2011年10月31日月曜日

潜入ルポ ヤクザの修羅場

潜入ルポ ヤクザの修羅場
鈴木 智彦著
文春文庫

著者は極道専門のフリーライター。怖いもの見たさで読んでみたが、色々考えさせられる内容の濃さだった。



著者は、やくざ専門誌「実話時代」編集部にかつて所属していた。
それから極道系専門のライターとして数々の本を出している。

派手な修羅場の連続を大げさにあおって描いた本だと思ったが、全く違った。
確かに「修羅場」はたくさん出てくるが、取材者としてヤクザとともに生きてきた著者の
半生記のようだった。

もともと著者はカメラマン志望で、アメリカに滞在していた時知り合った元組員に、
ヤクザの写真を撮ればいいと勧められ、それなら、専門の雑誌社に入社したら手っ取り早いと
この仕事をするようになった。

歌舞伎町。本場の町。
そこの「ヤクザマンション」と呼ばれる、大部分が組関係者で占められるマンションに
居を構えた著者。
懐に自ら飛び込んでいく勇気、「玄関開けたら2分で現場、ラッキー」だかららしい。

恫喝・恐喝が日常茶飯事の著者は淡々と書いているが、修羅場の連続だった。
ただ、読んでいるこちらは現実感に乏しいためか、映画を見ているような感じで、
不思議と怖さは感じなかった。
付箋に「PM4時、○○組の××様より電話あり、内容=殺すぞ」とか、
ポン中の方からの電話で「いまマイケル・ジャクソンと一緒なんだ」
という下りは思わず吹き出してしまったほど。

恫喝されている時も、
「意識を取材目線に変えるのがいい。何かに使えると考えメモを取っている」
という著者のたくましさも怖さを中和しているのだろう。

愚連隊の帝王・加納貢の哀しき晩年の面倒をみたり、取材の拠点を関西に移し、
盆中に潜入したりと色々な経験をしてきた著者。
きっと、本に書けなかった本当の修羅場や苦労ももたくさん経験したのではと推測できる。

芸能界の黒い交際・暴力団排除条例制定の流れにより「社会的弱者」になってしまったヤクザたち。
今が彼らや彼らを取り巻く著者のような取材者・彼らに頼って生きてきた人たちの
大きな転換期なのであろう。

2011年10月29日土曜日

鳥人計画

鳥人計画
東野圭吾著
角川文庫

東野圭吾の1989年の作品。スキージャンプ競技のエースが殺された。犯人はジャンプ関係者なのか?




日本のジャンプ界を担うエースの楡井が大会で優勝した次の日、
毒殺された。
ライバルの選手たち、コーチ、恋人、彼を取り巻く人々の中に犯人はいるのか?
何のために殺したのか?

まずびっくりしたのが、犯人が最初の方でわかってしまうこと。
えっ!と思わず声を出してしまった。
犯人わかっちゃったら、残りの分厚いページは何について書いてあるの?
それとも、この犯人はフェイクなのか?

でも、そこは人気作家の著者。
読者をいい意味で裏切ってくれていた。

ジャンプ競技は、冬のスポーツニュースでチラッと見る程度の私。
そんなほとんど知識ゼロの私には、ジャンプ業界もとても興味深く感じた。
飛び方も、昔は手を前に出していたとか、
今は板をV字にするが、ちょっと前までまっすぐだったとか
知らなかったことがいっぱいあって面白かった。
ストーリーとは別に、そういう事を知るのも読書のだいご味。

ただ、「K点越え」という言葉は聞いたことあっても正確な意味はわからない、
飛型点や採点方法などはお手上げ。
そんなど素人のためにも、無知な警察官に説明する形とかで、解説が欲しかった。

