2017年4月20日木曜日

鳥肌が

「この文章ってどこまで本当なんですか」という質問が穂村さんの「怒りのツボ」だった⁉歌人・穂村弘さんのエッセイ集。

穂村弘著
PHP研究所



何気ない日常の中にある違和感、それに伴う怖さ、題名でもある「鳥肌が」立つような事柄について綴っている、歌人・穂村弘さんのエッセイ集である。

駅のホームで先頭に並ぶ際、後ろから突き飛ばされた時のために腰の重心を落とすという、用心深い穂村さん。

体重を計る時、必ず服を着て計るという穂村さん。
服の分重いんだと言い訳できるからだそう。

こんなに心配性だと、疲れてしまうのでは?と思うことや、クスクス笑ってしまうネタ、あるある!と共感する話が満載だった。

前にエッセイ集「蚊がいる」を読んだ時には、「穂村さんて妄想上手で気弱ないい人なんだな」なんて思っていたが、本書を読んだら穂村さんの印象がだいぶ変わってきた。

誰でも目にするけれど素通りしているようなことを掘り下げたり、気づいてはいるが、言葉にできないモヤモヤとした違和感をはっきりさせてくれたりと、独特の鋭さは変わらずすごいなと思う。

でも、「気弱な」というのは違うのではと感じ始めてきたのだ。
だって、この本だけでも「当時つきあっていた彼女」の話が何ヵ所も出てきて、肉食系な部分もチラチラ見え隠れしているのだから。

私の中で穂村さんは、「妄想上手で気弱ないい人」から「鋭い感性をお持ちのやる時はやる、妄想上手ないい人」に変化してきているのである。

装丁が特徴的な本でもある。
表紙のウサギを抱いた女性にはエンボス加工が施されていて、凸凹している。
題名通り「鳥肌」を表現しているのだろう。
また、スピン(栞紐)が、派手なピンクの細い紐3本となっていて、全体的に攻めている印象の装丁である。
(装丁は「伝染るんです」を手がけた祖父江慎さん。)
ただ、ピンクのスピンはツルツルしていて掴みにくく滑りやすかったのだが。

「本をつくる」という仕事

「本」はどのようにして作られるのだろうか?本にかける情熱を知り、本のありがたみ、読める幸せを噛みしめる。

稲泉連著
筑摩書房



誰かが、文章を書き、印刷し、製本する。
それが書店に並び、手に取り、読むことによって、私たちは読書を楽しむことができる。
当たり前のように毎日手にしている本だけれど、本をつくっている方々の仕事ぶり、彼らの熱い思いにどれだけ気づいていただろうか?

本書は、本づくりに携わる方々の仕事ぶりを追ったノンフィクションである。

大日本印刷のオリジナル書体で、明治時代に作られた活字「秀英体」。
職人たちが作り上げた滑らかで抑揚があり、力強い活字。
その温かみを現代に取り戻そうというプロジェクトに携わった伊藤さんは言う。
「こんなに幸せなことはない、という思いで働いていた。」

製本所の4代目である青木さんは、ドイツで製本技術を学んでいた頃を思い出して、言う。
「一つひとつの技術を身に付けていくことが本当に楽しかった。」

活版印刷の持つ歴史や世界そのものに魅了された活版印刷工房の方は、「とにかく活版で本をつくれる環境を残して、次の世代に渡したかったんです。」という。

他にも、校閲者、製紙会社、装幀家、翻訳書の版権仲介者、児童文学作家が登場し、仕事について熱く語っている。

本をつくるには、ここまで多くの人が関わっているのかと驚き、感動する。
1冊の本の背後には、プロフェッショナルなたくさんの人たちの工夫と熱意があるのだ。
読んでいる私は、彼らの思いを少しでも受け止めているだろうか?

もっと装丁や紙の質感、フォントを味わおう。
読みたいと思い買ったものの、後回しにして積んでいる本だって、多くの情熱が注がれているはずだ。
積んでばかりいないで、手に取ろう。
本好きたちが多くの本を購入し、読んで楽しむことが、「本」にとって一番幸せなことなのだと思う。

※本書を読んで、新潮社の創設者・佐藤義亮氏に興味をもった。
「佐藤義亮伝」は1953年出版で手に入らないが、「出版の魂:新潮社をつくった男・佐藤義亮」「出版巨人創業物語」を読もうと思う。積まずに。

※製紙会社の章で興味深い話をみつけた。
1900年前後に製本された作品は、硫酸バンドという使い勝手の良い素材が使用され、紙が酸性だった。
そのため、酸化により紙の繊維が切れやすかった。
20世紀半ばに、世界中の図書館に収められたその時期の本が一斉に劣化し、ボロボロと崩れていくことが社会問題化されていた。
酸性紙以前の本は無事だったのに。
その後、中性紙が開発され、解決されたのだという。

2017年4月15日土曜日

世界の国で美しくなる!

