2016年12月6日火曜日

10分後にうんこが出ます: 排泄予知デバイス開発物語

MajiでBenする10分前?(注①)大便を相手にフン闘する男の挑戦。



「探偵ナイトスクープ」(注②)で、「男性は誰でもウンコをチビったことがある?」という依頼を調査していたことがあった。(2015年11月27日放送)
大阪の街で道行く大人に尋ねたところ、男性全員が便を漏らした経験ありと回答していて驚いた。
多くの女性は出なくて困っているというのに。
それにしても、テレビカメラの前で堂々と告白するとは、さすが大阪である。

本書は、漏らしてしまった体験をもとに、画期的な機器を開発する男性のフン闘記である。

著者は、起業家になりたいとアメリカに留学中、大便を漏らしてしまう。
それもチビるどころではない大惨事だった!
その後、いつまた漏らしてしまうのかと不安に思うのも当然だろう。
なんとかできないものかと考え、便が出るタイミングを知らせる機器の開発を思いつく。

その名は「DFree」(注③)。
・マッチ箱サイズ(注④)で、下腹部に装着し、超音波で便の動きを察知しBluetooth経由でスマホにデータを送る。
・スマホの専用アプリで何分後に排泄するかを予測し知らせる。
という仕組みである。

ところが思いついたはいいが、著者は高校時代に2回も物理の試験で0点をとったほどの根っからの文系男子であった。
その上、開発にかける資金も足りない。
そこから本書のメインである著者のフン闘が始まるのである。

SNSを駆使して人脈を広げ、資金調達に東奔西走する。
そして友人たちは、なんと長期間ボランティアで協力するのである。
機器を装着して排泄のデータをとり、ときにソーセージを突っ込むことも!

この人材集めこそ彼の能力、そして彼の周りに集まってきた仲間たちこそ彼の資産なのだろう。

大人のおもらしは辛い経験であり、精神的に大きな痛手を負うことが多い。
「DFree」は、漏らすのを恐れる方々だけでなく、脊椎損傷者や過敏性腸症候群などの患者、そしてなにより介護をしている多くの人にとって、大変役に立つだろう。
また、ビッグデータの活用などにより、無限の可能性を秘めた機器でもある。
開発の成功と機器の普及を祈りながら、著者を応援したい。


注①「MajiでBenする10分前?」・・・広末涼子のデビュー曲「MajiでKoiする5秒前」より。

注②「探偵ナイトスクープ」・・・朝日放送で1988年より放送されている関西の人気番組。大便のおもらし経験をスタジオで聞いたところ、西田敏行局長をはじめ、男性全員があると答えた。

注③「DFree」・・・「diaper」(おむつ)と「free」から。「おむつから自由になる世界」との意味をこめているという。

注④「マッチ箱サイズ」・・・大きさを表すのによく使われるが、最近はマッチ箱を見かけない。若い人はもしかしたら大きさを実感できないのではないか。

破婚: 18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間

年下夫に貢いだ金額3億円以上⁉愛とはこうも「残酷」なものなのか?



「残酷な天使のテーゼ」や「淋しい熱帯魚」で知られる作詞家の及川眠子さんが、18歳年下のトルコ人元夫に3億円以上費やした顛末記である。

及川さんは、40歳の時訪れたトルコで、23歳の男と知り合った。
当初は、胡散臭い・面倒くさいと思っていたものの、つい欲情に負けてしまう。
その後、日本人の恋人と別れて、遠距離恋愛の末、遠距離結婚をするのである。

そこから著者の「むしりとられる」人生が始まった。
飛行機代や生活費だけでなく、親族の面倒までみる。
絨毯屋を買い取る。
旅行会社を設立する。
ホテルを建設……

元夫は、日本人にはできない過剰な愛情表現と巧みな話術で、どんどんお金を引き出していく。
純情そうな青年が、残酷な天使、残忍な悪党、非道な詐欺師と化して、著者を苦しめるのだ。

13年間の結婚生活が終焉を迎えた時、3億円以上がトルコに消えた上、7000万円の借金まで背負うことになったという。

魔が差したのか?
マインドコントロールだったのか?
どうしてお金を渡してしまうのか?
なぜ?
と誰もが疑問に思うことだろう。
本書で及川さんは、「彼の保護者のような立場になってしまった」「お金の無心があまりにしつこいので折れてしまった」などとおっしゃっているのだが。

「残酷な天使のテーゼ」はカラオケランキングで6年以上ベストテンに入っている異例の大ヒット曲である。
カラオケで1回歌われると作詞家には1円入るというから、相当な収入があることが伺える。
しかし、私やあなたが歌った事による印税が、トルコに流れていたとは……

実際、及川さんは年収が1億円を越えたこともあったという。
そんな資産家の及川さんだからこその出来事ともいえるだろう。
庶民は、ない袖は振れないのだから。

終盤は無関係の私でさえ、もうやめて‼勘弁して‼と心の中で何度も叫んだほどだったので、及川さんの苦しみは相当だっただろう。
しかし全てが終わった現在、吹っ切って新しい道を歩み始め、「話のネタにできる」と笑い飛ばせるくらいになったようで、なんとか安堵して本を閉じた。

元夫は、出会った当初からこういうことを計画していたのだろうか?
いや、結果的に大変なことになってしまったが、当初は二人に真実の愛があったのだと信じたい。

黄昏古書店の家政婦さん ~下町純情恋模様~

或る一家の団欒。「昭和レトロ浪漫」恋愛小説編。


M1:なにこの本?3人とも読んだんだ。
「古書店」ってことは「ビブリア古書堂」の二番煎じ?

M2:ビブリアみたいな謎解きは出てこなかったよ。普通の恋愛小説だった。

D:俺は設定が納得いかなかったなぁ。
高校卒業してすぐ家政婦さんになりたいなんて女の子いる?
えっ、昔は一般的だったの?
でも、男1人暮らしの家に住み込みで働くんだぜ。おかしいよ。
それから、怪我してる迷子の男の子を警察に届けず家に連れて帰ったり、納得いかないことばかりだった。

H:まぁまぁ。それじゃあ「うる星やつら」はどうなるの?
ラムちゃんみたいなかわいい宇宙人いるかって話になっちゃうでしょ?
設定は受け入れなくちゃ。

M1:「懐かしく少し切ない、本屋さんとお世話係の昭和レトロ浪漫」って書いてあるけど、昔の話なの?

M2:私は現代と思ったけど。

D:お見合いの話とか、古いなぁって感じるところはあったけど、年代を特定できるようなところはなかった気がする。

H:「飲み屋の女給」「汽車」とか、「春画」「カストリ雑誌」なんて言葉まで使われているから、時代は古いのかな?
でも、会話や女の子の行動は現代そのもので違和感を覚えたなぁ。

M1:古書店が舞台なんだから、本にまつわる話が中心なの?

M2:だからぁ、普通の恋愛話なんだってば。人の話聞いてた?
古書店じゃなく、リサイクルショップでも、古着屋さんでも、小説家の家でもどこでも成立する話だよ。

M1:ふーん。じゃあ、昔の少女漫画のような甘いラブストーリーって感じ?

M2:お姉ちゃん、昔の少女漫画知ってるの?(笑)
簡単に言えば、若い素朴な家政婦さんが39歳のご主人様に惚れて迫るけど、拒否されるっていう話だよ。
男の願望に溢れた物語って感じかな?
少女漫画っていうより、青年漫画だね。
「いかがわしい方の風呂やさん」とか出てくるし(笑)
男目線ってところは、ビブリアと同じかも。

H:確かに、男が好きそうな、ドジでウブな女の子そのものだったね。

M1:何それ!ウブな女の子なのに、自分から迫るの?

D:なっ!だから設定がおかしいっていうんだよ。
ひとつ屋根の下に暮らす若いお姉ちゃんから迫られて、拒める男なんているかっつうの!
そんなのよっぽどの……
あっ、いやいや、お、俺は拒むけどね、そうなっても……

M1:読む前にそんな否定的なことばかり言わなくても……。
で、結局、この本は面白いの?

M2:面白かったよー。予想通り最後は丸く収まるしね。
分厚いけど内容が軽くてすぐ読み終わるから、読んでみたら?

H:私もそれなりに面白く読めたよ。
設定やみえみえの展開はともかく、この作家さんの文章、読みやすかった。
昭和レトロとかラノベとかの縛りを取っ払って、自由に書いた小説を読んでみたいな。

M2:それより、もうお腹すいた~!

D:おっ、今日は俺の当番だった。早く作らなきゃ。
あ~あ、こんな家政婦さん欲しいな。
違うよ!べ、別に若いお姉ちゃんが欲しいってわけじゃないよ!
料理上手な人がいたらなぁって思っただけで…
いてっ。違うって!はにぃの料理が下手なんて言ってないって!

