原田マハ著
幻冬舎
海沿いの寂れた町にある食堂「まぐだら屋」。そこには、互いの過去をさぐり合わない人々が集まっていた。原田マハさんの再生小説。
高級料亭で厳しい修行に耐えていた紫紋は、ある事件をきっかけに住んでいた寮を飛び出し、死に場所を求めさまよう。
所持金が尽きたところでバスを降りると、そこは尽果(つきはて)という寂れた海辺の町だった。
フラフラと「まぐだら屋」という名前の食堂にたどり着き、手伝うことになる。
「まぐだら屋」では、明るい笑顔のマリアという女性が働いていた。
紫紋と同じくマリアにも暗い過去がありそうだが、お互い過去をさぐり合わず、月日が過ぎていく。
傷ついた人々が尽果という町で静かに癒されながら、自分の過去と向き合う決意をしていく、そういう物語である。
「まぐだら」とは、
マグロとタラをかけあわせたような世にも美味な魚「マグダラ」を食べるとどんな病気も治る、尽き果てかけた命も救われる・・・
という伝説から来ている。
感動的な話、なのだと思う。
癒され、勇気を与えてもらう話、でもあるだろう。
私もそう思い、夢中で読みふけった、途中までは。
でも、マリアの過去が明かされると、途端に興ざめしてしまったのだ。
よくありがちな過去が、あらすじのように語られていて、言い方は悪いが陳腐すぎるのでは?と思ってしまった。
そうなると、他も気になってくる。
「マグダラのマリア」を意識したのだろうが、マグロとタラをかけあわせて「マグダラ」って(。-_-。)
登場人物が、紫紋(シモン)に丸弧(マルコ)に与羽(ヨハネ)って。
勤務先の産地偽装・食材使い回しも、どこかで聞いたことある事件だし。
原田マハさんの再生小説は好きなんだけど、いい話なんだけど、入り込めなくて残念。
読むタイミングが合わなかったのかなぁ。
違う時に読んだら、私だって素直に感動できたかもしれない。
また、母親と二人暮らしで長年引きこもりだった少年が出てくるのだが、つい最近読んだ話とエピソードがそっくりだった。
でも、どの小説とそっくりなのか全く思い出せず゚(゚´Д`゚)゚
過去のレビューを見てもそれらしきものは見当たらず、困っている。
週刊誌で読んだ小説かも?
どなたか「母と二人暮らしの引きこもり少年が再出発する話」(たぶん短編)をご存知でしたら教えてください。
2014年5月25日日曜日
2014年4月6日日曜日
翔ぶ少女
原田マハ著
ポプラ社
「羽があったらな。お父ちゃんとお母ちゃんに会いに天国まで飛んでいくんや!」阪神大震災で両親を失った兄妹の切ない祈りの物語。
私は原田マハさんの小説が好きで何冊か読んできました。
・キュレーターという経験を存分に発揮された「楽園のカンヴァス」などの美術を題材とした小説。
・「総理の夫」など、少しコミカルな内容の小説。
・「カフーを待ちわびて」「さいはての彼女」など、未来の希望に繋がるような勇気づけられる小説。
一人の作家が書いた小説とは思えないほど、傾向が違います。
どれも好きなのですが、なかでも個人的には「カフーを待ちわびて」のような静かな文章の物語が好きです。
読んでいて心が穏やかになり、活力がもらえるような気がするからです。
この「翔ぶ少女」も当初は「勇気づけられる小説」のつもりで読んでいたのですが、思っていたお話とはだいぶ違っていました。
原田マハさんは、西宮で5年間暮らしていたことがあるそうで、かつて住んでいたアパートが全壊し、大学時代の友人らが被災するという体験から、「どんなことでも乗り越えられる」「復興への想い」を込めて、本書「翔ぶ少女」を書かれたのだそうです。
主人公は、阪神大震災で両親を失った幼い少女・ニケ。
兄や妹と一緒に、震災で妻を失った心療内科の医師のもとに身を寄せることとなりました。
優しい大人たちに囲まれて家では明るく振舞っているニケですが、学校では友人たちから「震災孤児」「足に大怪我をしたかわいそうな子」という目で見られ、孤立していきます。
辛くて「お父ちゃん、お母ちゃんのとこに飛んでいきたいねん。」と思うこともしばしばでした。
大切な人を亡くしたりと誰もが辛い思いをしながらも、明るく軽妙な関西弁でやり取りするご近所さんたちとの会話が、かえって涙を誘います。
ホロリとさせられる場面がいくつもありました。
中盤までは。
以下ネタバレです。
中盤あたりで、突然主人公の少女の背中から羽が生えてくるのです。
夢の中の出来事ではありません。
背中から本物の(?)白い羽が飛び出してきたのです。
思いも寄らない展開に、えっ!と驚きました。
阪神大震災という現実に起こった出来事が題材であり、神戸市長田区という実在の場所が舞台なので、現実離れした羽の出現に強い違和感を抱いてしまいました。
決して嫌いな話ではないのですが、どうしても「羽」の部分が受け入れられなかったのです。
本書の読後感は、羽の出現に違和感を持つか持たないかによって変わってくると思います。