選手やコーチたちの「勝ち」にこだわるひたむきさ、
それも魅力の本だった。

2011年10月26日水曜日

大阪のおばちゃん学

大阪のおばちゃん学
前垣 和義著
PHP文庫

大学で「現代大阪文化論」を教えている大阪研究家の著者が書いた大阪のおばちゃんについて。大阪のおばちゃんが世の中を救うらしい。



大阪のおばちゃんの生態を分析し解説した本。
著者は大阪研究家で、相愛大学や帝塚山学院大学で「大阪学」「大阪ビジネス論」などを教えている。

あこがれの大阪のおばちゃん。
生まれて初めて大阪に行った時、大阪のおばちゃんに会える喜びで、
わくわく・ドキドキ・きょろきょろ、一生懸命探した。
残念ながら、私の思い描いていたひょう柄・おばさんパーマの「大阪のおばちゃん」は
ついぞ見かけることができなかった。
電車に乗ったら、見知らぬおばちゃんから「飴ちゃんどうぞ」と言われちゃうかもと
期待したが、そんなことにもならず残念でした。

大阪のおばちゃんは絶滅したのか?
いや、そんなことはない。
テレビにはよく出てくる。
きっとどこかにいるはず、と思いこの本を手にとった。

なんと愛すべき大阪のおばちゃんたち。
突き詰めて考えれば、大阪のおばちゃんたちの行動は、大阪商人のサービス精神、
倹約精神からきているという。

著者によると大阪のおばちゃんは
厚かましい→しかし笑える
ルール無視→意志の強さと行動力が光る
ケチ→鋭い経済感覚と値切りは世界に通ず
おせっかい→親切
派手→サービス精神
大声→周囲を笑いの渦に巻き込む
飴ちゃん→飴ちゃん一つで誰でも友達に

などの特徴があるらしい。

やっぱり、私の思い描いていた大阪のおばちゃん像を裏切らない。
でも、著者はやはり実際は典型的なおばちゃんは少ない、
テレビカメラを見ると、サービス精神からコテコテを演じるのではという。

また、おばちゃんは立派な大阪観光の売りになるとも言っている。
その意見には私も大賛成。
メイド喫茶ならぬおばちゃん喫茶を観光名所にして欲しい。
そこに行けばおばちゃんたちに必ず会えるような。
大阪の皆さまよろしくお願いします。
あったら私必ず行きますので。

ほんまかいな・んなアホなと思うようなことも、
これは大阪だけに限らないだろうというようなこともたくさんあって、
決めつけ感が気になったが、そこは大阪のおばちゃんに免じて
スルーしましょう。

大阪のおばちゃん度チェックがあった。
やってみた。
100点満点中8点だった。
まだまだ修行が足りないようです。
大阪のおばちゃんへの道は厳しい。

2011年10月24日月曜日

鬼畜の家

鬼畜の家
深木 章子著
原書房

恐ろしい鬼畜の家。本当に怖い鬼畜は誰なのか。弁護士をリタイアした著者が書いた壮絶なミステリー。第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作



北川家。
医者であった父は自殺。
養女に出された末っ子の養親は焼死。
姉は転落死。
次から次へと人が死んでいく。
これは誰かが仕組んだ保険金殺人なのか。

「あの人は他人を殺すことはあっても、自分から死ぬなんてことは
絶対にあり得ませんから」
「あたしの家は鬼畜の家でした」

元警察官の私立探偵・榊原が、様々な人の証言を聞いて、真相を明らかにしていく。
語り口調で書かれているので、読みやすく、夢中で読み終わった。

1947年生まれの著者は、60歳で弁護士をリタイアし、この本を書いたという。
しかし、とてもデビュー作とは思えないくらい堂々とした書き方だった。
題材的にはよくある話なのかもしれないが、こうなるんだろうという想像が外れ、
二転三転する。

とにかく、登場人物たちが気色悪い。
暗く、救われない。
その中に、一筋の光でもあればホッとするのに、著者は容赦ない。

読み終わった後も、気持ち悪さが残ってしまう。
今夜は眠れるだろうか。

2011年10月23日日曜日

日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人

日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人
三輪 康子著
ダイヤモンド社

不夜城・歌舞伎町。そこにあるビジネスホテルの支配人になった女性の奮闘記。ヤクザに屈することなくお客様や従業員たちを守る姿勢はドラマよりドラマチック。



新宿・歌舞伎町。
私の個人的なイメージは、風俗とアウトローたちの魑魅魍魎の町、そう思っていた。
でも、最近は警察官がたくさんいて、それなりに秩序のある町だという。

