2016年10月29日土曜日

すぐわかる正倉院の美術―見方と歴史

今年も正倉院展の季節がやって来た‼

米田雄介著
東京美術


めっきり秋らしくなりましたね。
そう、秋と言えば正倉院展ですよね。
毎年楽しみにしています。
いつも帰りに正倉院展に関する本を一冊と、抹茶味のお菓子を買うのが私のお約束。
その本を翌年までとっておいて、正倉院展に行く前に読み、気分を盛り上げるのです。

この「すぐわかる 正倉院の美術」は、去年訪れた時に購入しました。
著者は、宮内庁正倉院事務所長をされていた方です。

正倉とは、「大事な品物を収納しておく倉」という意味の普通名詞だったって知ってました?
そんな豆知識から、
双六賭博が盛んで、持統天皇の頃(689年)から何度も禁止令が出されていたにもかかわらず、借金に苦しむ人が後を絶たなかった、
などのこぼれ話まで、正倉院の宝物にまつわるあれこれが、易しく解説されています。

そしてメインはなんといっても宝物の写真と解説です。
小さいながらも十分楽しめるカラー写真と、由来・材質・技法などが簡単に説明されていて、正倉院気分を盛り上げてくれます。
宝物ひとつひとつにはそれだけで本が書けるくらいの歴史がありますが、そんなお宝が無数に(約9000点とも数十万点とも言われている)あるのですから、駆け足の説明になってしまいますが。

今年の目玉である「漆胡瓶(しっこへい)」はもちろん、主だった宝物は網羅されていて、専門家でもなんでもない、ただの正倉院展好きの私にはぴったりです。

そして今年も大混雑のなか、行って来ました。
贅を尽くした宝物、超絶技巧の緻密さ、人の息吹を感じる残欠。
昔の人に思いを馳せ、来年用に一冊とお菓子を購入して、大満足の1日でした。

宝庫と宝物が現存するのは、奇跡や幸運のなせるわざではない。今も昔もその管理に当たる人たちが、つねに保存のために努力を積み重ねることで、さまざまな突発的な事件・事故に対応してきたからなのである。

こうして毎年楽しむことができるのは、多くの方のおかげなのですから、感謝しないといけませんね。
ありがとうございます。

※正倉院展はお一人さまで行くにかぎります。同行者が帰りたそうな雰囲気だったり、別行動しても待たせる時間が気になってしまい、ゆっくり自分のペースで見られないからです。

今年の正倉院展ポスター
メインの「漆胡瓶」

月餅ではなく「日餅(にっぺい)」
抹茶味の生地
中にあんこ

2016年10月27日木曜日

月は無慈悲な夜の女王

月が地球から独立を宣言した!!SFに挑戦第2弾

ロバートA・ハインライン
早川書房

 

池澤春菜さんの書評集「乙女の読書道」を読んで、今まであまり読んでいなかったSFに挑戦してみようと思ったのです。
春菜さんが初心者におすすめとおっしゃる「夏への扉」を読んでみて、こういう話なら大丈夫、次に何を読もうかなと手にとったのがこの「月は無慈悲な夜の女王」でした。
「夏の扉」と同じくハイラインの作であり、ヒューゴー賞受賞の傑作ということで間違いなく面白いだろうと思ったのです。

現物を見て驚きました。
679ページの分厚さ、文庫本にして1200円超です。
しかも、翻訳物にはつきもの登場人物一覧表がついていないのです。
SF初心者なのにこんな大作を読めるだろうか?と不安になりつつも、まぁ途中で挫折してもいいやと開き直って読み始めました。

2075年、地球政府の圧政に苦しんでいる月の住人たちが独立を宣言し、地球に立ち向かっていく・・・というお話です。

主人公はコンピューターの技術者であるマニーです。
彼は、なんでもできる強いヒーローというわけではなく、飄々とした感じの人物です。
行政府の記録に「政治色がなく、あまり聡明でない」と書かれていたほどです。
そんなマニーですが、自意識を持った巨大コンピューターの「マイク」と出会い、成り行き上先頭に立って地球に対抗することになったのです。

コンピューターの「マイク」がいつ人間たちを裏切るのだろうかとドキドキしながら一気に読んでしまいました。
(結果的には私の予想は大幅に外れてしまいましたが。)