私は、図書館の新着本で見つけて何の情報もないまま読み始めました。
最初から、ファンタジー要素があるとわかっていたら違った読後感になっていたかもしれません。
個人的には、羽を出現させなくても素敵な「再生の物語」になったのではないかと思うのですが。
ポプラ社
「羽があったらな。お父ちゃんとお母ちゃんに会いに天国まで飛んでいくんや!」阪神大震災で両親を失った兄妹の切ない祈りの物語。
私は原田マハさんの小説が好きで何冊か読んできました。
・キュレーターという経験を存分に発揮された「楽園のカンヴァス」などの美術を題材とした小説。
・「総理の夫」など、少しコミカルな内容の小説。
・「カフーを待ちわびて」「さいはての彼女」など、未来の希望に繋がるような勇気づけられる小説。
一人の作家が書いた小説とは思えないほど、傾向が違います。
どれも好きなのですが、なかでも個人的には「カフーを待ちわびて」のような静かな文章の物語が好きです。
読んでいて心が穏やかになり、活力がもらえるような気がするからです。
この「翔ぶ少女」も当初は「勇気づけられる小説」のつもりで読んでいたのですが、思っていたお話とはだいぶ違っていました。
原田マハさんは、西宮で5年間暮らしていたことがあるそうで、かつて住んでいたアパートが全壊し、大学時代の友人らが被災するという体験から、「どんなことでも乗り越えられる」「復興への想い」を込めて、本書「翔ぶ少女」を書かれたのだそうです。
主人公は、阪神大震災で両親を失った幼い少女・ニケ。
兄や妹と一緒に、震災で妻を失った心療内科の医師のもとに身を寄せることとなりました。
優しい大人たちに囲まれて家では明るく振舞っているニケですが、学校では友人たちから「震災孤児」「足に大怪我をしたかわいそうな子」という目で見られ、孤立していきます。
辛くて「お父ちゃん、お母ちゃんのとこに飛んでいきたいねん。」と思うこともしばしばでした。
大切な人を亡くしたりと誰もが辛い思いをしながらも、明るく軽妙な関西弁でやり取りするご近所さんたちとの会話が、かえって涙を誘います。
ホロリとさせられる場面がいくつもありました。
中盤までは。
以下ネタバレです。
中盤あたりで、突然主人公の少女の背中から羽が生えてくるのです。
夢の中の出来事ではありません。
背中から本物の(?)白い羽が飛び出してきたのです。
思いも寄らない展開に、えっ!と驚きました。
阪神大震災という現実に起こった出来事が題材であり、神戸市長田区という実在の場所が舞台なので、現実離れした羽の出現に強い違和感を抱いてしまいました。
決して嫌いな話ではないのですが、どうしても「羽」の部分が受け入れられなかったのです。
本書の読後感は、羽の出現に違和感を持つか持たないかによって変わってくると思います。
私は、図書館の新着本で見つけて何の情報もないまま読み始めました。
最初から、ファンタジー要素があるとわかっていたら違った読後感になっていたかもしれません。
個人的には、羽を出現させなくても素敵な「再生の物語」になったのではないかと思うのですが。
2014年1月1日水曜日
総理の夫
原田マハ著
実業之日本社
政治関係の難しい話・・・ではなく、これは恋愛ドタバタコメディだ!
東大理学部・同大学院卒のイケメン。
職業は鳥類研究所勤務の鳥類学者。
実家は日本を代表する大財閥で、自分の資産もあり、現在は祖父のお屋敷に住んでいる。
優しくてお人好しで涙もろく、妻をこよなく愛する38歳。
本書は、そんな「理想の結婚相手」のような男が主人公の小説である。
なんて昔の少女漫画的な設定なんだろうか。
そして奥様は、東大からハーバード大学院へ進んだ秀才。
父は有名小説家、母は国際政治学者。
31歳で国会議員に初当選した直進党党首。
現在は、女性初の内閣総理大臣、42歳。
完璧なエリート女性、しかも美女で総理大臣。
ますます漫画チックな設定である。
この現実離れした物語は、「総理の夫」である 相馬日和 がつけている日記という形式で進んでいく。
冒頭から、主人公の相馬日和・通称「ひよりん」の妻に対する愛が炸裂していく。
多忙を極める妻を支え、心配し、愛し続ける。
なんて素敵な方なんでしょう!
読み始めてすぐに「ひよりん」ファンになってしまった。
題名を「総理の夫」から「理想の夫」に変更してもいいんじゃないだろうか。
自分では、肉体派の男が好みだと思い込んでいたのだが、この主人公「ひよりん」のような文系・内向的男子も好みなのかもしれない。
二人の出会いにキュンキュンし、
公邸に移ってますます多忙になった妻とのコミュニケーションが薄くなり寂しく感じる「ひよりん」に同情し、「たとえ世界中が敵になったとしても、君の側につく。君を守る。君についていく。」の言葉にノックアウトされてしまった。
そんなセリフを言える男性が現実にいるだろうか?
