2012年4月25日水曜日

人の心を自由に操る技術 ザ・メンタリズム

人の心を自由に操る技術 ザ・メンタリズム
メンタリスト DaiGo著
扶桑社

TVで見て度肝を抜かれた!そのパフォーマンスに魅かれて購入。やっぱり彼は魔法使いじゃないだろうか?



TVで著者が、人が紙に書いたことを当てるという見事なパフォーマンスを見た。
手品ではなく、メンタリズムによるものだという。
メンタリズムとは、心理学を中心に、運動力学、暗示、読筋術、観察眼、話法など様々な手法を取り入れてショーとして実現化する「アート」だとこの本では定義している。

著者は、物理情報工学科出身で、「全ての超常現象は科学で証明できる」と言い切る。
手品は、道具や仕組み、種を使うが、メンタリズムでは仕掛けをできるだけ使わない。
そして心理学は統計によるものなので、目の前の人に確実に当てはまるか分からないが、メンタリズムでは、目の前の人物を観察して当てるので確実性が高い。

そんな彼のことが気になって、書店で山積みされていたこの本を購入した。
冒頭には数ページグラビアが載っていて、ちょっと違和感を感じる。
そして、見出しに躍る「相手・仕事・恋愛を思いのままに操る」「コントロール」「誘導」「優位性」「テクニック」という言葉に、うさんくささと嫌悪感を抱いた。
人の心を操るなんて詐欺師か、政治家か。私はそんなことしたくない。
(じゃあこんな題名の本買うなっ!)

しかし本文を読むと、なるほどと納得することが多い。
詐欺師まがいの騙しのテクニックではなく、心理学、脳の働き、無意識など納得できる内容が書いてあった。
(私の心ももう彼に操作されているのかもしれないが)
コミュニケーションの達人を目指すのが目的なのだ。
でも、実際の場面で応用できるかどうかは別問題だろう。
微妙な目や筋肉の動きで判断するとか、冷静な観察眼と頭の回転の良さ、そして修行が必要な難しい手法だと思った。
でも、できる範囲で自分の生活に取り入れられるのではないか。
例えば、人のちょっとしたしぐさや表情からその場の空気を読むということは、私には必要かもしれない。
ただ、最後まで「テクニック」という言葉には馴染めなかった。

付属のDVDは、表紙にあるようなフォークの先をあちこちに曲げたり、人が選んだものを当てたりといったパフォーマンスとその解説を短くまとめたものだった。

見たら、実践したくなるではないか。
早速友人たちに、右手か左手に小物を持ってもらい、どっちに入っているか当てるというのをやってみた。
1/2の確率なのに、本に書いてあることを実践したのに、全て外れてしまった。
(すべて外れるというのも我ながら凄いと思うが)

次は、言われた通りの方法でスプーン曲げに挑戦してみる。
てこの原理を応用するだけで簡単らしい。
彼はいとも簡単にやってのけるのだが、・・・全く動かない。ちっとも曲がらない。
使い物にならなくなるかもと、いらないスプーンを選んだのに。

私の修行が足りないのか?
本当の手の内は見せないために、重要なことは書いていないのか?
凡人には本の内容を実践することはできないのか?
それとも、やっぱり彼は魔法使いなのかもしれない。

2012年4月24日火曜日

おやすみラフマニノフ

おやすみラフマニノフ
中山七里著
宝島社文庫

時価2億円のチェロが完全密室の部屋から忽然と姿を消した!音楽大学を舞台にした音楽ミステリー。音楽を聴くより音楽に浸れる・・・かもしれない



名器ストラディバリウス---時価2億円もするチェロが、愛知音大の楽器保管室から姿を消した!
理事長の孫娘で、才能にも恵まれている柘植初音が定期演奏会の練習用に借りていたものであった。
バイオリン担当の城戸昌は、授業料も滞納しバイトと練習に忙しい中、事件に巻き込まれていく。
「さよならドビュッシー」で、父は検事正、自身も司法試験トップ合格するも、現在は愛知音大で講師をする天才的ピアニストの岬洋介が探偵役を務める音楽ミステリー。
(登場人物が重なるだけで、続き物ではない。)

