吉田修一著
新潮社
不倫。ダメ、ゼッタイ!誰にも共感できないが、思わず引き込まれてしまう不倫小説。
この「愛に乱暴」は、一言で言うと夫が浮気し、その愛人が妊娠してしまう不倫小説である。
物語は、妻と浮気相手の女、交互の視点から語られていく。
主人公の初瀬桃子は、結婚を機に大手企業を退社し、現在週に一回カルチャーセンターの講師をしている。
義父母と同じ敷地内に住み、自分ではうまくいっていると思っていた矢先、夫の浮気が発覚する。
浮気相手の奈央は男の都合のいい言い訳を真に受け、自分のことは棚にあげて「妻が悪い。男がかわいそう。」と思い込んでしまう。
結婚しているとわかっている男とそういう関係になった時点で、もう同情できない。
そして、最悪なのが夫である。
浮気したことの謝罪も説明もせず、優柔不断で妻を蔑ろにしているサイテーな男である。
しかも、浮気なのに相手を妊娠させるなんて、「避妊くらいしなさい!最低限のルールでしょ!」と、どやしつけたくなってしまう。
夫が浮気し、相手が妊娠、舅・姑も絡んで・・・というと、ドロドロの昼ドラのようだが、吉田修一さんの不倫小説はちょっと違う。
昼ドラほどドロドロしているわけでも、大げさな事件が起こるわけでもない。
それでも、日々の細々とした出来事が丁寧に生々しく描かれていて、全般的に何かがヒタヒタと迫ってくるような不穏な空気が流れていて、不気味なのである。
当初は私も一応妻という立場なので、「妻がかわいそう。それは夫が悪い!」と怒りながら読んでいたのだが、この妻がなぜかチェーンソーを購入し始めた頃から、「あれ?ちょっとこの人、おかしいかも?」と感じ始めた。
そして、中盤あたりに巧妙な仕掛けがあり、えっ!と驚き頭を整理しなくてはならなくなった。
そうか、そうだったのか。
そうなってくると、もう本当に登場人物の誰も彼もが嫌になってくる。
それなのに、読むのを止められないのだから、さすが吉田修一さんだなぁ。
でもやっぱり、乱暴な愛はイヤだ~!
穏やかな、優しい愛が一番だ~!
と私は思うのだ。
2014年1月27日月曜日
2012年6月16日土曜日
太陽は動かない
太陽は動かない
吉田修一著
幻冬舎
読みながら、「スパイ大作戦」「007」の音楽が鳴り響く。ハリウッド映画を見ているようなスピーディーなアクションスパイ小説。
表向きはアジアの情報を発信しているAN通信。
しかしその正体は、機密情報を入手し、競争相手を競わせ高く売り飛ばす、産業スパイ集団だった!!
「情報ってものを売るときには、相手が買わざるを得ない状況までとことん追い詰めてから売りつけるもんだ。」
24時間連絡が取れなければ組織への裏切りとみなされ、胸に破裂する爆弾が埋め込まれている情報員たち。
各国がしのぎを削る新エネルギーの開発を巡って繰り広げる情報戦。
果たして勝利するのは誰なのか---?
「悪人」は、犯人の逃亡という単純なストーリーだが、心理描写が丁寧に書かれていた傑作だった。
この本は、それと同じ作者が書いたとは思えないような小説である。
登場人物たちが本当は何を考えているのか、心情はどう変化するのか、わからないまま、そして考える暇もないまま一気にラストまで引っ張られて行く。
狐と狸のばかし合い---というと、昔話のようなのんびりしたイメージがある。
ところが、これは読者ものんびりなんかしていられない。
ベトナムの暑さで汗だくになったかと思えば、上海に飛び雑踏にまぎれる。
香港でセレブのパーティーに出没し、東京、天津、香港、種子島・・・とめまぐるしく舞台が変わるのだ。
そして、状況も刻一刻と変わる。
スケールの大きさとスピード感に圧倒されながら、こちらも必死でくらいついていく。
頭を使い、ハッキングをし、女も男も体を張った情報戦。
勝つか負けるか、生きるか死ぬかの瀬戸際と、最後まで目が離せない。
だからと言って、どこか知らない世界の話・荒唐無稽の話、とは思えないのである。
実在の地名や固有名詞、事件が混在しているので、今実際にこういうことが起きているかもと考えてしまう。
入念な下調べをしたであろう、深みのある小説になっていた。
実力のある方が、エンターテイメント小説を書くとこうなるのかと、感嘆する。
蓄電池のことで腑に落ちない点があったのだが、それを差し引いても私好みの傑作であった。
シリーズ化されることを熱望する。
吉田修一著
幻冬舎
読みながら、「スパイ大作戦」「007」の音楽が鳴り響く。ハリウッド映画を見ているようなスピーディーなアクションスパイ小説。
表向きはアジアの情報を発信しているAN通信。
しかしその正体は、機密情報を入手し、競争相手を競わせ高く売り飛ばす、産業スパイ集団だった!!
「情報ってものを売るときには、相手が買わざるを得ない状況までとことん追い詰めてから売りつけるもんだ。」
24時間連絡が取れなければ組織への裏切りとみなされ、胸に破裂する爆弾が埋め込まれている情報員たち。
各国がしのぎを削る新エネルギーの開発を巡って繰り広げる情報戦。
果たして勝利するのは誰なのか---?