いないからこそ読者はこの物語に夢を見るのだ。
(いや、もしかしたら地球の片隅に棲息しているかもしれないが)
他の方がこの小説を読んでどう感じようと、私にとってはこれはギャグを散りばめながら理想を描いた恋愛コメディなのだ。
原田マハさん、私の恋愛のツボをよくご存知だなぁ。
実業之日本社
政治関係の難しい話・・・ではなく、これは恋愛ドタバタコメディだ!
東大理学部・同大学院卒のイケメン。
職業は鳥類研究所勤務の鳥類学者。
実家は日本を代表する大財閥で、自分の資産もあり、現在は祖父のお屋敷に住んでいる。
優しくてお人好しで涙もろく、妻をこよなく愛する38歳。
本書は、そんな「理想の結婚相手」のような男が主人公の小説である。
なんて昔の少女漫画的な設定なんだろうか。
そして奥様は、東大からハーバード大学院へ進んだ秀才。
父は有名小説家、母は国際政治学者。
31歳で国会議員に初当選した直進党党首。
現在は、女性初の内閣総理大臣、42歳。
完璧なエリート女性、しかも美女で総理大臣。
ますます漫画チックな設定である。
この現実離れした物語は、「総理の夫」である 相馬日和 がつけている日記という形式で進んでいく。
冒頭から、主人公の相馬日和・通称「ひよりん」の妻に対する愛が炸裂していく。
多忙を極める妻を支え、心配し、愛し続ける。
なんて素敵な方なんでしょう!
読み始めてすぐに「ひよりん」ファンになってしまった。
題名を「総理の夫」から「理想の夫」に変更してもいいんじゃないだろうか。
自分では、肉体派の男が好みだと思い込んでいたのだが、この主人公「ひよりん」のような文系・内向的男子も好みなのかもしれない。
二人の出会いにキュンキュンし、
公邸に移ってますます多忙になった妻とのコミュニケーションが薄くなり寂しく感じる「ひよりん」に同情し、「たとえ世界中が敵になったとしても、君の側につく。君を守る。君についていく。」の言葉にノックアウトされてしまった。
そんなセリフを言える男性が現実にいるだろうか?
いないからこそ読者はこの物語に夢を見るのだ。
(いや、もしかしたら地球の片隅に棲息しているかもしれないが)
他の方がこの小説を読んでどう感じようと、私にとってはこれはギャグを散りばめながら理想を描いた恋愛コメディなのだ。
原田マハさん、私の恋愛のツボをよくご存知だなぁ。
2013年11月25日月曜日
花々
原田マハ著
宝島社
あの号泣恋愛小説「カフーを待ちわびて」のサイドストーリー。
本書は、第1回日本ラブストーリー大賞を受賞した『カフーを待ちわびて』 の与那喜島を舞台とした連作短編集である。
1編ごとに「鳳仙花」「デイゴの花」など、花の題名がついている。
「カフー」の主人公である明青と幸の名前も出てくるが、ストーリー的には続きではなく独立した物語になっている。
母の介護や色々なことに疲れてしまい、故郷の岡山から逃げ出すように与那喜島にやって来てアルバイトをしている純子。
一方、与那喜島で生まれ育ち、現在は故郷を離れ大企業で働いている成子。
対照的ではあるが、人生に疲れ傷ついた二人が出会い、それぞれの道を歩んでいく。
「カフーを待ちわびて」と同じように静かに流れる時、美しい風景をバックに話が進んでいき、哀しくも温まる素敵な物語になっている。
「カフーを待ちわびて」、「さいはての彼女」 、 そしてこの「花々」と原田マハさんの「美術系」でも「楽しい系」でもない、静かな物語を続けて読んできたが、やっぱりこういった話が私は大好きなのだと改めて思った。
「カフー」のような号泣恋愛物語ではないが、読後に温かな気持ちになれ、沖縄の余韻に浸っていたくなる1冊である。
宝島社
あの号泣恋愛小説「カフーを待ちわびて」のサイドストーリー。
本書は、第1回日本ラブストーリー大賞を受賞した『カフーを待ちわびて』 の与那喜島を舞台とした連作短編集である。
1編ごとに「鳳仙花」「デイゴの花」など、花の題名がついている。
「カフー」の主人公である明青と幸の名前も出てくるが、ストーリー的には続きではなく独立した物語になっている。
母の介護や色々なことに疲れてしまい、故郷の岡山から逃げ出すように与那喜島にやって来てアルバイトをしている純子。
一方、与那喜島で生まれ育ち、現在は故郷を離れ大企業で働いている成子。
対照的ではあるが、人生に疲れ傷ついた二人が出会い、それぞれの道を歩んでいく。
「カフーを待ちわびて」と同じように静かに流れる時、美しい風景をバックに話が進んでいき、哀しくも温まる素敵な物語になっている。
「カフーを待ちわびて」、「さいはての彼女」 、 そしてこの「花々」と原田マハさんの「美術系」でも「楽しい系」でもない、静かな物語を続けて読んできたが、やっぱりこういった話が私は大好きなのだと改めて思った。
「カフー」のような号泣恋愛物語ではないが、読後に温かな気持ちになれ、沖縄の余韻に浸っていたくなる1冊である。
2013年11月23日土曜日
さいはての彼女
原田マハ著
角川書店
「人生をもっと足掻こう!」頑張りすぎて疲れてしまった彼女たちの再生。原田マハさんの元気を与えてくれる短編集。
「さいはての彼女」
25歳で下着の通信販売の会社を起業した主人公の鈴木涼香。
社長としてバリバリ頑張ったお陰で業績はいいのだが、恋に破れ部下に当り散らすという荒んだ生活を送っていた。
久しぶりに休暇を取り、沖縄で優雅な日々を過ごそうと思い立つ。
しかし手違いか嫌がらせなのか、秘書から受け取ったチケットはなぜか北海道、それも女満別行きだった。
そこで、「サイハテ」という名のハーレーに乗っている凪と偶然出会う。