著者は男性で、「音楽の通信簿は常に「2」だった、ピアノはいまだに触ったことがない。見たことがある程度」らしい。
長男がピアノを専攻しているため、そこから情報を得ているという。


一つの事に情熱をささげる主人公の話に、夢中になったことはないだろうか。
古くは「あしたのジョー」「エースをねらえ!」などのスポ根漫画、「ガラスの仮面」等の演劇、その他バレエの話、料理や囲碁・将棋の話もあった。
主人公が努力しながらも成長していく物語に、その分野の「うんちく」を織り交ぜながら続いていくというストーリー。
私は、そういう話が大好きで、夢中になってしまう。
そして、すぐはまる。
この本も事件が起こり犯人がいるのだから、ミステリーといえるのだが、音大生の苦悩と成長を描いたスポ根系の物語なのである。

こう見えても私は、幼稚園の頃から7年間ピアノを習っていたのだが、残念ながら才能のかけらも見当たらなかった。
いまでも、聴くのは好きなのだが、歌も音痴で楽器も演奏できない。(ピアノすら弾けない。)
クラシック音楽を聴いても、楽しむことはできるのだが、情景が浮かぶこともなく、ましてや「あっ、ここ主題部分だ。弦楽器が主導権を握っている。長調だ、短調だ。」なんてわかるわけがない。(先生ごめんなさい。)

しかし、この本の中でなら、そういうことが丁寧に描写されているので、音楽を聴かずに「ふんふん、なるほど。」とか「素晴らしい演奏だ!」と音楽を味わうことができるのである。
著者が音楽家ではないというのが信じられないくらい、演奏シーンは心を揺さぶる。
もともと音楽的素養がある方は、実際の音楽を聴いた方がいいに決まっている。
でもそういう能力のない私は、この本で感動を味わうのである。

読み終わった今でも、高揚している。
音楽を聴くより、音楽に浸ることができたいい本だった。

2012年4月22日日曜日

江戸の庶民のかしこい暮らし術

江戸の庶民のかしこい暮らし術
淡野史良著
河出書房新社
現代社会にも通じる江戸の暮らし術。貧乏だって、粋で陽気な江戸っ子。私も見習わなくっちゃ!

江戸の暮らしぶりを楽しく解説した本。
「博学ビジュアル版」というだけあって、B5サイズのカラー印刷で写真、図、挿絵がふんだんに使われており、大変わかりやすく楽しい本だった。

究極のエコ生活である江戸の暮らし。
灰は肥料に、流れたろうそくのロウもかき集めてつや出しなどに使い、抜け毛すらかき集めてカツラにする。
リサイクルの仕組みがきちんと根づいていたのである。
私は花粉症なので、ティッシュでいっぱいになったゴミ箱を見て罪悪感にかられる。

屎尿も肥料にと高値で取引されていたが、品質にはランクがあったという。
山手の武家屋敷の屎尿は「きんばん」というブランドで、一方小伝馬町の牢屋の屎尿が一番ランクが低かったらしい。
食べるものでそんなに違う物なのだろうか。

職業も様々。今では考えられないような職業もたくさんあり楽しみながら読んだ。
耳垢取りの名人もいて繁盛していたという。やってもらいたいような怖いような気持ちになる。
一番気になったのは、「屁負い比丘尼(へおいびくに)」という耳がよくなければ勤まらなかった職業。
立派な家柄の奥方や娘に付き添って雑用をこなすのだが、中でも一番重要な仕事は、奥方や娘が放屁をしたときに、自分がしたことにするのが役目だった。反射神経と演技力も必要な難しい職業かもしれない。

身寄りのない老人は大家を中心にみんなで面倒をみる。
心温まる話と思ったら、実は長屋から餓死者が出ると町奉行からお咎めを受けるという理由もあるらしい。

「宵越しの金は持たない」江戸っ子は、ぎりぎりの収入でも「金は心を満たすために使うもの」と見栄を張ったり、なけなしの金を富くじのビッグな夢に馳せてみたり、憎めないおかしさがある。

楽しみながら江戸の町を勉強できるいい本だった。

2012年4月21日土曜日

カエルの声はなぜ青いのか?共感覚が教えてくれること

カエルの声はなぜ青いのか?共感覚が教えてくれること
ジェイミー・ウォード著
長尾力訳
青土社
一冊で共感覚がわかる、お得な入門書。共感覚のことがわかりやすく書いてあるのだが、やっぱり体験してみないとわからない!



