2012年12月31日月曜日

55歳からのハローライフ

55歳からのハローライフ
村上龍著
幻冬舎

人は、何か飲み物を、喜びとともに味わえるときには、心が落ちついているのだそうだ。



あっ、「13歳のハローワーク」の続編だ。
第二の人生を考えようってことだな。
老後はまだまだ先の話と思っていても、つい先日まで女子高生だった(つもり)なのにもうこんなおばさんになってしまったのだから、55歳なんてあっという間なのかもしれない。
これを機会に老後のことを考えてみよう。
と早とちりの私。
本書は「ハローワーク」ではなく「ハローライフ」で小説です。
お間違いのない様に。



離婚した女が結婚相手を見つけようと結婚相談所に登録する話「結婚相談所」
リストラされた男がホームレスになることを恐れている話「空飛ぶ夢をもう一度」
定年後妻とキャンピングカーで旅することを夢見ていた夫の話「キャンピングカー」
柴犬を可愛がる妻の話「ペットロス」
トラック運転手の恋心「トラベルヘルパー」
以上、普通の中高年が主人公の中編5編が収められている。

現役時代の自信から再就職をなめていたが現実は甘くないと認識させられる男、
妻も喜ぶと思い定年後の旅行を夢見ていたが、乗り気でない妻を見てうろたえ苛立つ夫・・・

シンプルな文章と抑えた表現から、リアリティが立ち上ってくるような話ばかりだった。
金銭的に余裕のある豊かな老後や夢物語のハッピーエンドではなく、誰にでも起こりうる現実が描かれている。
今まで読んだ村上龍氏の小説とはだいぶ違う雰囲気だった。

お金の話も具体的な金額が出てくるのでより現実味があり、怖くなったり哀しくなったり、
ふと涙がこぼれたり。
しかし、めでたしめでたしとはならないが、現実を知りそれを受け入れ再出発しようとする主人公たちに共感でき、読後感はいい。

ああ、これは中高年への応援メッセージだ。
ずっと走り続けてきた彼らが、ふと立ち止まり周りを見回すと、体の不調、お金、人間関係と思うようにいかない問題が立ちふさがる。
その辛い現実を受け入れたとき、彼らの「ライフ」が始まる。
そんな彼らに同年代の著者がエールを送っているようだ。

本書では、アールグレイ、おいしい水、コーヒーなど、主人公が好きな飲み物を飲みながら心の均衡を保つ場面が登場する。
私も美味しいコーヒーを飲みながら、これからの人生を考えてみたいと思えるようないい本だった。

2012年12月28日金曜日

行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅

行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅
石田ゆうすけ著
幻冬舎

一生の思い出に残るような宝を世界中を巡って探してみたい。汗かいて自分の足で探したほうが宝に出合えた時の喜びも大きい。(本書より抜粋)



「世界9万5000㎞自転車ひとり旅」シリーズの第3弾「洗面器でヤギごはん」 を読んで一気に著者の魅力に取りつかれ、シリーズの第1弾である本書を手にとった。

食に視点を置いた「洗面器で・・」と同じ旅ではあるが、違うエピソード満載で楽しめる。

出発直前に持病が再発するという危機を乗り越えて、著者は当初3年半の予定だった旅をスタートする。
愛車である赤い自転車に荷物を満載し、重さでグラグラしコントロールがきかないハンドルを握り、どこまでも走り続ける。
本書は旅行エッセイだが、次第に身も心もたくましくなっていく著者の成長記でもある。

前回も思ったのだが、文章がとても読みやすく表現が豊かなので、すぐに惹きつけられる。

走行距離 9万4494㎞
訪問国数 87ヵ国
パンク  184回

本書で、世の中には「チャリダー」(Wikipedia )がたくさんいて、多くの人が自転車で旅していることを知った。
著者も、行く先々でチャリダー仲間と出会い、そして別れる。
偶然何度も出会う仲間もできた。