凪は、耳が聞こえないのだが、前向きでいつも明るく、彼女の周りには笑顔が絶えない。
彼女と旅をするうちに、だんだん涼香の心も癒されていく・・・
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」
失恋・失業した女が一人旅へ出かけ元気を取り戻す。
「冬空のクレーン」
大手都市開発企業で大規模な案件を抱えている女性が、北海道へ逃避し、鶴やタンチョウレンジャーに出会う。
「風を止めないで」
夫をハーレーの事故で失った凪の母が、一人の男性と出会いときめきを思い出す。
本書は、以上4編が収められた原田マハさんの短編集である。
「都会での仕事や生活に疲れた女が旅をして自分を見つめ直す」そんなありがちなパターンである。
都合よくいい人ばかり出てくる話である。
しかし、「私」の視点から終始落ち着いたトーンで語られるこれらの短編は、一味違う。
旅先での風景、出会う優しい人々、少しずつリフレッシュしていく彼女たち・・・
ああいいなぁ、と素直に思える話ばかりなのだ。
「人生を足掻こう」
「いい風が吹いています。この風、止めないでね。」
など、心に染み入る文章が散りばめられ、ひねくれたこの私でもほっこり温かくなってくる。
パワフルに頑張っていて強そうに見える女性でも、ふとしたことで心が折れる。
体型は太めだが、別にパワフルでも強くもない私なんかしょっちゅう心が折れている。
折れまくりの人生である。
細かいことにこだわらず、もう少しおおらかに生きたら楽になるのにと思いながら、グヂクヂ悩むことも多い。
本書を読んだからといってすぐに心が強くなれるわけではない。
けれども、「大丈夫だよ」と優しく背中を押され励まされてる気持ちになれる一冊だった。
※「さいはての彼女」と「風を止めないで」に登場する耳が不自由な凪が、明るくとても魅力的に描かれている。
この子いいなぁ、彼女を主人公とした長編小説が出版されないかなぁと思う。
角川書店
「人生をもっと足掻こう!」頑張りすぎて疲れてしまった彼女たちの再生。原田マハさんの元気を与えてくれる短編集。
「さいはての彼女」
25歳で下着の通信販売の会社を起業した主人公の鈴木涼香。
社長としてバリバリ頑張ったお陰で業績はいいのだが、恋に破れ部下に当り散らすという荒んだ生活を送っていた。
久しぶりに休暇を取り、沖縄で優雅な日々を過ごそうと思い立つ。
しかし手違いか嫌がらせなのか、秘書から受け取ったチケットはなぜか北海道、それも女満別行きだった。
そこで、「サイハテ」という名のハーレーに乗っている凪と偶然出会う。
凪は、耳が聞こえないのだが、前向きでいつも明るく、彼女の周りには笑顔が絶えない。
彼女と旅をするうちに、だんだん涼香の心も癒されていく・・・
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」
失恋・失業した女が一人旅へ出かけ元気を取り戻す。
「冬空のクレーン」
大手都市開発企業で大規模な案件を抱えている女性が、北海道へ逃避し、鶴やタンチョウレンジャーに出会う。
「風を止めないで」
夫をハーレーの事故で失った凪の母が、一人の男性と出会いときめきを思い出す。
本書は、以上4編が収められた原田マハさんの短編集である。
「都会での仕事や生活に疲れた女が旅をして自分を見つめ直す」そんなありがちなパターンである。
都合よくいい人ばかり出てくる話である。
しかし、「私」の視点から終始落ち着いたトーンで語られるこれらの短編は、一味違う。
旅先での風景、出会う優しい人々、少しずつリフレッシュしていく彼女たち・・・
ああいいなぁ、と素直に思える話ばかりなのだ。
「人生を足掻こう」
「いい風が吹いています。この風、止めないでね。」
など、心に染み入る文章が散りばめられ、ひねくれたこの私でもほっこり温かくなってくる。
パワフルに頑張っていて強そうに見える女性でも、ふとしたことで心が折れる。
体型は太めだが、別にパワフルでも強くもない私なんかしょっちゅう心が折れている。
折れまくりの人生である。
細かいことにこだわらず、もう少しおおらかに生きたら楽になるのにと思いながら、グヂクヂ悩むことも多い。
本書を読んだからといってすぐに心が強くなれるわけではない。
けれども、「大丈夫だよ」と優しく背中を押され励まされてる気持ちになれる一冊だった。
※「さいはての彼女」と「風を止めないで」に登場する耳が不自由な凪が、明るくとても魅力的に描かれている。
この子いいなぁ、彼女を主人公とした長編小説が出版されないかなぁと思う。
2013年11月19日火曜日
カフーを待ちわびて
原田マハ著
宝島社
「嫁に来ないか」と絵馬に書いたら「お嫁さんにしてください」と女がやってきた!恋愛小説で泣きたい貴方へ。㊟泣けなくても責任は取れません。
この「カフーを待ちわびて」は、原田マハさんのデビュー作であり、第1回ラブストーリー大賞受賞作でもある。
題名のカフーとは、主人公が飼っている黒いラブラドールの名前でもあるが、与那喜島の方言で「いい報せ・幸せ・果報」という意味だそうだ。
主人公の明青(あきお)は、沖縄の離島・与那喜島で小さな「よろずや」を営んでいる。
北陸を訪れた際、神社の絵馬に勢いで「嫁に来ないか、幸せにします。与那喜島・友寄明青」と書いて奉納した。
するとその後、自宅に「私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか」という手紙が届き、本当に女がやってきた!