著者は共感覚の世界的研究者の一人。
共感覚とは、一つの感覚が別の感覚を、本人の意思に関係なく喚起することをいう。
例えば、ニオイを嗅ぐと形が見える・音を聴くと色が見えるなどである。『共感覚者の驚くべき日常―形を味わう人、色を聴く人』を読んで、そんな不思議な共感覚に興味をもった。

「一冊で共感覚がわかる、お得な入門書」(訳者あとがき)と謳ってあるように、共感覚の研究史から、現在わかっている事柄まで、専門的分野に踏み込みながらもわかりやすく書かれていた。

共感覚とは少数の人に見られる生物学的基盤を持ったリアルな現象である。しかし、共感覚は、治療が必要な病気でもなければ、人の同情を必要とする境遇でもない。記憶力がよいという特性を持ち、多くの芸術家たちは、共感覚を生み出そうと必死になっているほどである。

この本にもいくつか事例が載っていた。
例えば、文字や数字を見ると同時に色を読みこんでしまうタイプの共感覚者ザンナ。
Ⅳという数字を見ると、4は緑に見え、Iは黒でVは茶に見えるため、複数の色が同時に見えてしまう。

言葉を考えたり聞いたりすると、味を感じる共感覚者のジェイムズ。
イチゴを食べると同時に、コンデンスミルクの味を強烈に感じるという「quiet」という言葉を使うという実験をした。すると、「イチゴとクリームが絶妙にミックスした最高の味になった」という。

この本は共感覚の本質に迫るべく、科学的データ、共感覚者の肉声と共に解説してくれている良書である。
しかし、味やにおいを言葉だけで説明するのが難しいように、本を読んでも共感覚の世界は体験しないとわからない。
残念ながら共感覚者ではない私にはカエルの声はケロケロとしか聞こえないのである。

2012年4月18日水曜日

ニッポンのここがスゴイ!外国人が見たクールジャパン

ニッポンのここがスゴイ!外国人が見たクールジャパン
堤和彦著
ランダムハウスジャパン
外国人がみたカッコイイ日本の文化。そこまで褒められるとちょっと照れる・・・(^-^;



この本は、2006年からNHK衛星放送で放送されている番組「COOL JAPAN 発掘!かっこいいニッポン」を書籍化したものである。
私自身は番組を見たことないのだが、鴻上尚史氏とリサ・ステッグマイヤーさんが司会で、外国人8人とご意見番のゲストが毎回テーマに沿って、「COOL」か「NOT COOL」か議論する番組らしい。
何年も放送されている番組なので項目もたくさんあり楽しみながら読める一冊。

漫画・アニメだけでなく、ゲーム、ギャル文化、浮世絵、宅配便とテーマは多岐にわたる。
それを外国人たちが「日本の美容室のサービスはクール」「内視鏡の技術はクール」と褒めてくれるのである。繊細な日本料理の盛り付け、水道水、商店街・・・そうでしょう、すごいでしょ!と思うものから意外なものまで、日本っていい国なんだなぁと再認識する。
「ハイテクトイレ」は、「母国に持って帰りたい」と大絶賛。
そこまで褒められると「いやぁ、それほどでも・・・」と照れてしまう。
別に誰も私を褒めているわけではないのだが。
日本に住んでいる日本びいきの方々なのだろうとは思っても、やはり褒められると嬉しいではないか。