マサイ族の青年に短距離走の勝負を挑んだり、フンコロガシが自分の排泄物を転がすのを観察したりと、観光ツアーでは味わえない、貴重な体験をしながらひたすら走る。

イランのモスクで英語の辞書片手に村人たちが「We Love You」と言ってくれたとき、
一度も笑わなかった少女が、最後に満面の笑みで両手を大きく振ってくれたとき、
私まで胸にこみ上げてくるものがあった。
またしても、通りすがりの日本人の旅行者に優しい手を差し伸べてくれた世界中の皆さん、ありがとう~!と叫び出したくなる。(著者とはなんの関わりもないのだが。)

汗と涙とホコリにまみれながら、自分の目で世界を見て、色々な背景を持つ人と関わり、苦しい体験、悲しい出来事も経験する。
この旅行によって、著者はどれだけ成長したのだろう。

誰もができるわけではない、世界一周自転車の旅。
だからこそ、これからも著者には色々発信し続けて欲しいと願う。

2012年12月26日水曜日

暗くなるまで贋作を

暗くなるまで贋作を
ヘイリー・リンド著
岩田佳代子訳
創元推理文庫

芸術が幻影にすぎないなら、何ゆえ贋作は悪しきことなのだ?                                    ―――「世界的贋作師による一家言」より





私はアニー・キンケイド、32歳独身。
世界的贋作師の祖父に鍛えられた絵画の腕を武器に、日々画家兼疑似塗装師として奮闘しているけど、なかなか請求書の山は減ってくれない。
今日も、絵の具だらけの服にボサボサの髪を適当にまとめて絵筆でとめている。
だって、今朝も時間がなかったから。
今は、墓地に隣接する納骨堂の壁画を修理しているの。
そんなある日、納骨堂にラファエロの真作があると打ち明けられた。
贋作撲滅師の捜査の手がおじちゃんに迫っているから私が阻止しないといけないし、墓場泥棒には遭遇するし、その上死体まで発見してしまう!
一体どうなっているの?
私は普通に暮らしているつもりなのに・・・
「贋作と共に去りぬ」 「贋作に明日はない」 に次ぐ贋作シリーズの第3弾。

久しぶりにアニーに再会して、ちょっとは落ち着いたかと思えば、全然成長してないんだからと思わず苦笑してしまう。
今回も相変わらず無鉄砲で、ドタバタ慌ただしく嵐のように走り回っていた。
そこがアニーの魅力でもあるのだけど。
あっ、でも携帯を充電するようになったのは成長かもしれない。

長身で高級スーツを身にまとう堅物お金持ちの大家さん・フランク。
正体不明の遊び人風でセクシーな元美術品泥棒・マイケル。
アニーを取り巻くイケメン2人との恋の行方も目が離せない。

本作でフランクの意外な過去が明らかになったり、仕事面で急展開を迎えたりと、
これからどうなるのかやはり次作が気になってしまう。

またまた絶叫マシーンに乗せられ、キャーキャー悲鳴を上げている間に終わってしまったようだった。
今度こそ落ち着こうよ、アニー。

2012年12月23日日曜日

江戸の下半身事情

江戸の下半身事情
永井義男著
祥伝社



江戸時代にはどんな「事情」があったのだろうか?
 
 


本書は、「江戸期の春本はかなり目を通してきた」という著者が、江戸の「事情」についてわかりやすく解説している本である。

お金持ちにしろ貧乏人にしろ木造家屋に住み、部屋の境界は障子や襖・薄い木の壁なのだから、
ちょっとした音は筒抜け。
岡場所や女郎屋では割床(相部屋)が普通。
長屋では横に家族が寝ている。
そんな「事情」では、羞恥心などとは言っていられず、割り切るしかなかったのだろう。

江戸の人々は今と比べて、よく言えば寛容でおおらか、悪く言えば野放図で罪悪感がなかったという。
「女郎買いは男の甲斐性」
「元遊女の女は自分が遊女であったことを隠したりしない」
「葬式のあとに男が精進落としと称して女郎屋に繰り込むのは普通のこと」
というのだから、やはり現代とは少し感覚が違うようだ。