しかも「でーじ美らさん」(とても美人)が!
美人の女が都合よく向こうからやってくる・・・
まるでイケメンが「拾ってください」と突然やってきた「植物図鑑」のような都合のいい設定である。
それはわかっている。
わかっていても、島で唯一のユタであるおばあとの温かい関係、沖縄の方言、目に浮かぶ美しい風景が、ドラマチックな恋愛物語を雰囲気たっぷりに盛り上げるのだから、ハマってしまうのは当たり前ではないか。
青い海、晴れ渡った空。
静かに、そして穏やかに流れる時。
過去の出来事から自信が持てなくて、お互い想い合っているのに踏み出せない臆病さ。
そして過去がだんだん明らかになり・・・
ああ、そうだったのか!
だからそうなのか!
これが泣かずにいられるだろうか!
「植物物語」では、「いいなぁ。こんな男欲しいなぁ。」と羨ましくてハマってしまったのだが、本書では純粋にこのおとぎ話のようなストーリーに感動した。
自覚していなかったが、実はベタな恋愛物語が好きなのかもしれない。
平凡な人生を歩んできたので、今更ながらドラマチックな恋愛に憧れているのだろうか。
それともヘンな本ばかり読んでいるので、純粋な愛に飢えていたのだろうか。
自分でもよくわからないのだが。
何にせよ、沖縄に思いを馳せながらこの素敵な物語の余韻に浸っていたい。
宝島社
「嫁に来ないか」と絵馬に書いたら「お嫁さんにしてください」と女がやってきた!恋愛小説で泣きたい貴方へ。㊟泣けなくても責任は取れません。
この「カフーを待ちわびて」は、原田マハさんのデビュー作であり、第1回ラブストーリー大賞受賞作でもある。
題名のカフーとは、主人公が飼っている黒いラブラドールの名前でもあるが、与那喜島の方言で「いい報せ・幸せ・果報」という意味だそうだ。
主人公の明青(あきお)は、沖縄の離島・与那喜島で小さな「よろずや」を営んでいる。
北陸を訪れた際、神社の絵馬に勢いで「嫁に来ないか、幸せにします。与那喜島・友寄明青」と書いて奉納した。
するとその後、自宅に「私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか」という手紙が届き、本当に女がやってきた!
しかも「でーじ美らさん」(とても美人)が!
美人の女が都合よく向こうからやってくる・・・
まるでイケメンが「拾ってください」と突然やってきた「植物図鑑」のような都合のいい設定である。
それはわかっている。
わかっていても、島で唯一のユタであるおばあとの温かい関係、沖縄の方言、目に浮かぶ美しい風景が、ドラマチックな恋愛物語を雰囲気たっぷりに盛り上げるのだから、ハマってしまうのは当たり前ではないか。
青い海、晴れ渡った空。
静かに、そして穏やかに流れる時。
過去の出来事から自信が持てなくて、お互い想い合っているのに踏み出せない臆病さ。
そして過去がだんだん明らかになり・・・
ああ、そうだったのか!
だからそうなのか!
これが泣かずにいられるだろうか!
