2014年1月29日水曜日

職業治験 治験で1000万円稼いだ男の病的な日々

八雲星次著
幻冬舎


「治験」は割のいいバイトである・・・とは聞いたことがあったが、それを職業とする人がいるとは!「プロ治験者」となった男のアブない記録。 




「新薬開発のためにご協力いただけませんか?」
「ボランティアを募集しています。」
製薬会社のそんな新聞広告を何度か目にしたことがある。
しかし、本書「職業治験」の中に出てくる「治験」とは、新聞広告で大々的に募集するような最終段階の治験ではない。
動物実験を繰り返し初めてヒトに投与する段階、「第一相治験」と言われるいわば「人体実験」とも言うべき治験のことである。
参加者たちは、あくまで自分の意思で治験に参加するボランティアという立場なので、治験で得られる報酬は労働の対価としてではなく、時間拘束に対しての負担軽減費という形で支払われるのだという。

著者は、一部上場の会社を2ヶ月で退職しブラブラしていた頃、治験ボランティアに登録した。
その後、「20泊21日のボランティアを募集しています」という電話が掛かってきて、53万円という報酬に魅力を感じ応募する。
するとそこは、漫画本があふれ、ゲームやネットがし放題の楽園のような世界だった!
しかも震えが止まらないほど美味しい豪華な食事付き!
(ただし、投薬日に何度も行われる採血の痛さを我慢しなければならないが。)
そこで治験業界では有名な「教授」に出会い、楽して儲けることに目覚めた著者は、治験参加を繰り返し、職業として生計を立てる「プロ治験者」となったのだ。

そして著者は、C型肝炎のインターフェロン、認知症薬、麻酔薬、統合失調症の薬、サプリメント・・・と様々な新薬の治験に参加していく。
その中には、臨床試験受託事業協会に加盟していない病院で行われる劣悪な環境の「裏治験」、日本人を対象として海外で行われる至れり尽くせりの「海外治験」まで含まれていて、こんな世界があったのかと驚きながら読みすすめた。

治験に群がる男たちも、なかなか個性的だ。
コミュニケーション力が欠如した男、禁煙厳守の病院で隠れて喫煙する男、風呂場の壁や手すりに自慰行為の残骸をぶち撒ける男・・・
共通するのは、怠惰臭を撒き散らし、定職は持たないが被験者になりたいという熱い情熱は持っている男たちである。

楽をしながら稼げる夢のような生活だと憧れる若者も多いかもしれないが、参加できるのは20代~40代の健康な男性である。
いつまでもできる仕事ではないのである。
しかも著者の年収は約160万円だというのだから、贅沢できる金額ではない。

そして彼らは働き盛りの年代であり、このようなアングラ的世界に漂っているのはもったいないように思える。
でも、新薬開発のために彼らのような治験者が必要なわけで、私も彼らの恩恵を受けているわけで・・・
「新薬を創るための社会貢献などとは一切思っていません。楽がしたかったのです。」
という著者の言葉を聞くと、なんとも複雑な気持ちになってしまう。
そして、お節介ながら彼らの将来を心配してしまうのであった。

2014年1月27日月曜日

愛に乱暴

吉田修一著
新潮社

不倫。ダメ、ゼッタイ!誰にも共感できないが、思わず引き込まれてしまう不倫小説。




この「愛に乱暴」は、一言で言うと夫が浮気し、その愛人が妊娠してしまう不倫小説である。

物語は、妻と浮気相手の女、交互の視点から語られていく。
主人公の初瀬桃子は、結婚を機に大手企業を退社し、現在週に一回カルチャーセンターの講師をしている。
義父母と同じ敷地内に住み、自分ではうまくいっていると思っていた矢先、夫の浮気が発覚する。

浮気相手の奈央は男の都合のいい言い訳を真に受け、自分のことは棚にあげて「妻が悪い。男がかわいそう。」と思い込んでしまう。
結婚しているとわかっている男とそういう関係になった時点で、もう同情できない。

そして、最悪なのが夫である。
浮気したことの謝罪も説明もせず、優柔不断で妻を蔑ろにしているサイテーな男である。
しかも、浮気なのに相手を妊娠させるなんて、「避妊くらいしなさい!最低限のルールでしょ!」と、どやしつけたくなってしまう。