♪苦しくったって~ ♪ しんどくったって~ ♪美人になるなら平気なのっ♪

とまこ 著
幻冬舎




本書は、美しくなるために世界各国を巡り、美容エステやマッサージなどを受けまくった体験記です。

タイで、M字開脚をしながら25リットルもの塩水を入れる腸内洗浄を体験し、天国と地獄を同時に味わったり、
ラオスでヨーグルトやら何やら塗りたくって薬草サウナに入ったり、
ドイツでまさかの混浴サウナに入ってしまい、裸天国を経験したりと、
著者のとまこさんは、次から次へと果敢にチャレンジしていきます。
ベトナムで、韓国で、トルコで、フィンランドで・・・
ホントに効くの?という怪しげな眉唾物から、極上の癒し系まで!

気持ちがいいものばかりではありません。
悶絶するほど痛いマッサージや、我慢大会か!というような熱さなど、美とは修行であることがよくわかります。

とまこさんは、何でもやってみよう!、楽しもう!、仲良くなろう!というスタンスで、不快なことも笑い飛ばしていきます。
その勇気とプラス思考、羨ましいなぁ。

へぇ、糸で産毛を抜く挽面(ワンミエン)ってそんなに痛いんだ。
インドの、眉間にゴマ油垂らすやつは「脳のマッサージ」と呼ばれて昇天するほど気持ちいいの?
それならやってみた~い。
耳掻き屋さんも痛くなくて気持ちいいんだ、なるほど。

小心者の私ができないことを、代わりに体を張って実験し教えてくれるように思えてきます。
ありがたいではないですか。

吐き出すほどまずいクロワッサンや、うっとりする参鶏湯を味わったり、怪しげな人物や面白い人に遭遇したりと楽しい旅行記でもあります。

やはり「美は1日にしてならず」、努力の積み重ねとお金が必要なんですね。
面倒くさがり屋の私も、少しはとまこさんを見習って努力しなくちゃと反省しています。

えっ、いくら努力しても土台が違うから無理だって?
あがくだけ無駄?
そんな事言うあなたは、女心がわかっていませんねぇ。
女は1グラムでも痩せたい、1ミリでも美しくなりたい ~例え誰にも気づかれないような些細な変化でも~ と願っている生き物なのですよ!

※ちなみに、写真に写る著者のとまこさんは、「えっ!もっと美しくなりたいだと!チッ!」と、舌打ちしたくなるような若くて美しい方でした。

※ドイツで受けたアロマオイルマッサージのセラピストが男性だったというのを読んで、友人の同じような体験を思い出しました。
バリ島のエステで受けた同じくアロマオイルマッサージでのこと。
パンイチで待っていると、現れたのは若い男性だったそうです。
驚き固まった状態で、うつ伏せ・仰向けのマッサージを受けたので(乳房まで!)、リラックスするどころか凝り固まり疲れたと言ってました。
とまこさんは、リラックスして受けられたようですが。

紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男

抱いた女は4000人⁉貢いだお金は30億円⁉ 75歳、男の一代記。

野崎幸助著
講談社



「74歳の男性宅から、現金600万円と貴金属5400万円相当を盗んだ疑いで、27歳自称モデルを逮捕した。」(2016/2/22)
本書は、そんな事件で一躍有名になった男性の自叙伝である。

昭和16年に和歌山で生まれた著者は、苦労しながら貸金業や酒類販売業などで財を成した。
金持ちになって好みの女性と遊ぶことを目標に頑張ってきたのだ。
本人曰く、家も食事もいたって質素で、お金は女の子のために率先して使うと決めているんだそう。
今でも午前3時頃から昼頃まで仕事をして、昼寝のあとお姉ちゃんたちと楽しむ毎日を過ごしているらしい。

コンドームの訪問販売で、農家の奥様方から実演販売をよくせがまれたとか、
貸金業のお得意様は賭博好きの宮内庁職員などエリートたちだった、
といった仕事の話もとても興味深いのだが、個人的には女性関係が気になって仕方がない。

どうして75歳のおじいちゃんが若い女の子をとっかえひっかえできるのか?
なぜそこまで元気なのだろうか?