「女郎買いするならまだしも、素人の女に手を出すのは性悪だよ」
・・・現代でも素人と不倫するよりは、玄人さんと遊んだほうがましなのだろうか。
「娼家が幹線道路沿いで堂々と営業し、それなりの身分の男が白昼堂々と出入りしている奔放さ」
・・・今も大通り沿いに派手な看板を見かけるし、それなりの身分の方が白昼堂々と遊んでいそう。
現代とも共通する点もありそうだ。

江戸時代も現代も取り巻く環境は違えど、まぁ結局は男と女の関係はたいして変わらないのではないだろうか。

その他
・俳人小林一茶が52歳で初めて妻を迎え、日記に回数(連夜複数回!)を几帳面に記録していた。
・陰間はズズズとすするような所作をしては魅力が薄れるから、とろろ汁や蕎麦の類を客の前で食べてはいけない。
など、本書でも知らなくても困らないトリビアを教えてもらったが、こういった知識がいつか役に立つ時が来るのだろうか。

2012年12月21日金曜日

タライのうた―ネパール・タルー族の村めぐり

タライのうた―ネパール・タルー族の村めぐり
秋田吉祥著
東研出版

「急ぐと失敗してたどり着けないかも知れないが、ゆっくり行けば必ずたどり着く」
(ネパールの格言)



書影

 

音楽活動をしていた著者は、「のんびり人生を見直してみたい」と友人から紹介されたネパールを訪れ、惹かれていく。
その後、ネパール人と結婚し、絵師を集めカトマンズにマンダラ工房を開く。
ある日、見慣れぬ民族衣装を着た素朴な姉妹と出会う。
それがタライに住むタルー族(
Wikipedia )との出会いだった。

本書は、そんなタルー族に魅せられてタライに何度も足を運ぶことになった著者が見た、タルー族の温かい生活が描かれている。

ネパールとインドの国境に位置するタライ。
そこは、池や田んぼにたくさん魚が泳ぎ、米の栽培が盛んな豊かな土地であった。
著者は、姉妹の帰郷について行き、タルー族の人々、そして「タルーアート」の美しさの虜になる。

タルー族の女性が家の土壁などに描く、動物や植物が単純化されたカラフルでファンタジックな絵「タルーアート」。
温かみがあり、見るものの心を和ませるような優しい絵である。

彼女たちは、小さい頃から絵を描いていたのではなく、絵の経験がないまま結婚したあと、いきなり素敵な絵を描きだすのだという。
試しに姉妹に鉛筆でヒンズー教の神の絵を写させてみると、ほとんど経験がないにもかかわらず簡単にリアルに写してしまったという。
芸術系の才能は幼い頃から鍛錬しないと開花しないと思い込んでいた私には驚きの記述だった。
生まれた時から周りに絵が溢れ、描く姿を見て育ったからだろうか。

タルー族はどの人も大食漢で、子供も女性も男性の著者よりずっと量を食べるのだという。
菜穀物中心の大量の食事と労働のせいか、彼らの便は硬すぎず柔らかすぎず、健康的な良い色で臭くないという。
これは
「大便通」 に載っていた理想的な便ではないか。

また、働き者のタルー族はきれい好きでもあり、行き届いた清掃のためか著者は村でダニやノミ・南京虫に悩まされたことはないという。

優しい彼らは欲がなく向上心もあまりないためか、給料全部をお土産に使ってしまうということもあったが、読み進めるうちに著者がタルー族に魅せられたわけがよくわかる。

本書の発刊から何年も経っているので、著者はきっと今頃もっとタルー族と深く交流しているのではないか、そう思うとその後のタルー族との交流をぜひ続編として知らせて欲しいと願う。




2012年12月18日火曜日

大便通 知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌

大便通 知っているようで知らない大腸・便・腸内細菌
辯野義己著
幻冬舎

バナナ3本分。毎日いい「お便り」届いていますか?