夫が浮気し、相手が妊娠、舅・姑も絡んで・・・というと、ドロドロの昼ドラのようだが、吉田修一さんの不倫小説はちょっと違う。
昼ドラほどドロドロしているわけでも、大げさな事件が起こるわけでもない。
それでも、日々の細々とした出来事が丁寧に生々しく描かれていて、全般的に何かがヒタヒタと迫ってくるような不穏な空気が流れていて、不気味なのである。

当初は私も一応妻という立場なので、「妻がかわいそう。それは夫が悪い!」と怒りながら読んでいたのだが、この妻がなぜかチェーンソーを購入し始めた頃から、「あれ?ちょっとこの人、おかしいかも?」と感じ始めた。
そして、中盤あたりに巧妙な仕掛けがあり、えっ!と驚き頭を整理しなくてはならなくなった。

そうか、そうだったのか。
そうなってくると、もう本当に登場人物の誰も彼もが嫌になってくる。
それなのに、読むのを止められないのだから、さすが吉田修一さんだなぁ。

でもやっぱり、乱暴な愛はイヤだ~!
穏やかな、優しい愛が一番だ~!
と私は思うのだ。

2014年1月25日土曜日

ヴルスト! ヴルスト! ヴルスト!

原宏一著
光文社

ドイツのソーセージってそんなに美味しいのだろうか?読んだら食べたくなる、ソーセージ作りの物語。





マレーシアに住んでいた時のことです。
イスラム教徒の多い国なので、豚肉入りソーセージはスーパーの片隅でひっそりと売られていました。
私自身はそこで売られているソーセージで十分満足していたのですが、ドイツ人の友人は「どうしてこの国のソーセージはこんなにまずいんだろう」といつも言っていました。
そして、本場の味を食べさせてあげるからと、ドイツに一時帰国するたびにソーセージをお土産にくれたのでした。
そのソーセージは、日持ちがするように透明な液体で満たされた細長いガラス瓶に入っていました。
食べてみると美味しいのですが、味音痴の私には残念ながら「本場感」や「特別感」を感じることができませんでした。
瓶詰めだったからでしょうか?

でも、この「ヴルスト!ヴルスト!ヴルスト!」を読んで、改めて本場のソーセージを食べてみたくなりました。
「ヴルスト」とは、ドイツ語でソーセージのことです。

主人公の 勇人 19歳は、高校中退後、中華料理店で働いていました。
あるきっかけから、高等学校卒業程度認定試験・通称「高認」合格、大学進学を目指すことになります。
仕事も辞め、一年後に取り壊しが決定しているボロアパート「かなめ荘」で勉強に集中しようと決意します。
そしてそのアパートで、もう一人の住人 髭太郎 59歳に出会うのです。
髭太郎は、素人ながら「世界中のどこにもねえ、俺にしか作れねえ本格派の特製ヴルストを開発してやろうと思っている」と、ヴルスト職人を目指して奮闘していました。
「人生最後の挑戦だ!」と必死の覚悟です。
ひょんなことから、勇人はそのヴルスト作りを手伝うことになります。
そこから二人の挑戦がはじまりました。

ヴルストの歴史や種類、製造方法なども詳しく書かれているので、ソーセージに興味がわいてきます。
やはり、日本で食べる寿司と海外で食べられているSUSHIが違うように、私が食べているソーセージとドイツのヴルストとは違うのでしょうか。
個人的には、日本ハ○のアンティ○ レモン&パセリは美味しくて好きなんだけどなぁ。
それをドイツ人が食べたらどう思うのでしょうか。
そういえば、前述のドイツ人の友人に日系スーパーで買ったシャ○エッセンをプレゼントしたら、これは違うと言っていたのを思い出しました。

「勇人は19歳なのに、お酒を飲む場面が度々出てくる」「都合が良すぎる設定」など、気になるところはありましたが、アパートの大家さんなど脇役も個性派ぞろいで楽しく読めました。
覚悟を決めて邁進する二人を応援したくなる、元気が出る小説でした。

読み終わると誰でも「本格的なソーセージが食べたい!」と思うことでしょう。
ドイツ帰りのヴルスト職人が作るお店もあるようなので、お取り寄せしてみようかな。
それとも、本物のソーセージは本場ドイツに行かないと食べられないのでしょうか。
でも、そんなこと言ったら髭太郎に「ソーセージじゃない!ヴルストだっ!」と怒られそうですが。

2014年1月22日水曜日

ランチのアッコちゃん








子供の頃は、お弁当の時間がとても楽しみでした。
今日は何が入っているのだろうと、お弁当箱の蓋をあけるたびにワクワクしていました。
でも、作る側となると話は別です。
いかに楽できるかと考えてしまうのです。

