2011年7月29日金曜日

あんじゅう

あんじゅう
宮部みゆき著
中央公論新社





江戸の神田。ある事件によって心に傷をおった少女おちか。
袋物屋を営む叔父夫婦の家に身を寄せて、女中のように働いている。
ひょんなことから不思議な話を集める百物語の聞き集めをすることになった。
その場で、語り捨て・聞き捨てがルールの百物語。おちかの心も少しずつ変わっていく。


「おそろし」の続編。
4話からなる、不思議の話。

やっぱりこの人の本は、安心して読める。
みんなかわいらしくて、いい人ばかりっていうのはどうかと思うが、結局話に引き込まれてしまう。人間のどろどろとか、奥底の汚さとか描くの得意な作家は他にいるから、そちらに任せて、描いてもらいましょう。
こちらは、ホッとできる話ばかりでした。
特に、くろすけの話は、かわいくて、かわいそうで、好きでした。きっと続編も描いてくれるでしょう。期待。

2011年7月20日水曜日

ばらばら死体の夜

ばらばら死体の夜
桜庭 一樹著
集英社




古本屋の2階に下宿する美女、砂漠。
学生時代に同じ場所に下宿していた翻訳家の男は、偶然美女を見つけ、襲う。
特に拒みもせず受け入れる砂漠。
消費者金融からの借金に追われている二人と、古本屋の主人たちの視点から描かれる追い詰められた悲劇。

赤朽葉家の伝説以来大好きな作家でした。
ただ、「私の男」から、荒削りな文章がこなれてきて、巧い表現になってしまいました。
荒削りだけど、吸い込まれる物語が好きだったのに。

今回は、つまらなくはなかったけど、何を訴えたかったのかよくわからなかった。
私の理解力のなさが原因だろうけど、消費者金融の闇をカキたかったのか、「悪いことをした人は、因果の不思議で、知らずに罪が顔ににじみ出たり、その後の人生がおかしくなったり」ということを訴えたかったのか。
砂漠も、つかみどころがなく、どうして、お嬢様育ちなのに、歯並びが悪くて、無気力で、だらしなく、抵抗もなく男を受け入れるのかいまいちわからなかった。
次に期待。

2011年7月18日月曜日

スピリチュアル市場の研究

スピリチュアル市場の研究
有元 裕美子著
東洋経済新報社





近年スピリチュアル関連ビジネスが急成長しているという。
ココで言うスピリチュアルとは、お賽銭・祈祷などのむかしからあるものから、最近台頭してきたケータイでの占いゲーム、名前を聞いたことがあっても内容はよくわからないホメオパシー・オーラソーマ・イヤシロチなどの市場を、客観的な調査データを軸に読み解いていく。

最初は、よくある霊感商法の騙しのテクニックか何かの本と思い読み始めました。
そしたら全然違った。
お堅いまじめな、データを基にした本当に市場の研究の本でした。


胡散臭い一つ一つの商法の真偽の程には全く言及せず、それらを利用する人を統計データをもとに分析している。
私自身も、お正月には初詣に行き、お賽銭を入れる、受験や、試合などの時は、神様にお祈りしたり、お守りに頼ったりする。
でも、神様って何の神様?深くも考えずにお祈りしてた。
旅行に行って、寺院があれば、それが何の宗教かもよく知らないまま観光したり、お祈りしたりしていた。

それが、平均的な日本人なのかも。

占いも、テレビや雑誌で見て喜んだり、ちょっと悲しんだりするけれど一瞬のことでそんなのすぐ忘れる。
でも、本当に深刻な悩みがあったら?だれにも相談できず1人悶々と悩んでいたら?
そんな時、この石を身につけたら解決するなんて言われたら飛びついちゃうでしょう。

本書では、一部のヘビーユーザーが、いくつも買っていると統計が出ている言う。また、若者のほうが抵抗なく買っているという。ということは、これから先もっと拡大する市場なのかもしれない。

2011年7月17日日曜日

宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外で作られる

宝塚ファンの社会学 スターは劇場の外で作られる
宮本 直美著
青弓社





宝塚歌劇団のファンクラブに属していた社会学者の著者。劇場前での入り待ち・出待ち、ガード、お茶会など、部外者にもわかりやすく説明した本。

宝塚って見たい見たいと思っていながら、一度も見たことない私。
これを読んで、そういえば昔に日比谷の宝塚劇場のそばで、おそろいの服を着た人たちがたむろしていたなと思い出しました。

実際自分が宝塚にはまるかどうかは別として、ファンクラブに入ったら、そのクラブ活動にはまってしまうかもと思わせる内容でした。

実際に、熱狂的なファンであるか否かとは関係なく、貢献度によるポイント制、「良い席のチケット」という報酬、引退という終わりの見えているからこそのつっぱしり。
そういったことが分かりやすく書いてありました。