70代と言えば、夜トイレに何回起きるかとか、コンドロイチン・グルコサミンなどの話題で盛り上がるお年頃だというイメージを持っていた。
でもこの御仁はちょっと、いや、かなり違う。
今でも1日2回3回は当たり前なんだそう。
脳梗塞を経験されている過去があるのに!

仕事で成功、女の子とも性交、というと脂ぎった押しが強いタイプを想像するのではないだろうか?
しかし著者は、160㎝と背が低く、ひ弱な小心者で腰が低いタイプと自称している。
(動かすのはお好きなタイプだろうが。)
そして好みの女の子は、若くてグラマラスな美人。
ソープやデリヘルなどの玄人は好きじゃないとおっしゃる。
じゃあ、どうやって若い女の子と遊べるんだ、やっぱり金か、オレにも教えてくれ!と思った方は、どうぞ本書を読んでくださいね!

あまりの女好きに、当初は驚き呆れていたが、ここまで突き抜けていると可愛らしく感じてくるから不思議だ。
どれほど誇張しているのかわからないが、読み物として大変面白かった。

あきない世傳 金と銀〈3〉奔流篇

商い中心の話になり、俄然面白くなってきた!大坂の呉服商に嫁いだ幸の成長物語。

髙田郁著
角川春樹事務所



学者の家に生まれた主人公の幸(さち)は、子どもの頃から知識欲が旺盛だった。
父の死後、大坂の呉服商「五鈴屋」に女衆として奉公することになる。

ときは「商い戦国時代」。
知恵を武器に商いの戦国武将となるべく奮闘する幸の成長物語である。

第1巻源流篇では、兄と父を立て続けに亡くし、大坂の呉服商「五鈴屋」に奉公することになる。

第2巻早瀬篇では、その聡明さを買われ、ろくでなし店主・4代目徳兵衛の後添いとなるが、夫を不慮の事故で失う。

そしてこの第3巻奔流篇では、4代目の弟である5代目徳兵衛の妻となり、知恵と工夫で夫を支えながら奮闘していく。

「商いの戦国武将になる」と言っても、幸は「お主も悪よのう」でお馴染みの悪代官とセットである悪徳商人や、守銭奴・銭ゲバのような人物ではもちろんない。
聡明で商才はあるが、商いに情けは無用と考える夫と周りとの潤滑油のような存在だ。
そこに髙田郁さんならではの優しいエッセンスが振りかけられ、思わず応援したくなる芯の強い女性として描かれている。

第3巻に入り、店の名前を広める工夫をしたりと商い中心の話になって、俄然面白味が増してきた。
波乱含みのラストだったが、幸ならきっと乗り越えていくだろう。
期待しながら、次巻を待ちたい。

2017年4月5日水曜日

ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~

ついに完結‼ビブリア古書堂シリーズの最終巻。色々楽しませてもらいました!ありがとう、栞子さん。

「ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~」
三上延著
KADOKAWA




北鎌倉の駅前ににひっそり佇む古本屋「ビブリア古書堂」。
店主の栞子さんは、美人で巨乳。
そして極度の人見知りだが、古書に関しては膨大な知識を持ち、次々と本に関する謎を解いていく。

そんな人気シリーズも、これで最後かと思うと寂しくて、読み始めるのがもったいない・・・
なんて、思わんがな!
だって、前作から2年以上経つんだもん。
待ちくたびて、細かいストーリーを忘れちゃったじゃないの!
復習してから読まなきゃならなかったんだから!