40年もの間、世界各地から6000人超の大便を集め、大便とニラメッコを続けてきた、
その名も辯野義己(べんのよしみ)先生。(本名)
本書は、そんな辯野先生が教えてくれる、大便通になるための楽しい入門書である。

・大便は水分が80%、残り20%の固形成分のうち、1/3が食べカス、1/3が剥がれた腸粘膜、そして残り1/3が腸内細菌。
・日本人ひとりが人生80年間に排泄する大便の量は平均8.8t。
・古代中国や朝鮮半島では、大便をなめてその味で健康状態を判断する「嘗便」(しょうふん)と呼ばれる文化があり、親の健康管理のために子供が大便をなめるのが親孝行。
といったトリビアの他、腸内細菌研究の最前線がわかりやすく解説されている。

先生は9.11の当日、360人分の大便を機内に持ち込もうとして空港でひと悶着起こしたり、研究中にうっかり大便の希釈液を口に入れてしまったり、苦労しながら私たちの健康のために日々努力してくれているのである。
40日間朝はハム・ソーセージ、昼夜はステーキのみを食べ続け、最後はニオイのきつい黒いコールタール状のアルカリ性の便になるという「世にも奇妙な人体実験」 までやってのけるのだからすごい。

大便は、自らの健康状態を知らせてくれる体からの「お便り」だという。
理想は、
硬さ:歯磨き粉~バナナ位
色:黄色がかった褐色。
匂い:やや酸っぱい感じの発酵臭。(腐敗臭でない)
量:20cmくらいのバナナ2~3本分。

「不便」で「腸高齢化社会」になった現代、そんな理想的な「お便り」を毎日受け取ることはなかなか難しい。

大腸は多くの病気と関係している。
腸の老化が外見にも影響を与える。
腸内細菌が肥満にも影響する。

そんな事を聞くと、臭いだの汚いだの言っていられない。
まずは体内からの「お便り」をじっくり読んでみよう。

2012年12月16日日曜日

少年

少年
ロアルド・ダール著
永井淳訳
早川書房

予想のつかない、ワクワクする物語を書いたロアルド・ダール。
彼はどんな少年時代を送ったのだろうか。



『チョコレート工場の秘密』『マチルダはちいさな大天才』 『こちらゆかいな窓ふき会社』など、ワクワクするような児童文学や短編を発表したロアルド・ダール。

ノルウェー人の両親のもと南ウェールズで生まれ、6人兄弟(異母兄弟含む)の賑やかな家庭で育つ。
父親が船舶雑貨業で成功したため裕福な暮らしをしていた。
ダールがまだ3歳の時に姉と父を立て続けに亡くす。
7歳で男子校に入学し、9歳で寄宿舎に入る。
12歳でパブリックスクール入学。
18歳でシェルに就職。

本書は、そんなロアルド・ダール(1916-1990)の少年時代を中心に書かれた自伝である。

9歳の時いつも寄っていた駄菓子屋のいやなばあさんに仕返ししようと、ネズミの死骸をお菓子の瓶に入れたり、いけ好かない姉の婚約者がいつも吸っているパイプにヤギの糞を詰めたりと、今では考えられないイタズラをする。

学校にはイヤな先生がたくさんいて、何かと鞭打ちの刑にされてしまう。
学校には手ごわい上級生がいて、こき使われ、理不尽な仕打ちを受ける。
まるで、ダールの物語に出てくるような世界だ。

それでもこまめに母親に手紙を書き(全て残っているそう!)、毎年家族で楽しい旅行に行くという家族愛に恵まれすくすくと育ったダール。
やっぱりお菓子が好きだったんだなと思うエピソードもたくさんあり、少年時代の辛い体験、楽しい経験が作品につながっていくのだなと感じた。

そんなダールも学校での作文の成績は散々だった。
「論旨支離滅裂・語彙拙劣」
「級で最低の生徒」
「発想にみるべきものなし」
酷評した当時の先生方は、ダールの何を見ていたのだろうか、その後有名になってどう思ったのだろうか。