そこに、東横インというビジネスホテルがある。
かつて、建築基準法に違反する改造工事をしたホテルである。

そのビジネスホテルの支配人になった著者。
客室係やフロント業務からステップアップして支配人になったわけではない。
銀座の画廊や、アパレル関係の仕事をしていて、いきなり歌舞伎町の問題ホテルの支配人に抜擢。
って、著者も凄いけど、配属決めた会社人事も凄い。

そこで著者が見たものは・・・
長期滞在のヤクザ達。
ロビーでカツアゲする、薬物の横行etc.

抜き身の日本刀を出され脅されても一歩前に出て
「お客様に、私は殺せません!」

カツアゲの最中、ド真ん中まで入って行って梃子でも動かない。
「死にてぇのかよぉ、コラァァァァ!」
「いいえ、死にたくはございませんっ!」


著者は女性である。
ドラマでは、あるかもしれない。
いつの間にかヤクザを諭して、仲良くなって、
最後はお涙ちょうだいの大団円。
しかし、これは現実である。
私だったら、まず無理。
日本刀を見る以前に、その筋の方には近づきたくない。

なぜここまでできるのだろう。
彼女も支配人とはいえ、雇われている身である。
著者は、人生をかけて人助けをする医者の父を見て育ったからというが、
それだけではないだろう。

スタッフたちが、上司である支配人を慕う気持ちが伝わってきて、感動ものだった。
それだけ、慕われる上司ってなかなかいないだろう。
体を張って自分たちを守ってくれているのを間近で見てそう思っているのだそう。

接客業の参考にというスタンスの本だが、生半可な気持ちでは真似できないのでは?

根性ある女性の生き方を見せてもらって、やるなぁと唸ってしまった。

・・・でも、私にはやっぱり無理。

2011年10月22日土曜日

聖なる怪物たち

聖なる怪物たち
川原 れん著
幻冬舎

医療ミステリー。身元不明の妊婦が死亡した。残された赤ちゃん。謎の男が、妊婦のことを口外するなと脅した。妊婦は誰だったのか?なぜ口止めされたのか?



経営難の総合病院に勤務する 外科医の司馬健吾は、当直で疲れ切っていた。
そんな時、救急で身元の分からない妊婦がやってきた。
健吾が執刀して帝王切開するが、妊婦は死亡する。
未熟児として生まれた男児が残される。
術後、立ち会った二人の看護師は、見知らぬ男に、妊婦のことは口外するなと
別々に脅された。
妊婦は誰だったのか?
看護婦はなぜ口止めされたのか?

読み進めるにつれ、だんだんと一人一人の嘘が明らかになっていく。
騙し・騙され、一体真実はどこに?

聖職者とは、一部の清廉高潔とされる職業に従事している人間を指す。
かつて、聖職者と呼ばれていた職業があった。

ここにも、何人かの聖職者たちが登場してくる。
彼らなりに、一生懸命使命感を持って仕事をしていた。
どこで、道を誤ったのだろう。
自らの保身のために、一線を越えてしまったのだろうか。

生まれた子供は、誰のものなのだろう。

倫理観・道徳観を問われているような本でした。

残念なのは、なぜ、道を踏み外したのか納得いく説明がないのと、
最後、突然出てこなくなる登場人物がいたこと。
もう少し、奥行きを深かったらもっと楽しめたのにと思いました。

2011年10月20日木曜日

島国チャイニーズ

島国チャイニーズ
野村 進著
講談社


たくましく生きる在日中国人たちの生活を追った本。これだけたくさん中国人がいたら、色々なタイプがいると改めて教えてくれた本でした。



劇団四季の俳優のうち24名が中国人だという。
日本の大学の教授・準教授になっている中国人は2600人にも上るらしい。
芥川賞作家の楊逸は、来日した時「こんにちは」しか知らなかったのに、
一年で日本語能力試験1級を取得したという。
そのほか中国人留学生・東北に嫁いだ中国人・いじめが皆無という神戸中華同文学校
池袋のチャイナタウン・・・

