佐野 眞一著
文春文庫
正力松太郎(1885-1969)とその「影武者たち」の壮大なお話。横暴・暴君・傍若無人・・・そんな正力を緻密な取材で丁寧に描いた著者の大作。
正直、正力松太郎なんて知らなかった。
「巨人の正力オーナー」は聞いたことあったけど、それは息子だった。
自分の手柄は誇張して言いふらす。
人の手柄は、横取りして、自分の手柄とする男・正力松太郎。
猜疑心と嫉妬心の塊の正力。
でも、飛行機が怖く、生涯外国へ出かけなかった。
朝晩、両親のために、経を読み、月命日には肉断ちをしたそれもまた、正力。
「プロ野球の父」と言われた正力。
野球のルールすら死ぬまで理解しなかったのに。
でも、自分以外の者が始めたそれ以前の職業野球は歴史から消した。
「テレビの父」と言われた正力。
アメリカ通の柴田の奔走のお陰で実現したテレビ放送だが、すべて自分の功績。
「原子力の父」と言われた正力。
原子力のげの字も知らないけれど、総理大臣になるための切り札として、
急いで導入した。
晩年は、狂気の暴君と化し、誰もを困らせた哀しき正力。
この分厚い本を上巻から読み始めて、私は、正力で頭がいっぱいになってしまった。
こんな嫌なオヤジ、そばにいたら許せない。上司だったら、すぐ会社辞める。
政治家としてテレビに出てたら茶の間で文句言う。
だけど、読み終わった今でも、なぜか魅かれてしまう。
近くにいない、歴史に埋もれた過去の人だから。
自分とは接点もなにもない赤の他人だから。
正力の影で泣いた「影武者たち」の苦労と悔しさに、一緒になって悔しんだ。
「家族の面倒も後々までみるから」と、大学進学をあきらめさせて、巨人に入団させた沢村栄治。その後の辛苦を思うと私まで哀しくなる。
そのほか、怒鳴り散らされた部下たち。その家族たち。
インタビューに応じた人たちは、一様に、悪口を言いまくり、最後には、「正力と一緒に仕事をやり遂げることができたことに今は誇りを感じる」という。
膨大な量の資料にあたり、たくさんの人々にインタビューをし、
長い年月をかけて、鬼気迫るこの本を書いた著者。
著者に送る称賛の言葉を私の語彙の中からは見つけられない。
福島の原発問題を今、正力は天国でどう思っているのだろうか。
孫娘のことは、かわいがっていたのだろうか。
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