環境庁主催「日本のお土産コンテスト」で、銅賞とフランス賞同時受賞という地下足袋とニッカボッカが、「侍のよう、忍者のよう、おしゃれ」と人気があるとは知らなかった。

褒めちぎるだけではなく、「NOT COOL」なものもたくさん載っている。
鍋を直箸で食べるのは抵抗がある、職場で強制的にさせられる「職場体操」は受け入れられない、
などなど、文化的な違いや個人的意見まで色々あり、それはそれでなるほどと思う。

「震災の混乱の中でも冷静で辛抱強く助け合う日本人の姿を外国人は絶賛しています」
内側から見たら、欠点も見えてしまうし課題も山積みだけれども、やっぱり日本と日本文化は素晴らしい!そう思える本だった。

ただ著者は、読みやすい文章で丁寧に、そして冗談一つ入れずに淡々と語っている。
イラストや写真もなく、いかにも「みなさまのNHK」らしい本であった。

2012年4月17日火曜日

水の柩

水の柩
道尾秀介著
講談社

中学生を主人公にした、前向きに生きる勇気を与えてくれる小説。今までの道尾作品とどこか違う?!



老舗旅館の長男である中2の逸夫は退屈な「普通」の日常を嘆いていた。
同級生で転校生の敦子は、両親の離婚と級友からのいじめで辛い毎日を送っていた。
ある日、敦子に「小学校の卒業記念に埋めたタイムカプセルの中の手紙を書き変えたい、手伝ってほしい」と頼まれる。敦子の頼みに逸夫は・・・
村一番の金持ちだったという元女将の祖母・いくにも人には言えない秘密があった。
祖母がついた「生きるための嘘」、敦子が受けるいじめ、逸夫の決意、それぞれの想いに
晴れた空から降ってくる不思議な雨「天泣(てんきゅう)」が降り注ぐ。

今まで何冊か道尾作品を読んだが、今までの作品とは違った印象を受けた。
引き出しの多い方なのだなぁと感心する。
全体的に決して明るい話ではないが、中学生が成長していく姿が描かれていて、読み終わった後は前向きに生きる勇気を与えてくれる作品だった。

この本を読んで驚いたのは文章の上手さであった。
作家なのだから上手いのは当たり前だし、素人の私がそんなことを言うのは僭越だとは思うが、
文章のきれいさや上手さに、思わず読み返した箇所がいくつかあった。
雨が降っている情景、中学生の心情、うその告白場面、臨場感あふれる美しい文章で、それでいて簡潔で分かりやすい。
中高生にもお勧めできる一冊だと思う。

この中に出てきた「みの虫」。端切れや紙切れを与えるとカラフルな蓑ができるらしい。
一度見てみたい!

2012年4月14日土曜日

未解決事件(コールド・ケース) 死者の声を甦らせる者たち

未解決事件(コールド・ケース)死者の声を甦らせる者たち
マイケル・カプーゾ著
日暮雅通訳

現代のシャーロック・ホームズたちを描いた大作ノンフィクション。鮮やかな解決に喝采を送りたくなる一冊。


著者は、1957年アメリカ生まれのノンフィクション作家、コラムニスト。
原題は「THE MURDER ROOM」

19世紀パリで活躍した史上初の探偵、ウジェーヌ・フランソワ・ヴィドック
その偉大なる探偵の名を冠したヴィドッグ・ソサエティ
1990年にフェラデルフィアで創設された、世界で最も閉鎖的な会員制の犯罪捜査クラブである。
メンバーは、ヴィドックの生きた年数82年と同じ数の82人。
人種・性別・年齢・国籍を問わず、犯罪捜査の第一人者たち---元FBI捜査官、プロファイリングの専門家、元警察官、科学者らが集まった超一流の捜査機関なのだ。
使命は2年以上経過した未解決事件--Cold caseの犯人を追いつめ、遺族たちを守ることである。
この犯罪捜査のボランティアグループは、警察が挫折した殺人事件に取り組み、その80%を解決に導いている。
ニューヨークタイムズが「ホームズの後継者たち」と呼ぶのも肯ける。