そんな在日中国人の日本での暮らしぶりを紹介した本。

中国といえば、毒餃子事件・尖閣諸島沖漁船衝突事件・北京オリンピックでの少女口パク事件
など最近の事件だけでもすぐに色々頭に浮かぶ。
その時の政府の対応・中国メディアの報道に、頭に来た日本人がたくさんいるだろう。

また、中国人犯罪者による犯行の報道により、
ステレオタイプの中国人-不法滞在・就労目的・マフィア・犯罪・・・というイメージもある。
いくら、パンダが来ようとも、日本での中国の好感度は当分上がりそうもない。

しかし、この本の中に出てくる中国人は、全く違う。
日本のいいところをたくさん見つけてくれている。
礼儀正しさ、挨拶を良くかわす・・・
また、日本人が忘れがちな、謙虚さ・誠実さを備えている人もたくさんいる。

ニュースで紹介されない無名の真面目な中国人もたくさんいるという当たり前のことに
今更ながら気づかされた。

逆に考えれば、海外に滞在している日本人も色々いる。
日本で罪を犯し、アジアに沈んでいった日本人もたくさんいるだろう。
現地で詐欺を働く日本人もいるだろう。
でも、大部分は真面目な一般的な日本人と思う。

そう考えれば、日本にいる中国人だって、多くが堅実に暮らしているのだろう。

中国という国を大好きにはならないだろうけれど、一人一人はやっぱり同じ人間なんだと
気付かせてくれたいい本でした。

2011年10月18日火曜日

ディズニーランドの秘密

ディズニーランドの秘密
有馬哲夫著
新潮新書

ウォルト・ディズニーがなぜ、どういう目的でディズニーランドを作ったのかを、彼の生い立ちから丁寧に探った本。





夢の国・ディズニーランドを作ったウォルト・ディズニーは、
大きく分けて、
「交通博物館」「映画ではなく、3次元の世界」「科学技術が築く明るい未来」
の世界を築き上げていきたかった。
なぜ、そういう考えに至ったのか、彼の祖父が開拓移民としてアメリカに渡ってきた
当時からの背景を丁寧に探っていった本。


第1章 ウォルトは何をつくりたかったのか
第2章 流浪するディズニー一家
第3章 鉄道マニア、ウォルトの夢
第4章 アニメの世界を三次元に
第5章 トゥモローランドは進化する
第6章 ウォルト亡きあとの大転換
終 章 ディズニーランドは永遠に完成しない

題名から、ディズニーランドの裏話が書かれた軽い本と思って手にとりました。
それが、見出しを見てわかるように、きちんと歴史をふまえて、
ディズニーについて考察した真面目な本でした。

なぜ、みんなディズニーがそんなに好きなのだろう。
普段ディズニー関係とは縁遠い私だが、たまに行くと夢の世界にどっぷり浸り、
ミッキーに会えばテンションあがり、パレードを見れば手を振っている。

アトラクションの数をこなすのに、情熱を注ぐ人もいる。
パレードの場所取りにかける人もいるだろう。
隠れミッキーを探すのに専念する人もいるかもしれない。
男も女も老いも若きもそれぞれの人に合ったディズニーワールドがある。
ほぼすべての年代・性別に合致する施設を作ったのは凄い。

世界のどこのディズニーランドも、同じように楽しむ場所と思っていた。
でも、この本を読むと、アメリカ人のノスタルジア・フロンティア精神など、
アメリカ人にとっては特別な思いがあることが分かる。