現在、毎朝3つのお弁当を作っていますが、毎日のことなので代わり映えのしない地味な手抜き弁当になってしまいます。
一応、冷凍食品はなるべく使わず、彩りと栄養バランスを自分なりに考えてはいるのですが。
凝ったキャラ弁を作る方はすごいなぁ。
私にはとてもできません。

それにしても、人のお弁当はどうしてあんなに美味しそうに見えるのでしょうか。
そんな夢のような話が出てくるのが、この「ランチのアッコちゃん」です。

小学生用の教材を専門とする小さな出版社に派遣社員として派遣された澤田三智子。
失恋して落ち込んでいる時、上司である黒川敦子部長・通称 アッコちゃん に、一週間お弁当を作ってくれと頼まれるのです。
そのかわり三智子は、アッコちゃんがルーティンで食べているランチを食べることになりました。
アッコちゃんの指示通りジョギングしてお弁当を買いに行ったり、屋上で社長とお寿司を食べたり、人気カレー屋さんに行くと急遽一日店長をする羽目になり・・・
様々な職種の人に出会い、落ち込みがちだった美智子もだんだん前向きになっていきます。

アッコちゃんは、三智子に仕事のことだけでなく、お昼休みの過ごし方や人間関係など様々なことを教えてくれ、三智子の成長物語にもなっています。

他に、アッコちゃんが始めた移動ポトフ屋「東京ポトフ」を三智子が手伝う話。
殺伐とした雰囲気のベンチャー企業を辞めた女が、そのビルの屋上でビアガーデンを開く話など、4話が収録された短編集です。

人が作ってくれた素朴なお弁当。
寒い日に食べる、優しい味の温かいポトフ。
など、どの話も美味しそうな食べ物が出てきて、食欲がそそられます。
そして、美味しい食べ物を食べると幸せな気分になりますが、読んでいるだけでもなんだかホッコリしてきました。

読み終わって人が作ってくれた美味しい料理を食べたいなぁ、と痛切に思ったのでした。

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料理が得意なわけではないので、人様にお見せできるような代物ではありませんが。
家族よ。こんなお弁当しか作れず、すまん。


 
朝はなるべく楽したいので、自分でお惣菜を冷凍しています。
きんぴらごぼうを多めに作って、100均で買った大きめの製氷皿に入れる。
朝は、お弁当箱に詰めるだけ。


 
美しくもなく、凝ってもいない普段の手抜き弁当です。
卵焼きは好みに合わせて2種類。
冷凍しておいたひじきの煮物を詰めただけ。
ソーセージ焼いて切っただけ。
ご飯は雑穀入り。
これに、ふりかけとリンゴをプラス。


2014年1月20日月曜日

マックスのどろぼう修行

斉藤洋著
理論社

泥棒修行も楽じゃない!「みんながあっと驚くものを盗んでこい」と言われた窃盗団の息子・マックス11歳の旅物語。




主人公の男の子が可愛くてたまらない「テーオバルトの騎士道入門」 の姉妹編があると知り、いてもたってもいられなくなり読みました。

主人公のマックスは、盗賊団の長老の孫です。
おじいさんもお父さんも泥棒の腕は一流で、将来長老になることを期待されています。
ところが、マックスはみっちり修行したにもかかわらず、錠前一つ開けられない落第生なのです。

でもマックスにも得意なことがあります。
普通の人はいくら吹いても音すら出ない伝説の笛「ローマの鳴らずの笛」を、上手に吹くことができるのです。

そんなマックスが泥棒修行の旅に出ることになりました。
泥棒修行の旅とは、一人前の泥棒になるためにたった一人で旅をして、誰もがあっと驚くものを盗んで帰ってこなければならないのです。
マックスは、無事にお宝を盗み出して戻ってくるのでしょうか・・・?