宝塚って、卒業した後も、ずっと「学年」がついてまわるなど知らない世界が盛りだくさん。
著者はいう「そこにあるのは、熱心なファンがスターに近づこうとして、あるいはスターの役に立とうとして、個人的に盲目的に入れ込んでいる姿ではない。
その社会内の空気を読みながら、ファンクラブとしてどのように良好なポジションを維持できるかという目標に従って、合理的に行動する人々の姿である。」と。

生徒(宝塚の出演者はこう呼ばれる)個人のファンクラブの中でも、代表から始まって、明確なヒエラルキーが存在する。
また、それぞれのファンクラブでも、トップスター・2番手・スター路線の生徒・娘役などによって、これもまた、明確なヒエラルキーが存在する。
それは、チケットの入手など、様々な微妙な思惑によって秩序が保たれている。
そういったことが、わかりやすく書いてありました。


しかし、ファンクラブに入って活動している人は大変。
お金も時間もかかるし。子育て終わってお金も余っているマダム達や独身の人たちがが中心なのでは?(著者は、働いている人が、休みや会社帰りに駆けつけて活動していたと書いていたが・・・)
やっぱり、結婚して子どもがいる人には難しいと思う。
旦那さんの理解も必要だし。
そこまでのめりこめるのは、うらやましい。
韓流や、ジャニーズにもはまれない私。
目をハートにしながら、好きな人の話をしている友人たちを見て、生き生きしているし、きっと若い気持ちでいられるんだと思う。
チケット取れたら、見に行ってみようと思わせる本でした。

2011年7月12日火曜日

知られざる魯山人

知られざる魯山人
山田 和著
文春文庫



現代日本料理の創始者である北大路魯山人は、陶芸、書、篆刻など様々な分野で活躍した。
著者の父は、魯山人と親しく交際し、家の普段使いの食器は全て魯山人作だった。
ところが、魯山人の死後、父は所有の品をほとんど処分してしまう。
関係者80人超への取材、現存資料のほぼすべてにあたった600ページもの渾身の作。
第39回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品。

すごい。
読むのも大変だったけど、著者はどんだけ苦労したの?

魯山人と聞いて、何をイメージする?
頑固な陶芸家?
こだわりの食通?
ってだいたい「美味しんぼ」の海原雄山のことしか頭に浮かばなかったけど。
なんとなく、金持ちのボンボンで子どもの頃からお手伝いさん付きで、豪華な食事食べ放題って思ってた。

でも、不幸な生い立ちで、本当の父が誰なのか未だにわからないなんて。
6歳の幼さで養父母に気に入られようと炊事を買って出る。
しかも、褒めてもらいたくて、どうしたら美味しく炊けるか研究までする。
数種類のコメを混ぜる・水きり時間・炊きたてにこだわる・・・いまどきの主婦だってそんなことは考えずに惰性で炊いてるのに。
そこが魯山人たるゆえんだろう。

そして、美の追求。天才的な空間把握の才能と、手先の器用さもあったのだろうが、薄幸の育ちも関係しているのではないかと思われる。
書・篆刻・そして陶芸。誰もが認めるその才能。
だけど、頑固おやじ。
今近くにいたらどうだろう?
やっぱり才能は認めても、ついていけない、なんで怒鳴られなきゃならないの?って遠ざけるだろうな。


バブルの頃に生きていたら、おもしろかったのでは?
豪快に飛行機で世界中飛び回って、美味いもの探しなんてしてそう。

実際に魯山人の作品を見てみたい。
これだけ作品を残していたら、店の看板等で見たことがあるのかもしれないけど。
でも、著者はすごい。
魯山人の器ばかりで食事していたなんて。
それも凄いけど、この膨大な資料を整理して、この本を書き上げたのはもっとすごい。

2011年7月4日月曜日

江戸の卵は1個400円!モノの値段で知る江戸の暮らし

江戸の卵は1個400円!モノの値段で知る江戸の暮らし
丸田 勲著
光文社新書




大工の年収317万円、裏長屋の家賃8000円~12000円、木綿の古着2000円、居酒屋の飲み代700円~1400円、芝居小屋入場料2000円、不倫の慰謝料96万円・・・

江戸っ子の暮らしを今の貨幣価値に直すことで江戸の暮らしが見えてくる。
町人文化が花開いた文化・文政期の諸物価を円に換算していく。

江戸で暮らしてみたいと思ってしまうような本。
エンゲル係数の高さにびっくりして、シンプルに暮らすとはこういうことかと考えさせられる。
火事が多いので、必要最低限の物しか持たず、安普請。隣の会話も聞こえ、プライバシーや個人情報保護などかけらも見当たらない町人文化。
汚物も灰もすべてリサイクル。
ある意味成熟した世の中だったのかも。

円換算された色々な値段を眺めているだけで、江戸時代にタイムスリップしたように感じられる。
江戸に行ったら、どんな職業になってみたい?
やっぱり花魁?
でもなかなか吉原から出られないというし、大工のおかみさん?
子ども背負って井戸端会議とか・・・


読む人それぞれ想像の世界へ連れて行ってくれそうな本でした。