最終巻ということもあり、色々な思いを巡らせながら読み始めると、いつも通りすぐに夢中になった。

今回の題材は、17世紀に刊行されたシェイクスピアのファーストフォリオ、戯曲を集めた最初の作品集である。(フォリオとは2つ折り本の意味。)
過去には6億円で取引されたこともあるという、今までとは規模が違う高額なものだった。

祖父が仕込んだ悪質な仕掛けに翻弄される栞子さんの様子が、恋人である大輔くんの視点から描かれている。

そこに、人物相関図を見なければ理解できない複雑な家族関係や、対立している母親との関係、そして栞子さんと大輔くんの恋愛が絡む。
祖父の弟子だったという怪しげな人物も登場し、伏線を回収しながら最終巻にふさわしい壮大なストーリーとなっている。

ああ、面白かった!
このシリーズ、堪能させてもらいました!
思えば、せどり屋などの専門用語や、本や古書の知らなかった世界を教えてくれたのもこのビブリアだったなぁ。

栞子さんは必然性もないのになんで巨乳なんだ!
大輔くんだっていつまでもアルバイトしてないで就職活動したらいいのに!
二人はいい大人の恋人同士なのに、なんでいつまでもモジモジしてるの?
などと、外野からヤジを飛ばすのも、このシリーズの楽しみの一つだったなぁ。

こうなってくると、母親との対立が消化不良とか細かいことなんか気にならない。
巨乳だっていいじゃないか、にんげんだもの。
恋愛だって人それぞれ。みんなちがってみんないい。
「みつをとみすゞと私」のような気になってくるのだ。

あとがきによると、シリーズ本編は完結したけれど、番外編やスピンオフという形で続くのだそう。
栞子さんたちは結婚して、いつまでたってもモジモジしたラブラブ夫婦で、二人の子どもはどうせ可愛くて本好きなんでしょ!
などと妄想を楽しみながら待ちたいと思う。


※ラノベということで偏見があるかもしれませんが、本に絡んだ謎解きや古書の世界が本当に面白いおススメのシリーズです。
確かに入り口は軽いですが、奥が深いのです。
実在の書籍を題材とした謎解きは、知識欲を刺激し、また読書欲をかきたてることでしょう。
突っ込みを入れながら読むのもまた一つです。
読み始めたら、2巻3巻と進むにつれ、ズブズブとはまっていく物語です。
最終巻が出版されたこの機会に、どうぞ一気読みしちゃってください。
(㊟個人の感想です。)

この音とまれ! コミック 1-13巻セット

筝にかける青春!全国1位を目指す箏曲部の物語。

「この音とまれ!」
アミュー著
集英社



「この漫画、面白いから読んでみて」
娘のそんな甘い言葉にのせられて手に取りました。
娘の思惑通り、1、2巻を読み終わると「13巻まで出てるの?じゃあ、お金渡すから大人買いしてきて。」と口走っていたのです。
だって、キラキラした青春と感動が詰まっている素敵な物語なんですもの‼

「この音とまれ!」は、「ジャンプスクエア」に連載中の、高校の箏曲部を舞台とした物語です。
先輩の卒業によって部員がたった一人となった時瀬高校箏曲部は、廃部の危機に直面していました。
そこへ、警察沙汰を起こした不良やその仲間、家元のお嬢様などが入部し、全国大会1位を目標に頑張るという青春コミックです。

主な登場人物を紹介しますね。

倉田武蔵・・・箏曲部の部長。同級生の男子からバカにされ、自信をもてないでいた。しかし、一筋縄ではいかない新入生たちを束ねていくうちに、だんだん頼もしく成長していく。

久遠愛(くどうちか)・・・親に見捨てられ自暴自棄になっていた。ナイフみたいに尖っては触るものみな傷つけていたが、箏の職人である祖父が創設した箏曲部に入部し、真剣に筝と向き合うようになる。イケメン。(※個人の感想です。)

鳳月さとわ・・・箏の家元である鳳月家のお嬢様だが、今は破門されている。口も性格も悪い美少女。巨乳。(→少年漫画ということから、必要な要素なのだろうか?)

滝浪凉香・・・数学教師、箏曲部の顧問。音楽一家のサラブレッドだが、嫌気がさし音楽から遠ざかる。やる気がなく投げやりだったが、部員たちの努力する姿を見て、だんだんと変化していく。イケメン。(※あくまでも個人の感想です。)

その他、久遠愛についてきただけで筝には何の興味もなかった仲間たち、部を引っ掻き回すためだけに入部した女子など、寄せ集めのまとまりない部員たちが、全国1位を目指していくのです。

それぞれがそれぞれの事情を抱えながら、筝に情熱を注ぎ懸命に頑張る姿は、眩いばかりです。
そのキラキラした青春がとても羨ましいのです。

肝である演奏シーンの描写ですが、当初はイマイチ感動が伝わってきませんでした。
重要な場面だからもう少し丁寧に描いて欲しいなと思っていましたが、ストーリーが進むにつれてそれも解消され、圧巻の演奏シーンが続き、引き込まれていきます。
初めてみんなの音が1つになったとき。
音1つで会場の雰囲気が一変するとき。
思いをのせた演奏が届いたとき。
ああ、筝の音色っていいなぁと感じるのです。実際には聞こえてないのだけれど(^_^;)

