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2017年2月18日土曜日

小説 この世界の片隅に

人間って強いようで弱いもの。だけど、人間って弱いようで強いのです



映画「この世界の片隅に」を観てきました。
戦時下の広島で暮らす「すず」が主人公です。
すずは、絵を描くことが大好きなのんびりした少女です。
縁あって呉に嫁ぐことになりました。
最初は戸惑っていた婚家での暮らしですが、いつしか馴染んできた頃、戦況が悪化していきます。
辛いことをたくさん経験しながら、すずは次第にたくましくなっていく、というお話です。

映画館が明るくなった時の感情を、なんと表現したらいいのでしょう。

  なんだろう、この気持ちは。
  悲しくて泣いているんじゃない。
  ましてや、悲惨で可哀想と同情しているのでもない。
  なんだろう、この感動は。
  なぜこんなに清らかな気持ちになるのだろう。



 この感動を抱えたまま本屋さんに走り、店員さんに「映画の原作本ありますか?」と聞いて渡されたのが本書です。
何も考えず、買って帰ってビックリでした。
原作はコミックで、これは映画をそのまま小説化したノベライズ版だったのです。
もぉ、お姉さんたら!

読んでみると、遊郭の女性との交流や夫の過去など、映画にはない場面がいくつもありました。
この本を読んで初めてそうだったのかと納得できたのです。
お姉さん、ありがとう!

映像をそのまま活字にしたような文章なので、あの感動がまた甦ってきます。

  戦争の苦しみに思わず洩らしたすずの本音。
  「なんでこんなことになるんじゃ。うちらが何をした

      んじゃ」

  玉音放送を聞いたすずの叫び。
  「最後の1人まで戦うんじゃなかったのかね?」

  娘を亡くした母の慟哭。


思い出しては、胸がつまります。
だけど、決して戦争の悲惨さを必要以上に表現した作品ではありません。
苦しい状況下で工夫しながらたくましく生きる人々の日常が、笑いを交えて描かれているのです。
映画館では何度も笑い声があがりました。

  戦争中でも、草木は茂り、セミが鳴く。
  新型爆弾が落とされても、日はまた昇り、風が吹く。
  終戦を迎えても、お腹がすきご飯を食べる。
  母を亡くしひとりぼっちになってしまった少女にも、

   いつしか笑顔が戻る。

人間って、自分の意思とは関係ない大きな何かに巻き込まれ、簡単につぶれてしまう弱い存在です。
でも、つぶれても立ち直る強さを兼ね備えているのです。
この世界の片隅に生きているちっぽけな私も、あなたも、みんなが笑うて暮らせりゃええのにねえ。
そんなメッセージを受け取った気がしました。

※映画を観ずに本書だけ読むのはおすすめできません。
ストーリーを追った内容なので、世界観までは表現できていないと思うのです。
のどかな風景など絵の柔らかさ、シュッシュッとデッサンする鉛筆の音などは、映画でなければ味わえません。

2017年1月30日月曜日

風の向こうへ駆け抜けろ

努力する人は美しい地方競馬で奮闘する弱者たちの挑戦。
 



競馬には、農林水産省が管轄する中央競馬(JRA)と、各自治体が運営する地方競馬があり、両者には歴然とした差がある。
レベルも賞金額も違うのだ。
しかし、交流戦もあり、地方からG1を狙うことも可能である。

本書は、地方競馬に所属する少女の挑戦の物語である。

主人公の瑞穂は、騎手免許を取得したばかりの17歳。
訓練を終え、広島の地方競馬の弱小厩舎に所属することになった。
行ってみると、そこはやる気のない者の吹きだまりのような場所だった!

アル中親父、80過ぎの老いぼれ、コミュニケーションをとろうとしない美少年、そして投げやりな調教師。
その上、所属する馬はまともに走れない馬ばかり。
そんな弱者たちの集まりの中で奮闘する瑞穂だが、嫌がらせやアクシデントなど、様々な試練が待ち受けていた。

しかし、瑞穂のひたむきな努力により、だらけていた厩舎もいつしか変化していく。
やる気のないように見えた彼らは、過去の辛い体験から心に深い傷を負っていたのだ。
もともと馬への愛情は人一倍強い者たち。
諦めかけていた夢を追い求め、人と馬が一丸となって、目標に立ち向かっていく。

競馬界のしきたりや馬の躍動感が、丁寧に描かれている。
著者はもともと乗馬が趣味で、一年かけてみっちり取材したんだそう。
だからこそ、馬に対する愛情溢れた表現ができたのだろう。
特にレースの疾走感は圧巻で、思わず力が入ってしまう。

手に汗握り瑞穂たちを応援しながらも、いつしか自分が励まされていることに気づく。
不器用でも、挫折しても大丈夫。
人生はまだこれからだよ。
「ファンファーレは、今鳴ったばかり。スタートもゴールも、まだずっと先にある」
のだから、と。

本を閉じ、「風」が駆け抜けていったような爽やかさを感じている。
競馬好きはもちろん、馬のことを何も知らない人にも、希望と感動を与えてくれる物語である。


※魚目(さめ)という言葉を本書で初めて知った。
馬の目はいわゆる黒目がちで、白目部分が少なく、ほとんどが黒目である。
しかし、ごく稀に強膜や虹彩の色素が欠落して生まれてくる馬がいるという。
中でも虹彩が蒼白い馬を魚目というのだ。
検索してみると、まさに魚の目のようだった。

2016年11月25日金曜日

W/F ダブル・ファンタジー

ダブル不倫・ときどきつまみ食い。物議を醸した恋愛小説。



発売当初物議を醸したこの本を、この時期に急いで読んだのにはワケがある。
週刊文春で、続編の連載が始まったのだ。
この「ダブル・ファンタジー」が連載されていたときにも文春は読んでいたが、スルーしたのが今となっては悔やまれる。