「植物物語」では、「いいなぁ。こんな男欲しいなぁ。」と羨ましくてハマってしまったのだが、本書では純粋にこのおとぎ話のようなストーリーに感動した。
自覚していなかったが、実はベタな恋愛物語が好きなのかもしれない。
平凡な人生を歩んできたので、今更ながらドラマチックな恋愛に憧れているのだろうか。
それともヘンな本ばかり読んでいるので、純粋な愛に飢えていたのだろうか。
自分でもよくわからないのだが。
何にせよ、沖縄に思いを馳せながらこの素敵な物語の余韻に浸っていたい。
2013年7月11日木曜日
ジヴェルニーの食卓
原田マハ著
集英社
画家を献身的に支えた人々の物語。まさに読む美術品。
本書は、キュレーター経験もある著者が、画家との信頼関係で結ばれた4人を主人公にした短編集である。
有名画家が実名で登場するが、語り手は彼らをそばで見守る人々だ。
マティスの身の回りのお世話をするお手伝いさん。
ドガの壮絶な努力を間近に見てきた友人のアメリカ人画家。
セザンヌに出世払いで画材を提供していた画材屋の娘。
老いたモネを支え続ける義理の娘。
彼らが愛情深く見つめる先に、画家たちの素顔が浮かび上がってくる。
『タンギー爺さん』という物語では、売れない画家たちを温かく見守る画材屋の娘が、セザンヌに宛てて手紙を綴っていく。
セザンヌ自身は一度も登場しないが、彼の才能を信じ絵の具を提供し続ける画材屋の主人と、生活が苦しいながらもそれを赦す家族、そしてセザンヌとの絆が見えてくる。
画家たちの日常生活、作品を生み出す苦悩・・・
読んでいると虚実の境目がどこにあるのかわからなくなり、いつの間にか自分もその時代に佇んでいるような気分にさせてくれた。
たとえ「クロード・モネ」が「山田太郎」という無名の、あるいは架空の画家であったとしても、素敵な物語であることは間違いない。
「楽園のカンヴァス」と同じく期待を裏切らない一冊だった。
集英社
画家を献身的に支えた人々の物語。まさに読む美術品。
本書は、キュレーター経験もある著者が、画家との信頼関係で結ばれた4人を主人公にした短編集である。
有名画家が実名で登場するが、語り手は彼らをそばで見守る人々だ。
マティスの身の回りのお世話をするお手伝いさん。
ドガの壮絶な努力を間近に見てきた友人のアメリカ人画家。
セザンヌに出世払いで画材を提供していた画材屋の娘。
老いたモネを支え続ける義理の娘。
彼らが愛情深く見つめる先に、画家たちの素顔が浮かび上がってくる。
『タンギー爺さん』という物語では、売れない画家たちを温かく見守る画材屋の娘が、セザンヌに宛てて手紙を綴っていく。
セザンヌ自身は一度も登場しないが、彼の才能を信じ絵の具を提供し続ける画材屋の主人と、生活が苦しいながらもそれを赦す家族、そしてセザンヌとの絆が見えてくる。
画家たちの日常生活、作品を生み出す苦悩・・・
読んでいると虚実の境目がどこにあるのかわからなくなり、いつの間にか自分もその時代に佇んでいるような気分にさせてくれた。
たとえ「クロード・モネ」が「山田太郎」という無名の、あるいは架空の画家であったとしても、素敵な物語であることは間違いない。
「楽園のカンヴァス」と同じく期待を裏切らない一冊だった。
2013年5月7日火曜日
生きるぼくら
生きるぼくら
原田マハ著
徳間書店
「青年が田舎暮らしを通して成長していく」そんなよくある話をここまで感動的な物語にできるとは。 原田マハさんはすごいなぁ。
「引きこもりの青年が田舎暮らしを通して変わっていく」
こう書くと、なんだかとてもありきたりの展開、お涙頂戴のよくある物語のように思えてくる。
本書は、そんなあらすじながら感動的に味付けされた、原田マハさんの小説である。
主人公は過去の辛い出来事から引きこもりになり、昼夜逆転でネットの世界に入り浸る生活を送っている24歳の青年だ。
母子家庭で苦しい生活の中、母は身を粉にして働いている。
そんな母が突然家を出た。
現金5万円と今年届いた年賀状を置いて。
その後主人公は、田舎でおばあちゃん、対人恐怖症で引きこもっていた女の子と3人で暮らすことになる。
それぞれ心に問題を抱えながら「自然の田んぼ」に癒されていく・・・
あぁ。
こうして私があらすじを書くともっと陳腐な話のようになってしまうので、ここまでにしておこう。
好きで引きこもっているわけではない主人公の苦しみ、対人恐怖症の少女のトラウマ、優しかったおばあちゃんの認知症。
現実社会でも起きているそれらの問題が絡み、思わず涙してしまった。
この物語は、決して明るい話ではない。
簡単に解決できるような問題でもない。
しかし、登場人物たちを応援していた私が逆に「前向きに生きていこう、きっと未来は明るいよ」とエールを送られているような気持ちになった。
代表作「楽園のカンヴァス」とは、同じ方が書いたとは思えないくらい題材も雰囲気も全く異なる。
違うトーンの小説をそれぞれ高水準で世に送り出す原田マハさんはすごいなぁと、より一層ファンになった。
心が疲れたら、この本を再読しよう。
きっと、前向な気持ちになれるから。
※キーワードとしておにぎりが頻繁に出てくる。
コンビニのおにぎりも十分美味しいと思うが、やっぱり母が握ってくれたシンプルなおにぎりが私にとっては一番だ。