スプラッシュマウンテンは、「いばらのうさぎ」の物語だけと思っていたが、
アメリカの「南部の唄」がベースになっているという。

また、日本の特徴として、ゲストの構成比率のうち、大人の女性の割合が高く、
物品販売の売上高が突出しているという。

何も知識がなくても楽しめる場所ではあるが、色々知ると
新しい発見がありより楽しめるかもしれない。

久しぶりに行きたくなりました。
本音は、背景なんか知らなくても十分楽しめるんだけどねw

2011年10月17日月曜日

本朝金瓶梅 西国漫遊篇


本朝金瓶梅 西国漫遊篇
林真理子著
文春文庫

林真理子の「本朝金瓶梅」。またまた女好き西門屋慶左衛門でございます。今度は上方・京の町にやってきたのでございます。そこは慶左衛門、ただでは済みますまい。妾達も男を漁り、大変なことになるのでございます。



西門屋慶左衛門といえば、無類の女好きで江戸では有名でございます。
金はあり、顔もよし、妻子がいながら、妾も同居させるつわものでございます。
それだけでは飽き足らず、あちこちつまみ食いしているのですから、
困ったお人ではございませんか。
そんな慶左衛門の息子殿が萎えてしまったのだからさあ大変。
妾二人を従えて、息子殿が元気になるように旅立ったのでございます。
お伊勢参りをして、怪しげな女に元気にしてもらったのが、今までのお話でございます。

そして、今度の西国漫遊篇となるのでございます。
元気になったことを一緒に旅している妾達に知られたら毎晩せがまれて大変になるうえに、
つまみ食いもなかなかできないではございませんか。
何とか内密にしたい慶左衛門でありました。
妾達も、江戸一の性悪女と呼び名が高い女でございます。
二人で結託して、慶左衛門の不足を補うべく、男たちを漁るのでございます。
もう、狐と狸の化かし合いとでも申しましょうか。

そして・・・とんでもない珍道中なのでございました。

何といってもこの本の魅力は、ばかばかしい笑いに尽きるのではないでしょうか。
馬鹿丁寧な「~ございます。」言葉で、ばかばかしいことをいちいち報告してくれるのですから
おかしいではございませんか。
復活した息子殿を最初に使ったのがなんと、男の後ろだったのです。
天下の慶左衛門としたことが何と情けないことでございましょう。
海に入っていいことをすれば、亀に大事なところを噛まれてしまう。
お間抜けなことこの上ないのでございます。
この気持ちよさはいえいえ、このおかしさは、体験してみないといえいえ、
読んでみないとわからないのでございます。

途中、何の因果か道連れが増え、てんやわんやの大騒ぎになっていくのでございます。
無事にお江戸に帰った後も色々と騒動が待ち受けているのでございます。
全く人間というものは、どうしてこうも色の道が好きで好きでたまらない生きものなのでしょうか。

これで、このシリーズは打ち止めなのでございましょうか。
西門屋慶左衛門を欲してやまないのは、江戸の女ばかりではありません。
かくいうわたくしも早く続きが読みたくてうずうずしているのでございます。
たとえ、このシリーズが終わったといたしましても、
慶左衛門の色の道はまだまだ続くのでございましょう。

2011年10月16日日曜日

五感で学べ

五感で学べ ある農業学校の過酷で濃密な365日
川上 康介著
オレンジページ

「タネのタキイ」の全寮制の園芸専門学校。厳格な規律と過酷な実習。24時間一緒の生活。その中での青年たちの成長を描く



日本最大の種苗会社「タネのタキイ」で知られるタキイ種苗がもつ、
滋賀県の全寮制のタキイ研究農場付属園芸学校。
授業料・寮費・食費等全て無料。
その上、研究費として一人1万2千円程度もらえる。
農家の後継ぎ育成を主眼とした実践的教育を理念としている。
入寮資格は、年齢18~24歳の若者たち。
ここに来るまでの、背景は様々。
農家の後継ぎとして農業高校を卒業してすぐの人ばかりではない。
この年は、京大生もいた。
広大な敷地の移動は駆け足が基本。
実習だけでなく、講義・実習ノートを書くなど1日フルで農業と向き合う中、
規律・感謝・仲間とのコミュニケーションの取り方など学んでいく過程を著者の目から描いた本。