いつだったか、ある週刊誌(どの週刊誌かわからない)で連載されていた村山さんの「なんちゃら」という小説に(題名も思い出せない)はまったことがあった。
その小説の中の一人がホントにいい男で、アウトローな雰囲気を醸し出したイケメン(想像)だったのだ。
連載が終わってしまって、どんなに嘆いたか!
ストーリー展開しなくていいから、イケメン描写だけでも永久に続けて欲しかったくらいだ。

それから村山さんに興味を持ち、今回の連載を読もうと思ったのだが、私はどうにも続きや続編から読むことに抵抗があり、だから色んな事をすっ飛ばしてでも本書を読もうと思ったのだ。

主人公は35歳の脚本家・奈津。
性的欲求が強い奈津は、既婚者ながら様々な男性と恋愛を重ねていく。大御所の脚本家や、学生時代の先輩とのダブル不倫。
そしてお坊さんや俳優、挙げ句の果ては出張ホストまでつまみ食いしていくという物語である。

簡単にいうとたったそれだけの恋愛話を494ページにまで膨らませ、一気に読ませるのだからすごい。
丁寧な心情描写と独特のキレイな表現はとても新鮮に感じた。
中央公論文芸賞・柴田錬三郎賞・島清恋愛文学賞のトリプル受賞作でもある。

でも、共感する部分はいくつかあったものの、残念ながらいまいち話に乗れなかったのである。

せっかくいい男とくっついたのに、他の男にいってしまうなんて。
結局、奈津はどんな男だろうと飽きて別れてしまうんじゃないの。

そう考えて、冷めた目で奈津を見てしまったのだ。
男女の関係は、ジェットコースターのような激しいものよりも、穏やかで安らげる方がいいと私が考えるのは、恋愛戦線から離脱して久しいからなのかもしれない。
ベタな甘い恋愛ものは好きなんだけどな。

インタビューでご自身も「欲求が強く、淫乱だと思っていた」とおっしゃる村山由佳さんは、現在52歳。
40歳過ぎてからタトゥーを3箇所に入れたりと、まだまだ現役感ムンムンで、2度の離婚を経て現在新たなパートナーと同居中なんだそう。

そんな村山さんが「行き止まりのない性愛を描き尽くす」という続編は、「ダブル・ファンタジー」から9年後。43歳になった主人公・奈津の恋愛が再び始まるのだ。

今は、「体以上に心が満ち足りている」という村山さん。
円熟した大人の関係を築くのか、それともまたまた激しい欲望の渦に巻き込まれるのだろうか。



※裏表紙を見てびっくり‼
ヘアヌードだったのです。
これではカバーなしで読めません。

※本書が「ダブル・ファンタジー」、続編の題名は「ミルク・アンド・ハニー」。
ジョン・レノンとオノ・ヨーコだったんですね。

2016年10月11日火曜日

君の名は。 Another Side:Earthbound

映画「君の名は。」の楽しみ方に関する一考察。

新海誠・原作
加納新太・著
角川スニーカー文庫




大ヒット中の映画「君の名は」を観に行ってきました。
事前情報の通り、景色の映像が綺麗でストーリーも飽きさせず、子どもからお年寄りまで万人受けするのも頷けます。
ただ、うるっときた場面でまさに涙が溢れようとするその瞬間、隣でダーリンが号泣し始めたのです、ズルズルと音をたてながら!
そうなるとこちらは興ざめで、泣く気が削がれてしまい、モヤモヤと不完全燃焼気味になってしまいました。

この映画に関して、ある方がこの「君の名は。 Another Side:Earthbound」を読まないと映画が理解できないと力説してらっしゃいました。
純粋に映画を楽しめたらそれで十分なんだけどな。
きっと買っても一度読んでおしまいだからもったいないなぁ。
と思っていましたが、映画を観たらやはり気になってしまい、その足で本屋に走り、購入してしまったのです。

本書は4章に分かれていて、本編の外伝といった位置付けです。

第1話、女子高生に入れ替わってしまった男子高校生が、着けたこともないブラジャーに戸惑う、男目線のサービス物語。
第2話、友人のテッシーの目線から、由緒ある神社の娘として生まれた苦悩や田舎暮らしの生活。
第3話、妹の四葉から見た家族の様子。
と続いたあと、問題の第4話です。

亡くなった母となぜか民俗学者 → 宮司 → 町長と職業を変えていった父の物語です。
ここで初めて、二人の出会いを始めとした過去の出来事が語られます。

ああ、そうだったのか。
だからなのか。
ここまで壮大なストーリーだったのか。

と驚きました。
そしてこれらを踏まえて、もう一度映画を観てみたいと思ってしまうのです。
映画を観て本を読んで、また映画を観たいと思う映画!
新海誠さんはここまで想定していたのでしょうか?
それなら恐るべきマーケティング力です。

さて、私が考える「君の名は。」の楽しみ方ですが、

①たっぷり堪能したい方

映画

小説(活字でストーリーを確認する)

本書(違った見方や過去の出来事を知る)

映画

②堪能したいが、節約もしたい方

映画

本編のあらすじ(ネタバレ)サイト

本書のあらすじサイト

映画

③別に興味ないけど流行ってるから知識として知っておきたい方

予告編等の映像でイメージをつかむ

本編のあらすじサイト

④テレビ放映まで待てばいいと思う方

待つ

⑤何の興味もない方

何もしない

他にも映画を1回観るだけという手もありますが、それだけだともったいないのです。
奥にはもっと深い物語があったのだから。

さて、あたなならどうしますか?

~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※~※

 石原さとみさん主演の「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(フジテレビ)を楽しみに見ていますが、校閲の仕事とは誤字脱字のチェックだけでなく、内容の矛盾や表現の誤りを正すことも含まれるそうです。
本書では急ピッチで出版されたのか、校閲が甘い部分が見受けられました。
例えば、パジャマ姿で髪の毛をタオルで包んだ三葉がと書かれているのに、イラストはパジャマは着ているものの髪の毛はタオルで包んでいるどころか濡れている感じもありません。
そして、髪のセットに異常にこだわっているのに、そのままふて寝してしまうのです。
女子高生が濡れたまま寝るの!と驚いてしまいます。
私が校閲ガールだったら、髪は乾かした状態に変えてもらうように指示するんだけどな。

2014年3月18日火曜日

代書屋ミクラ

松崎有里著
光文社
 
泣き虫の妄想王子、只今参上!!あなたはこんな王子様お好きですか? 
 