ストーリーは地球VS月という単純な構図なのでわかりやすく、登場人物も一度にたくさん出てくるのではなく徐々に増えていきますし、「マニー」「ワイオ」など短い名前が多いので、登場人物一覧がなくても大丈夫でした。(→これ私にとっては結構重要なのです。)

1965年に発表されたものだそうですが、現在より未来である2075年の設定だからでしょうか、今読んでも全く違和感がありません。
ただし、訳は1976年のものですからさすがに古く感じる箇所もあり、例えばコンピューターとするところが「計算機」となっていたりします。

SFに手を出さなかった理由を私なりに考えてみると、
・その独特な世界観に入り込むまでは、あまり面白さを感じられない。
・理系の難しい話が出てくる。
ということかもしれません。

読んでいけば自然とその世界観に入り込めるし、理系の話は「ふんふん、そうなんだ。」と気軽に読み流していけばいいと気がつきました。
これだけの長編を面白く読めたことから、次も古典を中心に少しずつSFに挑戦していきたいと思います。

つづきの図書館

王様!若い娘じゃなくたって、突然裸で出てきたら驚きますよ!
  
柏葉幸子著
講談社



桃さんは、内気で不器用な40過ぎの女性。
わけあって、生まれ故郷の図書館に司書として勤め始めました。
その図書館で、「はだかの王様」の本から出てきた王様と出会いました。
王様は、自分の本を何度も借りた少女のその後、つまりその子の「つづき」が知りたいと言うのです。
最初はびっくりしていた桃さんですが、王様と協力して「つづき」を探っていきます。
その後、おおかみやあまのじゃく、幽霊までもが、自分の本を読んだ子どもたちの「つづき」が知りたいと桃さんに頼んでくるのです。
しかも、桃さんの家に居座りながら!

登場人物たちがとても魅力的ですぐに夢中になりました。

だってね、王様なんか 「その歳だ。今までに不思議なことの1つや2つ、驚いたことの3つや4つ、なかったとは言わせん。わしを見たぐらいで、若い娘でもあるまいに、悲鳴などあげんでくれ。」 なんて言うんですよ!
ビミョーなお年頃の桃さんに向かって。
しかも、自分は裸なのに威張った王様口調で。

あまのじゃくも桃さんのことを 「おにばばぁ!」 と言ったり、小さな男の子ですから落ち着きなく飛び回ったり……
本の中から出てきたみんなが桃さんを困らせます。
だけどみんな桃さんが大好きで、桃さんも彼らのあしらい方に慣れていきます。
そのやり取りもクスクス笑っちゃうほど面白いのです。
内気だった桃さんも、みんなと接しているうちに心が溶けてきて、大胆なことまでしてしまいます!

突然やって来たお別れは、寂しくてホロっと涙が出ました。
でも、だんだんとピースがはまっていき、最後は拍手したくなるのです。

楽しくて面白くて、ちょっぴりせつない物語。
大好きな、大切な一冊になりました。

  ※ちなみに私が子どもの頃、一番ぼろぼろになるまで繰り返し読んだのは、素敵な物語……と言いたいところだけど、「からだのヒミツ」でした。
ヒトちゃん、私のつづき知りたがってるかな?
 

正しい恨みの晴らし方

このうらみはらさでおくべきか!!



マレーシアに住んでいた時のこと。
シンガポール人の友人が、インドネシア人のお手伝いさんに「黒魔術」をかけられていると怯えていたことがあった。
そのお手伝いさんが、ケトルに得体の知れない何かを入れておまじないを唱えたり、部屋の片隅に草のようなものをお供えしたり、雇い主である友人に暗示をかけようとした、と言うのである。
にわかには信じられなかったが、今でも黒魔術は一部に残っているようだ。

日本でも藁人形に五寸釘は定番(?)だが、人に迷惑かけずに気がすむのならそれはそれで恨みを晴らす有効な方法かもしれない。

本書の題名は「恨みの晴らし方」だが、藁人形系の話ではなく、心理学と脳科学の観点から恨み・妬み・嫉み等のネガティブな感情を解き明かすという内容である。

人は能力や格が違う相手には憧れこそすれ妬むことはまれであり、自分と同等か僅差だと思われる人を羨んだり妬んだりするという箇所は妙に納得した。
確かにスーパーモデルの体型を妬むことはないが、仲間だと思っていた友人がダイエットに成功した時はショックが大きかった。