この本ではメンバーの中の代表的な数人の活躍が描かれている。
その中でも中心的な2名の能力が凄い。

聞きなれない職業である「法医学アーティスト」のフランク・ベンダー。
「法医学」という言葉の意味すら知らない高卒の青年が、初めて見た頭蓋骨から生前の顔が「見えて」彫像を作り、身元が割れる。そこから、警察とのかかわりができて犯罪捜査にかかわるようになった人物である。
昔の写真から、現在の様子を予想して彫像を作る。(18年後の姿とか!)
目鼻口・頬骨すらない大きな穴のあいた頭蓋骨から、顔を推察し彫像を作る。
それが神がかり的にそっくりなのである。
もう超能力としか思えない。

そして、プロファイラーのリチャード・ウォルター。
殺人現場の写真を見ただけで「小児性愛者の強姦魔に犯された子供の父親が復讐のために殺した」等と鮮やかに断言するのである。彼なりの思考過程、論理が書かれてはいるが、凡人の私にとってはこちらも超能力としか思えないのである。
個人的には、プロファイリングの型にはまらない例外もあるんじゃないの?とも思うが、ここまでズバッと当てられてしまうとお見事としか言いようがない。

そういった一流どころが、犯人を追い詰めていく様は読んでいてカッコよく痛快であった。
遺族の方々も、被害者は戻ってこないが、何が起こったかを知り、犯人が逮捕されることによって一歩踏み出すことができるのだと思う。
眉つばを感じた個所もあったが、この大活躍がノンフィクションだということは驚きに値する。

ジョンベネちゃん殺害事件や世田谷一家惨殺事件も是非とも鮮やかに解明してほしい。

ただ、複数の事件を細切れに同時進行するという構成が大変読みにくかった。
そして、分厚く(613ページ)重たく(662g)、持ち運ぶのが大変だった。

2012年4月11日水曜日

テルマエ・ロマエ Ⅰ~Ⅳ

テルマエ・ロマエⅠ~Ⅳ ヤマザキマリ著 エンターブレイン

古代ローマ人が現代日本に来たら・・・という設定のお風呂をテーマにしたコミック。マンガ大賞・手塚治文化賞短編賞受賞作品。



(Ⅰ~Ⅳあわせたレビューです。)

著者は、1967年生まれ。17歳で絵の勉強のためフィレンツェに渡る。イタリア人の夫と共にポルトガルを経て、現在シカゴ在住。

浴場設計技師の古代ローマ人ルシウスが、現代日本にタイムスリップするという読み切り作品から始まったこの物語。
合間に「ローマ&風呂、わが愛」という著者のエッセイがあり、古代ローマの蘊蓄や楽しい経験談等が書かれており、文才もある方なのだなぁと感心してしまう。

かつて読んだことのある『古代ローマ人の24時間---よみがえる帝都ローマの民衆生活』は、お風呂・奴隷等、古代ローマ人の生活について書かれているものなので、読むとこの本の面白さがグンとアップすると思う。

2012/4/28に、阿部寛主演の映画が公開される予定である。

といった情報は全く必要ない。ただただおかしいのである。
爆笑ギャグ漫画とは違った、大人がクスリと笑える漫画であった。(声を出して笑ってしまった箇所も多数あったが)

基本は、ルシウスが風呂の設計について悩んでいると、ひょんなことからタイムスリップしてしまう。そこは平たい顔族の国・現代日本であった。日本の風呂をヒントにローマに帰ったルシウスが悩みを解決するというパターンである。

お風呂好きなローマ人が銭湯に行かずに自宅で風呂に入りたいとルシウスに相談、日本の内風呂をヒントにルシウスが・・・
傍若無人な外国人に風呂のマナーを徹底させたい、日本の外国人向けお風呂マナーのポスターをヒントにルシウスが・・・
廃れた古い銭湯を活性化させるべく、日本をヒントにルシウスが・・・
日本の風呂文化の進歩に衝撃を受け、シャンプーハットや湯上りのフルーツジュース、ラムネのビンに大真面目に感動し・・・

そのルシウス、気位の高いローマ人の中でも堅物で通っている真面目人間で、いつも眉間にしわを寄せたしかめっ面なのである。
日本の物や人に驚愕したり、感動したり、悩んだり・・・どんな時も眉間にはしわを忘れない。
あぁ、ルシウス!惚れてまうやろ!!

