2011年12月5日月曜日

九月が永遠に続けば

九月が永遠に続けば
沼田まほかる著
新潮社

「まほかる現象」を引き起こした話題の衝撃作。デビュー作にして「ホラーサスペンス大賞」受賞作。なせ、著者はこんなにも読者を苦しめるのだろうか。



精神科医の夫は私を捨て、夫の患者であった女性と歩む人生を選んだ。
それから8年、私は高校生の息子と二人、肩を寄せ合って生きてきた。
15歳も年下の男の体に溺れてつかの間の幸せを味わったりもした。
最愛の息子はあの夜、ゴミを捨てに行ったきり、戻ってこなかった。
それ以来私は、息子を求めて探しまわる。

「まほかる現象」と著者の略歴
この「九月が永遠に続けば」は、2004年に「第5回ホラーサスペンス大賞」を受賞したが、
2万部で動きが止まったままだった。
今年に入り「おすすめ文庫王国 国内ミステリー部門第1位」という帯を付けて販売したところ、
爆発的に売れて、60万部を突破した。
1948年生まれの著者は、若くして結婚し息子1人をもうけ、
普通の主婦をしていたところ、母方の祖父の寺の跡を継いで僧侶となる。
その後離婚し、建設コンサルタント会社を立ち上げたが、倒産。
人と接触しなくて済む小説家を目指そうと思い、55歳で執筆したこのデビュー作が大賞を受賞した。
(週刊新潮12/8号の記事をはにぃが要約・加筆)

前半は息子を求めてさまよう憐れな母の姿に胸を痛めていたが、
このままでは終わらないのが「まほかる」なのだろう。
本を読み始めるとその世界にどっぷりつかってしまう私は、
中盤から不快感・嫌悪感そして息苦しさに何度も本をパタンと閉じる。
もう読むの止めようかと思う。
でも、著者の筆力がそれを許してくれない。
目をそらそうとしても、目の前に突きつけてくる。
なぜ著者はこれほどまでに私を苦しめるのだろうか。
娯楽のために本を読んでいるのに、精神的にも体力的にも消耗させられる。
私は何のためにこの本を読んでいるのだろうか。
疑問に思いながらも止められない。

読み終わった後に考える。
著者は何を書きたかったのだろうか。
ゆがんだ愛の形なのだろうか。
それとも倒錯した性だろうか。

登場人物も好感の持てない人ばかりで、感情移入もできない。
ドロドロに絡み合った人間関係、それも納得いかない。
でも、なぜか惹きつけられて一気に読まされる。

描写がリアルだからだろうか。人物の服装・食事の作法・家の中の様子・・・
それらが、まるで映像を見ているように頭の中に入り込んでくる。
人の心を捉えることに秀でている著者の筆力の賜物なのか。
特に心を病んだ人物の描写は鬼気迫る。
もつれた髪にこびりついた汗と脂、それが垂れ幕のように顔に覆いかぶさって
唾液で肌に張り付いている様子はありありと思い浮かんでしまい、消し去るのに苦労してしまう。

好き嫌いがはっきり分かれる衝撃作、問題作であるが、
著者の才能には感服せざるを得ない。

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