2011年12月13日火曜日

三十光年の星たち 上

三十光年の星たち 上
宮本輝著
毎日新聞社

 
宮本輝氏の長編大作の上巻。



俺は二流大学を出て就職したが、上司とけんかして2年で辞めた。
その後、派遣とか契約社員とかであちこちの会社を転々としてから、
女と皮革製品の商売を始めたが、立ちいかなくなってしまった。
女は去り、親には勘当され、借金だけが残った。
とうとう30歳になってしまった。
俺に金を貸した金貸しの佐伯が、借金返済の代わりに車の運転手として雇ってやると言う。
選択の余地がなかった俺は佐伯と共に、彼が金を貸した人々に会いに行く旅に出た。

少しずつ佐伯のことがわかってくると共に、主人公も成長していく長編大作の上巻。

重鎮・宮本輝氏の本を読んで、その説教臭さと女性への偏見口調に閉口したことがあった。
私自身が若くとんがっていた頃だからそう感じたのだろう。
久しぶりに著者の本を読むにあたって、姿勢を正して拝読しなければと思っていたが、
30歳の男性が主人公だからか読みやすく、すいすい進む。
だが、あちこちに光り輝く表現がちりばめられていて、うっかり読み飛ばしてしまいそうになる。
ゆっくり読み進めると、今なら著者の言葉がすぅーっと心に入ってくる。

「現代人には二つのタイプがある。見えるものしか見ないタイプと、見えない物を見ようと努力するタイプだ。」
「我々ひとりひとりの身の廻りで起こることに、偶然てものはないってことだよ。」


ポトフはじっくり丁寧に煮込んだ方がおいしくなる。
志ん生が花開いたのは60歳になる頃から。
苗木を植えてから長い年月をかけて森となる。

何事も長い時間耐えた後に実になる--そんなの誰でもわかっていること。
そういうところが昔は説教臭く感じてしまったのだろう。
何も成し遂げてもいない、ただのわがまま娘だったくせに。
でも、今もたいして成長はしていないが、素直に聞ける。
それは私が歳を重ねたからか、著者のストーリー運びがうまいからか。

何より主人公が好感が持てる。
父親との確執、反抗、飽きっぽさ・・・どこにでもいそうな等身大の男性が戸惑いながらも
成長していく過程を、いつの間にか微笑ましく見守っている自分がいた。

そして、主人公が丁寧に作るポトフがとにかく美味しそうで、作ってほしいと切に願ってしまう。
借金取りの旅で終わるのかと思ったら、そうではないらしい予感が・・・
下巻も期待したい。

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