 
 


主人公のミクラは代書屋さん。
研究者たちの論文の執筆を代行するのが仕事です。
講義や試験、それに会議や学会で忙しい、文章を書くのが苦手、怠惰・・・
研究者たちは様々な理由で代書屋さんに依頼します。

ミクラはまだ駆け出しのペーペーです。
だから先輩代書屋さんのトキトーさんに、よく仕事を紹介してもらっています。
でも、トキトーさんが紹介する仕事って何かしら難点があるのです。
高飛車な態度をとられたり、薄毛を必要以上に気にする研究者だったり・・・

本書は、5話からなるユルユルとした不思議な雰囲気の連作短編集です。
この主人公のミクラがとってもかわいいのです。
20代男性をかわいいと言うのもちょっとヘンですが(^^;

ミクラは気が弱く、研究者たちの理不尽な要求に文句も言えず黙って従います。
脳内では激しく妄想していますが。
また、若くして亡くなった過去の数学者の経歴を読んだだけで「きっと結婚したかったんだろうな。」と泣いてしまうほど、とても涙もろいのです。
そして、ちょっとしたことから妄想が始まり、脳内劇場を開幕してしまう 妄想王子なのです!
自分で作り出した「アカラさま」という神様や、サボテンと会話しながら妄想が炸裂していきます。

ある方が「キュンキュンして癒され悶える本」とおっしゃっていたので、いい男大好きな私は、猛烈に読みたくなって手に取りました。
キュンキュンしなかったらどうしようと不安を抱えながら。

結論から言うと、「かわいい」「いい子」とは思うものの、残念ながらミクラにキュンキュンすることはできませんでした。
個人的には、優しくて、それでいてもっと肉体派の強い男、男性ホルモンがムンムンしているような男が好みなのです。
具体的には・・・(長くなるので以下自粛。)

その点、このミクラはちょっと頼りなさすぎます。
好感は持てますが、かわいい弟、かわいい息子のように感じて、恋愛目線でみることはできなかったのです。

それと私は一人の女を想い続ける一途な男が好きなのですが、ミクラはとっても惚れっぽいのです。
お花屋さん、床屋さん、パン屋さん・・・次々と恋に落ちては妄想し玉砕する・・・
お前は寅さんかっ!!と突っ込みたくなるほどです。
移り気すぎて、ちょっと残念に思いました。

なんだか私の理想のタイプを発表する場みたいになってしまいましたが、あなたはこんな妄想王子どう思われますか?

2013年12月8日日曜日

クローズド・ノート

雫井脩介著
角川文庫



主人公は教育大学に通う 香恵
影響されやすく、あまり主体性のない天然系女子である。
一人暮らしの部屋で、前の住人が残していった手紙とノートを発見した。
どうやら前の住人は「伊吹先生」と呼ばれる小学校の先生だったようで、手紙には「先生大好き」といった生徒たちからのメッセージが書かれていた。
そして、ノートには受け持ちのクラスのことを真剣に考えている様子や、好きな男性「隆」のことが事細かに綴られていた。
それを少しずつ読み進めるうちに、香恵は「伊吹先生」の大ファンになり、先生の恋愛を応援するようになっていった。

香恵はある日、自分の部屋を見上げているイケメンに出会う。
その男が、バイト先の文房具店に万年筆を買いに来て交流が始まった。
その彼・イラストレーターの隆作は、亡くなった「伊吹先生」の元カレだった!
その事実に、読者はすぐにピンと来てしまうのだが、香恵はずっと気づかないまま・・・

偶然が重なりすぎの都合のいいストーリーなのだが、不思議と不自然さは感じない。
それは、香恵の心情を細かく丁寧に追っていくからだろう。

しかし、どうも今ひとつ物語に入り込めない。
主人公の女の子が、ドジで天然で素直でかわいい「男が理想とする女」のような気がするからだ。
こんな子いないよ、とひねくれ者の私は思ってしまうのだ。
女性作家が書いた私の好みの「理想の男性」にはすぐキュンキュンするくせに、なんてわがままな読者なんだろう。

ただ、ストーリーは正統派の純愛物語でなかなか面白いなと読み進めると・・・
これは反則だぁ!
「恋人の死」「死んでも想い続ける」っていうのだって悲恋の鉄板なのに、子供たちまで使うとは!
筋書きが見えていても、これは切なすぎるではないか!
登場人物には共感できないものの、哀しみだか感動だかなんだか自分でもよくわからないものがこみ上げてきてしまった。

雫井脩介さんは、ミステリーしか読んだことがなかったけれど、こんな物語もお書きになるんだなぁ。
やられてしまったではないか。

2013年10月20日日曜日

幕が上がる

平田オリザ著
講談社

高校の演劇部が舞台の物語。高校生ってやっぱり眩しい。キラキラ輝いていて眩しい。




小学校の発表会で宮澤賢治作「よだかの星」の劇をした際、大きな声が出るという、ただそれだけの理由で主役のよだかを演じた。
今から思うと単なる棒読みで、心を込めて演じる・役になりきるということの意味すらも分かっていなかった。照れや迷いを捨てきることができなかったのだ。
映像が残っていなくて本当によかった。

舞台を見に行くと、時々最前列の席がとれることがある。
間近で見る俳優さんたちは役になりきっていていとも簡単に涙を流し、喜びを体いっぱいに表現している。
心技体に加えて、理解力も必要な難しい仕事だろうと思う。