原田マハ著
徳間書店
「青年が田舎暮らしを通して成長していく」そんなよくある話をここまで感動的な物語にできるとは。 原田マハさんはすごいなぁ。
「引きこもりの青年が田舎暮らしを通して変わっていく」
こう書くと、なんだかとてもありきたりの展開、お涙頂戴のよくある物語のように思えてくる。
本書は、そんなあらすじながら感動的に味付けされた、原田マハさんの小説である。
主人公は過去の辛い出来事から引きこもりになり、昼夜逆転でネットの世界に入り浸る生活を送っている24歳の青年だ。
母子家庭で苦しい生活の中、母は身を粉にして働いている。
そんな母が突然家を出た。
現金5万円と今年届いた年賀状を置いて。
その後主人公は、田舎でおばあちゃん、対人恐怖症で引きこもっていた女の子と3人で暮らすことになる。
それぞれ心に問題を抱えながら「自然の田んぼ」に癒されていく・・・
あぁ。
こうして私があらすじを書くともっと陳腐な話のようになってしまうので、ここまでにしておこう。
好きで引きこもっているわけではない主人公の苦しみ、対人恐怖症の少女のトラウマ、優しかったおばあちゃんの認知症。
現実社会でも起きているそれらの問題が絡み、思わず涙してしまった。
この物語は、決して明るい話ではない。
簡単に解決できるような問題でもない。
しかし、登場人物たちを応援していた私が逆に「前向きに生きていこう、きっと未来は明るいよ」とエールを送られているような気持ちになった。
代表作「楽園のカンヴァス」とは、同じ方が書いたとは思えないくらい題材も雰囲気も全く異なる。
違うトーンの小説をそれぞれ高水準で世に送り出す原田マハさんはすごいなぁと、より一層ファンになった。
心が疲れたら、この本を再読しよう。
きっと、前向な気持ちになれるから。
※キーワードとしておにぎりが頻繁に出てくる。
コンビニのおにぎりも十分美味しいと思うが、やっぱり母が握ってくれたシンプルなおにぎりが私にとっては一番だ。
2012年8月29日水曜日
旅屋おかえり
旅屋おかえり
原田マハ著
集英社
旅をしたくてもできない人の依頼を受けて代わりに旅をする・・・そんな旅代理業を始める事になった元アイドルの奮闘記。ほっこりできる一冊。
礼文島出身で、小さい頃から海鳥やアザラシを眺めては「海のあっち」の世界に憧れていた主人公の 丘えりか、通称「おかえり」。
修学旅行で東京に行った時にスカウトされ、アイドルデビューするが泣かず飛ばずであった。
売れない元アイドル・おかえり 唯一のレギュラー番組「ちょびっ旅」のレポーター役も、自身の失敗から打ち切りになってしまう。
そんな32歳・崖っぷちタレント・ おかえり は、ひょんなことから旅をしたくてもできない人の依頼を受けて代わりに旅をする旅代理業を始める事になった。
本書は、そんな おかえり の奮闘を描いた物語である。
本書の最大の魅力は、明るく真っ直ぐな おかえり である。
おかえり の番組「ちょびっ旅」なんか見たことないくせに、すぐにファンになってしまった。
「こんな旅番組あったらいいなぁ」と思わせる内容なのだ。
そして、旅行は自分で行くから楽しいのであって、人に代わりに行ってもらうなんて・・・と最初は思うのだが、人それぞれ理由があり、突飛に思えた「旅代理業」という仕事にも納得する。
行く先々で土地の人と交流し人情に触れる・・・まるで女・寅さんのような話でもある。
後ろで支える事務所の人や番組スタッフたちも温かく おかえり を見守る。
旅に出る度に、「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」と笑顔で声を掛けながら。
現実にはこううまくは行かないだろう。
しかし、だからこそ物語の中で感動できるのかもしれない。
読んでいてこんな触れ合いの旅してみたいなぁと憧れてしまう。
おかえり にはいつまでも旅をしていて欲しい、寅さんシリーズのように。
前作「楽園のキャンバス」とはガラッと変わって、笑いあり涙ありのほっこりした一冊であった。
原田マハ著
集英社
旅をしたくてもできない人の依頼を受けて代わりに旅をする・・・そんな旅代理業を始める事になった元アイドルの奮闘記。ほっこりできる一冊。
礼文島出身で、小さい頃から海鳥やアザラシを眺めては「海のあっち」の世界に憧れていた主人公の 丘えりか、通称「おかえり」。
修学旅行で東京に行った時にスカウトされ、アイドルデビューするが泣かず飛ばずであった。
売れない元アイドル・おかえり 唯一のレギュラー番組「ちょびっ旅」のレポーター役も、自身の失敗から打ち切りになってしまう。
そんな32歳・崖っぷちタレント・ おかえり は、ひょんなことから旅をしたくてもできない人の依頼を受けて代わりに旅をする旅代理業を始める事になった。
本書は、そんな おかえり の奮闘を描いた物語である。
本書の最大の魅力は、明るく真っ直ぐな おかえり である。
おかえり の番組「ちょびっ旅」なんか見たことないくせに、すぐにファンになってしまった。
「こんな旅番組あったらいいなぁ」と思わせる内容なのだ。