ネガティブ感情における男女の性差も興味深い。
男性の持つ不満は、相手が正直さ・誠実さを見せることで沈静化し、女性の場合はあなたを理解し受容したというメッセージを伝える事が重要であるという。
そうなのだ。
女性は愚痴を言ってストレスを発散しているのだ。
男性の皆さん、女性の愚痴は具体策や解決策を提示して無理に解決しようとせず、相づちを打って聞いてあげてほしい。

ネガティブな感情は、人間なら誰しもが持つ自然な感情であり、人間にとって重要な意味があるという。
だから妬みを感じたとしても恥ずかしがったり罪悪感を抱いたりせずに、なぜその感情が起きたのか、自分の本当の目的は何だったのかを冷静に分析すれば、コントロールすることができるのだという。

個人的に一番気に入ってる恨みの晴らし方は、北大路公子さんが著書「ぐうたら旅日記」でおっしゃっていた「呪い」である。
ネガティブな感情を抱いた相手に赤っ恥をかかせるような呪いをかけるのだ。
どんな呪いをかけようかと考えるだけで楽しくなって、ネガティブ感情が吹き飛んでしまうのでオススメである。

少女ソフィアの夏

トーベ・ヤンソン著
講談社
 



 祖母と孫娘の島での暮らしが描かれた22編の短編集。
そう聞くと、「ああ、おばあさんが孫娘を優しく見守るほっこり系のお話ね、わかるわかる。」なぁんて思うでしょ?
これが違うんだなぁ。
このおばあさん、普通じゃないんだから。

冒頭で、孫娘がいきなり「おばあちゃんいつ死ぬの?」なんて聞くからびっくりしちゃった。
だってなんの状況説明もなくて、「あなたは誰?そこはどこ?」の状態だったのに、そんなこと言うんだもん。
この二人の関係大丈夫?って心配するのわかるでしょ。

読んでいくうちにどうやら、ママは亡くなってパパとおばあちゃんと孫娘ソフィアと3人で、夏の間だけ島に来ているってわかるんだけどね。
でもパパの存在は薄くっておばあさんのキャラが濃いから、題名は「ソフィア」だけど主人公はおばあさんだと私は思うの。

鳥が死んでいるのを見つけた時に孫娘ソフィアが「埋めてやらないの?」と聞くと、おばあさんは「そんなことしなくていいんだよ。しぜんに葬られるの。」って答えるの。
これでいっぺんにこのおばあさんのファンになっちゃった。

ときにはパパとの約束を破っていいのか不安がるソフィアに「眠っているからわかりっこないよ。」と言って煽るおばあさん。
「家宅侵入?」と孫娘に言われながらも知らない人の家に鍵を壊して入るおばあさん。
孫娘といかさまを駆使しながらトランプをして、いつも喧嘩になってしまうおばあさん。

70歳も年下の孫と
本気で一緒に遊んで、
本気で喧嘩して怒って、
本気で向き合うおばあちゃん。
二人の独特な世界が展開されていくのを見ていると、祖母と孫だけど相棒とか親友のようにも思えてくるんだから。

べったりしていない二人は、子どもの気まぐれや残酷さ、年寄りの老いや頑固さも隠さず、それでいてとてもいい関係で見ていると微笑ましく思えてくる……あれ?ほっこり系じゃないって最初に言ってたのに、まぁ、いっかぁ。

そして、私もいい歳なのに童心にかえって一緒にわくわくしたり、知らない場所・知らない時代・知らない風景なのになぜか懐かしく、ノスタルジックな気分になっちゃったりするのよねぇ。

簡潔な文章で挿し絵もほとんどないけれど、だからこそ頭の中に自然豊かな島の風景が浮かんでくる物語でもあるの。
まるで動く絵画のような。

でも、私が思い浮かべる風景とあなたが思い浮かべる風景はきっと違う。
読んだ人それぞれの頭の中に大切な「夏」が描かれていく……そう思える素敵な世界だったよ。

※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~

縁あってこの本を手に取り、きっと素敵な本だと確信したので、先入観を持たずに読もうと1ページ目からゆっくり読んでいきました。
あとがきを読んで、初めて色々わかりました。

