2016年9月27日火曜日

ぐうたら旅日記

酒と呪いと男と女!旅は面倒で嫌いという著者の珍道中。

北大路公子著
PHP文芸文庫



本書は、旅は面倒で嫌いだ、ずっと家にいたいと言い切る北大路公子さんが、友人に引っ張りだされ、出かけていった旅の記録である。

「苦手図鑑」を読み、妄想の飛躍がすごいと感動&爆笑したが、本書でも妄想が絶賛暴走中で、大笑いさせてもらった。
もう私は「北大路公子」と聞いただけで笑ってしまうパブロフの犬、いやキミコの犬である。

ご一行様は、恐山や道東で飲んだくれ、イラッときた人に呪いをかけ、積丹でウニを肴に飲んだくれるのである。

そう、これは旅の記録でもあり、大酒と呪いの記録でもあるのだ。

著者が呪いをかけるのは、旅先で出会ったイラッとくる人たち。
理不尽な言いがかりをつけてきたおじさんに、「トイレに行けば必ず個室が塞がってる」と呪いをかけ、漏らすことを願う。
温泉でバタ足を始める子供と注意しない親に「グレろ」と呪いをかけ、今日のことを後悔するように願うのである。

なんといいストレス発散法だろうか!
早速私も取り入れて、行列に割り込んできたおばさんや、濡れた傘を押し付けてきたオヤジに呪いをかけてやろう。
「緊迫したシリアスな場面で、大きな音をたててオナラをする(強烈な香り付き)」と呪いをかけ、赤っ恥をかかせて溜飲を下げるのだ。
今からイラッとする人に出会うのが楽しみになってきた。

著者は特別な旅をしているわけではない。
よくある国内旅行だ。
しかし、北大路公子さん以外は同じ体験をしても、こんな文章は書けないだろう。
これだけ面白く味付けできるのは、文章力の違いも大きいだろうが、目の付け所、妄想力が人より優れているのだと思う。

こんな方と一緒に旅行できたら、さぞかし楽しい旅になるだろうなぁ。
いや、酔っぱらいの対処に苦労したり、呪いをかけられ不幸になる可能性がある。
だったら、旅の記録をこうして読ませてもらうだけで満足した方が、身のためかもしれない。

※川湯相撲記念館は、朝の5時半開館、夜の9時閉館なんだそう。(6月~10月)
客が殺到しそうにもないのに、なぜそんな早朝から開いているのだろうか?

2016年9月21日水曜日

なぜ彼女が帳簿の右に売上と書いたら世界は変わったのか?

アイドルと簿記がコラボした!? その上SFで戯曲!?一体どうなるの?



問  机を現金1万円で買いました。この取引を仕訳しなさい。

答  備品 10000 / 現金 10000

簿記の勉強は、このような問題から始まります。
物を買うと資産が増えるので左側(借方)に書き、その分お金が減るので右側(貸方)に書くと習うのです。
そして、聞いたことのない単語が次から次へと出てくるので、丸暗記するしかなく、ついていくのに必死でした。
解説を聞くとなるほどと思う反面、なんだかよくわからずにモヤモヤしたまま勉強を続けました。

そのモヤモヤの原因は、全体像がわからないことにあります。
目先の問題に手一杯で、その先が見えないのです。

そうです。私はかつて簿記の勉強をしていました。
簿記関連の試験でいうと、日商簿記の3級と2級、税理士試験の簿記論と財務諸表論に合格しました。
とは言うものの、実務経験はほとんどありませんし、遠い昔のことなので、今は素人に毛が生えた程度の知識しかありません。
いまだに私の中でくすぶっているモヤモヤが少しでも晴れたらと思い、この本を手に取りました。