そして、旅行は自分で行くから楽しいのであって、人に代わりに行ってもらうなんて・・・と最初は思うのだが、人それぞれ理由があり、突飛に思えた「旅代理業」という仕事にも納得する。
行く先々で土地の人と交流し人情に触れる・・・まるで女・寅さんのような話でもある。
後ろで支える事務所の人や番組スタッフたちも温かく おかえり を見守る。
旅に出る度に、「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」と笑顔で声を掛けながら。
現実にはこううまくは行かないだろう。
しかし、だからこそ物語の中で感動できるのかもしれない。
読んでいてこんな触れ合いの旅してみたいなぁと憧れてしまう。
おかえり にはいつまでも旅をしていて欲しい、寅さんシリーズのように。
前作「楽園のキャンバス」とはガラッと変わって、笑いあり涙ありのほっこりした一冊であった。
2012年6月26日火曜日
楽園のカンヴァス
楽園のカンヴァス
原田マハ著
新潮社
アンリ・ルソーに魅せられた人々を描いたミステリー。絵画に対する深い愛情が感じられる一冊。第25回山本周五郎賞受賞作
NY近代美術館--MoMA所蔵のルソー作「夢」。
それにそっくりである「夢を見た」という作品の真贋を鑑定してほしい。
期間は7日間。方法は、一冊の「物語」を読むこと。
そんな不可解な依頼を受けたのは、ルソーに魅せられた二人。
一人は、英語・フランス語を操り、ソルボンヌ大学で美術史を学んだ新進気鋭の美術研究者・織絵。
もう一人は、NY近代美術館で花形キュレーターのアシスタントをしている ティム・ブラウン。
勝者となった者には「夢を見た」の取り扱い権利を与えるという途方もないものだった。
はたして結果は---?
顔をを描くといっても、へのへのもへじ程度しか描けない私は、美術史なんぞ全くわからない。
そんな美術関係初心者が読んでも、全く問題がない作品だ。
しかし、本作は前評判がとても高いので、じっくりゆっくり楽しもうと思い、出てくる絵画を検索しながら読み進めた。
美術館の監視員とはこういう仕事で、ふんふん、じっくり絵を見たいならうってつけなんだ。
キュレーターという仕事は、絵画に関する知識のみならず、社交能力や対人的戦略も大切なのね。
へぇ、ルソーやピカソって・・・
と、知的好奇心を刺激してくれるトリビアがいっぱいであった。
それもそのはず、著者はMoMAにも短期間勤務経験のある正真正銘のキュレーターなのである。
音楽や絵画などの芸術を文章で表現するのはとても難しいだろうと思う。
しかし著者の絵画描写に、熱帯の匂いを感じたり、こちらに向かってくる迫力を感じたりできるのはさすがと思う。
好きな絵の前で何時間も至福の時を過ごすことができるという美術愛好家が羨ましく感じる。
専門家が読んだら、首をかしげたくなることも書いてあるのかもしれない。
ミステリーマニアが読んだら、物足りないかもしれない。
幸いにしてそのどちらでもない私にとっては、絵画に対する情熱と愛情を感じる極上の物語であった。
原田マハ著
新潮社
アンリ・ルソーに魅せられた人々を描いたミステリー。絵画に対する深い愛情が感じられる一冊。第25回山本周五郎賞受賞作
NY近代美術館--MoMA所蔵のルソー作「夢」。
それにそっくりである「夢を見た」という作品の真贋を鑑定してほしい。
期間は7日間。方法は、一冊の「物語」を読むこと。
そんな不可解な依頼を受けたのは、ルソーに魅せられた二人。
一人は、英語・フランス語を操り、ソルボンヌ大学で美術史を学んだ新進気鋭の美術研究者・織絵。
もう一人は、NY近代美術館で花形キュレーターのアシスタントをしている ティム・ブラウン。
勝者となった者には「夢を見た」の取り扱い権利を与えるという途方もないものだった。
はたして結果は---?
顔をを描くといっても、へのへのもへじ程度しか描けない私は、美術史なんぞ全くわからない。
そんな美術関係初心者が読んでも、全く問題がない作品だ。
しかし、本作は前評判がとても高いので、じっくりゆっくり楽しもうと思い、出てくる絵画を検索しながら読み進めた。
美術館の監視員とはこういう仕事で、ふんふん、じっくり絵を見たいならうってつけなんだ。
キュレーターという仕事は、絵画に関する知識のみならず、社交能力や対人的戦略も大切なのね。
へぇ、ルソーやピカソって・・・
と、知的好奇心を刺激してくれるトリビアがいっぱいであった。
それもそのはず、著者はMoMAにも短期間勤務経験のある正真正銘のキュレーターなのである。
音楽や絵画などの芸術を文章で表現するのはとても難しいだろうと思う。
しかし著者の絵画描写に、熱帯の匂いを感じたり、こちらに向かってくる迫力を感じたりできるのはさすがと思う。
好きな絵の前で何時間も至福の時を過ごすことができるという美術愛好家が羨ましく感じる。
専門家が読んだら、首をかしげたくなることも書いてあるのかもしれない。
ミステリーマニアが読んだら、物足りないかもしれない。
幸いにしてそのどちらでもない私にとっては、絵画に対する情熱と愛情を感じる極上の物語であった。
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