学校経営の経費は年間1億円もかかるという。
この不景気に見上げた心意気と思う。
「タキイ」によれば、今の実習生は、将来会社のお客様になるかららしい。
それにしても、まずは、タキイという会社に感銘をうけた。

そして青年たち。
高校時代、運動部経験のある人でも、まずは体力がついていかないらしい。
機械ではなく、手作業での整地・畝作り。
だらだら歩くのではなく、高校球児のように走って動く。
聞いただけでいかに過酷かわかる。
でも、志が高い人が多いからかドロップアウトもないという。

毎日体を思いっきり使って頭も使う。
食べても食べても痩せて精悍になっていく彼らを、著者は一緒に実習しながら見守っていく。
志が高いとは言ってもそこはちゃらい系もいれば、だらしない系もいる。
人間関係が苦手なタイプもいれば、衝突もある。
濃厚な時間を過ごすことによってそれが、相手を思いやる・お互い気配りしカバーしあう
といった関係に変化していく。

こんな学校があるなんて、知らなかった。
これだけを読むと、日本の将来は安心と思ってしまう。
でも、この年は在校生74名のみ。
こんな学校が日本中にあればいいのに。

でも、普段食べている農作物。
消費者の目は、安心・安全に限らず、味・規格等厳しい。
それを乗り越えて、また、天候・災害のリスクを負って農業の道に進んでいく青年たちは
とても眩しく・たくましく見える。

日本人にとって、いえいえ人間にとって、なくてはならない農業という職業を見直すいいきっかけにもなった本でした。

2011年10月15日土曜日

偉大なる、しゅららぼん

偉大なる、しゅららぼん
万城目 学著
集英社




日出涼介は、「力」を持つ日出一族の一員。
慣習に従って、高校入学を機に本家から高校へ通う。
本家は江戸時代から現存するお城だった。
そして、しゅららぼん・・・。

私の大好きな万城目作品。
パターンは「かのこちゃん-」を除いて同じなのかもしれない。
主人公の男が、自分の意志に反して、騒動に巻き込まれていく・・・
でも、全くワンパターンではない。
なぜなら、読者がどんなに想像しても内容は決してわからないから。
誰が「ホルモー」がゲームの名前ってわかった?
私は勝手に焼き肉関係と思っていた。
そして今度は「しゅららぼん」
全くわからん。

私の万城目作品の楽しみ方は、そのわからんまま読み進める。
事前情報なしに読み進める。
頭の中が???でいっぱいになってもそのまま読む。
その方がわかった時の衝撃が大きく、楽しめるから。
もしかしたら、わからなさに途中で読むの挫折してしまう人がいるかもしれない。
それくらい今回は???なまま話が進んでいく。

著者の力量に感嘆することがいくつかある。

一つは地理的なこと。
「プリセストヨトミ」の空堀商店街しかり、実在の地名・固有名詞がたくさん出てきて、しかも
とても詳細。
その中に著者の創造物が紛れ込んでいるのだが、架空と実在の垣根が
よくわからないほどに真実味がある。
だから、大坂の男の人を見ると、この人もお父さんから聞いてるのかな?と思っちゃう。
なので、奈良公園の鹿を見ると、この中に言葉をしゃべる鹿がいるかもと探しちゃう。。

また、知識の奥深さ。
ライトノベルのように軽く読めてしまう気軽さの中に、
硬軟取り混ぜた笑いがあちこちにちりばめられている。
浅学の私が気付かない笑いが、まだまだたくさんあるのかと思うともったいない気がする。。
特に苦手な歴史と地理方面。
今更ながら、勉強しとけばよかったと悔やまれる。
でも知識なくても十分楽しめる。

