悩まされる。
「酵素を摂るために生野菜を食べよう」というのもあれば、「生野菜は体を冷やすので食べないほうがいい」という反対の意見もある。
著者も複数の専門家に話を聞き、資料を読んでもたいていは「結論はまだ出ていない」という結論に落ち着く。

どれだけ健康に気をつけていても、明日事故に巻き込まれるかもしれない。
結局は情報に振り回されることなく、色々な種類の食品を食べ、普段の生活で無理なく体を動かすという「ほどほど」が一番なんだろう。

※オナラの音色を変えたくて、括約筋をチューニングする手術もあるという。
高い音より低い音の方が好ましいらしい。

※本書を読んで自分なりに取り入れたこと
・歌を歌いながら掃除をする。
(今のところ「静かな湖畔の森の影から♪」をエンドレスで歌っている。)
・洗面所に椅子があるため座ってしていた歯磨き・化粧を立ってする。
(できればスクワットしながら。)

2013年5月12日日曜日

江戸な日用品

江戸な日用品
森有貴子著
平凡社

目で楽しむ江戸の日用品。いつかは手にとってみたい。


先日、京都の方からお菓子を頂いた。
その中の「和三盆焼きメレンゲ」が、あまりに美味しくて感動した。
調べてみると、1803年創業の老舗京菓子店が手がけた「和洋の枠に囚われない自由な発想のお菓子」シリーズの一つだった。
老舗も「昔から変わらぬ味」の継承に努力するだけではなく、時代に合わせて新たな挑戦も試みているようだ。

京都に限らず、江戸にも連綿と続く老舗がたくさんある。
その中でも、暮らしに身近なものを扱っている老舗を取り上げているのが、この「江戸な日用品」だ。
京や大坂で生まれた道具を、シンプルで実用的にそして江戸好みに作り替えた日用品。
そんな日用品を写真とともに解説し、手がけているお店や工房を紹介している。

浴衣・手ぬぐい・風鈴・和紙といった聞いただけで「粋」を感じるようなものだけでなく、箸、たわし、ハンコ、楊枝など、ありふれたものも掲載されている。

ただし、どれもただの日用品ではなく普段使いにはもったいないような高級品だ。

箸は縞黒壇を用いたもの6400円。
高いが手が出ない値段ではない。
使いやすそうな7角形箸は8400円。
一度手にとって握り心地を試してみたい。

楊枝は日本唯一の楊枝専門店が手がける細工楊枝。
中でも「結び熨斗」という楊枝は2本で630円!
とても気軽に使い捨てできる値段ではないが、美しい曲線が魅力的だ。

眺めるだけでも癒されそうな江戸な日用品の数々。
お世話になったお礼や手土産として、また外国の方への贈り物としても良さそうだ。

2013年5月7日火曜日

生きるぼくら

生きるぼくら
原田マハ著
徳間書店

「青年が田舎暮らしを通して成長していく」そんなよくある話をここまで感動的な物語にできるとは。 原田マハさんはすごいなぁ。



「引きこもりの青年が田舎暮らしを通して変わっていく」
こう書くと、なんだかとてもありきたりの展開、お涙頂戴のよくある物語のように思えてくる。

本書は、そんなあらすじながら感動的に味付けされた、原田マハさんの小説である。

主人公は過去の辛い出来事から引きこもりになり、昼夜逆転でネットの世界に入り浸る生活を送っている24歳の青年だ。
母子家庭で苦しい生活の中、母は身を粉にして働いている。
そんな母が突然家を出た。
現金5万円と今年届いた年賀状を置いて。

その後主人公は、田舎でおばあちゃん、対人恐怖症で引きこもっていた女の子と3人で暮らすことになる。
それぞれ心に問題を抱えながら「自然の田んぼ」に癒されていく・・・

あぁ。
こうして私があらすじを書くともっと陳腐な話のようになってしまうので、ここまでにしておこう。

好きで引きこもっているわけではない主人公の苦しみ、対人恐怖症の少女のトラウマ、優しかったおばあちゃんの認知症。
現実社会でも起きているそれらの問題が絡み、思わず涙してしまった。
この物語は、決して明るい話ではない。
簡単に解決できるような問題でもない。
しかし、登場人物たちを応援していた私が逆に「前向きに生きていこう、きっと未来は明るいよ」とエールを送られているような気持ちになった。

代表作「楽園のカンヴァス」とは、同じ方が書いたとは思えないくらい題材も雰囲気も全く異なる。
違うトーンの小説をそれぞれ高水準で世に送り出す原田マハさんはすごいなぁと、より一層ファンになった。

心が疲れたら、この本を再読しよう。
きっと、前向な気持ちになれるから。

※キーワードとしておにぎりが頻繁に出てくる。
コンビニのおにぎりも十分美味しいと思うが、やっぱり母が握ってくれたシンプルなおにぎりが私にとっては一番だ。

2013年5月5日日曜日

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)
元村有希子著
毎日新聞社

科学記者となった著者の楽しいエッセイ集。



小説を読むのも好きだが、気軽にへぇ〜と思えるような本を読むのも好きだ。
生き物や宇宙などの科学にも興味はあるのだが、専門的な本はもう単語からして理解できないので敬遠しがちになる。
わかりやすく面白い本なら大歓迎なのだが。