で、この 「幕が上がる」 である。
舞台は、北関東にある高校の演劇部。
目標は地区大会を突破して県大会に出場するという弱小のクラブではあるが、それぞれ懸命に努力していた。
そんな中、新学期に新任の美術教師が学校にやって来た。
美人な上に、大学時代演劇をやっていたという噂だ。
さっそく副顧問をお願いし、指導してもらうことになった。
その美術教師は、なんと「学生演劇の女王」という異名まで持つ人だった。
強豪校から転校してきたクールな天才少女。
ちょっぴりメンドくさい性格のお姫様キャラの看板女優。
演劇はど素人で「すげー」が口癖の顧問の先生。
そんな登場人物たちが県大会を目指して奮闘する青春物語である。

演劇部の部長である さおり の一人語りで綴られていくこの物語は、読みやすく、演劇に打ち込む高校生たちにすぐに惹かれていった。
今までも別にやる気がなかったわけじゃない。
ただ、どうすればいいのかわからなかったのだ。
上手く指導したり助言するだけで、彼らは格段に上達していく。

女子高生の心の中をちょっと覗き見させてもらうくらいの気持ちでいたのに、いつの間にか、頑張れ!頑張れ!と保護者の気分になって応援している自分がいた。

悩みながらも力を合わせ少しずつ形にしていく。
本番の舞台で緊張し、手が震える。
きっと大丈夫と確信したり、不安に思ったりと揺れ動く少女の心情が手に取るようにわかり、「ああ、懐かしいな」と遠い昔を思い出していた。

スマホやギャルメイクとは無縁の田舎の高校生たちだが、演劇に勉強に真摯に打ち込んでいる等身大の高校生たちに好感が持てる。
高校生たちってキラキラ輝いていて、眩しいな。
自分たちはそのことに気がついていないだろうけど。
遠い昔を思い出して、感傷的な気分にさせてくれた1冊だった。

2013年9月5日木曜日

姉飼

遠藤徹著
角川書店

この本、凶暴につき・・・




夏という季節は、人をいつもと違う自分に変えてしまうのかもしれない。
昨夏は、暴力的な性を描いた「城の中のイギリス人」を読んでしまった。
そして今年は、普段なら手を出さない「エログロホラー」というジャンルのこの「姉飼」を借りてきてしまったのだから。

本書は、第10回日本ホラー小説大賞を受賞した表題作「姉飼」など、4編が収録されている短編集である。

【姉飼】
脂祭りの夜に、出店で串刺しにされ泣き喚いている「姉」を見た時から惹きつけられてしまったぼくは・・・
脂祭りって何?
「姉」って人間じゃないの?
っていうか、太い串で胴体の真ん中を貫かれているのになぜ生きていられるの?
などという私の疑問は置き去りにされながら、話はどんどん予想だにしない方向へ進んでいく。

【キューブ・ガールズ】
代金2万円の小さな四角い箱に好きな情報をインプットしてお湯で戻すと、あら不思議。
好みの女の子が出来上がる。
しかも、「○○子と××美と△△を足して3で割って小林ひとみの雰囲気で」といった客のわがままな要望に応えてくれるのだ。
小林ひとみとはちょっと古いなぁ。
それなら私は「インパルス堤下の顔と声で、体は・・・」と妄想しているうちに、意外な結末へと向かう。

【ジャングル・ジム】
公園のジャングル・ジムは、真っ直ぐで隠し事のない性格の気のいいやつ。
訪れる人々の悩みに耳を傾け、心の底から共感してあげる毎日を送っている。
そんなジャングル・ジムが恋をした。
デートして、あんなことやこんなことまでするのだ。
ど、どうやって?という私の疑問はまたまた無視されたまま、悲しい結末へ・・・

【妹の島】
温暖な島で果樹園を営んでいる吾郎。
体にオニモンスズメバチが卵を産みつけ体内で孵化したため、大量の幼虫が彼の体をさまよっている。
眉間に皺を寄せながら読んでいくと、人間の業とは?という深くて重たいテーマにぶち当たる・・・かもしれない。


なんという吸引力だろうか。
読み始めたら最後、私の存在など完全に無視されて、「イヤよイヤよ」と言っているにもかかわらず、ひたすら引っ張っていく。
確かにエロくてグロい。
しかしホラー度が高く、悲鳴をあげたくなるほどではないが後からじわじわした恐怖が襲って来る。
奥が深いのだ。

「城の中のイギリス人」と比較すると、エロ度は1/10、グロ度は同程度、そしてホラー度は10倍という感じだろうか。(当社比)

う〜ん。やっぱり夏は危険な本を読みたくなる季節なのかもしれない。

2013年8月23日金曜日

調律師

熊谷達也著
文藝春秋

ピアノの音にニオイを感じる---そんな共感覚を持つ調律師の悲しみ。



共感覚・・・五感に対して一つの刺激が与えられたとき、別の感覚も同時に引き起こされる知覚現象。
例えば、文字を読みながら色を感じたり、音を聞きながら色を感じたり、形を見て味を感じたりする。
そういうものだと頭で理解しても、実際に体験してみないとわからない感覚だ。

この「調律師」の主人公も、共感覚の持ち主である。
ピアノそれも生演奏に限って、ニオイを感じるというのだ。

国際コンクールで優勝するほどのピアニストだった主人公の鳴瀬は、ある事故がきっかけでピアニストの道を断念する。
天才ともてはやされた過去と決別して、ピアノの調律師として生きる道を選んだのだ。

調律師の事務所に所属しながら、生ゴミのニオイを感じる少女のピアノを調律したり、中学校の体育館に設置してある横転させてしまったピアノを点検したり、といった7つの短編が収録されている。

10年前に、妻を失い自らもピアニストとしての再起を諦めざるを得なかった事故。
過去に何があったのか徐々に明らかにされると共に、主人公の悲しみも浮き彫りにされていく。

調律師を題材としたお仕事小説としてもまた面白い。
弦を叩くハンマーの間隔の調整、鍵盤の間隔や角度・・・
調律師がすべき事は盛りだくさんだ。
しかも、打弦距離を0.2㍉短くするなど、細かくて丁寧な作業が要求される。
それを、鳴瀬は音とニオイを確認しながら調律していく。