※この会話はフィクションです。
実在の人物とは一切関係がありません。

2016年11月25日金曜日

去就: 隠蔽捜査6

理想の上司No.1 ⁉ 隠蔽捜査シリーズ第6弾。




警察官僚・竜崎が官僚らしからぬ魅力を発揮する隠蔽捜査シリーズの第6弾。

警視長・竜崎伸也。
原理・原則に則り、合理的が一番との信念を持つ。
人付き合いが苦手だが、なぜか皆に慕われている。
竜崎と周りとのやり取りが、ちぐはぐで面白い。
……

いくら言葉を連ねても、竜崎の魅力は読んだ人にしかわからないので、もうこれ以上は控えよう。

そんな竜崎が署長を務める大森署で「ストーカー対策チーム」が編成された。
その矢先、ストーカーの相談に来ていた女性が誘拐・略奪されたとの一報が飛び込んできた。
そして、相変わらずマイペースの竜崎がいつも通り収める話で、もう水戸黄門のようなマンネリと化している。
偉大なるマンネリである。

大好きなシリーズなので、このままマンネリを続けて欲しい。
いや、周りが何を言おうと竜崎はマンネリを続けるに違いないのだが。

※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~
前に「隠蔽捜査」のテレビドラマを観たことがあった。
やはり竜崎の魅力を映像で表現するのは難しいようで、伝えきれてないと感じた。
ただ、小説とは違うドラマの世界だと割りきって、それなりに楽しめた。
ドラマ以降初めてこのシリーズを読んだのだが、どうにもドラマの役者さんがちらついて困ってしまった。
変わり者の刑事・戸高の安田顕さんはイメージ通り、竜崎の幼なじみ・伊丹刑事部部長の古田新太さんはそれなりに横暴な感じが出ていたのだが、主人公の竜崎が杉本哲太さんというのはイメージと全く違ったのだ。
杉本哲太さんと言えば私の中では「あまちゃん」の大吉さん。
「あまちゃん」には古田新太さんも出演していたので、読書中、あまちゃんのイメージが溢れてきて困ってしまった。
好きなシリーズがドラマ化されるのは嬉しいが、弊害もあるのだなと感じた。

W/F ダブル・ファンタジー

ダブル不倫・ときどきつまみ食い。物議を醸した恋愛小説。



発売当初物議を醸したこの本を、この時期に急いで読んだのにはワケがある。
週刊文春で、続編の連載が始まったのだ。
この「ダブル・ファンタジー」が連載されていたときにも文春は読んでいたが、スルーしたのが今となっては悔やまれる。

いつだったか、ある週刊誌(どの週刊誌かわからない)で連載されていた村山さんの「なんちゃら」という小説に(題名も思い出せない)はまったことがあった。
その小説の中の一人がホントにいい男で、アウトローな雰囲気を醸し出したイケメン(想像)だったのだ。
連載が終わってしまって、どんなに嘆いたか!
ストーリー展開しなくていいから、イケメン描写だけでも永久に続けて欲しかったくらいだ。

それから村山さんに興味を持ち、今回の連載を読もうと思ったのだが、私はどうにも続きや続編から読むことに抵抗があり、だから色んな事をすっ飛ばしてでも本書を読もうと思ったのだ。

主人公は35歳の脚本家・奈津。
性的欲求が強い奈津は、既婚者ながら様々な男性と恋愛を重ねていく。大御所の脚本家や、学生時代の先輩とのダブル不倫。
そしてお坊さんや俳優、挙げ句の果ては出張ホストまでつまみ食いしていくという物語である。

簡単にいうとたったそれだけの恋愛話を494ページにまで膨らませ、一気に読ませるのだからすごい。
丁寧な心情描写と独特のキレイな表現はとても新鮮に感じた。
中央公論文芸賞・柴田錬三郎賞・島清恋愛文学賞のトリプル受賞作でもある。

でも、共感する部分はいくつかあったものの、残念ながらいまいち話に乗れなかったのである。

せっかくいい男とくっついたのに、他の男にいってしまうなんて。
結局、奈津はどんな男だろうと飽きて別れてしまうんじゃないの。

そう考えて、冷めた目で奈津を見てしまったのだ。
男女の関係は、ジェットコースターのような激しいものよりも、穏やかで安らげる方がいいと私が考えるのは、恋愛戦線から離脱して久しいからなのかもしれない。
ベタな甘い恋愛ものは好きなんだけどな。

インタビューでご自身も「欲求が強く、淫乱だと思っていた」とおっしゃる村山由佳さんは、現在52歳。
40歳過ぎてからタトゥーを3箇所に入れたりと、まだまだ現役感ムンムンで、2度の離婚を経て現在新たなパートナーと同居中なんだそう。

そんな村山さんが「行き止まりのない性愛を描き尽くす」という続編は、「ダブル・ファンタジー」から9年後。43歳になった主人公・奈津の恋愛が再び始まるのだ。

今は、「体以上に心が満ち足りている」という村山さん。
円熟した大人の関係を築くのか、それともまたまた激しい欲望の渦に巻き込まれるのだろうか。



※裏表紙を見てびっくり‼
ヘアヌードだったのです。
これではカバーなしで読めません。

※本書が「ダブル・ファンタジー」、続編の題名は「ミルク・アンド・ハニー」。
ジョン・レノンとオノ・ヨーコだったんですね。

2016年11月14日月曜日

飛田をめざす者: 「爆買い」襲来と一〇〇年の計

耳年増になってどうするんだろう!現場復帰した著書の飛田シリーズ第3弾。

杉坂圭介著
徳間書店



※飛田新地とは、大阪市西成区にある料亭という名の「ちょんの間」が160軒ほど集まる一帯を指す。
料亭では、ホステスさんと客が偶然にも恋愛関係になって遊ぶという、なんとも都合のいいシステム。
料金は飲食代という名目で、15分11000円~。

「飛田で生きる」「飛田の子」で料亭経営者・スカウトマンとして、飛田を見つめてきた著書の飛田シリーズ第3弾である。

女の子のスカウトマンをしていた著書は、仕事に行き詰まりを感じ実家に戻っていたが、誘われて今度は共同管理者として再び飛田に戻ってきた。

国際化の波が飛田新地にも波及し、著書はインバウンドを取り込むべく奮闘する。
スマホの翻訳機能を使いながら交渉したり、元CAの「女の子」を雇い入れ、徐々に外国人客を増やしていく。
最近は中国人観光客のツアーにも組み込まれ、ハルカス・通天閣に行ったあと、女性は免税店、男性は飛田というコースがあるという。
禁止の写真撮影をしたり、女の子に対する乱暴などトラブルも増えてるらしいが。

「なんでこんなところで働いてるの?」
「真面目な子は、こんな仕事したらだめだ。」
「趣味と実益を兼ねてるんじゃないの?」
女の子に対し、終わったあとにそんなことを言う客も多いのだそう。
著書は、「お世話になっておきながら感謝せず、その仕事を否定し、アホな上から目線で説教を始める男の不愉快な言葉に、女の子たちは傷ついている」という。
男性客は、そんな野暮なこと言わずにとっとと終わらせて(早いのが一番喜ばれる)、「いい人でよかった」と思わせるようにしたら一生懸命サービスしてくれるというから、参考にしてみたらどうだろう。

女の子が稼ぐコツは、
・微笑むこと、姿勢をよくすること、大きい声を出すこと。
・自信をもって、全身でお客様に笑顔を振り向ける。
・技術よりも客の心をつかめ。
ふむふむ。
なるほど。
って、無駄に耳年増になってしまうが、いつか役に立つだろうか。

飛田新地のことを知らなかった頃が懐かしい。
あの頃は、
そんなところがあるのか!
違法じゃないのか!
男はそんなんで満足するのか!
と初めて知る実態に驚いてばかりだった。
今は、読みやすい文章に惹きつけられ、サクサクと読み進めてしまったが、これでいいのだろうかと暗澹たる思いが残るのである。

それにしても、男は全て含めて15分で本当に満足するのだろうか?
虚しさだけが残る気がするのは私が女だからなのか?
いくら読んでもそこだけは全く理解できないのである。
そういうところに通う男性は、そこら辺のおばちゃんたちにご奉仕して、あんなところやこんなところを舐めまわすことができるのか、一度想像してみて欲しい。