写真や当時出した手紙・イラストがたくさん掲載されていて、文章も読みやすく飽きさせない、さすがサービス精神旺盛なダールらしい、素敵な伝記だった。
青年期について書かれた「単独飛行」もぜひ読みたいと思う。

以下興味深かった箇所
・1934年当時、無帽・傘なしのサラリーマンなどいなかった。傘なしだと裸で外を歩くような気がした。
・卒業後、大学に行かずに遠く離れた素晴らしい土地へ行かせてくれる会社で働きたいとシェルに応募した。その後ライオンやキリンに会えると喜んで東アフリカに赴任した。


図書館で借りた表紙

2012年12月13日木曜日

洗面器でヤギごはん

洗面器でヤギごはん
石田ゆうすけ著
幻冬舎文庫

7年半かけて自転車で世界一周した著者は何を食べてきたのか。感動の旅行記。



1995年に日本を発ち、7年半かけて自転車で北米→南米→欧州→アフリカ→アジアを周り、87ヵ国を訪れ、2002年に帰国。
本書は、そんな著者が食べてきた食べ物の話を中心に書かれた旅行記である。
㊟2006年に実業之日本社から刊行されたものに20話足して、大幅加筆訂正の上、幻冬舎文庫より刊行された。

読み始めて文章の上手さと表現力の豊かさに、すぐに引き込まれた。

氷点下でのサイクリングなど想定していなかったのに、記録的な寒波に見舞われマイナス13℃の中を走る。
人気のない砂漠で銃口を突きつけられ、自転車以外全て盗られてしまう。
そして幾度となくお腹を壊しながら、著者はくじける事なく赤い自転車でひたすら走り続けるのである。

暴力的な甘さの極彩色のケーキを無理やり食べ、
親切にしてくれた人が作ってくれた堆肥のニオイのスープを前に途方に暮れる。
かき氷の蜜を求めてカップに蜂が黒く群がっているのに慄き、
美味しいパンの中に埋もれていた大量の蟻を見て錯乱状態に陥る。
ポーランドでご飯の上に生クリームとイチゴジャムと砂糖が大量にかかっている「ライス」を頼んでしまい、玉砕する。
シリアでは招待された家庭のどこでも、歯槽膿漏のおじさんの歯垢をかき集めて熟成させたようなヤギの乳のヨーグルトを出され、口の中で小爆発を起こす。

世界には想像を超えた食べ物がたくさんあるんだなぁと改めて思う。

冗談半分で泊めてと言ったらOKしてくれたペルーの軍事施設。
地雷で指を3本失ったカンボジア人にフランスで夕飯をご馳走になり、
怖いと怯えていたクルド人に泊めてもらう。
「日本ではみんなに良くしてもらったから」と食事代を取らないイラン人。

著者とはなんの関わりもないのだが、「見知らぬ日本人にこんなに親切にしてくれてありがとう!」と何度も叫びたくなった。
著者の暑さ寒さ・辛さ喜び・そして感動は、実際に体験しないとわからないかもしれないが、何度も胸が熱くなり、鼻がツーンとしてしまった。
観光地ばかり巡る旅行者には味わえない、人と人との触れ合いがギュッと詰まった一冊だった。

たまたま面白そうな題名に惹かれて手にとったのだが、本書は「世界9万5000㎞自転車ひとり旅シリーズ」第3弾だという。
第1弾「行かずに死ねるか!」第2弾「いちばん危険なトイレといちばんの星空」もぜひ読みたいと思う。