調律師は、音感もあればあったに越したことはないが、最も必要なのは正確なリズム感---二つの音を同時に鳴らした時に発生する「うなり」が、毎秒何回発生しているか正確にカウントできる能力だという。

子供の頃、ピアノを8年も習っていたのに今では「猫ふんじゃった」しか弾けない私だが、演奏を聴いたりピアノに関する小説を読むのは好きだ。
それに加えて、理解できないからこそもっと知りたいと思う共感覚の持ち主が主人公とあって、大変興味深く読んだ。
私が弾く拙い「猫ふんじゃった」は、どんなニオイがするのだろうか。
いいニオイじゃないことは確かだが。

2013年7月23日火曜日

黙示

真山仁著
新潮社

農薬、遺伝子組み換え作物、TPP、食糧危機・・・食と農業について考える。


農薬は悪。
そう決めつけていいのだろうか。

野菜作りは、虫との戦いだ。
耕地が広くなればなるほど、農薬に頼らざるを得ないのではないか。

実家の父は、私が生まれるずっと前から野菜を作り続けている。
自宅の裏に畑があるが、定期的にタンクをしょって農薬を撒いている。
マスクなどの防備もしていないので、長年吸い続けているだろう。
しかし今でも元気に畑を耕し、その農作物を日々食べて暮らしている。

私自身も幼い頃から農薬散布中の父の横で遊び、その野菜を食べてきた。
現在は縁あって、週に1回個人の方から無農薬野菜を購入している。
それでは足りないのでスーパーで普通の野菜も買っている。
そんな暮らしをしてきたが、肥満症の他は特に健康に問題はない。

農薬を口に入れたことがない人など、今の日本にはいないのではないだろうか。
農薬は悪なのではなく、取り扱いに気をつけて安全性の高いものを適切に使うことが必要なのだと思う。

この「默示」(真山仁著)は、農薬だけでなく遺伝子組み換え作物など食全般について考えるきっかけを与えてくれる小説だ。

農薬散布中のラジコンヘリが小学生の集団に墜落し、撒き散らされた薬剤により多数の被害者が出るところから話は始まる。
ラジコンヘリを操縦するのは有資格者のみと決められているのに、小さな孫に操縦させてしまったのだ。
重症となった少年の父は、散布された農薬の開発責任者だった。

農薬が原因で蜂がいなくなったと考え、農薬反対を訴える養蜂家。
美貌と鼻っ柱の強さで政界を渡り歩いている政治家。
農水省の女性キャリア。
遺伝子組み換え作物を売り込みたいアメリカの企業。
それぞれの思惑が絡み合い、話は遺伝子組み換え作物、人口爆発や干ばつによる食糧危機、TPPへと広がっていく。

小説だとわかっていながらも妙にリアルに感じられ、食と農業について否応なく考えさせられる。
農薬の是非について、TPP参加について。
遺伝子組み換え作物は、農薬もいらなくなり、砂漠でも栽培できる万能植物なのだろうか。

近い将来、世界が食糧を奪い合う時代がやって来ると言われている。
日本の未来は明るいだろうか。

2013年3月7日木曜日

本にだって雄と雌があります

本にだって雄と雌があります
小田雅久仁著
新潮社

本棚に見慣れない本が突然現れたら・・・それは本の子供「幻書」かもしれません。



本にも雄と雌があり、子供まで産む。
そうやって生まれた本を祖父は「幻書」と呼んだ。
しかも幻書は、鳥のように羽ばたきながら飛ぶのだ。

祖父の家に泊まった時、「書物の位置を変えるべからず」との掟を破り、
エンデの「はてしない物語」を、カミュの「異邦人・ペスト」とサルトルの「嘔吐・壁」の間に
不用意に押し込んでしまった。
すると翌朝、「はてしなく壁に嘔吐する物語」という本が生まれてしまった!

そんな体験をした博が息子に、大学教授で書物蒐集癖のある祖父・輿次郎と女流画家の祖母・ミキを始めとした家族や幻書について語った物語である。
「あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。であるからには理の当然、人目を忍んで逢瀬を重ね、ときには書物の身空でページをからめて房事にも励もうし、果ては後継をもこしらえる。」
そんな文章から始まる本書は、あまり区切りがなくぎっしり詰まった活字、そして癖のある文章が延々と続くので、読み始めは戸惑ってしまった。
また、合間合間に本気なんだか冗談なんだかわからないような言葉やダジャレが頻繁に挟まれ、話もあっちへ行ったりこっちへ行ったりと脱線し、困惑してしまう。

しかし、すぐにその語りかけるような独特の文章にも慣れ、そのうちニヤニヤ・クスクス、その後声を上げて笑うようになっていた。
まるで、バカバカしい冗談を言い続けている人の話を聞いているような気分で読んでいた。

おかしいだけでなく、戦争中の話、不思議な話、様々なエピソードが積み重なり、読み手を遠くの広い世界へと連れて行ってくれる。
どこが本筋なのかよくわからないまま、笑ったりホロリとしたりしていると、最後には大きな感動が待っていた!

幻書を題材に、点が線になりそのうちどんどん広がって最後はボルネオまで・・・
そんな本と家族への愛にあふれた、温かいファンタジーだった。

※なお、この本を読み終わると、
  ・本棚に見慣れぬ本があるか確認したくなる。
  ・本の並び方を考えてしまう。
  ・死後、ボルネオに行きたくなる。
  ・象を見ると足の本数を確認してしまう。
  ・しゃっくりが出る度に、100年もしゃっくりが続いたらどうしようと心配してしまう。
 などの症状が出ますのでご注意ください。

2013年1月11日金曜日

母の遺産―新聞小説

母の遺産―新聞小説
水村美苗著
中央公論新社

ママ、いったいいつになったら死んでくれるの。待ち望んでいた母の死。今日、母が死んだ。



体調不良と夫婦関係に悩む大学講師の美津紀。
長年複雑な感情を持ち続けた母が死んだ。
上昇志向が強く分不相応の暮らしを望んた母の死を、いつの頃からか願うようになった。
本書は、そんな満たされない50代の主人公・美津紀を、緻密な心理描写で克明に描いた長編大作である。