※本書で驚いたこと

・杖をついたおばあさんの「女の子」がいまだに現役で、根強い固定客がついている。

・飛田新地は生活圏内から隔離された場所にあるが、松島新地(大阪市西区)は街中に溶け込んでいて、お店とお店の間に普通の家やマンションが建っているという。
獲物を狙う女の子が微笑む店の前を、学校帰りの小学生や買い物中の主婦、そして品定めするギラギラ男性が通るカオス‼

2016年11月8日火曜日

ピカソになりきった男

その絵画、本物ですか?贋作者が語る贋作の作り方。

ギィ・リブ著
キノブックス



「その朝、俺はピカソだった。」という一文で始まる本書は、贋作作家として、ピカソ、シャガール、マティスなど有名画家の贋作を製作していた男の告白である。

1948年フランスで生まれたギィ・リブは、娼館を営む両親のもとで、教養・芸術の類いとは無縁に育つ。
その後、家出して路上生活をしながら荒んだ生活をしていた。

そんなギィ・リブだが、幼い頃から絵を描くことが好きで、巡りあった人々から審美眼を学び、図案師の修行などで絵画の腕を鍛えていく。

その後、贋作製作の道に進んでいくのだが、贋作といっても本物の模写だけではない。
画家が「描いたかもしれない新作」までをも生み出すのだ。

本書のクライマックスはその製作過程にある。
「良い贋作を作るには、偽造するアーティストについて、そのテクニックから、彼個人と周りの人の話まで、完全に知らないと不可能だ」と語るギィ・リブは、ありとあらゆる文献を漁り、その当時の画家の心理状態まで調べ上げ、当人になりきる。
画材ももちろん当時のものを使い、古く見せる工夫をする。
読んでいると、その努力、その飽くなき探究心、その憑依ぶりに感動すら覚えてしまうのだ。
でも残念ながら、その努力の方向が間違ってるのだが。

画家のサイン、証明書、画商の暗躍……
アートの世界の伏魔殿ぶりにも驚くばかりだ。
自分が模倣されているのを知りつつ順応している画家や、画家同士で模倣しているケースもたくさんあるらしい。
画家本人が贋作を本物だということすらあるのだから、もう何がなんだかわからなくなってくる。
この世界に「絶対」はないのだろうか。

ギィ・リブの贋作の多くが、現在もなお「本物」として市場に流通しているのだという。
あなたが感動しているその絵画も、もしかしたら贋作かもしれない。

※読んでいると必然的に彼の「作品」を見てみたくなるのだが、検索しても出てこなかった。
当たり前か……

2016年11月7日月曜日

頸椎症、首こり、肩こりに! 山田朱織のオリジナル首枕 Plus (主婦の友ヒットシリーズ)


私の首痛顛末記。首まくら、オススメです
山田朱織著
主婦の友社
 



あれは10年ほど前のことでした。
跳躍力に自信があった私は、ある場所で助走をつけてジャンプしたのです。
そこは石畳の広場で、私はスカートにミュールという格好でした。
ジャンプしようとしたその瞬間、足元が滑り体が一瞬宙に浮き、地面に叩きつけられました。
その時、背中と後頭部を強打してしまいました。
誰かに強要されたわけじゃなく、むしろ皆が止めたにもかかわらずジャンプしたのですから、100%自己責任です。
その時からむち打ちのような症状に悩まされ、鍼灸院に通いながら何とかやり過ごしていました。 

そして2014年の夏、ある方から形も座り方も特殊な椅子を紹介されました。
姿勢が良くなり、首の痛みも改善するかもと期待を込めて、1週間無料で試してみることにしました。
その椅子と私との相性が悪かったようで、座り始めて23日で首が痛くてたまらなくなりました。
一番ひどいときは、立っていると1時間ほどで耐えられなくなり、2時間横になるというのを繰り返していました。
その椅子はすぐに返したものの、それ以降首の痛みがひどくなるばかりでした。
自分の姿を鏡で見ると、首が横にずれて、首の筋や鎖骨が左右でだいぶ違うのがわかります。
どうやら歪んでしまったようです。(今も歪んだままです。)
カイロプラクティック、整体、鍼灸院と掛け持ちをしても良くならず、それでもあちこち通いながら、一生このままだろうかと落ち込んでいました。 

そんなとき、本屋さんで目に飛び込んできたのが、本書の前に販売された「頸椎症、首こり、肩こりに!山田朱織のオリジナル首枕」です。
 

 
最初はこんなものでよくなるのか半信半疑でしたが、「巻くだけで首の悩み解消!」の文字に藁にもすがる思いで購入しました。 

「整形外科医であった父が考案し、母が手作りで作っていた」というものを著書が改良したオリジナル首枕が付録としてついています。 

ベルト状になった首枕を首に巻くと
・首の負担を軽くし、しっかり支える
・医療器具である頸椎装具とは違い、首が自由に動かせる。
・首まわりを温め、血流がよくなりコリや痛みが楽になる。
というのです。
 
さっそく巻いてみると、アゴクイされたように顎が上に上がる感覚になりました。
それまでの顎の位置が下に向きすぎていたようです。
違和感はありましたが、とりあえず装着していると、痛みが和らぎとても楽になりました。
それに、首が正しい位置に矯正される気がします。
肩こりも少し改善されました。
自覚はなくても肩が力んで上に上がっていたのが、首枕によって下に下がったおかげかもしれません。
これはいいと直感し、続けることにしました。 
首枕を装着してから、首の痛みが劇的に軽減されました。

でも、取り外しができるカバーは洗濯可能とはいえ、乾かしている間にも使いたい、傷んだり破れたりしたとき用に予備も欲しいと思い、もう一冊買おうとネット書店を覗いてみると、同じ著書のタオルを使った首まくらが紹介されている本を発見しました。
タオルなら毎日洗えるし、気軽に替えられると早速その本を購入しました。
 


こちらの本には、首の構造から首枕の利点までより詳しく解説されていて、タオルを折って自分で首枕を作るやり方も載っていました。
早速実践し、家ではタオル首枕、外出中は痛くなったら装着するために紺色の首枕をカバンに忍ばせています。 

そして最近、「首枕Plus」が出たことを知り、また購入したのです。
紺色の首枕より中綿のボリュームが増え、体格のよい人も使えるようにと本体が2㎝長くなっています。 

左から首枕plus、タオル首枕、ひとつ前の紺色の首枕

 
ずっとつけていると首の筋力が弱まってしまうので、症状が治まってきたらオンとオフを使い分けましょうとの注意書きがあります。でも私の場合、今でも痛みがあるので家では寝るときとお風呂以外ずっと装着しています。 

苦痛を軽減してくれたこの首枕。
私にとってはなくてはならない存在です。

姿勢が悪い方、肩こり・首こりに悩んでいる方にオススメします。

2016年11月5日土曜日

聖の青春

純真無垢な青年の魂の叫びがここにある。


大崎善生著
講談社
 


重い腎臓病を患いながらA級にまで登り詰めた棋士・村山聖の一生を追ったノンフィクションである。
ページをめくり始めるとともに、お別れのカウントダウンが始まるのだから、悲しみのバイアスがかかってしまったのかもしれない。読みながら涙が止まらない何日かを過ごした。

5歳で重いネフローゼを患っていることが発覚し、小中学校時代の大半をベッドで過ごした聖は、将棋と出会い、すぐにのめり込んでいく。
幼いながら、驚異的な集中力と勝負にこだわる負けず嫌いな性質からみるみる上達し、その後17歳でプロの棋士となり、名人の座を目指していく。

聖を含め、幼い頃の天才たちのまさしく天才ぶりには、ゾクゾクと鳥肌がたつ。

そして師匠である森信雄と出会い、歯も磨かず、顔も洗わず、お風呂にも入らないという無頓着さがお互い合っていたのか、固い絆で結ばれていく。
上下関係、しつけ、モラル、それらをお構いなしに無視した常識はずれの師匠と弟子は、親子以上の関係を築いていくのである。

家族の献身的な愛情と贖罪の気持ち。
ときにコミカルにもみえる師匠と弟子の関係。
将棋会館まで送ってくれる近所の人。
聖を取り巻く人々とのエピソードは、そのどれもがズシンズシンと心に響いてくる。

人々は言う。
「あんなかわいいやつはいなかった」
「あんなに面白い人はいなかった」
「あそこまで純粋な男がいるだろうか」

お金や地位には全く興味を持たず、勝負に文字通り命をかけて臨む聖。
幼い頃から死を身近に感じてきた聖の、魂を絞り出すような純粋な叫び。

聖に「東京の師匠」と親しまれ、部屋の合鍵や全財産が入った預金通帳まで預かった著者にしか書けない、村山聖の青春がここにある。

2016年11月4日金曜日

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

永田カビ著
イースト・プレス


キャバクラもホストクラブも、風俗関係も行ったことのないウブな私は、レズ風俗というものがあることすら知りませんでした。
そこでこの題名に惹かれて、興味本位で読み始めたのですが……