※参考:著者のブログ
※美味しい食べ物ももちろんたくさん載っていた。以下本書からの抜粋
(ブルーベリー)野生の鋭い酸味と甘みが口の中で弾け、澄んだ体に嬉々として染みわたっていった。
(濃い褐色のパン)噛んでいると遠くの方から穀物のほのかな甘みがじわじわとやってくるのだった。
(ピザ)森の奥へ、さらに奥へと、精霊に導かれ、次第に思考力を失い、指についた油も気にせず無我夢中で頬張っている自分がいたのだ。
(石斑魚)言葉も出なかった。磁気のように光る白い身は、噛むとアサリの身に似たむっちりした歯ごたえがあった。一片の淀みもない、清水のように澄み切った味だ。だが、噛んでいると深いコクと甘みが滲み出してくる。

2012年12月11日火曜日

金魚のお使い

金魚のお使い
与謝野晶子著
和泉書院

与謝野晶子の童話集。母の愛にあふれた21編。
書影



与謝野晶子が子育てをしていた当時の子供向けの話には
・仇討ちや金銭に関したことが混じっている
・言葉遣いが野卑
・あまりに教訓がかっている
ものばかりなため、自分の子供たちに自分で作って聞かせたのが童話創作の始まりだという。

その後「少女の友」などの雑誌に次々と子供向けの話を発表していく。
本書は、明治43年に出版された「おとぎばなし少年少女」に収録された話を中心に21編が収められた与謝野晶子の童話集である。
(現代かなづかいに改め、不適切な表現を修正しているとの注意書きがあった。)

金魚が電車に乗っておつかいに行く表題作の「金魚のお使い」、誰もが逃げ出す泣き声の女の子が登場する「女の大将」など、楽しい子供向けの話が掲載されている。

私が一番気に入ったのは、「黄色い土瓶」という物語。
土瓶に目を書くという「おいた」をすると、土瓶は「目が開いた」と大喜びする。
小躍りするたびにお湯をこぼしてしまう土瓶。
お父さんに足を描いてもらうと、お辞儀してお礼を言う。
下を向いてどぶどぶお湯をこぼす土瓶。
そんな土瓶がお使いを頼まれて・・・
と読みながらワクワクするような話だった。

「母さんも言って下すったものですから」など言葉遣いがとても丁寧で、竹久夢二始め当時の挿絵も掲載されていて、明治~大正の雰囲気をたっぷり味わえる。
教訓がかっているのが嫌だと言いつつも、時々教育的指導が透けて見えるところに、子沢山であった与謝野晶子の母心が伺える。

襦袢、帳面、天長節など今ではあまり使われない言葉が出てくるので子供が一人で読むには難しいかもしれない。
「巴旦杏」(はたんきゃう・スモモの一種)や「髷のてがら」(丸髷の根元に飾る布切れ)は私もわからなかった。
しかし、内容的には大人も楽しめる童話集である。

※先日「与謝野晶子が当時爆発的に流行っていたパラフィン注射式の隆鼻術を受けた」と週刊誌で読んだ。本当だろうか。

2012年12月9日日曜日

絵画の住人

絵画の住人
秋目人著
アスキーメディアワークス

絵の中の人が喋るとしたら何を語るのだろうか?絵の中に描かれた食べ物は美味しいのだろうか?




 


主人公の 諫早佑真 はある事情から高校を中退して上京し、「職なし、彼女なし、住処なし」となってしまった。
そんな時、絵の中の人物が動き回る様子を見ることができるばかりか、会話までできるという「素質」を見込まれて、画廊で働かないかとスカウトされた。
絵の知識なんか全くないにもかかわらず。
そこは画廊といっても、有名絵画の複製ばかりを展示してある不思議な画廊だった・・・


セザンヌの「リンゴとオレンジ」に描かれたリンゴは最高においしい、
ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」に描かれている白身魚も美味、だという。
名画に書かれた食べ物にも、味の美味い不味いがあるらしい。

「真珠の首飾りの少女」は几帳面でソファが壁に対して平行になっていないと気になってしまう。
「最後の晩餐」のユダは最後まで迷っていた。

「ひまわり」は気分によって色を変える。

名画の複製版画の中でも、命を吹き込まれている絵ばかり展示してある画廊。
本書は、そんな画廊で働き始めた主人公と、「絵画の住人」たちが織り成すファンタジーチックなミステリーである。