結婚以来別居している母の死を望み、猫可愛がりしてくれた祖母まで「愚かな老婆でしかなかった」と表現する美津紀。

夫の実家で使われている「駄食器」
ウォーキングする年のいった女たちを「胴のくびれも何もないみっともない体型を平気で晒し、なぜあんなに必死で歩いているのか」
そんな人を見下したような、意地の悪い表現も多い。

平均以上に恵まれている境遇にもかかわらず、不幸を嘆き続けるような中年女・美津紀。
自分の事は棚に上げて人を批判しているように感じられ、主人公に共感することができなかった。

負のエネルギーが充満しているようで嫌悪感すら感じた。
それなのに、読むのを止められない。
長編にもかかわらず、一気に読まずにはいられなかった。

兄弟姉妹間での格差、女性の自立、結婚・離婚・浮気、親の介護、尊厳死、そして遺産相続。
今を生きる者には避けて通れない問題、誰にでも一つは当てはまるような問題を、目の前に突きつけてくるのだ。
嫌悪感を抱いたのは、目をそらしている問題と否応なしに向かい合い、心がえぐられるような気がしたからかもしれない。

分厚く重たい本書だが、内容的にも心にずっしりのしかかるような話だった。

2012年12月31日月曜日

55歳からのハローライフ

55歳からのハローライフ
村上龍著
幻冬舎

人は、何か飲み物を、喜びとともに味わえるときには、心が落ちついているのだそうだ。



あっ、「13歳のハローワーク」の続編だ。
第二の人生を考えようってことだな。
老後はまだまだ先の話と思っていても、つい先日まで女子高生だった(つもり)なのにもうこんなおばさんになってしまったのだから、55歳なんてあっという間なのかもしれない。
これを機会に老後のことを考えてみよう。
と早とちりの私。
本書は「ハローワーク」ではなく「ハローライフ」で小説です。
お間違いのない様に。



離婚した女が結婚相手を見つけようと結婚相談所に登録する話「結婚相談所」
リストラされた男がホームレスになることを恐れている話「空飛ぶ夢をもう一度」
定年後妻とキャンピングカーで旅することを夢見ていた夫の話「キャンピングカー」
柴犬を可愛がる妻の話「ペットロス」
トラック運転手の恋心「トラベルヘルパー」
以上、普通の中高年が主人公の中編5編が収められている。

現役時代の自信から再就職をなめていたが現実は甘くないと認識させられる男、
妻も喜ぶと思い定年後の旅行を夢見ていたが、乗り気でない妻を見てうろたえ苛立つ夫・・・

シンプルな文章と抑えた表現から、リアリティが立ち上ってくるような話ばかりだった。
金銭的に余裕のある豊かな老後や夢物語のハッピーエンドではなく、誰にでも起こりうる現実が描かれている。
今まで読んだ村上龍氏の小説とはだいぶ違う雰囲気だった。

お金の話も具体的な金額が出てくるのでより現実味があり、怖くなったり哀しくなったり、
ふと涙がこぼれたり。
しかし、めでたしめでたしとはならないが、現実を知りそれを受け入れ再出発しようとする主人公たちに共感でき、読後感はいい。

ああ、これは中高年への応援メッセージだ。
ずっと走り続けてきた彼らが、ふと立ち止まり周りを見回すと、体の不調、お金、人間関係と思うようにいかない問題が立ちふさがる。
その辛い現実を受け入れたとき、彼らの「ライフ」が始まる。
そんな彼らに同年代の著者がエールを送っているようだ。

本書では、アールグレイ、おいしい水、コーヒーなど、主人公が好きな飲み物を飲みながら心の均衡を保つ場面が登場する。
私も美味しいコーヒーを飲みながら、これからの人生を考えてみたいと思えるようないい本だった。

2012年12月9日日曜日

絵画の住人

絵画の住人
秋目人著
アスキーメディアワークス

絵の中の人が喋るとしたら何を語るのだろうか?絵の中に描かれた食べ物は美味しいのだろうか?




 


主人公の 諫早佑真 はある事情から高校を中退して上京し、「職なし、彼女なし、住処なし」となってしまった。
そんな時、絵の中の人物が動き回る様子を見ることができるばかりか、会話までできるという「素質」を見込まれて、画廊で働かないかとスカウトされた。
絵の知識なんか全くないにもかかわらず。
そこは画廊といっても、有名絵画の複製ばかりを展示してある不思議な画廊だった・・・


セザンヌの「リンゴとオレンジ」に描かれたリンゴは最高においしい、
ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」に描かれている白身魚も美味、だという。
名画に書かれた食べ物にも、味の美味い不味いがあるらしい。

「真珠の首飾りの少女」は几帳面でソファが壁に対して平行になっていないと気になってしまう。
「最後の晩餐」のユダは最後まで迷っていた。

「ひまわり」は気分によって色を変える。

名画の複製版画の中でも、命を吹き込まれている絵ばかり展示してある画廊。
本書は、そんな画廊で働き始めた主人公と、「絵画の住人」たちが織り成すファンタジーチックなミステリーである。

絵を見ながら「中に描かれている人や物がこちらの世界に出てきたら?」、または「絵の世界に入り込んだら?」と考えたことある方は多いだろう。
そんな「もし」が、この物語の中で繰り広げられる。

絵画が意思表示し、時には強硬な主張をして主人公を困らす。
楽しいことばかりではないけれど、最後はうまくまとまってホッとする。

あまり話題になっていないようだが、読みやすくなかなか面白かった。
続編も出して欲しいなと願う。

私の前にも「絵画の住人」が出てきたら歓迎するんだけどな。

2012年11月9日金曜日

盗まれた顔

盗まれた顔
羽田圭介著
幻冬舎

「一度覚えた顔は、忘れられない」デジタル時代にアナログ的手法は通用するのか?見当たり捜査にスポットを当てた警察小説。



見当たり捜査---指名手配犯の顔写真を見て記憶にとどめ、街中で見つける捜査。
警視庁捜査共助課の班長である 白戸 ・39歳は、そんな見当たり捜査を専門に行っている。
新宿で見つけた男は捕まえたとき「はめられたんだ」と叫ぶが、捕まえて引き渡すまでが 白戸 の仕事である。
ある日、人の顔を見るのが仕事のはずが、いつの間にか自分が見張られる立場になっていることに気づいた。
それには、中国マフィアや公安も関係しているのか・・・?
見当たり捜査にスポットを当てた警察小説。