本書はムーミンでお馴染みのトーベ・ヤンソンさんが「私の書いたものの中で最も美しい」とおっしゃる物語です。
「おばあさん」のモデルはトーベ・ヤンソンさんのお母さん、「ソフィア」は姪っ子で、舞台となっている島は彼らが毎年夏に4ヶ月ほど過ごす実在の島だそうです。
だから、思い入れがあるのでしょう、島の自然が生き生きと描かれています。
本当に簡潔な文章で、情緒たっぷりとか細かい情景描写とかないにも関わらず、不思議と景色が浮かび上がって来るのです。
これがトーベ・ヤンソンさんの魅力なのかな?と初心者のくせに思ったりしました。

2016年10月14日金曜日

希望荘

自分がこんなに根に持つタイプだとは(>_<)

宮部みゆき著
小学館



「誰か」「名もなき毒」「ぺテロの葬列」に続く、杉村三郎シリーズの第4弾。

今回は、杉村三郎が離婚後探偵事務所を立ち上げ、4つの事件を解決する短編連作集となっている。

探偵が事件を解決する物語なら、別に杉村三郎じゃなくても新たなシリーズ立ち上げたらいいんじゃないの?

4作目まできてから探偵事務所を立ち上げるって、ご都合主義のような気がするけど?

確かに杉村は「事件を引き寄せる」力があると周りから言われている。
でも、ほとんどの人が生涯一度も遭遇しないような大事件に何度も巻き込まれるとは、ちょっと不自然過ぎやしませんか?

と、グチグチこぼしてしまったのには訳がある。
私は、前作「ぺテロの葬列」で杉村三郎が離婚したことに、納得していないのだ。

本書はいつものように、暗く陰湿でやりきれないような事件を、気弱で優しい杉村三郎が解決するという内容で、読みごたえがあった。

でも、大金持ちのお嬢様と結婚して相手方に取り込まれても変わらない自然体な態度、
しなっても丈夫な細い柳の枝のような、
気弱だけどやる時はやる男・杉村三郎のキャラクターが好きだったのだ。
今多コンツェルンの入り婿状態という設定が面白かったのだ。

それなのになぜ私に相談もなしに離婚してしまったのか?
こんな愛妻家のいい男がいるのに、なぜ浮気なんかするかなぁ。

もしかしたら、ヨリを戻すか?とちょっと期待していたが、本書を読んだ限り可能性は低いだろう。

あー!
自分がこんなにねちっこい、根に持つタイプだとは思わなかった(>_<)
それだけ杉村三郎に愛着が湧いていたんだな。

「事件は凄惨だが、杉村三郎や取り巻く人々があたたかく、やりきれない思いを癒してくれる」という、このシリーズ最大の魅力は、本書でも健在だった。
だから次回作も読むだろう、ほんのちょっと元サヤに戻ることを期待しながら。

2016年10月11日火曜日

君の名は。 Another Side:Earthbound

映画「君の名は。」の楽しみ方に関する一考察。

新海誠・原作
加納新太・著
角川スニーカー文庫




大ヒット中の映画「君の名は」を観に行ってきました。
事前情報の通り、景色の映像が綺麗でストーリーも飽きさせず、子どもからお年寄りまで万人受けするのも頷けます。
ただ、うるっときた場面でまさに涙が溢れようとするその瞬間、隣でダーリンが号泣し始めたのです、ズルズルと音をたてながら!
そうなるとこちらは興ざめで、泣く気が削がれてしまい、モヤモヤと不完全燃焼気味になってしまいました。

この映画に関して、ある方がこの「君の名は。 Another Side:Earthbound」を読まないと映画が理解できないと力説してらっしゃいました。
純粋に映画を楽しめたらそれで十分なんだけどな。
きっと買っても一度読んでおしまいだからもったいないなぁ。
と思っていましたが、映画を観たらやはり気になってしまい、その足で本屋に走り、購入してしまったのです。

本書は4章に分かれていて、本編の外伝といった位置付けです。

第1話、女子高生に入れ替わってしまった男子高校生が、着けたこともないブラジャーに戸惑う、男目線のサービス物語。
第2話、友人のテッシーの目線から、由緒ある神社の娘として生まれた苦悩や田舎暮らしの生活。
第3話、妹の四葉から見た家族の様子。
と続いたあと、問題の第4話です。