本書は、教育学部で国語教師の資格をとり、その後毎日新聞の科学記者となった著者のエッセイ集である。

有名な種牛の精液は、ストローくらいの細い筒に入って何万円もするそうだ。
焦らして焦らして焦らしたあと、メス牛の皮をかけたあん馬のようなものに乗らせて採取する。
そんな話を聞いて、肉好きだという著者はドナドナを感じながらも「牛さんありがとう」と感謝する。

宇宙の「130億年前の赤ちゃん星」や「40億年後に衝突」という文字通り天文学的な数に「はぁ。誰か助けて」と嘆く様子は、親近感がわく。
また、「天文学者はロマンチスト」というのは誤解だそうで、実際は生き馬の目を抜く世界で天体望遠鏡など何年も触っていないとか、夜空を眺めるのではなく電磁波で観測したデータを眺める世界なのだという。
う〜ん。やっぱり天文学者は子供の頃から星が好きで、星空を眺めながら熱く語るロマンチスト…というイメージのままでいて欲しい。

・激しい損傷を受けた細胞やフリーズドライの細胞からもクローン胚を作ることに成功していて、理論的には「はく製からのクローン」も可能
・スパムメールの削除・フィルタリング時の検証作業など、迷惑メールの送受信や対策に費やす電力が2008年には330億kwにのぼった。(日本の一般家庭の年間消費電力に換算すると約920万世帯分)
という話には驚いた。

その他科学の話に限らず、菊池直子の枯れ具合、死語となった男女交際の「ABC」などなど、興味深い話や、原発事故取材日記が掲載されている。

題名に「科学」とついてはいるが、少し絡んでいるかな?という程度の雑学風エッセイで、気軽に楽しく読めた。

2013年5月1日水曜日

孤高の名家 朝吹家を生きる 仏文学者・朝吹三吉の肖像

孤高の名家 朝吹家を生きる 仏文学者・朝吹三吉の肖像
石村博子著
角川書店

文学を仕事にすることは、不幸なことなのだろうか。



2011年、朝吹真理子さんが「きことわ」で芥川賞を受賞した。
そのお嬢様っぷりは、同時受賞した西村賢太氏との対比もあって話題になった。

その朝吹真理子さんの祖父・朝吹三吉は、家具調度品・服・・・何から何まで英国様式一辺倒で埋め尽くされた家で育ち、幼い頃からイギリス人の家庭教師があてがわれ、言葉もマナーも英国式でしつけられたという。
昭和初期に兄弟5人のうち4人がヨーロッパに留学する・・・
そんな華やかな生活をしていた一族・朝吹家。
それなのになぜ「孤高の」というタイトルが付けられたのだろうか。

本書は、フランス文学者・朝吹三吉を中心に、朝吹家の歴史を辿ったノンフィクションである。

朝吹三吉は、1914年朝吹家の三男として東京に生まれた。
三吉の祖父・英二は三井財閥の重鎮、父・常吉は三越や朝日生命始め様々な会社の社長を務めた人物である。
子供の頃から弱い者に心を動かされ、「貧民の苦しさ」を思っていた三吉は、上流階級であることの懐疑が充満し、これでいいのかと苦悩する。
そんな中フランス文学と出会い、18歳でパリに渡り、帰国後はフランス語とフランス文学を日本に伝え続けていく。

読みながら、あまりに庶民とかけ離れた華麗な生活ぶりに、とにかく圧倒された。

家系はもちろんのこと交際範囲も広く、福澤諭吉始め、サガン・サルトル・ボーヴォワール、
フランソワーズ・モレシャン(真理子さんの父・亮二の家庭教師)まで様々な有名人が入れ代わり立ち代わり登場する。

各部屋にはイタリアから取り寄せた大理石のマントルピースのついた暖炉、白大理石の噴水のあるテラス・・・(この洋館は現在東芝山口記念館となっている)
毎水曜日は英語のみのホームパーティ、日曜日のお昼は帝国ホテルで正式の食事会・・・
昭和恐慌の時代にそんな優雅な生活をしていたとは、こちらとしては目を白黒させるばかりである。

1946年から慶応大学でフランス語を教え始めた三吉は、学生たちに衝撃を与えたという。
それはそうだろう。
くたびれた軍服や国民服、栄養不足の人々で溢れる中、英国生地のスーツで決め、柔らかな物腰・完璧なフランス語で、掃き溜めに鶴のように颯爽と現れたのだから。

朝吹真理子さんは現在、祖父・三吉が住んでいた部屋で、執筆しているという。
三吉は、学生たちに「文学は趣味でやるには幸福だけど、仕事にするには不幸なことだよ」と言っていた。
それでも今は、文学を仕事にしている孫娘・真理子さんを天国から温かく見守っているのではないだろうか。