本書は、pixiv(イラストや漫画を中心としたSNS)で話題になったものを書籍化したものです。

28歳。
独身女性。
社会人経験なし。
誰かと付き合った経験、性体験なし。
そんなカビさんが、レズ風俗に行った体験を語るコミックエッセイです。

高校卒業後、大学を半年で中退し、アルバイトをしながら自傷行為や摂食障害を繰り返していたカビさん。
親との関係に悩みながら、母親とベタベタしたいという欲求を持っていました。
そして「誰でもいいから抱きしめてほしい」と痛烈に思い始め、レズビアン風俗に行こうと決意するのです。

読んでいるとこちらまでカビさんの苦しみが伝わってきます。
ご本人は、読者が想像つかないくらいもっともっと苦しんでいるのでしょう。

でも、風俗に行く決意をしたカビさんは、「行くからには」と身だしなみを整え始めます。
それによって、心も前向きになっていくのです。

これだけ苦しむ姿をみていると、レズ風俗にたどり着いたのもなんとなく頷ける気がします。

抱きしめられたい。
人のぬくもりがほしい。
そう考えたとき、周りに誰もいなくて風俗が頭に浮かぶ。
でも、男のゴツゴツした毛深い肉体より、母性を感じる柔らかな女の肌の方がいいかもしれない。
直接的に性を感じてしまう男より女の方が、敷居が低い。
そう考えたのではないでしょうか。

とはいっても、風俗は風俗。
2時間19000円也で、あんなことやこんなことも当たり前のようにするのです。

カビさんがあんなことやこんなことを本心から望んでいたのかはわかりません。
持ち時間いっぱい、裸でハグしてもらえば、幸せホルモン・オキシトシンが大量に出て、多幸感を感じ満足したのではないかと個人的には思うのですが。

その後カビさんは、体験を公開することによって自身の内面を見つめ、前に向かって歩き始めていきます。

それでもまだまだ危うさを醸し出しているカビさん。
こうして世の中に名前が出ると、叩く輩はたくさんいます。
だからエゴサーチなどしないで、人に流されず、自分の足で自分の道を歩んでほしいと思います。
他人の優しさは励みにはなっても、本人しか苦しみから抜け出すすべを持たないのだから。

本書によって、共感し救われる方もたくさんいると思います。。
カビさんが心やすらかに暮らせますようにと願わずにはいられません。

2016年10月29日土曜日

すぐわかる正倉院の美術―見方と歴史

今年も正倉院展の季節がやって来た‼

米田雄介著
東京美術


めっきり秋らしくなりましたね。
そう、秋と言えば正倉院展ですよね。
毎年楽しみにしています。
いつも帰りに正倉院展に関する本を一冊と、抹茶味のお菓子を買うのが私のお約束。
その本を翌年までとっておいて、正倉院展に行く前に読み、気分を盛り上げるのです。

この「すぐわかる 正倉院の美術」は、去年訪れた時に購入しました。
著者は、宮内庁正倉院事務所長をされていた方です。

正倉とは、「大事な品物を収納しておく倉」という意味の普通名詞だったって知ってました?
そんな豆知識から、
双六賭博が盛んで、持統天皇の頃(689年)から何度も禁止令が出されていたにもかかわらず、借金に苦しむ人が後を絶たなかった、
などのこぼれ話まで、正倉院の宝物にまつわるあれこれが、易しく解説されています。

そしてメインはなんといっても宝物の写真と解説です。
小さいながらも十分楽しめるカラー写真と、由来・材質・技法などが簡単に説明されていて、正倉院気分を盛り上げてくれます。
宝物ひとつひとつにはそれだけで本が書けるくらいの歴史がありますが、そんなお宝が無数に(約9000点とも数十万点とも言われている)あるのですから、駆け足の説明になってしまいますが。

今年の目玉である「漆胡瓶(しっこへい)」はもちろん、主だった宝物は網羅されていて、専門家でもなんでもない、ただの正倉院展好きの私にはぴったりです。

そして今年も大混雑のなか、行って来ました。
贅を尽くした宝物、超絶技巧の緻密さ、人の息吹を感じる残欠。
昔の人に思いを馳せ、来年用に一冊とお菓子を購入して、大満足の1日でした。

宝庫と宝物が現存するのは、奇跡や幸運のなせるわざではない。今も昔もその管理に当たる人たちが、つねに保存のために努力を積み重ねることで、さまざまな突発的な事件・事故に対応してきたからなのである。

こうして毎年楽しむことができるのは、多くの方のおかげなのですから、感謝しないといけませんね。
ありがとうございます。

※正倉院展はお一人さまで行くにかぎります。同行者が帰りたそうな雰囲気だったり、別行動しても待たせる時間が気になってしまい、ゆっくり自分のペースで見られないからです。

今年の正倉院展ポスター
メインの「漆胡瓶」

月餅ではなく「日餅(にっぺい)」
抹茶味の生地
中にあんこ

2016年10月27日木曜日

月は無慈悲な夜の女王

月が地球から独立を宣言した!!SFに挑戦第2弾

ロバートA・ハインライン
早川書房

 

池澤春菜さんの書評集「乙女の読書道」を読んで、今まであまり読んでいなかったSFに挑戦してみようと思ったのです。
春菜さんが初心者におすすめとおっしゃる「夏への扉」を読んでみて、こういう話なら大丈夫、次に何を読もうかなと手にとったのがこの「月は無慈悲な夜の女王」でした。
「夏の扉」と同じくハイラインの作であり、ヒューゴー賞受賞の傑作ということで間違いなく面白いだろうと思ったのです。

現物を見て驚きました。
679ページの分厚さ、文庫本にして1200円超です。
しかも、翻訳物にはつきもの登場人物一覧表がついていないのです。
SF初心者なのにこんな大作を読めるだろうか?と不安になりつつも、まぁ途中で挫折してもいいやと開き直って読み始めました。

2075年、地球政府の圧政に苦しんでいる月の住人たちが独立を宣言し、地球に立ち向かっていく・・・というお話です。

主人公はコンピューターの技術者であるマニーです。
彼は、なんでもできる強いヒーローというわけではなく、飄々とした感じの人物です。
行政府の記録に「政治色がなく、あまり聡明でない」と書かれていたほどです。
そんなマニーですが、自意識を持った巨大コンピューターの「マイク」と出会い、成り行き上先頭に立って地球に対抗することになったのです。

コンピューターの「マイク」がいつ人間たちを裏切るのだろうかとドキドキしながら一気に読んでしまいました。
(結果的には私の予想は大幅に外れてしまいましたが。)

ストーリーは地球VS月という単純な構図なのでわかりやすく、登場人物も一度にたくさん出てくるのではなく徐々に増えていきますし、「マニー」「ワイオ」など短い名前が多いので、登場人物一覧がなくても大丈夫でした。(→これ私にとっては結構重要なのです。)

1965年に発表されたものだそうですが、現在より未来である2075年の設定だからでしょうか、今読んでも全く違和感がありません。
ただし、訳は1976年のものですからさすがに古く感じる箇所もあり、例えばコンピューターとするところが「計算機」となっていたりします。

SFに手を出さなかった理由を私なりに考えてみると、
・その独特な世界観に入り込むまでは、あまり面白さを感じられない。
・理系の難しい話が出てくる。
ということかもしれません。

読んでいけば自然とその世界観に入り込めるし、理系の話は「ふんふん、そうなんだ。」と気軽に読み流していけばいいと気がつきました。
これだけの長編を面白く読めたことから、次も古典を中心に少しずつSFに挑戦していきたいと思います。

つづきの図書館

王様!若い娘じゃなくたって、突然裸で出てきたら驚きますよ!
  
柏葉幸子著
講談社



桃さんは、内気で不器用な40過ぎの女性。
わけあって、生まれ故郷の図書館に司書として勤め始めました。
その図書館で、「はだかの王様」の本から出てきた王様と出会いました。
王様は、自分の本を何度も借りた少女のその後、つまりその子の「つづき」が知りたいと言うのです。
最初はびっくりしていた桃さんですが、王様と協力して「つづき」を探っていきます。
その後、おおかみやあまのじゃく、幽霊までもが、自分の本を読んだ子どもたちの「つづき」が知りたいと桃さんに頼んでくるのです。
しかも、桃さんの家に居座りながら!