著者のエミューさんは、3歳から筝を始め、筝奏者に囲まれて育ったそうです。
高校箏曲部で指導しているというお母さま、お姉さまにこの連載について相談もされているといいます。
だからこそ、厚みがある読み応え十分な筝描写ができるのですね。
作中に出てくるオリジナル曲は、お母さまとお姉さまが作曲されていて、実際に聞くことができます。
・初めてみんなで弾いた「龍星群」
・全国予選のために練習している「久遠」

予選で出会ったライバルたちとその背景も描かれており、だんだん壮大なストーリーになってきました。
これから彼らがどうなっていくのか楽しみです。

※筝と琴が違う楽器だと初めて知りました。
筝(こと/そう)は、柱(じ)という可動式の支柱を動かして音の高さを変える、
琴は柱がなく、弦を抑える指のポジションで音の高さが変わる、
という違いがあるそうです。

※3/3に14巻が発売されました。

※無料試し読みやヴォイスコミックもあります。

〆切本

大先生方、笑っちゃってごめんなさい。皆さんも〆切に苦しんでいたのですね。なんだか安心しました。



本書は、夏目漱石、谷崎潤一郎、泉麻人、西加奈子…大作家から現代作家、漫画家まで、〆切にまつわるエッセイ、手紙、漫画等を集めたアンソロジーです。

編集者にカンヅメにされる作家。
憧れませんか?
いえいえ、売れっ子作家になりたいわけではなく、高級ホテルで「お願い、待って。もうちょっとだから‼」などと呟いてみたいなぁと思っただけです。
でも、本書を読んだらそんなお気楽発言なんかしちゃいけないのが、よぉくわかりました。
だって、皆さん本当に笑っちゃうほど、必死に困っているんですもの。(笑)

「風邪気味なもんで、今日中になんとか」
「風邪は治ったんですが、ワイフが風邪ひいちゃって、家事をしなくちゃいけないもんで、今日中になんとか」
「ワイフの風邪は治ったんだが、ワイフの祖母が風邪ひいたんで、実家に看病に行ったら、その間に猫が風邪ひいちゃって…」
というミエミエの言い訳をするのは、高橋源一郎氏。
それを聞いた編集者はどう思ったんでしょうか。

遅筆で有名だった井上ひさし氏は、編集者に「殺してください」と申し出たそうな。
そんなこと言われても困りますよね。

そんな言い訳や、苦労話が90本も収められています。
人が苦しんでいるのを、笑いながら読んでしまってごめんなさい。

「原稿が遅れているいいわけをどうしようかずっと考えているので原稿を書く暇がない」とお嘆きの作家の皆さん、そんな暇があったらとっとと書いてくださいな‼
そう思ってしまうのは、編集者と素人だけなのかもしれません。

編集者とはこんなにも大変な仕事なのかと、同情の念を抱きます。
(吉村昭氏曰く、「締め切り過ぎてやっと小説をとった時の醍醐味は、なににも換えられないな」という編集者もいるらしいですが)
どうぞその苦しみを吐き出して、苦労話をお書きください。
編集者からみた「〆切本」も笑える…、いやいや、売れると思うのですが。

「締め切りが迫らなければ考える気がしない」とおっしゃる山田風太郎氏。
モチベーションや集中力のために、そして発売日や大人の事情のために、〆切が必要なのはわかります。
ということは、今もどこかで苦しんでいる作家さんがいるのでしょう。
どうか、編集者たちを苦しめずに早く仕上がりますように、お祈り申し上げます。

(でも、ちょっとは高級ホテルでカンヅメにされて「あー、書けない!」というポーズをしてみたいかも。)


※何人かの方は、〆切前に書き上げるとおっしゃってました。
性分だそうです。
私も夏休みの始めに宿題を終わらせてしまうタイプでした。
でも高校時代、原稿用紙80枚の小説を書く「80枚創作」という課題には苦労しました。
〆切日の通学電車の中で仕上げた思い出があります。
※恩師のエッセイも載っていました。先生はきっちりタイプだったのですね。