2017年1月30日月曜日

風の向こうへ駆け抜けろ

努力する人は美しい地方競馬で奮闘する弱者たちの挑戦。
 



競馬には、農林水産省が管轄する中央競馬(JRA)と、各自治体が運営する地方競馬があり、両者には歴然とした差がある。
レベルも賞金額も違うのだ。
しかし、交流戦もあり、地方からG1を狙うことも可能である。

本書は、地方競馬に所属する少女の挑戦の物語である。

主人公の瑞穂は、騎手免許を取得したばかりの17歳。
訓練を終え、広島の地方競馬の弱小厩舎に所属することになった。
行ってみると、そこはやる気のない者の吹きだまりのような場所だった!

アル中親父、80過ぎの老いぼれ、コミュニケーションをとろうとしない美少年、そして投げやりな調教師。
その上、所属する馬はまともに走れない馬ばかり。
そんな弱者たちの集まりの中で奮闘する瑞穂だが、嫌がらせやアクシデントなど、様々な試練が待ち受けていた。

しかし、瑞穂のひたむきな努力により、だらけていた厩舎もいつしか変化していく。
やる気のないように見えた彼らは、過去の辛い体験から心に深い傷を負っていたのだ。
もともと馬への愛情は人一倍強い者たち。
諦めかけていた夢を追い求め、人と馬が一丸となって、目標に立ち向かっていく。

競馬界のしきたりや馬の躍動感が、丁寧に描かれている。
著者はもともと乗馬が趣味で、一年かけてみっちり取材したんだそう。
だからこそ、馬に対する愛情溢れた表現ができたのだろう。
特にレースの疾走感は圧巻で、思わず力が入ってしまう。

手に汗握り瑞穂たちを応援しながらも、いつしか自分が励まされていることに気づく。
不器用でも、挫折しても大丈夫。
人生はまだこれからだよ。
「ファンファーレは、今鳴ったばかり。スタートもゴールも、まだずっと先にある」
のだから、と。

本を閉じ、「風」が駆け抜けていったような爽やかさを感じている。
競馬好きはもちろん、馬のことを何も知らない人にも、希望と感動を与えてくれる物語である。


※魚目(さめ)という言葉を本書で初めて知った。
馬の目はいわゆる黒目がちで、白目部分が少なく、ほとんどが黒目である。
しかし、ごく稀に強膜や虹彩の色素が欠落して生まれてくる馬がいるという。
中でも虹彩が蒼白い馬を魚目というのだ。
検索してみると、まさに魚の目のようだった。

2017年1月23日月曜日

高齢者風俗嬢

60歳を超えた超熟女の風俗嬢が増えているという。なかには80歳超えも⁉しかも客は若者⁉



風俗嬢の人気は若さと美貌で決まる、というのは昔の話。
現在は、60歳を超えた超熟女たちも現役で頑張っているという。
本書は、そんな高齢風俗嬢たちの実態に迫るルポルタージュである。

著者は、「16歳だった~私の援助交際記」(幻冬舎)で100人近い男との援助交際やドラッグ体験を衝撃告白した女性である。
その後、22歳のとき未婚で子どもを出産し、アダルト系のライターとなり、現在は編集プロダクションを設立している。

医学部へ進学した子どもの学費を稼ぐために風俗で働く46歳の熟女。
60歳を過ぎてからAVデビューした昭和11年生まれの超熟女優。
60分15000円~のお店で働く自称82歳のデリヘル嬢。
AVの撮影現場に向かう途中、倒れて救急車で運ばれた67歳の現役女優。
と、年齢もさることながら想像の上をいくインタビューが続く。

1000人男がいたら1000通りもの好みがあるそうで、超熟女たちも需要があって意外と人気なのだという。
「昭和のおもてなし」で客の心を掴んだり、みだしなみに気を配ったりと、彼女たちも努力を惜しまないそうだ。
なかにはフィストまでOKの強者も‼

また、女性の外見や雰囲気により客層は異なるという。
ある方は年上のおじいさまが多くつき、ある方は30~40代の客が中心で、またある方は20代がほとんど、という具合に。
18~20歳の男の子に人気の60代の超熟女もいるというから驚きだ。
癒しを求めているのだろうか?

気になったのは、著者が「女性が風俗の仕事を楽しんでどこが悪いのか」というスタンスで書いている点だ。
シングルマザーで忙しく子どもの世話ができないなら、パートの安月給より短時間高収入の風俗の方がいい、元気な貧困老人なら福祉に頼らず風俗で働いた方がいい、そう勧めているように思えてならないのだ。

確かに本書に登場する超熟女たちは、イキイキとしている。
若い男の子と接して高収入を得られる、女性ホルモンも分泌されますます若返る…それは事実なのだろう。
ただ、その陰で風俗で働くことにより、心身ともに傷ついた女性も大勢いると思うのだ。
病気感染のリスクや、密室で見知らぬ男と接する危険性もある。
家族にバレて家庭が崩壊するかもしれない。
そういった危険性も併せ持つことをもう少し突っ込んで欲しかった。

2017年1月14日土曜日

なんでわざわざ中年体育

中年女子・角田光代さんの挑戦。



「なんでわざわざ中年体育」
この題名、自分のことを言われているようで胸に刺さります。
だいぶ前から私は、ダンス(ヒップポップを中心にラテン・サルサなどがミックスされたもの)を続けています。
当初は痩せたらいいなくらいの軽い気持ちで始めたのですが、その面白さにすっかりはまってしまいました。
もういい歳ですから、大きくジャンプしたり激しく動いたりはできませんが、それなりに楽しんでいます。
その上去年から、不定期ながらヒップポップの個人レッスンまで受け始めてしまいました。
今さらダンサーになれるわけじゃないのに(-_-;)
自分でも、どうしたいのか、何を目指しているのか、ちっともわかりません。
だから「なんでわざわざ」という言葉が胸に刺さるのです。

本書は、「Number Do」で連載された角田光代さんの運動に関するエッセイをまとめたものです。

角田さんは1967年生まれ。
立派な「お年頃」です。
体を動かすのはお好きじゃないといいながらも、マラソン・ヨガ・ボルダリングなどに挑戦していきます。

グリーンスムージーやベアフットランニング(裸足感覚で走る)など、様々な「そのスジの第一人者」たちから直接指導されるという羨ましい体験をされています。
なかでも増田明美さんと一緒に走ったり、ニューバランスでフォームのチェックを受けたりは、お金払ってでもしてみたい人がたくさんいるのではないでしょうか。

走るのは9年以上続けているという角田さん。
嫌だ、しんどい、歩きたいとおっしゃいながらも、何度も大会に出場されて完走されているのですからすごいです。
マラソンをやってる人は皆さん、きつい・苦しいと言ってますが、それでも続けているということは、きっと未経験者にはわからない魅惑の何かがあるんでしょうね。

仙骨を骨折すると、「走らなくていいのだ」と安堵する一方、「走らなくて大丈夫なのか?」と不安に駆られる角田さん。
ボルドーでのワインを飲みながら走るマラソン大会で、仮装のテーマが「正装」と聞くと、なぜかハッピとちょんまげをチョイスして走ってしまう角田さん。
ふふふ。
イヤだ、キライだとおっしゃっても、十分楽しんでおられるようですよ。

中年体育は、加齢に抗っているのかと痛々しい目で見られてしまうのでしょうか?
いえいえ、人に迷惑かけてるわけじゃない、自己満足で楽しめばいいのです・・・よね?