登場人物たちがとても魅力的ですぐに夢中になりました。

だってね、王様なんか 「その歳だ。今までに不思議なことの1つや2つ、驚いたことの3つや4つ、なかったとは言わせん。わしを見たぐらいで、若い娘でもあるまいに、悲鳴などあげんでくれ。」 なんて言うんですよ!
ビミョーなお年頃の桃さんに向かって。
しかも、自分は裸なのに威張った王様口調で。

あまのじゃくも桃さんのことを 「おにばばぁ!」 と言ったり、小さな男の子ですから落ち着きなく飛び回ったり……
本の中から出てきたみんなが桃さんを困らせます。
だけどみんな桃さんが大好きで、桃さんも彼らのあしらい方に慣れていきます。
そのやり取りもクスクス笑っちゃうほど面白いのです。
内気だった桃さんも、みんなと接しているうちに心が溶けてきて、大胆なことまでしてしまいます!

突然やって来たお別れは、寂しくてホロっと涙が出ました。
でも、だんだんとピースがはまっていき、最後は拍手したくなるのです。

楽しくて面白くて、ちょっぴりせつない物語。
大好きな、大切な一冊になりました。

  ※ちなみに私が子どもの頃、一番ぼろぼろになるまで繰り返し読んだのは、素敵な物語……と言いたいところだけど、「からだのヒミツ」でした。
ヒトちゃん、私のつづき知りたがってるかな?
 

正しい恨みの晴らし方

このうらみはらさでおくべきか!!



マレーシアに住んでいた時のこと。
シンガポール人の友人が、インドネシア人のお手伝いさんに「黒魔術」をかけられていると怯えていたことがあった。
そのお手伝いさんが、ケトルに得体の知れない何かを入れておまじないを唱えたり、部屋の片隅に草のようなものをお供えしたり、雇い主である友人に暗示をかけようとした、と言うのである。
にわかには信じられなかったが、今でも黒魔術は一部に残っているようだ。

日本でも藁人形に五寸釘は定番(?)だが、人に迷惑かけずに気がすむのならそれはそれで恨みを晴らす有効な方法かもしれない。

本書の題名は「恨みの晴らし方」だが、藁人形系の話ではなく、心理学と脳科学の観点から恨み・妬み・嫉み等のネガティブな感情を解き明かすという内容である。

人は能力や格が違う相手には憧れこそすれ妬むことはまれであり、自分と同等か僅差だと思われる人を羨んだり妬んだりするという箇所は妙に納得した。
確かにスーパーモデルの体型を妬むことはないが、仲間だと思っていた友人がダイエットに成功した時はショックが大きかった。

ネガティブ感情における男女の性差も興味深い。
男性の持つ不満は、相手が正直さ・誠実さを見せることで沈静化し、女性の場合はあなたを理解し受容したというメッセージを伝える事が重要であるという。
そうなのだ。
女性は愚痴を言ってストレスを発散しているのだ。
男性の皆さん、女性の愚痴は具体策や解決策を提示して無理に解決しようとせず、相づちを打って聞いてあげてほしい。

ネガティブな感情は、人間なら誰しもが持つ自然な感情であり、人間にとって重要な意味があるという。
だから妬みを感じたとしても恥ずかしがったり罪悪感を抱いたりせずに、なぜその感情が起きたのか、自分の本当の目的は何だったのかを冷静に分析すれば、コントロールすることができるのだという。

個人的に一番気に入ってる恨みの晴らし方は、北大路公子さんが著書「ぐうたら旅日記」でおっしゃっていた「呪い」である。
ネガティブな感情を抱いた相手に赤っ恥をかかせるような呪いをかけるのだ。
どんな呪いをかけようかと考えるだけで楽しくなって、ネガティブ感情が吹き飛んでしまうのでオススメである。

少女ソフィアの夏

トーベ・ヤンソン著
講談社
 



 祖母と孫娘の島での暮らしが描かれた22編の短編集。
そう聞くと、「ああ、おばあさんが孫娘を優しく見守るほっこり系のお話ね、わかるわかる。」なぁんて思うでしょ?
これが違うんだなぁ。
このおばあさん、普通じゃないんだから。

冒頭で、孫娘がいきなり「おばあちゃんいつ死ぬの?」なんて聞くからびっくりしちゃった。
だってなんの状況説明もなくて、「あなたは誰?そこはどこ?」の状態だったのに、そんなこと言うんだもん。
この二人の関係大丈夫?って心配するのわかるでしょ。

読んでいくうちにどうやら、ママは亡くなってパパとおばあちゃんと孫娘ソフィアと3人で、夏の間だけ島に来ているってわかるんだけどね。
でもパパの存在は薄くっておばあさんのキャラが濃いから、題名は「ソフィア」だけど主人公はおばあさんだと私は思うの。

鳥が死んでいるのを見つけた時に孫娘ソフィアが「埋めてやらないの?」と聞くと、おばあさんは「そんなことしなくていいんだよ。しぜんに葬られるの。」って答えるの。
これでいっぺんにこのおばあさんのファンになっちゃった。

ときにはパパとの約束を破っていいのか不安がるソフィアに「眠っているからわかりっこないよ。」と言って煽るおばあさん。
「家宅侵入?」と孫娘に言われながらも知らない人の家に鍵を壊して入るおばあさん。
孫娘といかさまを駆使しながらトランプをして、いつも喧嘩になってしまうおばあさん。

70歳も年下の孫と
本気で一緒に遊んで、
本気で喧嘩して怒って、
本気で向き合うおばあちゃん。
二人の独特な世界が展開されていくのを見ていると、祖母と孫だけど相棒とか親友のようにも思えてくるんだから。

べったりしていない二人は、子どもの気まぐれや残酷さ、年寄りの老いや頑固さも隠さず、それでいてとてもいい関係で見ていると微笑ましく思えてくる……あれ?ほっこり系じゃないって最初に言ってたのに、まぁ、いっかぁ。

そして、私もいい歳なのに童心にかえって一緒にわくわくしたり、知らない場所・知らない時代・知らない風景なのになぜか懐かしく、ノスタルジックな気分になっちゃったりするのよねぇ。

簡潔な文章で挿し絵もほとんどないけれど、だからこそ頭の中に自然豊かな島の風景が浮かんでくる物語でもあるの。
まるで動く絵画のような。

でも、私が思い浮かべる風景とあなたが思い浮かべる風景はきっと違う。
読んだ人それぞれの頭の中に大切な「夏」が描かれていく……そう思える素敵な世界だったよ。

※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~

縁あってこの本を手に取り、きっと素敵な本だと確信したので、先入観を持たずに読もうと1ページ目からゆっくり読んでいきました。
あとがきを読んで、初めて色々わかりました。

本書はムーミンでお馴染みのトーベ・ヤンソンさんが「私の書いたものの中で最も美しい」とおっしゃる物語です。
「おばあさん」のモデルはトーベ・ヤンソンさんのお母さん、「ソフィア」は姪っ子で、舞台となっている島は彼らが毎年夏に4ヶ月ほど過ごす実在の島だそうです。
だから、思い入れがあるのでしょう、島の自然が生き生きと描かれています。
本当に簡潔な文章で、情緒たっぷりとか細かい情景描写とかないにも関わらず、不思議と景色が浮かび上がって来るのです。
これがトーベ・ヤンソンさんの魅力なのかな?と初心者のくせに思ったりしました。

2016年10月14日金曜日

希望荘

自分がこんなに根に持つタイプだとは(>_<)

宮部みゆき著
小学館



「誰か」「名もなき毒」「ぺテロの葬列」に続く、杉村三郎シリーズの第4弾。

今回は、杉村三郎が離婚後探偵事務所を立ち上げ、4つの事件を解決する短編連作集となっている。

探偵が事件を解決する物語なら、別に杉村三郎じゃなくても新たなシリーズ立ち上げたらいいんじゃないの?

4作目まできてから探偵事務所を立ち上げるって、ご都合主義のような気がするけど?

確かに杉村は「事件を引き寄せる」力があると周りから言われている。
でも、ほとんどの人が生涯一度も遭遇しないような大事件に何度も巻き込まれるとは、ちょっと不自然過ぎやしませんか?