亡くなった母となぜか民俗学者 → 宮司 → 町長と職業を変えていった父の物語です。
ここで初めて、二人の出会いを始めとした過去の出来事が語られます。

ああ、そうだったのか。
だからなのか。
ここまで壮大なストーリーだったのか。

と驚きました。
そしてこれらを踏まえて、もう一度映画を観てみたいと思ってしまうのです。
映画を観て本を読んで、また映画を観たいと思う映画!
新海誠さんはここまで想定していたのでしょうか?
それなら恐るべきマーケティング力です。

さて、私が考える「君の名は。」の楽しみ方ですが、

①たっぷり堪能したい方

映画

小説(活字でストーリーを確認する)

本書(違った見方や過去の出来事を知る)

映画

②堪能したいが、節約もしたい方

映画

本編のあらすじ(ネタバレ)サイト

本書のあらすじサイト

映画

③別に興味ないけど流行ってるから知識として知っておきたい方

予告編等の映像でイメージをつかむ

本編のあらすじサイト

④テレビ放映まで待てばいいと思う方

待つ

⑤何の興味もない方

何もしない

他にも映画を1回観るだけという手もありますが、それだけだともったいないのです。
奥にはもっと深い物語があったのだから。

さて、あたなならどうしますか?

~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※

 石原さとみさん主演の「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(フジテレビ)を楽しみに見ていますが、校閲の仕事とは誤字脱字のチェックだけでなく、内容の矛盾や表現の誤りを正すことも含まれるそうです。
本書では急ピッチで出版されたのか、校閲が甘い部分が見受けられました。
例えば、パジャマ姿で髪の毛をタオルで包んだ三葉がと書かれているのに、イラストはパジャマは着ているものの髪の毛はタオルで包んでいるどころか濡れている感じもありません。
そして、髪のセットに異常にこだわっているのに、そのままふて寝してしまうのです。
女子高生が濡れたまま寝るの!と驚いてしまいます。
私が校閲ガールだったら、髪は乾かした状態に変えてもらうように指示するんだけどな。

2016年10月10日月曜日

コンビニ人間

コンビニ行く度に店員の働きぶりをチェックしちゃいそう

コンビニ人間
村田沙耶香著
文藝春秋




主人公は、幼い頃から変わっていると言われ続けてきた私。
小鳥が死んで皆が泣いている中持ち帰って食べようと言った時も、ヒステリーな先生を黙らせるためにスカートとパンツを勢いよく下ろした時も、なぜか周りから注意を受けたが、私には納得できなかった。
両親は「どうすれば治るのか」と言いながらもそんな私に優しく、愛情たっぷりに育ててくれた。
私はトラブルを避けるため、極力しゃべらないように、自分から行動しないようになっていく。
大学生になり、私はコンビニでアルバイトを始める。
マニュアル通りに動き、周りの話し方や服装を真似してみた。
怒りに同調すると相手は喜んでくれ、連帯感が生まれることを覚えた。
コンビニ店員となった私は、初めて普通の人間になれたような気がした。

周りから異質扱いされ、生きづらさを感じる女性が主人公の芥川賞受賞作である。

著者の村田沙耶香さんは、現在5軒目のコンビニに勤務されていて、その全てがオープニングスタッフなんだそう。
内気で、人に溶け込めるか不安だからという理由らしい。
そんな繊細な村田さんのコンビニ愛に溢れた小説である。

「普通って何だろう」と問題提起している小説と考える人がいるかもしれない。
発達障害、貧困問題に絡め、現代を映した社会派小説と捉える方もいるかもしれない。
でも、私は単純にストーリーを楽しみながら読んだ。
主人公の人間観察の鋭さ、自分の価値観を押し付けてくる周りの人との平行線、そのズレ感が面白いのだ。

店長のことを社畜、私のことは社会の底辺と罵るサイテーなクズ男も、他の小説だと最後までイラッとくる嫌な人で終わりそうだが、ここではだんだん笑ってしまう可哀想な奴に思えてくる。