本書は、乃木坂46のメンバーである衛藤美彩さんを主人公とした物語です。

複式簿記のない世界になぜか迷い込んでしまった美彩さんが、戸惑いながらも複式簿記を広めていく、といったストーリーです。

シナリオという事で、ほとんどが会話文なので読みやすく、ラノベ風の軽さがあります。
内容も、「複式簿記とは何か」を理解するのに役立つよう工夫されています。

でも、「これから簿記を勉強される方にも読んで欲しい」と紹介文に書いてありましたが、会計用語がたくさん出てきますから、簿記未経験者には難しいのではないかと感じました。
特に最初の仕訳部分は基礎中の基礎なのですが、私にはわかりづらく、読み返した箇所がいくつかありました。
後半に進むにつれ、ストーリーが手助けとなって、読みやすさが加速していきましたが。

また、一冊に色々な情報が詰め込まれ過ぎていて、そこに無理があると感じました。
アイドルとのコラボ、わかりやすいシナリオ形式、ラノベ風ストーリーというアイディアはとても斬新なので、だからこそもったいないと思うのです。

せっかくですから、対象者を絞り、内容を細分化して、簿記未経験の方でもわかる入門編から始めてシリーズ化したらどうでしょうか?

ちなみに我が家のぐうたら娘(アイドルオタク、今は欅坂ファン)は、表紙を見て「読みたい!」と飛び付いたものの、15ページほどで挫折しました。

2016年9月20日火曜日

どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法

この本を買って3ヶ月。毎日実践している私は開脚できたでしょうか?



この表紙の開脚、憧れませんか?
私はとても体が硬いのです。
だからこそ、昔から開脚して胸がベターッと床につく人に憧れてきました。

「死ぬまでにベターッができるようになるぞ!」と目標をたて、ここ10年以上ほぼ毎日ストレッチを続けています。
でも、ある程度は柔らかくなったものの、股関節が異常に硬く、どうしてもベターッとはなりません。
それでも細々とストレッチを続けていた私の目に飛び込んできたのが、この表紙です。
憧れのベターッができる!と、本屋さんで迷わず手に取り、買ったその日から毎日実践しています。

本書では、一週目、二週目と段階を踏みながら、四週間かけてベターッができるようになるストレッチの方法を、カラー写真でわかりやすく説明しています。

著者の動画も公開されているので、見ながらすると、なおわかりやすいと思います。

今まで色々なストレッチを試してきましたが、初めて聞く方法もありました。
特にドアを使ったものは、気持ちよく伸びてお気に入りです。

この本で特筆すべきは、本の綴じ方です。
どこのページを開いても、本のノドいっぱいに開き、閉じません。
新品でもそうなのです。
この点は、押さえなくても写真や解説を見ながらストレッチできるので、大変便利です。

けれどなんと!
開脚の定義は、「肘が床につくかどうか」だというではないですか!
それはずるいのではないでしょうか?
表紙の写真のようになりたくて購入したのに!
私も調子がいいときは肘がつきますし!

その上、ストレッチの解説は10ページほどで終わり、「開脚できたら人生はこんなに素晴らしい!」という内容の小説が続くのです。
この小説が読みたくて、こういった本を購入する人はいないだろうに(-_-;)

さて、そうは言っても真面目に取り組んでいる私ですが……

四週間なんて待ってられない、すぐに効果を得たい!と、初日から全てのストレッチをして3ヶ月が過ぎました。
結果は、
残念ながらほとんど変わりません (>_<)
その前からずっとストレッチをしていたので、効果が表れにくいのだと思います。
もしかしたら、私は骨の形状上、脚が開かないタイプなのかもしれません。
「ベターッ」は一生無理なのでしょうか?