「悪人」は、犯人の逃亡という単純なストーリーだが、心理描写が丁寧に書かれていた傑作だった。
この本は、それと同じ作者が書いたとは思えないような小説である。
登場人物たちが本当は何を考えているのか、心情はどう変化するのか、わからないまま、そして考える暇もないまま一気にラストまで引っ張られて行く。
狐と狸のばかし合い---というと、昔話のようなのんびりしたイメージがある。
ところが、これは読者ものんびりなんかしていられない。
ベトナムの暑さで汗だくになったかと思えば、上海に飛び雑踏にまぎれる。
香港でセレブのパーティーに出没し、東京、天津、香港、種子島・・・とめまぐるしく舞台が変わるのだ。
そして、状況も刻一刻と変わる。
スケールの大きさとスピード感に圧倒されながら、こちらも必死でくらいついていく。
頭を使い、ハッキングをし、女も男も体を張った情報戦。
勝つか負けるか、生きるか死ぬかの瀬戸際と、最後まで目が離せない。
だからと言って、どこか知らない世界の話・荒唐無稽の話、とは思えないのである。
実在の地名や固有名詞、事件が混在しているので、今実際にこういうことが起きているかもと考えてしまう。
入念な下調べをしたであろう、深みのある小説になっていた。
実力のある方が、エンターテイメント小説を書くとこうなるのかと、感嘆する。
蓄電池のことで腑に落ちない点があったのだが、それを差し引いても私好みの傑作であった。
シリーズ化されることを熱望する。
2012年5月1日火曜日
平成猿蟹合戦図
平成猿蟹合戦図
吉田修一著
朝日新聞出版
「悪人」の吉田修一氏が書いた明るくスピーディーな小説。現代のさるかに合戦らしいのだが・・・
高校中退後、地元長崎・五島列島のスナックでホステスをする美月は、朋生と結婚し男児をもうける。
しかし、夫は新宿歌舞伎町でホストになる。夫を追いかけて行った美月は、歌舞伎町で様々な人物、韓国バーを切り盛りするママ、そこで働くバーテンダーらと出会う。
一方、有名なチェロ奏者の湊は交通事故を起こし、人をひいてしまう。
弟家族、そのマネージャーでやり手の夕子、年老いた祖母を巻き込んでいく。
そして、ある人物が国政を目指す・・・
8人の視点から物語が進むエンターテイメントストーリー。
「悪人」や「さよなら渓谷」などの重厚感あふれる小説を思い出しながら読むと面食らう。
とても、軽いのである。
いや、テーマは奥深く考えさせられるのだが、文章や登場人物が明るく交通事故など重い話でもサクサク読めてしまう。
登場人物が多いため、前半というか、半分近くまでその紹介のようなエピソードが続く。
導入部分が長いので、正直少し飽きてくる。
ただ、そこを過ぎるとあとはぐんぐん引っ張られて最後まで一気に読み終わった。
著者は、今までリアリティを追求してきたが、この作品ではそれをいったん緩めたという。
それで納得する。次から次へと展開していき、あり得ないでしょっ!と思うようなことも話の早さと軽さで乗り切ってしまうような小説であった。
人は、色々な側面を持っていて、「適材適所」の場所にはまれば意外な能力を発揮するのだと気付かせてくれる話だった。
この本の中に、おばあちゃんをみんなで敬い大切にする、赤ちゃんをみんなで可愛がり見守るというよく話が出てくるのだが、それには心が温まる。そんなのは当たり前とわかっていても、最近の小説やニュースではなかなかお目にかかれないので。
ただ、猿蟹合戦をイメージしたなら、善と悪をはっきり書きわけて欲しかった。
吉田修一著
朝日新聞出版
「悪人」の吉田修一氏が書いた明るくスピーディーな小説。現代のさるかに合戦らしいのだが・・・
高校中退後、地元長崎・五島列島のスナックでホステスをする美月は、朋生と結婚し男児をもうける。
しかし、夫は新宿歌舞伎町でホストになる。夫を追いかけて行った美月は、歌舞伎町で様々な人物、韓国バーを切り盛りするママ、そこで働くバーテンダーらと出会う。
一方、有名なチェロ奏者の湊は交通事故を起こし、人をひいてしまう。
弟家族、そのマネージャーでやり手の夕子、年老いた祖母を巻き込んでいく。
そして、ある人物が国政を目指す・・・
8人の視点から物語が進むエンターテイメントストーリー。
「悪人」や「さよなら渓谷」などの重厚感あふれる小説を思い出しながら読むと面食らう。
とても、軽いのである。
いや、テーマは奥深く考えさせられるのだが、文章や登場人物が明るく交通事故など重い話でもサクサク読めてしまう。
登場人物が多いため、前半というか、半分近くまでその紹介のようなエピソードが続く。
導入部分が長いので、正直少し飽きてくる。
ただ、そこを過ぎるとあとはぐんぐん引っ張られて最後まで一気に読み終わった。
著者は、今までリアリティを追求してきたが、この作品ではそれをいったん緩めたという。
それで納得する。次から次へと展開していき、あり得ないでしょっ!と思うようなことも話の早さと軽さで乗り切ってしまうような小説であった。
人は、色々な側面を持っていて、「適材適所」の場所にはまれば意外な能力を発揮するのだと気付かせてくれる話だった。
この本の中に、おばあちゃんをみんなで敬い大切にする、赤ちゃんをみんなで可愛がり見守るというよく話が出てくるのだが、それには心が温まる。そんなのは当たり前とわかっていても、最近の小説やニュースではなかなかお目にかかれないので。
ただ、猿蟹合戦をイメージしたなら、善と悪をはっきり書きわけて欲しかった。
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