読んでいて「この方の文章好きだな」と思う。
合理的な主人公の一人称で語られているからか、情景描写が少なくすっきりした印象が心地よく感じたのだ。

時にクスッと笑ってしまうこの小説、文学賞とか関係なく本当に楽しく読了した。

村田沙耶香さんの他の小説はどうなのだろうか?
気になるので、また手に取るだろうなと思う。

唐牛伝

60年安保闘争を闘った男の宴のあと。

唐牛伝
佐野眞一著
小学館




1960年のいわゆる安保闘争において、全学連委員長としてシンボル的存在だった唐牛健太郎を中心とした「闘士」たちの評伝である。

「闘士」たちはその後、華麗なる変身を遂げていく。
ブントの頭脳として知られ、のちにノーベル経済学賞に最も近い日本人と呼ばれた男。
保守派の論客として名を成した者。
日本を代表する高名な文芸評論家となった者。
地域医療の発展に寄与した者。
その陰に隠れて、唐牛健太郎は、全てを断ち切るかのように表舞台から姿を消す。
その唐牛の足跡を、出生地・函館から徳州会・徳田虎雄の参謀になり病に倒れるまで、著者は丹念な取材で追っていく。

樺美智子さん始め傷ついた若者たちの責任を生涯の重荷として背負い、
自分を崇めたてる周囲の目を気にし、
芸者の庶子として生まれた負い目を感じながらも、
「闘士」としてのイメージとは違って明るい笑顔で人々を惹き付けながら駆け抜けた47年の太く短い生涯が浮き彫りにされていく。

全学連の周りには、左翼・右翼だけでなく大物政治家、公安、やくざ、陸軍中野学校出席者など謎めいた人物が蠢き、利用し利用される様子を読んでいると、驚きと疑問で頭がこんがらがってくる。

唐牛が「太平洋ひとりぼっち」の堀江謙一氏とヨット会社を設立した際、人づてに山口組田岡一雄組長に資金提供を頼むと理由も聞かずに「おう、わかった、わかった。」と言ってすぐにお金を提供されたくだりには唖然としてしまった。
唐牛にはそれだけ人間的魅力があったのだろう。

題名は唐牛伝となっているが、唐牛健太郎のことだけではなく、全学連の仲間たちのその後にも触れられている。
また、今ではほとんど聞かれなくなった左翼用語や流行語が出てきたり、当時の風俗が垣間見れ、SEALDsとは違った泥臭さ満載である。
私を含め安保闘争を知らない世代には新鮮味を感じるのではないだろうか。

最近の佐野眞一氏の著作は自己顕示欲が見え隠れして読み辛い部分があったが、本書は細かいエピソードまで盛り込まれ、骨太で大変読みごたえがあった。
ご本人もプロローグで述べているように、橋下徹氏の一件で休筆を余儀なくされ、心機一転・再スタートのつもりで書いたからなのだろう。
ただ、亡くなられた関係者も多く、また公安や世間の目を気にしてかあるいは佐野氏に人望がないためなのか、取材に応じない方々もいたため、消化不良気味なのが残念だ。

2016年10月4日火曜日

あきない世傳金と銀 源流編 早瀬編

読まなあかんでぇ!思わず大阪弁になっちゃう⁉大阪商人の成長物語。



(東京生まれの東京育ちですが、影響されてところどころなんちゃって大阪弁になってしまいました。お許しください。)

「みをつくし料理帖」シリーズが終わって、寂しい寂しいばっかりゆうてたらあきまへん。
澪は優しい仲間に助けられ、今めちゃくちゃ幸せなんや、ホンマに。
夢に向かって必死のパッチで頑張っとるんや。
せやさかい、澪のことは心配せんといてや。
ほんでもって、この主人公を澪と比べたらあかん。
「みをつくし料理帖」とはまるっきし別もんやねんから。
そない言い聞かせながら読み始めてん。

主人公の 幸(さち) は、幼い頃から知識欲が旺盛だった。
学者の父に「何も生み出さず、汗をかくこともせず、誰かの汗の滲んだものを動かすだけで金銀を得るような、そんな腐った生き方をするのが商人だ」と教えられて育った。
しかし、兄と父を立て続けに亡くし、大阪の呉服商「五鈴屋」に奉公することになる。

ときは「商い戦国時代」。
知恵を武器に商いの道を切り拓き、商いの戦国武将となるべく奮闘する の成長物語である。

第1巻源流編では、
呉服商「五鈴屋」で奉公することになり

第2巻早瀬編では、
その「五鈴屋」の色狂いで阿呆な店主との縁談が持ち上がる。

「みをつくし料理帖」では、試練に次ぐ試練、涙に次ぐ涙で、そこまで澪を苦しめなくてもいいのにと思ったが、この「あきない」では、今のところそこまで大きな試練はない。(だから、澪と比べたらあかんて!)