そして、なんといっても凄いのが想像力。創造力。
他の人には考えられないような荒唐無稽な、想定外の、おかしいストーリー展開。

そんなわけで、この本を一言で表すと、
青春、友情、淡い恋愛、エンターテイメント、スペクタクル・・・
アクション?オカルト?ミステリー?
やっぱり絞りきれない。

そして、次回作もまた期待してしまうのであった。

2011年10月13日木曜日

盆踊り 乱交の民俗学


盆踊り 乱交の民俗学
下川 耿史著

夏の風物詩・盆踊り。それが乱交の場だったなんて。古代日本から、現代まで膨大な資料を読み解き、丹念に探った一冊。



最近の盆踊りは、揃いの浴衣を着た貫禄あるお姉さま方が踊るのみで、その他の人が踊っているのを見たことがない。
小さい頃は私も夢中になって踊った記憶があるのだが、今は踊りたくても入りづらい雰囲気があり、見るだけで我慢している。
もう少し貫禄が出てきたら、揃いの浴衣の仲間に入れてもらいたい。
今の子供たちは踊った経験がないまま大人になるのだろうか?
それとも、他の地方では今でも盛んに踊っているのだろうか?

そんな夏の風物詩の一つである盆踊りが、実は乱交の場であったという題名にひかれ、この本を読んでみた。
著者は風俗史家で、「民俗学者ではない」と語っているが、非常に真面目で学問的な本だった。

万葉集の時代、人々は山などで歌を歌い、双方了解したら関係をもったという。
その後、歌の部分がなくなり、お堂などで若い者たちが一晩過ごす「雑魚寝」と形を変えて乱交は続いていく。
そして、宗教普及のための「踊り念仏」から、盆踊りへと変化していった。

明治に入り外国に混浴や乱交などを野蛮と指摘されてから、政府は躍起になって盆踊りも禁止にしたそう。
健全ならば禁止する必要がないのに禁止するとは、それが何より「風紀の乱れ」を証明しているのではないだろうか。

それとともに、交通・情報の発展により、よそ者の見物人が出てきたところから、当事者たちも次第にテンションダウンしていった。

こうして現代では盆踊りは踊るだけで乱交はなくなったはず・・・
と思っていたら、最後に仰天の文章が。

ある地域では、「有名な民俗行事で現在でも乱交が盛んと複数の人から聞いた。」とある。
なにぃ!嘘かまことか存じませんが、それは是非とも見に行かなくてはっ!

しかし実際、現代の盆踊りで乱交が許されていたとしても、どれだけの人数が参加するのだろう。
恥・貞操・羞恥心・・・近代の教育を受けてきた私たちは一部の愛好家を除き、なかなか踏み込めないのでは?

昔の人の性はおおらかだったの一言では済まない、学校では学習しない深い歴史を教えてくれた本だった。

2011年10月6日木曜日

刑事魂

刑事魂
松浪和夫著
講談社


福島県警で起こった本部長の娘の誘拐事件。警察を敵に回すとは、なんて大胆な犯人。身代金要求額は1億円。手に汗握る警察内部小説。




三島勇造は福島県警巡査部長。
元・捜査一課特殊犯第一課係捜査員、略称・特一係だった。
あることをきっかけとして、警察学校教官に左遷された。

そんななか、三島を左遷した張本人の村井県警本部長の娘が誘拐された。
要求は身代金1億円。
村井本部長の捜査方針は、被害者の人命優先ではなく、「容疑者確保を最優先する」だった。
捜査本部に戻される三島。

成り行き上、特一係の5人だけで、捜査することになる。
被害者の安全、容疑者確保に失敗したらただでは済まないことになる。

解決することができるのか?
また、三島はなぜ左遷させられたのか?

冒頭は、紹介・背景説明となってしまうのは仕方のないことなのだろう。
でも、身代金受け渡しに入ったところから、最後までノンストップ。

強引な話の持っていき方・こじつけ等もあったが、進んでいくストーリーに
引っ張られて、そんなには気にならなかった。
アクションシーンも満載。
後半には意外性もあり楽しめる。

ただ、キャリアは悪・ノンキャリアは正義の構図はもうおなかいっぱい気味。

だれか、堕落したノンキャリアをキャリアが活を入れる話を書いてほしいな。
ひねくれはにぃの目
どうしてそう決めつけるのという突っ込みを入れたくなる個所がたくさん。
著者の都合のいい方向に話を持っていきすぎ。
それなりには読めたけど。