絵を見ながら「中に描かれている人や物がこちらの世界に出てきたら?」、または「絵の世界に入り込んだら?」と考えたことある方は多いだろう。
そんな「もし」が、この物語の中で繰り広げられる。

絵画が意思表示し、時には強硬な主張をして主人公を困らす。
楽しいことばかりではないけれど、最後はうまくまとまってホッとする。

あまり話題になっていないようだが、読みやすくなかなか面白かった。
続編も出して欲しいなと願う。

私の前にも「絵画の住人」が出てきたら歓迎するんだけどな。

2012年12月7日金曜日

忘れられた日本人

忘れられた日本人
宮本常一著
岩波文庫

私たちは日本人の心を忘れてしまったのだろうか?辺境の村を歩いて生活の話を聞いた著者の代表作。この本を読んで「豊かさ」とは何かを考える。



本書は、著者が昭和14~25年頃にかけて各地を歩き、古文書をあたり、村の古老たちから聞いた生活の話をまとめたものである。

隣が何をしているかわかるすぎるくらい狭い村社会で、仲良く暮らしていくため、寄合い制度が生まれた。
年齢別グループに分かれ、取り決め・話し合い・情報交換などをしていたという。
ときに悪口大会になって日頃のうっぷんをはらすが、その場かぎりで、あとは何事もなかったように暮らす・・・なんと合理的な方法だろうと感心する。

一日中よく働き勤勉な一方、歌を歌いながら仕事をするなどストレス解消法も様々だ。
その中でも性に関して
 ・歌の掛け合いで、男女が体を賭けて争う。
 ・盆踊りの歌に性に関する歌詞が多い。
 ・夜這いは女の方もおおらかに受け入れ、親もあまり仲良すぎる時に咳払いをする程度だった。

との記述があり、『盆踊り 乱交の民俗学』にも書かれていたが、改めて性のおおらかさには驚かされる。

その他、昔の道具や食べ物など生活の様子が語られていてとても興味深い。
我が子を人に預ける「貰い子」をする母の気持ちに胸が熱くなり、「歳をとっても働いておらんと気がおさまらん」という老人の言葉に己の怠惰を恥じる。
特に「土佐源氏」という章で、80歳の盲目乞食が語る女性遍歴は「おじいちゃ~ん、もっとお話聞かせて~」と言いたくなるような、小説のような面白い話だった。

借りた本だが、これはぜひ購入したい。
そして、手元に置いて何度も読み返したい、私にとって大切な一冊となった。



※大学の図書館で借りたのだが、茶色に変色して表紙もなくボロボロだった。
おまけに懐かしの返却期限票まで付いていて、読み続けられていることになんだか嬉しくなった。

2012年12月4日火曜日

天使と悪魔  上・中・下

天使と悪魔
ダン・ブラウン著
角川書店

それは地球を救うのか?それとも破滅させるのか?その人は天使なのか悪魔なのか?ダイ・ハードばりに不死身の主人公が一気に駆け抜けていく物語。



通常とは逆の電荷を帯びた粒子からなる「反物質」。
人類最強のエネルギー源でもあるが、非常に不安定で危険を伴う。
そんな「反物質」を初めて作り出した科学者が殺され、スイスにある優秀な頭脳集団、欧州原子核研究機構・セルンの実験室からサンプルが盗まれた。
科学者の胸には「イルミナティ」の紋章が焼印されていた。
イルミナティ---世界史上最も隠密な秘密結社であり、科学的真実の探求に生涯を捧げた人々の集まり。
そしてそれは、ずっと昔に消滅したと考えられていた「神の敵」と恐れられていた強力な悪魔集団だった。
セルンの所長に呼び出されたハーバード大学の宗教象徴学教授 ロバート・ラングドン が、謎に迫る。