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テーオバルトも素直で賢い少年でしたが、本作の主人公・マックスも泥棒の技は習得できなくてもとても頭が働く賢いいい子です。
旅を進めるうちに、その優秀さが様々な場面で見え隠れします。

そして、読み進めると前作の主人公・テーオバルト男爵が登場して、「うう(´Д⊂、立派になったね。おばさんはうれしいよ。」と感激の再会をすることができました。

斉藤洋さんの本は、子供に媚びず教訓めいていないところが魅力に感じます。
純粋にストーリを楽しめるのです。

小学校2,3年生くらいから楽しめるおすすめの本です。

2014年1月18日土曜日

ドミノ倒し

貫井徳郎著
東京創元社




主人公の十村は、亡くなった恋人のふるさとである月影市で探偵事務所を開業した。
しかし、平和な田舎である月影市では依頼などなく、便利屋のような仕事を引き受ける毎日だった。
そんな時、突然亡くなった恋人の妹が事務所にやってきた。
「元カレが殺人の疑いをかけられている。無実だと証明して欲しい。」という依頼を受けたのだ。
月影市の警察署長は偶然にも十村のことを「よっちゃん」と呼ぶ東大卒の幼馴染であり、その所長からも事件の調査を頼まれてしまう。
一つの事件を調べると別の事件に行き当たり、その事件がさらなる別の事件を呼び起こす。
事件を調査すればするほど、芋づる式に新たな事件が掘り出されてくるのだ。
まるでドミノ倒しのように!
刑事に恫喝されたり、十村の身辺も怪しくなってきて・・・
コメディタッチの探偵小説。

ハードボイルドを気取る主人公の性格や設定が面白いのはもちろん、脇役たちのキャラがまたいい味を出していた。
容疑者である元カレは、イケメンながら月影弁丸出しのおバカキャラ。
かわいいんだか憎たらしいんだかよく分からない、幼馴染の警察署長。
話もテンポよく進み、これは面白い!と読んでいたところ、中盤辺りから雲行きが怪しくなってきた。

あれっ?さっきはこう書いてあったけど、辻褄が合わない。
とか、
こういう設定だったのに、ここはおかしくないか?
という箇所がいくつか出てきたのだ。
そのため、少しずつ熱が冷めていってしまった。
(強引にこじつければ、一応筋は通るのだが・・・)

そして最後は、驚愕のオチ!
まさか、こんな力技の反則技で来るとは誰も想像しなかったに違いない。
しかも、重要な役目の署長はどこかに行ってしまってどうなったのかさっぱり分からず。
(´-ω-`)

いやぁ、やるなぁ。よく出版したなぁと、感心してしまった。
中盤までは本当に面白かったので残念でもある。
隔月間のミステリ専門誌「ミステリーズ」で連載されていたというから、刊行する前に修正することもできただろうに。
編集者もチェックしただろうに。
中堅どころの作家さんにしては珍しいのではないだろうか。
なかなか珍しい体験をさせてもらった。

2014年1月15日水曜日

命がけで南極に住んでみた

ゲイブリエル・ウォーカー著
(Gabrielle Walker)
仙名紀訳
柏書房

なぜ人は南極に惹かれるのだろうか?過去と未来の秘密が詰まった特異な大陸・南極の魅力に迫る。



先日、南極の雪の下から1914年当時の探検隊が残した写真のネガが発見され、現像に成功したとの記事を目にした。
そこに写っていた1世紀も前の彼らは、どんな気持ちで南極大陸に足を踏み入れたのだろうか。
とてもロマンを感じるニュースだった。

本書は、南極に魅せられたイギリス人ライターが体験し見聞きした、いわば「南極の解説書」である。
題名からきっと面白おかしく南極体験を綴ったものだろうと思っていたのだが、著者はノンフィクションライターになる前に大学で化学を教えていたというだけあって専門的で、ボリュームも内容も濃い、読み応えのある重厚な1冊だった。
原題は「ANTARCTICA : An Intimate Portrait of a Mysterious Continent.」というシンプルなタイトルなので、手に取りやすい題名に変更したのだろう。

食料も飲み水もなく、あるのは氷だけ。
唯一人類が常在したことのないこの特異な大陸は、昔から冒険者たち・科学者たちの興味の対象だった。
著者は、そんな南極大陸の過酷な気候を体験し、南極に取り憑かれた「南極人」たちにインタビューをしていく。

氷は下に向かうにつれて時代的に古くなるため、分厚く覆われた氷の底辺近くの「氷床コア」を取り出し気泡を調べると、古代の大気の状況が解明できるのだという。
そのため、科学者たちは、ドリルで穴を開けながら何時間もかけて氷床コアを引き上げていく。

また、南極は隕石の宝庫でもあるという。
落下した隕石は凍ったまま保存されるため変質しにくく、建造物が少ないため隕石が見つけやすいということもあり、たくさんのボランティアたちが協力して隕石発見に向けて活動している。
しかし、例え隕石を発見しても当局に手渡すだけで、何の特典も与えられず持ち帰ることもできない。
それでもこの隕石発見プロブラムに、毎年何百人もが応募するのだという。