Ⅳでは、日本に長期滞在するシリウス。これからの展開が待ちきれない。
そして、平たい顔族の一員として、この本を読んでいると温泉に行きたくなるのである。

2012年4月10日火曜日

アミダサマ

アミダサマ
沼田まほかる著
新潮文庫
読者を捉えて離さない。やはり「まほかる」は凄い!!

サラリーマンの悠人は頭の中に聞こえてくる「コエ」に導かれ、廃車置場へと向かう。
そこで僧侶の浄鑑に出会い、古ぼけた冷蔵庫を見つける。
中には、裸で丸まっている幼子がいた。
その少女「ミハル」は浄鑑の寺で大切に育てられる。
そして、寺周辺の集落では凶事が起こり始める・・・

ミハルを片時も忘れられない悠人。
その悠人に、暴力をふるわれながらも愛を注ぎ続ける頭の弱い律子。
ミハルを可愛がり大切に育てる浄鑑の母「カアサン」。

不思議な力の出てくる話ということから、ホラーサスペンスといえるのだろうが、
私には、登場人物たちがが奏でる不器用な愛の物語のように感じた。


冒頭から、何か恐ろしいことが起こるのではないかという薄気味悪さを感じながら読み進める。
しばらくすると、何か起きているのだろうけどそれが何なのかよくわからないままラストへと向かう。

登場人物が不思議な力を持つ事に、何の疑問も持たず、恐怖も感じず、それが当然であるかのようにすら思ってしまう。
律子に暴力をふるうシーンでも、それはゆがんだ愛の形であり、自分ではどうすることもできないもどかしさからくるのだろうと、不思議と嫌悪感を感じなかった。
冷静に考えるとおかしいのだが、なぜかそうだったのである。
そこが、著者のあり得ないことを読者に納得させてしまう筆力のなせる技なのだろう。
やはり凄いと感嘆してしまう。

最後はなぜか感動的でもあった。
自身も僧侶であった著者の経験からか、仏教的な世界観が根底にある、なりふり構わぬ深い愛の物語であった。

好き嫌いの別れる著者の作品であはあるが、この「アミダサマ」は他のものより「イヤな感じ」が少ないように思えた。


ただ、「猫鳴り」は猫の死を扱っているということで、夜眠れなくなったらどうしようと、いまだ手を出せずにいる。

2012年4月5日木曜日

隠匿捜査4 転迷

隠匿捜査4 転迷
今野敏著
新潮社
警察キャリア官僚・竜崎が活躍するシリーズの第5弾。ページをめくる手が止まらない!とぼけたカッコよさの竜崎に今回もスカッとする!!


今野敏氏によるシリーズ第5弾(スピンオフの3.5もある)
このシリーズは、吉川英治文学新人賞、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞等を受賞している人気作品である。テレビドラマ化、舞台化もされている。

主人公は、息子の不祥事による降格人事で大森警察署署長をしているキャリア官僚の竜崎伸也。
殺人事件、ひき逃げ事件、連続放火事件、麻薬捜査と事件が重なり、てんてこ舞いの大森署。
そこに、厚労省・外務省の役人まで事件に口を出してくる。
署長である竜崎はそれをどうさばくのか?

今までの警察小説でありがちな現場の警官が活躍する小説とは違い、警察官僚が署内で采配を揮って事件を解決するというシリーズである。他の小説では、キャリアは保身に徹するイヤな奴というイメージがあるが、この竜崎はちょっと違う。
原理原則・合理性を重視し階級主義になびかない、真面目すぎてどこかとぼけた魅力のある主人公である。
そのため、「警察ふぜいが厚労省に勝てると思うな」等と面子にこだわる役人、役職や階級でしかものを考えられない周りの者たちと衝突してしまうのである。
そんな竜崎を戸惑いながら見ているうちに、敵対している者たちもいつしか味方になっていく・・・
というパターンのシリーズで、分かってはいても、どこまでも正しいことを愚直に貫こうとする竜崎の姿勢に胸がスカッとする。