顔のパーツの配置・目玉・耳。
その3つは歳をとっても整形しても変えられないため、見当たり捜査ではそこをポイントとして見るのだという。

主人公の 白戸 は、3000人もの顔を記憶している。
暇さえあれば手配写真を見て、脳に焼き付けているのだ。
Nシステムや防犯カメラが世の中を見張るデジタルの時代に、アナログ的手法を用いて犯人を追い詰める。
ある意味単純な仕事であるが、集中力や精神力が必要な職人のような専門性があり興味深い。

一日中街中を歩き回り、いつ現れるかわからない手配犯を探す。
ひと月に1人捕まえられればいい方だ。
無逮捕期間が長くなり、精神的にまいってしまう様子が丁寧に描かれている。

見当たり捜査という設定、アナログとデジタルの対比、先が読めない意外な展開はとても面白いと思ったのだが、前半部分に起伏のないストーリーが続き飽きてしまった。
わざわざここまで長くする必然性がわからなかった。(原稿用紙643枚分)

また、私の読解力のなさから、一読しただけでは理解できず、何度も読み直した箇所がいくつもあった。
特に最後は、どういう意図でこういった終わり方をしたのか、何回読んでも理解できなかった。

警察小説は勧善懲悪の、最後はスッキリ落とし前をつけてくれる方が好みである。
あれもこれも意欲的に盛り込むのではなく、単純でいて奥深い物語が読みたい。
しかしこの設定は面白いので、佐々木譲氏や今野敏氏に見当たり捜査を題材にした警察小説を書いてほしいなと思った。

自分の読解力不足を痛感した一冊だったので、ぜひ他の方の感想をお聞きしたいと思う。

2012年9月17日月曜日

罪の余白

罪の余白
芦沢央著
角川書店

「自己愛」と「親子愛」の闘いの物語。大切な人を失った時、あなたならどうしますか?




大学で動物行動心理学を教えている 安藤 は、妻を8年前に亡くし、高校生の娘・加奈 と二人で暮らしていた。
大切な 加奈 が、高校のベランダから墜落死する。
自殺と思い嘆き悲しむ 安藤 のもとに、クラスメートを名乗る少女が現れる。
加奈 のパソコンに残された日記を読んだ 安藤 は、娘の悩みを知る。
そこから 安藤 の闘いが始まった---。
第3回野性時代フロンティア文学賞受賞作。


女子高生のヒエラルキーがリアルに書かれていて怖い。
私の高校時代にもなんとなくクラスでの「立ち位置」が決まっていたが、現役女子校生に話を聞くと今はもっとすごいらしい。
最近も「いじめ事件」が問題になっていることもあり、あり得るなというか、あるあると思ってしまう現実感が怖いのである。
そして、PCに残された日記の内容がわかった時、読んでいる私も緊張が高まり、一気にスリリングな展開へ向かっていく。
題材的に、悲しく辛い内容なのだが、最後に一筋の光が見え、少しは救われた気がした。

美しいが、無表情でまるで精巧なロボットのように見える安藤の同僚・早苗が、脇役ながら興味深く描かれていた。
人の感情を読み取ることができないため対人関係が苦手なのだが、嘘や社交辞令が言えず不器用で正直なところが好感が持てる。

そして、気になったのが作中に出てくる「ベタ」(闘魚)
ストーリーとは直接関係ないのだが、効果的な演出となっている。

この著者はこれがデビュー作だという。 体言止めの乱用で、一部脚本のト書きのように感じるところが残念なのだが、力のある方だなぁと思った。 これからの活躍を期待したい。

2012年8月13日月曜日

僕はお父さんを訴えます

僕はお父さんを訴えます
友井羊著
宝島社

「リクは大切な家族だから、警察には任せたくない。僕の手で仇打ちをしなくちゃダメなんだ。」 中学生が民事で父を訴える物語。



中学1年の 光一 は、母を亡くし父と二人で暮らしている。
小3の時に自分で買った愛犬「リク」が死んでしまった。
ある疑いを持った 光一 は、民事訴訟を起こすことにする。
「リクを殺した罪で、僕はお父さんを訴える」
ところが、未成年者は裁判を起こせない事がわかり---。
第10回「このミステリーがすごい」優秀賞受賞作。


解説で「ラノベのよう」と書かれているように、軽く読めるのだが、内容的には重く深い。
そして、中学生が父親を裁判で訴える話、と聞くと現実味に乏しいのではと思えたが、読んでいてもあまり違和感を感じなかった。
それは、所々に出てくる主人公の心の描写に、納得するからなのだろう。

難しい法律用語や裁判の進め方も、司法浪人である年上の友人 の口を通してわかりやすく解説してくれる。

これは伏線だろう、何か複雑な事情が裏にあるのだろう、と読者がすぐ気付くようにわかりやすく書かれているのだが、それでもラストの展開には驚いてしまう。

読後感が決していいわけではないが、希望のある終わり方をしている所に救いがある。
しかし、主人公の行動を受け入れられるかどうかによって、好き嫌いのはっきり別れる物語だろうなと感じた。

2012年8月12日日曜日

ロスト・トレイン

ロスト・トレイン
中村弦著
新潮社

「誰にも知られていない廃線跡の、始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる」 読者と共にロスト・トレインを求める旅へ