他にも
どこよりも空気が澄んでいて遠くまで望見できるため設置されている「天文観測所」や、最も静かなため建設された「地震観測所」。

一定の周期で満ちたり枯渇したりを繰り返している「氷底湖」。

血液が凍らない魚。他の地域より1000倍も大きいウミグモ。時には3mにもなるというヒモムシ。など特異な生物たち。

などなど、内容は本当に多岐にわたり、科学的知識の乏しい私はあっぷあっぷしながら読んでいた。
それに加えて、読みにくい直訳風の翻訳文、あちこちに飛ぶ話題、そしてボリュームの多さに何度も挫折しそうになった。
それでも読み通したのは、興味深い内容が満載だったことに加えて、大変な苦労をしてまでも滞在する「南極人」たちが取り憑かれた南極の魅力を知りたかったからだ。

南極大陸は各国が資源開発を念頭に置きながらも、法的にはどこの国の領土でもない。
まだまだ謎だらけのこの大陸が、政争対象にならないことを願う。

2014年1月11日土曜日

パンダ飼育係

阿部展子著
角川文庫





本書は、パンダが好きで上野動物園のパンダ飼育員になった女性が書かれた本です。
幼い頃、祖母からもらったパンダのぬいぐるみに出会ってから、著者の阿部展子さん(1984年生まれ)はパンダが大好きになったそうです。
高校生の時、「パンダが好きなら、パンダを仕事にすればいいんじゃない?」と言われ、パンダに関わる仕事をしようと決意します。
そして、大学の中国語学科に入学して中国語をマスターしてから、中国でパンダの専門分野を学ぶという遠回りの道を選択するのですから、黒柳徹子さんもびっくり!のパンダ好きの女性です。

その後実際に、阿部さんは勉強に励み、四川農業大学に留学します。
その大学では、阿部さんが初めての外国人本科生だったそうです。
外国人が少ない訛りの強い地域で、苦手な理系の勉強をする・・・とても苦労をなさったと思います。
でも、勉強が大変だったという話はしても、嫌な目にあったなどあまりネガティブなことはおっしゃらない、努力家で前向きな方なのです。
見た目は、可愛らしいお嬢さんといった感じなのですが。

日本では動物園で一番人気のパンダですが、中国ではパンダに対する興味が極めて低いことに阿部さんは驚きます。
「どうしてそんなにパンダが好きなのかわからない。変態だ。」とまで言われてしまったそうです。
かわいい文化の違いなのでしょうか?

フワフワしているというイメージに反し、硬くゴワゴワした油っぽい毛。
自分の尾や後肢を噛めるほど身体が柔らかい。
など、あまり知られていないパンダの秘密(?)もたくさん書かれていました。

中でもビックリしたのは、飼育されているパンダは後ろ肢を鍛える筋力トレーニングが必要だということです。
交尾の際、オスは後ろ肢だけで立ち上がり、メスも背中に覆いかぶさるオスを支えるだけの後ろ肢の力がないと、すぐに潰れてしまい成功しない。
だから後ろ肢の筋力が必要不可欠で、小さな頃から筋トレをしなくてはならないのだそうです。
いつか来るその時のためにパンダが筋トレに励む・・・パンダには申し訳ないけれど、笑ってしまいました。

ぬいぐるみのような姿をしていてもやっぱりパンダは獰猛な面を持つ猛獣で、体重も重く噛まれることもあり、飼育員は体力と根気が必要な大変な仕事だと思います。
パンダが好き好きで、努力して飼育係になる夢を叶えた・・・応援したくなる素敵な女性のお話でした。

2014年1月8日水曜日

西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事

広瀬洋一著
本の雑誌社



「古本屋」というと、昔は暗くホコリっぽい店内の奥に気難しそうなおじさんが座っている・・・そんなイメージでしたが、ブックオフ以降そういった店舗は少なくなっているようです。
でもそんなブックオフだって、遠い昔に行ったことがある1号店2号店は、狭くて暗いホコリっぽいお店だったのです。
ブックオフが今のようになる前、三浦しをんさんが働いていたことでも有名な 高原書店 がPOPビルに移転したときは、広くて明るい店内に驚き、よく通っていたものでした。