だからと言って、他の方に効果がないとは限りません。
この本をダンス仲間に回しているのですが、ベターッとはならないもののだいぶ柔らかくなった友人もいます。
普段ストレッチをしていない人、ベターッの潜在能力を秘めている人には、役に立つのではないでしょうか。

それでもストレッチは、怪我の予防・パフォーマンスの向上に必要です。
これからも私は「ベターッ」を夢見て、諦めずに毎日ストレッチを続けていくつもりです。

2016年9月15日木曜日

キョンキョンはトップアイドルで、私なんか校庭の片隅でひっそりと干からびているセミの脱け殻でしたから。



キョンキョンと言えば、まごうことなきかつてのトップアイドルですよね。
だけど私にとっては大好きだった「あまちゃん」の中で演じた、主人公の母親「春子」さんのイメージがいまだに強いのです。
あまロスから立ち直ったとはいえ、どんなドラマを見ても「あまちゃんとは比べ物にならない!」と思ってしまう後遺症が……
って、そういえば本の話でしたね f(^_^;

本書は雑誌「SWITCH」に「原宿百景」として連載されたエッセイに加筆修正されたものです。

デビュー前のヤンキー時代(!)の話、アイドル時代の話・恋愛の話など、ファン垂涎のエピソード満載です。
そしてそして、なんと!
「あまちゃん」のことも少しだけ載っているのです!

両親の離婚、肉親やペットの死、表題にもある黒い猫の衝撃など、辛い話・悲しい話・怖い話も多いのですが、不思議と湿っぽくは感じませんでした。
文章がサラッとしているのです。

それでも私の青春時代と重なるエピソードも多く、ノスタルジックな気分になりながら、読み終えたのでした。

キョンキョンの書く文章を初めて目にしたのは、読売新聞の書評欄でした。(書評委員を卒業されたのは残念です。)
あばずれ感半端なかった春子さん・かわいこちゃんとは一線を画していたとんがったアイドルの頃のイメージとは違って、優しい落ち着いた大人の女性という印象で、そのギャップに驚いたものでした。
本書も「ここまで赤裸々に!」とびっくりする箇所はありますが、優しい文章で芸能界の派手さを感じさせない、普通の感覚の方なんだなぁというのがよくわかります。

ところで、キョンキョンは賃貸契約の更新をしたことがないのだと言います
なぜなら、引っ越しても引っ越しても、ファンに見つかり騒がれて他の住人に文句言われて、大変なことになってしまうからだそうです。
さすが「なんてったってアイドル」、色々ご苦労があるんですね。

(タイトルの「セミの脱け殻」は、「あまちゃん」で片桐はいりさん扮するあんべちゃんのセリフをパクらせていただきました。)

2016年9月13日火曜日

クロコダイル路地1,2

皆川博子著
講談社

皆川博子さんが1930年生まれって知っていましたか?






フランス革命前後の動乱期を生きる人々を描いた長編小説。

視点が、貴族やブルジョワジー、貧民層と入れ替わりながら、一人称で語られていく物語です。

実在の人物や場所、歴史的事件を織りこみながら、フランス・イギリスにまたがって壮大な皆川ワールドが広がっていきます。
これは戦争の話でもあり、復讐劇でもあり、悲しい愛の物語(恋愛だけではなく)でもあります。
どんどん引き込まれ、長編ながらも一気読みでした。
悲惨で悲しい場面が続きますが、最後に希望の光が見えてくるところが皆川さんのやさしさなのではないでしょうか。

過去の皆川作品「開かせていただき光栄です」「アルモニカ・ディアボリカ」の登場人物たちが登場した時には、思わず「あっ!」と声をあげてしまいました。
そんなところもファンにとっては嬉しいことなのです。

でも。
えっと、言いにくいのですが、個人的には何か物足りなさを感じてしまいました。
物語の起伏が少ないところでしょうか?
それとも一人称で内面の描写が多いところ?
ファンとして期待度が高過ぎたのかもしれません。

だからと言って、この作品がつまらなかったわけではありません。
しばしの間、フランス革命前後のヨーロッパに連れていってもらったのですから。

この世界観は、皆川博子さんにしか書けないと思うのです。
皆川さん、1930年生まれの御年86歳。
ただただ驚くばかりです。