廃線跡を訪ねるのが趣味の会社員 牧村 は、ふとしたことから37歳年上の 平間さん と知り合う。
平間さん は生粋の鉄道ファンで、様々な事を教えてくれた。
牧村 にとって、年は離れているが友達のように接してくれるかけがえのない人だった。
ある日
「誰にも知られていない、幻の廃線跡がある。その始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる。」
そんな噂を教えてくれたあと、行方不明になってしまう。
平間さん の鉄仲間である旅行代理店勤務の 菜月平間さん を探す。
果たして 平間さん はどこへ行ったのか。


私自身は鉄道にあまり興味がない。
だから、鉄道ファンの心理もよくわからない。
電車のデザインが好きなのか、乗って景色を見るのが好きなのか、と鉄道ファンの知り合いにしつこく聞いたことがあった。
その人の回答は要領を得ないものだったが、きっと「乗っている時の振動と乗っている自分」が好きなのだなぁと私の中で勝手に結論付けた。

この本では、鉄道マニアたちが、何を求めて鉄道に乗るのかは様々で、色々なタイプがいるのだとわかる。
主人公の 牧村 はマニアではないが、廃線跡を訪ねて自分が生まれ育った街への懐かしさを感じるのが好きなのだ。
他にも写真を撮ったり、時刻表を集めたり色々な鉄たちが登場する。

しかし、彼らは特別個性的なわけではない。
鉄道が好きな普通の人々だ。
本書には衝撃的な表現もない。
静かに物語は進んでいく。
その語りかけてくるような落ち着いた雰囲気が、私にはとても心地よく感じた。

そして、「人の一生は鉄道と似ていて所々に乗り換え駅がある」という表現にうんうんと頷いた。
今、別に人生の岐路に立っているわけではないけれど、たまには立ち止まってじっくり考えることも必要だなぁと思う。

とても素敵な雰囲気の幻想的なミステリーで、出会えてよかったと思える一冊だった。

2012年8月4日土曜日

宇田川心中

宇田川心中
小林恭二著
中央公論新社

生まれてからずっとあなたを待っていた。逢ってもいないうちから、あなたの事を想っていた。



先日、男子高校生から恋愛相談を受けた。
「コクって付き合う事になったのに、部活が忙しくなかなか遊ぶ時間が取れなかったら、1週間でフラれた」というのだ。
そんな話はザラにある。3日で別れた、6時間で別れた・・・というのも聞く。
そういうのは付き合ったうちに入らないと思うのだが。

彼らの恋愛には、「障害」が少ない。
連絡を取ろうと思ったらいつでも取れる。
そして、ちょっとでもイヤな面が見えたら躊躇なく別れてしまう。

私が中高生の頃は、家電(いえでん)に掛けなければならなかった。
親が出たらどうしよう、遅くなったからもう掛けられない、などいつでも好きな時に連絡を取ることは難しかった。

もっと前は電話もなく、人目を気にしなくてはならないため、恋する二人の「障害」は今とは比べものにならないくらい大きかっただろう。

会えない間に、相手の事を考え身を焦がし、
「障害」があればあるほど、恋の炎は燃え上がるのだ。

本書は、江戸末期の恋愛模様を中心とした「出会ってしまった二人」の物語である。
女は、許婚のいるお嬢さん。
男は、恋愛禁止の僧。
「障害」MAXのシチュエーションである。
燃え上がらないわけないのだ。

そして、二人は純粋に惹かれあう。
お金や家柄、学歴につられたわけではない。
そのピュアさが今となっては新鮮ではないか。

近松チックな時代劇のようでもあり、SFファンタジーのようでもある恋愛物語。
読み終わり、身を焦がすような恋に今更ながら憧れてしまう。
そしてこれから街に出た時、会った瞬間にわかるという「運命の人」をキョロキョロ探してしまいそう。

今年の夏は、「障害のある恋」に身悶えしてみてはどうだろう?
妄想だけなら、どんなに燃え上がっても人に迷惑かけないのだから。
倦怠期の方はわざと「障害」を作ってみるのもいいかもしれない。

2012年7月21日土曜日

我が家の問題

我が家の問題
奥田英朗著
集英社

人から見たら小さい我が家の問題。でも、本人にとっては大きな問題なのだ。





新婚なのに、世話好きで思い出作りの好きな妻が待つ家に帰りたくない夫の話「甘い生活?」
夫が会社で蔑まれているのではと心配する妻の話「ハズバンド」
両親が離婚するのではと不安に苛まれる女子高生の話「絵里のエイプリル」
突然UFOと交信していると言い出した夫を心配する妻の話「夫とUFO」
新婚夫婦がお互いの実家に帰省するストレスの話「里帰り」
妻がマラソンにはまってしまった夫の話「妻とマラソン」

人から見たら羨ましいような、そんなの苦労じゃないよと言いたくなるような、しかし当人にしたら深刻な悩み、そんな話が6編収録されている短編集である。

家族なんだから、疑問があるならどうして本音でぶつかっていかないのか?ともどかしい気もするが、なかなか難しいのだろう。
特に、親の離婚問題を疑う女子高生なら、面と向かってはなかなか聞けないのもわかる。

一番良かったのは「妻とマラソン」
夫が売れっ子作家になった。
「どうせお宅はお金持ちだから」と言われてしまうので、主婦友達の節約の話にも入れず、
有名人の夫と知り合いになりたいがために近寄ってくる面々とも付き合いたくない妻は孤立していく。
働きに出ることもできず、目標を失い悶々とするのである。
夫婦一緒に歩んできたのにいつの間にか夫に先に行かれてしまった妻の気持ちが、夫の視点から細やかに描かれていた。

平凡な家庭のどこにでもあるような問題---そんなちょっとした日常を、退屈させずに読ませるのはさすがと思う。
これが林真理子さん・桐野夏生さんといった方が同じストーリーを書いたなら、まぁ修羅場の連続で、人間の汚さ・愚かさが全開のドロドロ話になるのだろう。(そういうのも好きなのだが)
しかし、この本は全話共通して明るい未来を予感させる終わり方なのだ。

隣の芝生は青く見えてしまうけれど、どこの家庭にも悩みはある。
家族の数だけドラマはあるのだ。
そんな事を再認識した本であった。