そんな高原書店で働き、その後独立したのが、この本の著者・広瀬洋一さんです。
本書で「ブックオフのやり方は高原書店がモデルになったのかな?」とおっしゃっていますが、私もそうだと思っています。

広瀬さんは、大学時代高原書店にアルバイトとして入り、その後正社員になって10年間勤務します。
そこで古本を商うことの面白さ、接客の楽しさに目覚め、一緒に働いていた奥様と共に、2000年に西荻窪で古本屋「音羽館」をオープンしました。

新刊書店でも個人経営のお店はなかなか厳しい時代なのに、古本屋さんで人を雇いながら14年も続いているのはすごいことではないでしょうか。
しかも、古本屋を始める多くの若者が、この「音羽館」をモデルにしているというのですから。

万引きや嫌な客の対応に疲れ、ネット通販専門の古本屋さんになる方も増えているそうですが、この広瀬さんは「お客さんと対面することが販売の醍醐味」だと言い切って、店売りにこだわりながら頑張っているのです。

本書は、広瀬さんが高校時代に出会った恩師との思い出、高原書店時代の仕事ぶり、独立してからの苦労、古本屋さんの業界事情などが綴られています。
なので、本好きの方が楽しめるのはもちろんのこと、古本屋開業を目指す方にも参考になるのではないでしょうか。

また、三浦しをんさんから「由佳子ねえさん」と呼ばれている奥様は、女子美の絵画科のご出身だそうで、音羽館のキャラクター「おとわちゃん」や本書の可愛らしい挿絵を担当されています。
御夫婦二人三脚で楽しそうに働いている様子がこちらにまで伝わって来て、なんだか温かい気持ちにもなりました。

「音羽館を語る」というコラムでは、「女子の古本屋」 などを執筆されている古本ライター・岡崎武志さん、歌人の穂村弘さんらが音羽館の魅力について語ってらっしゃいます。
読んでいるうちに、行ったことがない私でもすっかりファンになってしまいました。

すぐにでも行ってみたいけど、我が家から西荻窪は、とてもとても遠いのです。
現在近所に古本屋さんはないのですが、近くにこんな古本屋さんができたら通い詰めちゃうだろうなぁと夢をみるしかなさそうです。

2014年1月1日水曜日

総理の夫

原田マハ著
実業之日本社

政治関係の難しい話・・・ではなく、これは恋愛ドタバタコメディだ!



東大理学部・同大学院卒のイケメン。
職業は鳥類研究所勤務の鳥類学者。
実家は日本を代表する大財閥で、自分の資産もあり、現在は祖父のお屋敷に住んでいる。
優しくてお人好しで涙もろく、妻をこよなく愛する38歳。

本書は、そんな「理想の結婚相手」のような男が主人公の小説である。
なんて昔の少女漫画的な設定なんだろうか。

そして奥様は、東大からハーバード大学院へ進んだ秀才。
父は有名小説家、母は国際政治学者。
31歳で国会議員に初当選した直進党党首。
現在は、女性初の内閣総理大臣、42歳。

完璧なエリート女性、しかも美女で総理大臣。
ますます漫画チックな設定である。
この現実離れした物語は、「総理の夫」である 相馬日和 がつけている日記という形式で進んでいく。

冒頭から、主人公の相馬日和・通称「ひよりん」の妻に対する愛が炸裂していく。
多忙を極める妻を支え、心配し、愛し続ける。
なんて素敵な方なんでしょう!
読み始めてすぐに「ひよりん」ファンになってしまった。
題名を「総理の夫」から「理想の夫」に変更してもいいんじゃないだろうか。

自分では、肉体派の男が好みだと思い込んでいたのだが、この主人公「ひよりん」のような文系・内向的男子も好みなのかもしれない。

二人の出会いにキュンキュンし、
公邸に移ってますます多忙になった妻とのコミュニケーションが薄くなり寂しく感じる「ひよりん」に同情し、「たとえ世界中が敵になったとしても、君の側につく。君を守る。君についていく。」の言葉にノックアウトされてしまった。
そんなセリフを言える男性が現実にいるだろうか?
いないからこそ読者はこの物語に夢を見るのだ。
(いや、もしかしたら地球の片隅に棲息しているかもしれないが)

他の方がこの小説を読んでどう感じようと、私にとってはこれはギャグを散りばめながら理想を描いた恋愛コメディなのだ。
原田マハさん、私の恋愛のツボをよくご存知だなぁ。