小学校時代の同級生で竜崎をいじめていた同期の官僚・伊丹とのやり取りも、息が合っているんだか無いんだか、くすりとさせられる。

私の大好きなシリーズでもあるので、このまま定年などにならずにずっととぼけた味のある官僚のままでいて欲しい。永遠に年をとらないサザエさん一家のように。

2012年4月4日水曜日

バカな研究を嗤うな 寄生虫博士の90%おかしな人生力

バカな研究を嗤うな 寄生虫博士の90%おかしな人生力
藤田紘一郎著
技術評論社

「寄生虫博士」として有名な著者の半生を振り返った一代記。世界中からウンコを集め、お腹にサナダムシを飼い、変わり者扱いされてもひるまない強さの源とは?



(著者に倣ってウンコと呼ばせていただきます。)

1933年生まれの医学博士である著者が半生を振り返った本。

「笑うカイチュウ」などのちょっと変わった著作がある著者。
世界70ヶ国、総数10万個のウンコを集め、衛生第一の医学界で寄生虫のよさを訴える。
変わり者扱いされても仕方がないのかもしれない。
でも、著者は怯まず、人とは少しずれた道を邁進するのである。
その強さ・原動力はどこから来るのだろうか。

終戦前に満州から、発熱・栄養失調になりながら命からがら帰国し、東京大空襲に遭遇。
父親が結核療養所の副所長であったことから、療養所内の宿舎に住み、いじめにあう。
家族の愛にも恵まれず、お手伝いさんから性的いたずらを受ける。
そんな過酷な経験を経た著者だからなのかもしれない。

フィラリア研究の教授とトイレで会い、熱帯病の調査を頼まれたのがウンのつき。
整形外科医を目指していた著者の運命が、大きく変わった瞬間でもあった。

インドネシアに滞在し、ウンコがプカプカ浮いている川で体を洗い、遊び、洗濯をしても感染症やアトピーになりにくい人々を目にして、キレイ・キタナイとは何だろうかと衝撃を受ける。

そんな著者の半生が語られている良書であった。

興味深い研究内容も書かれていた。
例えば、戦前の日本人のウンコは1日350~400gであったが、今では150~200gに減少している。
そして、食物繊維の摂取量が多い国ほど、自殺率が低いという。

血液型により性格や免疫力に違いが出るという考察も、面白いと感じた。

それにしても、花粉症も治り、ダイエットもできて、なおかつ心が穏やかになるというサナダムシ。
ザリガニやミミズをペットにするのもいいけれど、おなかの中にサナダムシも飼ってみたいなぁ。

2012年4月3日火曜日

消失グラデーション

消失グラデーション
長沢樹著
角川書店

高校のバスケ部を舞台にした青春ミステリ。横溝正史ミステリ大賞受賞作。 素直な方にお勧めする一冊。


グラデーション---物事の段階的、時間的における変化。
舞台は私立藤野学院高校。
学校では、外部からの侵入者・通称「ヒカル君」による連続窃盗事件が発生したため、防犯カメラを設置して、セキュリティーを強化していた。
主人公の男子バスケ部所属、椎名。
女子バスケ部のエースでモデルの仕事もしている網川。
放送部員の樋口。
青春ド真ん中の高校生たちが織りなす、爽やかではない青春ミステリ。
第31回横溝正史ミステリ大賞受賞作。

選考委員の一人である北村薫氏が「先入観なしでページをめくってほしい。」と述べている。
私もその意見に同意するので、ここでは詳細を述べることは控えようと思う。

著者はライトノベルも書いているそうで、文体は軽く読みやすかった。
しかし、テーマは重く、さわやかな印象はない。
傷つきやすく、それでいて自尊心の強い、高校生たちが悩み成長していく様子が書かれていた。


明らかにされる状況が受け入れられるか否かにより、評価がはっきり分かれる作品だと思う。
先入観なしに素直に受け止められる人にとっては、大賞受賞にふさわしい本なのだろう。
読後感も悪くない。
でも、私は素直でない、ひねくれ者なのであった。