この「天使と悪魔」を始め「ダ・ヴィンチ・コード」「ロスト・シンボル」のロバート・ラングドン・シリーズは長い間積んでいた。映画も見ていない。
あまりに有名な作品のため読んだ気になっていたのもあるが、歴史や美術・物理に関する知識が必要なのではないかと二の足を踏んでいたのだ。

高校時代に「物理」とは少し仲良くしたあと、やっぱりあなたのことは理解できないとこっちからフッてやった身。
世界史や美術は近寄りもしなかった関係。
そんな私でも読めるだろうかと不安を抱えながら、積ん読消化のため読み始めた。

読み始めると、そんな不安はすぐに飛んでしまった。
どんどんストーリーにのめり込んでいく。
そして、ダイ・ハードばりに不死身の主人公が一気に駆け抜けていくので、こちらも必死で追いかけるうちに、あっという間に読み終えてしまった。

こんな目にあってどうして助かるんだろう?と疑問に感じても、どんどん進んでいくストーリーに目が離せないのでゆっくり考えている暇などない。
どこからどこまでが事実なのか、どこからフィクションなのか、それも全くわからないが、ときに本を逆さまにしながら何とか食らいついてゴールまでたどり着いた。
久しぶりにハラハラドキドキと、読み終わった達成感を堪能した一冊だった。

読み終わった今、「ああ、ハリウッド映画的だな、エンターテインメント作品というのはこういう物語のことを言うんだな」と思う。
知識のある人もない人もそれなりに楽しめる娯楽小説で、話題になり映画化もされたことに納得する。

次は「ダビンチコード」だ。
でも、連続でこういった本を読むのには体力が必要そう。
少し休憩を入れてから取り組もう。

2012年12月3日月曜日

2012年12月2日日曜日

興奮する匂い 食欲をそそる匂い ~遺伝子が解き明かす匂いの最前線

興奮する匂い 食欲をそそる匂い ~遺伝子が解き明かす匂いの最前線
新村芳人著
技術評論社

まだまだ解明されていないことがたくさんある「匂い」。そんな匂いを科学する入門書。



録画して毎週楽しみに見ている「探偵ナイトスクープ」。
先日、「オナラのニオイが好きな女性」が、複数の男性のオナラをホースで直接嗅いで喜ぶという衝撃の内容が放送された。
人の好みは多種多様だと理解していても、仰天した。

ヒトゲノムが解読されて嗅覚研究が大きく前進したとはいえ、匂いについてはまだまだ解明されていないことがたくさんあるのだという。
本書は、そんな「匂い」を科学的に解説した入門書である。

匂いの嗜好性は、後天的な学習によって形成されると考えられている。
その匂いを体験した環境に左右されるのである。
2歳児くらいまではまだ匂いに対して良い悪いという概念が存在していないという。
それならきっと「探偵ナイトスクープ」の女性は、幼少期にオナラと素敵な体験を結びつけているから「好みの香り」だと刷り込まれているのだろう。

その他
・調香師が、望みの香りを持つ分子を得るためには試行錯誤によるしかない。
・嗅盲--特定の匂いを嗅ぐことができない人がいる。(ということは自分では気付かなくても部分的に嗅盲の人がたくさんいるのではないか。)
・糞の悪臭の主成分・スカトールは、低濃度の場合花の香りがして香水にも利用されている。
・精子にも嗅覚受容体が機能しており、卵子のスズランのような香りにおびき寄せられて受精する。
・イヌは鼻がよいと言われるが、獲物である動物の匂いには敏感だが、それ以外の例えば植物の匂いに関してはそうでもない。
・様々な生物がフェロモンを利用してコミニュケーションを行っている。
と興味深い話がたくさん掲載されていて読み応えがある。

また、匂いとは直接関係ないが、機能を失ってしまった「偽遺伝子」の塩基配列には「終止コドン」が含まれているのですぐわかるという話は、素人ながらへぇ〜へぇ〜唸りながら興味深く読んだ。

※ここだけの話、「入門書」のようにわかりやすいとは言っても、化学式が出てくると途端に睡魔に襲われるという危機を乗り越えて読了した。