と、グチグチこぼしてしまったのには訳がある。
私は、前作「ぺテロの葬列」で杉村三郎が離婚したことに、納得していないのだ。

本書はいつものように、暗く陰湿でやりきれないような事件を、気弱で優しい杉村三郎が解決するという内容で、読みごたえがあった。

でも、大金持ちのお嬢様と結婚して相手方に取り込まれても変わらない自然体な態度、
しなっても丈夫な細い柳の枝のような、
気弱だけどやる時はやる男・杉村三郎のキャラクターが好きだったのだ。
今多コンツェルンの入り婿状態という設定が面白かったのだ。

それなのになぜ私に相談もなしに離婚してしまったのか?
こんな愛妻家のいい男がいるのに、なぜ浮気なんかするかなぁ。

もしかしたら、ヨリを戻すか?とちょっと期待していたが、本書を読んだ限り可能性は低いだろう。

あー!
自分がこんなにねちっこい、根に持つタイプだとは思わなかった(>_<)
それだけ杉村三郎に愛着が湧いていたんだな。

「事件は凄惨だが、杉村三郎や取り巻く人々があたたかく、やりきれない思いを癒してくれる」という、このシリーズ最大の魅力は、本書でも健在だった。
だから次回作も読むだろう、ほんのちょっと元サヤに戻ることを期待しながら。

2016年10月11日火曜日

君の名は。 Another Side:Earthbound

映画「君の名は。」の楽しみ方に関する一考察。

新海誠・原作
加納新太・著
角川スニーカー文庫




大ヒット中の映画「君の名は」を観に行ってきました。
事前情報の通り、景色の映像が綺麗でストーリーも飽きさせず、子どもからお年寄りまで万人受けするのも頷けます。
ただ、うるっときた場面でまさに涙が溢れようとするその瞬間、隣でダーリンが号泣し始めたのです、ズルズルと音をたてながら!
そうなるとこちらは興ざめで、泣く気が削がれてしまい、モヤモヤと不完全燃焼気味になってしまいました。

この映画に関して、ある方がこの「君の名は。 Another Side:Earthbound」を読まないと映画が理解できないと力説してらっしゃいました。
純粋に映画を楽しめたらそれで十分なんだけどな。
きっと買っても一度読んでおしまいだからもったいないなぁ。
と思っていましたが、映画を観たらやはり気になってしまい、その足で本屋に走り、購入してしまったのです。

本書は4章に分かれていて、本編の外伝といった位置付けです。

第1話、女子高生に入れ替わってしまった男子高校生が、着けたこともないブラジャーに戸惑う、男目線のサービス物語。
第2話、友人のテッシーの目線から、由緒ある神社の娘として生まれた苦悩や田舎暮らしの生活。
第3話、妹の四葉から見た家族の様子。
と続いたあと、問題の第4話です。

亡くなった母となぜか民俗学者 → 宮司 → 町長と職業を変えていった父の物語です。
ここで初めて、二人の出会いを始めとした過去の出来事が語られます。

ああ、そうだったのか。
だからなのか。
ここまで壮大なストーリーだったのか。

と驚きました。
そしてこれらを踏まえて、もう一度映画を観てみたいと思ってしまうのです。
映画を観て本を読んで、また映画を観たいと思う映画!
新海誠さんはここまで想定していたのでしょうか?
それなら恐るべきマーケティング力です。

さて、私が考える「君の名は。」の楽しみ方ですが、

①たっぷり堪能したい方

映画

小説(活字でストーリーを確認する)

本書(違った見方や過去の出来事を知る)

映画

②堪能したいが、節約もしたい方

映画

本編のあらすじ(ネタバレ)サイト

本書のあらすじサイト

映画

③別に興味ないけど流行ってるから知識として知っておきたい方

予告編等の映像でイメージをつかむ

本編のあらすじサイト

④テレビ放映まで待てばいいと思う方

待つ

⑤何の興味もない方

何もしない

他にも映画を1回観るだけという手もありますが、それだけだともったいないのです。
奥にはもっと深い物語があったのだから。

さて、あたなならどうしますか?

~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※

 石原さとみさん主演の「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(フジテレビ)を楽しみに見ていますが、校閲の仕事とは誤字脱字のチェックだけでなく、内容の矛盾や表現の誤りを正すことも含まれるそうです。
本書では急ピッチで出版されたのか、校閲が甘い部分が見受けられました。
例えば、パジャマ姿で髪の毛をタオルで包んだ三葉がと書かれているのに、イラストはパジャマは着ているものの髪の毛はタオルで包んでいるどころか濡れている感じもありません。
そして、髪のセットに異常にこだわっているのに、そのままふて寝してしまうのです。
女子高生が濡れたまま寝るの!と驚いてしまいます。
私が校閲ガールだったら、髪は乾かした状態に変えてもらうように指示するんだけどな。

2016年10月10日月曜日

コンビニ人間

コンビニ行く度に店員の働きぶりをチェックしちゃいそう

コンビニ人間
村田沙耶香著
文藝春秋




主人公は、幼い頃から変わっていると言われ続けてきた私。
小鳥が死んで皆が泣いている中持ち帰って食べようと言った時も、ヒステリーな先生を黙らせるためにスカートとパンツを勢いよく下ろした時も、なぜか周りから注意を受けたが、私には納得できなかった。
両親は「どうすれば治るのか」と言いながらもそんな私に優しく、愛情たっぷりに育ててくれた。
私はトラブルを避けるため、極力しゃべらないように、自分から行動しないようになっていく。
大学生になり、私はコンビニでアルバイトを始める。
マニュアル通りに動き、周りの話し方や服装を真似してみた。
怒りに同調すると相手は喜んでくれ、連帯感が生まれることを覚えた。
コンビニ店員となった私は、初めて普通の人間になれたような気がした。

周りから異質扱いされ、生きづらさを感じる女性が主人公の芥川賞受賞作である。

著者の村田沙耶香さんは、現在5軒目のコンビニに勤務されていて、その全てがオープニングスタッフなんだそう。
内気で、人に溶け込めるか不安だからという理由らしい。
そんな繊細な村田さんのコンビニ愛に溢れた小説である。

「普通って何だろう」と問題提起している小説と考える人がいるかもしれない。
発達障害、貧困問題に絡め、現代を映した社会派小説と捉える方もいるかもしれない。
でも、私は単純にストーリーを楽しみながら読んだ。
主人公の人間観察の鋭さ、自分の価値観を押し付けてくる周りの人との平行線、そのズレ感が面白いのだ。

店長のことを社畜、私のことは社会の底辺と罵るサイテーなクズ男も、他の小説だと最後までイラッとくる嫌な人で終わりそうだが、ここではだんだん笑ってしまう可哀想な奴に思えてくる。

読んでいて「この方の文章好きだな」と思う。
合理的な主人公の一人称で語られているからか、情景描写が少なくすっきりした印象が心地よく感じたのだ。

時にクスッと笑ってしまうこの小説、文学賞とか関係なく本当に楽しく読了した。

村田沙耶香さんの他の小説はどうなのだろうか?
気になるので、また手に取るだろうなと思う。

唐牛伝

60年安保闘争を闘った男の宴のあと。

唐牛伝
佐野眞一著
小学館




1960年のいわゆる安保闘争において、全学連委員長としてシンボル的存在だった唐牛健太郎を中心とした「闘士」たちの評伝である。

「闘士」たちはその後、華麗なる変身を遂げていく。
ブントの頭脳として知られ、のちにノーベル経済学賞に最も近い日本人と呼ばれた男。
保守派の論客として名を成した者。
日本を代表する高名な文芸評論家となった者。
地域医療の発展に寄与した者。
その陰に隠れて、唐牛健太郎は、全てを断ち切るかのように表舞台から姿を消す。
その唐牛の足跡を、出生地・函館から徳州会・徳田虎雄の参謀になり病に倒れるまで、著者は丹念な取材で追っていく。

樺美智子さん始め傷ついた若者たちの責任を生涯の重荷として背負い、
自分を崇めたてる周囲の目を気にし、
芸者の庶子として生まれた負い目を感じながらも、
「闘士」としてのイメージとは違って明るい笑顔で人々を惹き付けながら駆け抜けた47年の太く短い生涯が浮き彫りにされていく。

全学連の周りには、左翼・右翼だけでなく大物政治家、公安、やくざ、陸軍中野学校出席者など謎めいた人物が蠢き、利用し利用される様子を読んでいると、驚きと疑問で頭がこんがらがってくる。

唐牛が「太平洋ひとりぼっち」の堀江謙一氏とヨット会社を設立した際、人づてに山口組田岡一雄組長に資金提供を頼むと理由も聞かずに「おう、わかった、わかった。」と言ってすぐにお金を提供されたくだりには唖然としてしまった。
唐牛にはそれだけ人間的魅力があったのだろう。

題名は唐牛伝となっているが、唐牛健太郎のことだけではなく、全学連の仲間たちのその後にも触れられている。
また、今ではほとんど聞かれなくなった左翼用語や流行語が出てきたり、当時の風俗が垣間見れ、SEALDsとは違った泥臭さ満載である。
私を含め安保闘争を知らない世代には新鮮味を感じるのではないだろうか。