確かに身内を亡くしたり、奉公に出たりと辛いことが多い だが、 だけが苦しいのではなく、庶民皆が苦しい生活をしていた時代である。
むしろ、思いやりのある奉公先の女衆仲間やお家さんにかわいがられる は幸せな方なのではないか。
その上持ち前の明るさから、辛いことも笑いに変えてやり過ごす知恵があり、前向きな を応援したくなる。

これから長く続くであろうこのシリーズ、「みをつくし」がよかっただけに恐る恐る読み始めたのだか、一気にファンになってしまった。
これからも応援団の一員として、末永く を応援することを誓いまっせ。

~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

大阪商人の話なので、古い大阪弁の会話がたくさん出てくる。
「こぉつと(ええと)……」のように標準語訳が付されているのだか、訳がついていないところでわからない箇所がいくつかあった。
前後から推察するしかないのだが、幸い周りにはネイティブスピーカーがたくさんいるので、気軽に教えてもらえ助かっている。
その方々の話によると、本書に出てくる大阪弁は今ではあまり使われていないようで、船場など大阪の一部でのみ残っている言葉もたくさんあるそうだ。

肩こりは手首をふるだけで9割治せる

もう姿勢が悪いとは言わせない‼




私は姿勢が悪いのです。
油断すると巻き肩になり、背中が丸まり、アゴが突き出てしまいます。
最近立て続けに3人の方から忠告されました。
気がついた時に、腕を後ろに回し巻き肩を改善し、ストレッチポールを使って背筋を伸ばしています。
そんな姿勢に加え、首を痛めているので、肩こり・首こりが悩みの種でした。
そこで、こんな眉唾物のタイトルではありますが、藁にもすがる思いでこの本を手に取ったのです。

本書では、整体師として22年でのべ9万人以上を施術されてきたという著者の、肩こり改善メソッドを解説しています。

著者は、
肩こりは揉んだり叩いたりして治るわけではない、
原因は手首のずれやねじれであり、
ねじれを直しゆるめると効果がある、
と言います。
手首がずれていることによって、前腕・上腕・肩関節・肩甲骨までもがずれ、肩こりなど体に悪影響があると言うのです。

本書では、それを改善するための10秒ストレッチが10種類紹介されています。

最初に正しい姿勢の立ち方が解説されていました。

なんということでしょう‼

その通り手を前で合わせて立っただけで、背中・肩・首の位置が改善されたのです!
一生懸命自己流で「背筋ピン」を意識してたのは間違いだったようです。
だからといって、私の苦しみが消えたわけではありません。
ずっとその正しい姿勢ではいられないのですから。
油断するとすぐに戻ってしまいます。
ですから、なるべくこまめにその姿勢をとり、体に覚え込まそうと奮闘中です。

正しい姿勢の座り方も、おへそを太ももに近づけるイメージでとか、坐骨で座るように等、とても参考になりました。

そうそう、肝心の手首フリフリでしたね。
手首がねじれていると言われても、私には実感できません。
ですから当然、ストレッチをやってもねじれが改善されたと感じられないのです。
ただ、本書の通りに実践すると指先から前腕がかなりほぐれ、肩甲骨周りが伸びる感覚もあり、確かに肩こりが軽減します。
それは、手首のねじれが改善されたおかげかなのか、単にストレッチ効果なのかは私には判断つきません。

一見簡単そうにみえるストレッチですが、とても奥が深いように思えます。
コツが丁寧に解説されているのですが、指を支点に回す動作等、正しくやるにはもう少し時間がかかりそうです。
また、やり方についていくつか疑問点も浮かんだので、動画を検索したのですが、見当たりませんでした。

10秒ほどで手軽にできるこのメソッド。
正しい姿勢の立ち方とともに、しばらくは続けていこうと思います。