2011年10月3日月曜日

ユリゴコロ

ユリゴコロ
沼田 まほかる著
双葉社

衝撃のラストまで一気読み。ミステリーなのか、愛の物語なのか、サイコちっくでもあり、哀しくもあり、温かくもあり・・の不思議な本でした。



主人公の亮介は、婚約者の失跡・母の突然の死・父の末期がんと失意のどん底にいた。
そんな時、押し入れから「ユリゴコロ」という題の手記を発見する。
中には、精神を病んでいるような、人殺しをしても罪の意識は感じないという
衝撃の内容が書かれていた。
誰が書いたものなのか。
幼い頃長期入院をして退院した後、母が入れ替わったと感じていたのはなんだったのか。

最初から最後まで飽きさせない一気読みの本でした。
それからどうなるの?なんで?という思いから、気になって気になって。
亮介が手記の続きを読みたくなるのと同時に、私も同じ気持ちでした。



いつも、著者の作品は衝撃的な内容だけれども、暗く・淀んだ・ゆっくりといったイメージが浮かぶ。
テンション高い登場人物も出てこないし、冗談もほとんどない。

だけれども、今回は、なぜか哀しく、温かい愛を感じる。
何の罪もなく殺された被害者たちがいる。
でも、なぜかそちらには考えが及ばない。

登場人物のだれにも感情移入できなかったけれども、本の中にはまりこんでしまった。

久しぶりにすごい本・すごい著者に出会えた感動があった。 

2011年10月2日日曜日

本朝金瓶梅 お伊勢篇

本朝金瓶梅 お伊勢篇
林 真理子著
文藝春秋



西門屋慶左衛門といえば、無類の女好きで江戸では有名でございます。そんな慶左衛門と女たちの繰り広げる、あんなことこんなことの第二巻でございます。




顔はよし、金はあり、立派な陰茎をお持ちの慶左衛門。
妻子のいるお屋敷に、妾のおきんを一緒に住まわせているというのですから、
江戸の庶民の興味を引き付けてしまうのは仕方のないことでございましょう。

その妾おきんが、亭主を殺してまで、慶左衛門をたらしこんだという噂ですから、
江戸一の性悪女といわれています。

そんなおきんに勝るとも劣らない性悪のお六という、亭主も孫もいるような女が
慶左衛門に近寄ってきたのでございます。

そんな時、なんと慶左衛門の一物が萎えてしまったのですからさあ大変。
今助六との呼び名の高い慶左衛門の股間にいえいえ、沽券にかかわることでございます。
四国の赤蛇が効くとのうわさを聞き、はるばる四国まで、おきん、お六、慶左衛門の3人で
三月も旅をするというのでございます。
江戸の庶民ばかりでなく、私も興味津々で読みすすめたのでございます。

「~ございます。」の話し言葉で書かれていて読みやすいことこの上ないのでございます。
その上、登場人物が皆揃いも揃って、好きもの揃い。
陰間・安女郎・・・いろんな人が次から次へと出てくるのでございますから、
読者を飽きさせることはございません。

女たちも、したたか揃いで決して慶左衛門だけにいい目を見させているわけではございません。

光源氏と言えばプレイボーイの代名詞とも言えるお方でございますが、
あの方は、一度まぐわった女は後々まで面倒を見てやったそうでございます。
ところが、慶左衛門はそこまで下半身いやいや、肝の据わった御仁ではないのでございます。
いたすことばかり考えていて、女の身の上話は大嫌い。
単なる好きものの俗人ではございませんか。

そんな慶左衛門と彼を取り巻く性悪女たちがこの本の最大の魅力でございます。
クスッと笑えるエピソード満載のこのシリーズ。
今回は最後この先どうなるの?というところで終っているのでございます。
読者をじらすとはさすが慶左衛門でございます。

まだまだ慶左衛門の色の旅は終わりそうもないのでございます。