最近の佐野眞一氏の著作は自己顕示欲が見え隠れして読み辛い部分があったが、本書は細かいエピソードまで盛り込まれ、骨太で大変読みごたえがあった。
ご本人もプロローグで述べているように、橋下徹氏の一件で休筆を余儀なくされ、心機一転・再スタートのつもりで書いたからなのだろう。
ただ、亡くなられた関係者も多く、また公安や世間の目を気にしてかあるいは佐野氏に人望がないためなのか、取材に応じない方々もいたため、消化不良気味なのが残念だ。

2016年10月4日火曜日

あきない世傳金と銀 源流編 早瀬編

読まなあかんでぇ!思わず大阪弁になっちゃう⁉大阪商人の成長物語。



(東京生まれの東京育ちですが、影響されてところどころなんちゃって大阪弁になってしまいました。お許しください。)

「みをつくし料理帖」シリーズが終わって、寂しい寂しいばっかりゆうてたらあきまへん。
澪は優しい仲間に助けられ、今めちゃくちゃ幸せなんや、ホンマに。
夢に向かって必死のパッチで頑張っとるんや。
せやさかい、澪のことは心配せんといてや。
ほんでもって、この主人公を澪と比べたらあかん。
「みをつくし料理帖」とはまるっきし別もんやねんから。
そない言い聞かせながら読み始めてん。

主人公の 幸(さち) は、幼い頃から知識欲が旺盛だった。
学者の父に「何も生み出さず、汗をかくこともせず、誰かの汗の滲んだものを動かすだけで金銀を得るような、そんな腐った生き方をするのが商人だ」と教えられて育った。
しかし、兄と父を立て続けに亡くし、大阪の呉服商「五鈴屋」に奉公することになる。

ときは「商い戦国時代」。
知恵を武器に商いの道を切り拓き、商いの戦国武将となるべく奮闘する の成長物語である。

第1巻源流編では、
呉服商「五鈴屋」で奉公することになり

第2巻早瀬編では、
その「五鈴屋」の色狂いで阿呆な店主との縁談が持ち上がる。

「みをつくし料理帖」では、試練に次ぐ試練、涙に次ぐ涙で、そこまで澪を苦しめなくてもいいのにと思ったが、この「あきない」では、今のところそこまで大きな試練はない。(だから、澪と比べたらあかんて!)

確かに身内を亡くしたり、奉公に出たりと辛いことが多い だが、 だけが苦しいのではなく、庶民皆が苦しい生活をしていた時代である。
むしろ、思いやりのある奉公先の女衆仲間やお家さんにかわいがられる は幸せな方なのではないか。
その上持ち前の明るさから、辛いことも笑いに変えてやり過ごす知恵があり、前向きな を応援したくなる。

これから長く続くであろうこのシリーズ、「みをつくし」がよかっただけに恐る恐る読み始めたのだか、一気にファンになってしまった。
これからも応援団の一員として、末永く を応援することを誓いまっせ。

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大阪商人の話なので、古い大阪弁の会話がたくさん出てくる。
「こぉつと(ええと)……」のように標準語訳が付されているのだか、訳がついていないところでわからない箇所がいくつかあった。
前後から推察するしかないのだが、幸い周りにはネイティブスピーカーがたくさんいるので、気軽に教えてもらえ助かっている。
その方々の話によると、本書に出てくる大阪弁は今ではあまり使われていないようで、船場など大阪の一部でのみ残っている言葉もたくさんあるそうだ。

肩こりは手首をふるだけで9割治せる

もう姿勢が悪いとは言わせない‼




私は姿勢が悪いのです。
油断すると巻き肩になり、背中が丸まり、アゴが突き出てしまいます。
最近立て続けに3人の方から忠告されました。
気がついた時に、腕を後ろに回し巻き肩を改善し、ストレッチポールを使って背筋を伸ばしています。
そんな姿勢に加え、首を痛めているので、肩こり・首こりが悩みの種でした。
そこで、こんな眉唾物のタイトルではありますが、藁にもすがる思いでこの本を手に取ったのです。

本書では、整体師として22年でのべ9万人以上を施術されてきたという著者の、肩こり改善メソッドを解説しています。

著者は、
肩こりは揉んだり叩いたりして治るわけではない、
原因は手首のずれやねじれであり、
ねじれを直しゆるめると効果がある、
と言います。
手首がずれていることによって、前腕・上腕・肩関節・肩甲骨までもがずれ、肩こりなど体に悪影響があると言うのです。

本書では、それを改善するための10秒ストレッチが10種類紹介されています。

最初に正しい姿勢の立ち方が解説されていました。

なんということでしょう‼

その通り手を前で合わせて立っただけで、背中・肩・首の位置が改善されたのです!
一生懸命自己流で「背筋ピン」を意識してたのは間違いだったようです。
だからといって、私の苦しみが消えたわけではありません。
ずっとその正しい姿勢ではいられないのですから。
油断するとすぐに戻ってしまいます。
ですから、なるべくこまめにその姿勢をとり、体に覚え込まそうと奮闘中です。

正しい姿勢の座り方も、おへそを太ももに近づけるイメージでとか、坐骨で座るように等、とても参考になりました。

そうそう、肝心の手首フリフリでしたね。
手首がねじれていると言われても、私には実感できません。
ですから当然、ストレッチをやってもねじれが改善されたと感じられないのです。
ただ、本書の通りに実践すると指先から前腕がかなりほぐれ、肩甲骨周りが伸びる感覚もあり、確かに肩こりが軽減します。
それは、手首のねじれが改善されたおかげかなのか、単にストレッチ効果なのかは私には判断つきません。

一見簡単そうにみえるストレッチですが、とても奥が深いように思えます。
コツが丁寧に解説されているのですが、指を支点に回す動作等、正しくやるにはもう少し時間がかかりそうです。
また、やり方についていくつか疑問点も浮かんだので、動画を検索したのですが、見当たりませんでした。

10秒ほどで手軽にできるこのメソッド。
正しい姿勢の立ち方とともに、しばらくは続けていこうと思います。

2016年9月27日火曜日

ぐうたら旅日記

酒と呪いと男と女!旅は面倒で嫌いという著者の珍道中。

北大路公子著
PHP文芸文庫



本書は、旅は面倒で嫌いだ、ずっと家にいたいと言い切る北大路公子さんが、友人に引っ張りだされ、出かけていった旅の記録である。

「苦手図鑑」を読み、妄想の飛躍がすごいと感動&爆笑したが、本書でも妄想が絶賛暴走中で、大笑いさせてもらった。
もう私は「北大路公子」と聞いただけで笑ってしまうパブロフの犬、いやキミコの犬である。

ご一行様は、恐山や道東で飲んだくれ、イラッときた人に呪いをかけ、積丹でウニを肴に飲んだくれるのである。

そう、これは旅の記録でもあり、大酒と呪いの記録でもあるのだ。

著者が呪いをかけるのは、旅先で出会ったイラッとくる人たち。
理不尽な言いがかりをつけてきたおじさんに、「トイレに行けば必ず個室が塞がってる」と呪いをかけ、漏らすことを願う。
温泉でバタ足を始める子供と注意しない親に「グレろ」と呪いをかけ、今日のことを後悔するように願うのである。

なんといいストレス発散法だろうか!
早速私も取り入れて、行列に割り込んできたおばさんや、濡れた傘を押し付けてきたオヤジに呪いをかけてやろう。
「緊迫したシリアスな場面で、大きな音をたててオナラをする(強烈な香り付き)」と呪いをかけ、赤っ恥をかかせて溜飲を下げるのだ。
今からイラッとする人に出会うのが楽しみになってきた。

著者は特別な旅をしているわけではない。
よくある国内旅行だ。
しかし、北大路公子さん以外は同じ体験をしても、こんな文章は書けないだろう。
これだけ面白く味付けできるのは、文章力の違いも大きいだろうが、目の付け所、妄想力が人より優れているのだと思う。

こんな方と一緒に旅行できたら、さぞかし楽しい旅になるだろうなぁ。
いや、酔っぱらいの対処に苦労したり、呪いをかけられ不幸になる可能性がある。
だったら、旅の記録をこうして読ませてもらうだけで満足した方が、身のためかもしれない。

※川湯相撲記念館は、朝の5時半開館、夜の9時閉館なんだそう。(6月~10月)
客が殺到しそうにもないのに、なぜそんな早朝から開いているのだろうか?

2016年9月21日水曜日

なぜ彼女が帳簿の右に売上と書いたら世界は変わったのか?

アイドルと簿記がコラボした!? その上SFで戯曲!?一体どうなるの?



問  机を現金1万円で買いました。この取引を仕訳しなさい。

答  備品 10000 / 現金 10000

簿記の勉強は、このような問題から始まります。
物を買うと資産が増えるので左側(借方)に書き、その分お金が減るので右側(貸方)に書くと習うのです。
そして、聞いたことのない単語が次から次へと出てくるので、丸暗記するしかなく、ついていくのに必死でした。
解説を聞くとなるほどと思う反面、なんだかよくわからずにモヤモヤしたまま勉強を続けました。

そのモヤモヤの原因は、全体像がわからないことにあります。
目先の問題に手一杯で、その先が見えないのです。

そうです。私はかつて簿記の勉強をしていました。
簿記関連の試験でいうと、日商簿記の3級と2級、税理士試験の簿記論と財務諸表論に合格しました。
とは言うものの、実務経験はほとんどありませんし、遠い昔のことなので、今は素人に毛が生えた程度の知識しかありません。
いまだに私の中でくすぶっているモヤモヤが少しでも晴れたらと思い、この本を手に取りました。

本書は、乃木坂46のメンバーである衛藤美彩さんを主人公とした物語です。

複式簿記のない世界になぜか迷い込んでしまった美彩さんが、戸惑いながらも複式簿記を広めていく、といったストーリーです。

シナリオという事で、ほとんどが会話文なので読みやすく、ラノベ風の軽さがあります。
内容も、「複式簿記とは何か」を理解するのに役立つよう工夫されています。

でも、「これから簿記を勉強される方にも読んで欲しい」と紹介文に書いてありましたが、会計用語がたくさん出てきますから、簿記未経験者には難しいのではないかと感じました。
特に最初の仕訳部分は基礎中の基礎なのですが、私にはわかりづらく、読み返した箇所がいくつかありました。
後半に進むにつれ、ストーリーが手助けとなって、読みやすさが加速していきましたが。

また、一冊に色々な情報が詰め込まれ過ぎていて、そこに無理があると感じました。
アイドルとのコラボ、わかりやすいシナリオ形式、ラノベ風ストーリーというアイディアはとても斬新なので、だからこそもったいないと思うのです。

せっかくですから、対象者を絞り、内容を細分化して、簿記未経験の方でもわかる入門編から始めてシリーズ化したらどうでしょうか?

ちなみに我が家のぐうたら娘(アイドルオタク、今は欅坂ファン)は、表紙を見て「読みたい!」と飛び付いたものの、15ページほどで挫折しました。

2016年9月20日火曜日

どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法

この本を買って3ヶ月。毎日実践している私は開脚できたでしょうか?



この表紙の開脚、憧れませんか?
私はとても体が硬いのです。
だからこそ、昔から開脚して胸がベターッと床につく人に憧れてきました。

「死ぬまでにベターッができるようになるぞ!」と目標をたて、ここ10年以上ほぼ毎日ストレッチを続けています。
でも、ある程度は柔らかくなったものの、股関節が異常に硬く、どうしてもベターッとはなりません。
それでも細々とストレッチを続けていた私の目に飛び込んできたのが、この表紙です。
憧れのベターッができる!と、本屋さんで迷わず手に取り、買ったその日から毎日実践しています。

本書では、一週目、二週目と段階を踏みながら、四週間かけてベターッができるようになるストレッチの方法を、カラー写真でわかりやすく説明しています。

著者の動画も公開されているので、見ながらすると、なおわかりやすいと思います。

今まで色々なストレッチを試してきましたが、初めて聞く方法もありました。
特にドアを使ったものは、気持ちよく伸びてお気に入りです。

この本で特筆すべきは、本の綴じ方です。
どこのページを開いても、本のノドいっぱいに開き、閉じません。
新品でもそうなのです。
この点は、押さえなくても写真や解説を見ながらストレッチできるので、大変便利です。

けれどなんと!
開脚の定義は、「肘が床につくかどうか」だというではないですか!
それはずるいのではないでしょうか?
表紙の写真のようになりたくて購入したのに!
私も調子がいいときは肘がつきますし!

その上、ストレッチの解説は10ページほどで終わり、「開脚できたら人生はこんなに素晴らしい!」という内容の小説が続くのです。
この小説が読みたくて、こういった本を購入する人はいないだろうに(-_-;)

さて、そうは言っても真面目に取り組んでいる私ですが……

四週間なんて待ってられない、すぐに効果を得たい!と、初日から全てのストレッチをして3ヶ月が過ぎました。
結果は、
残念ながらほとんど変わりません (>_<)
その前からずっとストレッチをしていたので、効果が表れにくいのだと思います。
もしかしたら、私は骨の形状上、脚が開かないタイプなのかもしれません。
「ベターッ」は一生無理なのでしょうか?

だからと言って、他の方に効果がないとは限りません。
この本をダンス仲間に回しているのですが、ベターッとはならないもののだいぶ柔らかくなった友人もいます。
普段ストレッチをしていない人、ベターッの潜在能力を秘めている人には、役に立つのではないでしょうか。

それでもストレッチは、怪我の予防・パフォーマンスの向上に必要です。
これからも私は「ベターッ」を夢見て、諦めずに毎日ストレッチを続けていくつもりです。

2016年9月15日木曜日

キョンキョンはトップアイドルで、私なんか校庭の片隅でひっそりと干からびているセミの脱け殻でしたから。



キョンキョンと言えば、まごうことなきかつてのトップアイドルですよね。
だけど私にとっては大好きだった「あまちゃん」の中で演じた、主人公の母親「春子」さんのイメージがいまだに強いのです。
あまロスから立ち直ったとはいえ、どんなドラマを見ても「あまちゃんとは比べ物にならない!」と思ってしまう後遺症が……
って、そういえば本の話でしたね f(^_^;

本書は雑誌「SWITCH」に「原宿百景」として連載されたエッセイに加筆修正されたものです。

デビュー前のヤンキー時代(!)の話、アイドル時代の話・恋愛の話など、ファン垂涎のエピソード満載です。
そしてそして、なんと!
「あまちゃん」のことも少しだけ載っているのです!

両親の離婚、肉親やペットの死、表題にもある黒い猫の衝撃など、辛い話・悲しい話・怖い話も多いのですが、不思議と湿っぽくは感じませんでした。
文章がサラッとしているのです。

それでも私の青春時代と重なるエピソードも多く、ノスタルジックな気分になりながら、読み終えたのでした。

キョンキョンの書く文章を初めて目にしたのは、読売新聞の書評欄でした。(書評委員を卒業されたのは残念です。)
あばずれ感半端なかった春子さん・かわいこちゃんとは一線を画していたとんがったアイドルの頃のイメージとは違って、優しい落ち着いた大人の女性という印象で、そのギャップに驚いたものでした。
本書も「ここまで赤裸々に!」とびっくりする箇所はありますが、優しい文章で芸能界の派手さを感じさせない、普通の感覚の方なんだなぁというのがよくわかります。

ところで、キョンキョンは賃貸契約の更新をしたことがないのだと言います
なぜなら、引っ越しても引っ越しても、ファンに見つかり騒がれて他の住人に文句言われて、大変なことになってしまうからだそうです。
さすが「なんてったってアイドル」、色々ご苦労があるんですね。

(タイトルの「セミの脱け殻」は、「あまちゃん」で片桐はいりさん扮するあんべちゃんのセリフをパクらせていただきました。)

2016年9月13日火曜日

クロコダイル路地1,2

皆川博子著
講談社

皆川博子さんが1930年生まれって知っていましたか?






フランス革命前後の動乱期を生きる人々を描いた長編小説。

視点が、貴族やブルジョワジー、貧民層と入れ替わりながら、一人称で語られていく物語です。

実在の人物や場所、歴史的事件を織りこみながら、フランス・イギリスにまたがって壮大な皆川ワールドが広がっていきます。
これは戦争の話でもあり、復讐劇でもあり、悲しい愛の物語(恋愛だけではなく)でもあります。
どんどん引き込まれ、長編ながらも一気読みでした。
悲惨で悲しい場面が続きますが、最後に希望の光が見えてくるところが皆川さんのやさしさなのではないでしょうか。

過去の皆川作品「開かせていただき光栄です」「アルモニカ・ディアボリカ」の登場人物たちが登場した時には、思わず「あっ!」と声をあげてしまいました。
そんなところもファンにとっては嬉しいことなのです。

でも。
えっと、言いにくいのですが、個人的には何か物足りなさを感じてしまいました。
物語の起伏が少ないところでしょうか?
それとも一人称で内面の描写が多いところ?
ファンとして期待度が高過ぎたのかもしれません。

だからと言って、この作品がつまらなかったわけではありません。
しばしの間、フランス革命前後のヨーロッパに連れていってもらったのですから。

この世界観は、皆川博子さんにしか書けないと思うのです。
皆川さん、1930年生まれの御年86歳。
ただただ驚くばかりです。