2017年5月16日火曜日

BUTTER

適量ってどれくらい?「木嶋佳苗」に翻弄される記者の物語。

柚木麻子著
新潮社



先日、木嶋佳苗の死刑が確定したが、本書は、彼女を題材とした柚木麻子さんの小説である。

主人公の里佳は30代の週刊誌記者。
交際中だった男性3人の金を奪い殺害した罪に問われ勾留されている、梶井真奈子(通称カジマナ)と面会することに成功した。
カジマナは、仕切りを通して里佳に様々な食に関する指示を与えていく。
それに応えるうちに、里佳は食生活が変わり太り始める。
記事を書くために接触していたはずが、カジマナの魅力にとりつかれ、翻弄されていくのだ。

木嶋佳苗に感じていたモヤモヤや違和感を、鋭い視点で表現していて、ああ、さすがだなと感じた。(本書では、カジマナだけど。)

里佳と友人との会話で印象的な場面がある。
料理本の表記で、塩適量とか塩少々ってあるでしょ?最近、ああいう個人の裁量に任せた表記をするとクレームがくるって。(略)自分の適量っていうものに自信がない人が増えたんだなって、言ってた。料理ってトライアンドエラーなのにね。
里佳は、カジマナに振り回され、自分の適量を見失ってしまうのだ。

次から次へと食べ物が出てくる小説でもある。
エレシバターをご飯にのせて醤油を垂らしたバター醤油ご飯!美味しそう!
宮崎牛の熟成肉ステーキ!食べたーい!
当初は、そう思いながらヨダレを垂らしつつ読んでいた。
しかし、うっとりするような食レポの数々、めくるめく美食の世界にクラクラして、胸焼け気味になってくる。
高級フレンチ、ラーメンのバター増し増し・・・
ああ、お腹いっぱい!もういいです!と叫びたくなってしまった。
納豆とご飯で満足する庶民にとって、豪華なこってり料理は、たまぁ~のご褒美に食べるだけで十分だ。
それが私の適量なのだろう。

その後、「突然これってミステリーだった?」と思うような場面があったり、「ちび黒サンボ」の話がモチーフになっていたり、また、高級食材だけでなく、社会的事件、女性の働き方、母親との関係、不妊、生き辛さ・・・等々、てんこ盛りの内容で、お腹も頭もいっぱいいっぱいになる。
もう少しテーマを絞った方がよかったように思う。

とはいえ、読むたびに文章の凄みが増してると感じる柚木麻子さん。
これからも追いかけて行きたい。

キラーストレス 心と体をどう守るか

ストレスで死に至る⁉ストレスチェックを受けてみたら・・・まさかの結果に驚愕!


NHKスペシャル取材班
NHK出版



この世に生まれ落ちた瞬間から、私たちは生きている限り、ストレスから逃れることができない。
ある条件が重なると、ストレスは命を奪う病の原因へと形を変えていくのだという。
本書は、NHKスペシャル「キラーストレス~そのストレスは、ある日突然、死因に変わる」を書籍化したもので、「キラーストレス」(取材班の造語)を国内外の最新の研究から解明していく。

いいことであれ、悪いことであれ、大きな変化があったとき、 ~例え結婚や成功といった喜ばしいことでも~ 人はストレスとして受け止める。
つまりストレスとは「変化」であるという。

ストレスが遺伝子を操り、ガン細胞を増殖させる、
ストレスに強いか弱いかは生まれつきある程度決まっている、
子どもの頃に極度のストレスを体験すると、その影響が大人になってから「ストレスに弱い」という形で現れてくる・・・
など、ストレスに関する詳細なメカニズムが、最先端の研究から紹介され、ストレスを放っておくと命に関わるのだと怖くなってくる。

過去のことを悔やんだり、未来のことを心配したり、実際に起こっていない余計な妄想で頭がいっぱいになってしまう状態を「マインド・ワンダリング」と呼び、いま、世界中で関心が高まっているのだという。
あれこれ考えを巡らせている間、ストレス反応がずっと続いていて、どんどん脳をむしばみ、心の状態を悪くしてしまうというから恐ろしい。
「ストレスって怖い!ストレスで病気になっちゃうかも!」と読みながら思っている私は、まさにそのマインド・ワンダリングの状態なのだろう。

本書では、ストレスに対抗する方法として、以下の3つが紹介されている。

・運動------自律神経の興奮を抑え、ストレスの大元である脳の構造を変えることで、ストレスを解消する。

・コーピング------cope(=対処する)に由来。
自らのストレスを観察して対処する。
具体的には、ストレス解消法を事前に100個リストアップしておく。
実際にストレスに襲われたとき、その中からふさわしい対策を選択する。

・マインド・フルネス------瞑想の医学的な効果を研究する中から生まれたもので、宗教性を排除した心理療法。
過去や未来のことを考えず、「今」に心を向ける。

ストレスは次から次へと襲ってくるのだから、完全に逃れることはできない。
だったら上手く対処する方法を身につけ、やり過ごしていきたい。
紹介されている方法はどれもコツを掴めばできそうなものばかりだ。
さっそく生活に取り入れてみようと思う。


※冒頭にストレスチェックが掲載されていた。
ストレスを感じる毎日なので危険水域かもと思いながらやってみたのだが、ほとんど当てはまらなかった。(1年前なら高得点だったのに!)
「意外に高い点数が出たのではないか?」と言われたが、あまりの点数の低さに驚愕したのだ。
ストレスがないのに、ストレスに晒されている毎日だと感じていたとは!
そんな自分にストレスを感じてしまうではないか!
冷静に考えるとこのストレスチェックは、大都会の企業戦士向けではないだろうか。
私のように田舎でのんびり暮らしながらもストレスを感じているタイプには、当てはまらないのかもしれない。

※NHKスペシャル「シリーズ キラーストレス」のサイトで手軽にストレスチェックができます。ぜひやってみてください。「ライフイベントストレスチェック」

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち

平凡な人の人生が、ある日突然破壊される!ネットリンチの怖さに迫る。

ジョン・ロンソン著
夏目大訳
光文社



本書は、自らのコメントなどで炎上した結果、社会的地位・職を失った人たちや、吊し上げた側のインタビューを通し、ネットリンチとはどのように起き、そしてどのような被害をもたらすのか明らかにしていくドキュメントである。
(原題は「 So You've Been Publicly Shamed」 )

著者は、ロンドン在住のコラムニスト、ノンフィクション作家で、「サイコパスを探せ」などの著作がある。

ある日、著者は、Twitterで自分を騙るbotアカウントを発見した。
IT関係者や研究者ら3人が、著者になりすましていたのだ。
削除に応じない彼らとの対話を動画サイトで晒し、削除させることに成功する。
その出来事をきっかけとして「炎上」に興味を持ち、当事者たちにインタビューしていく。

ボブ・ディランの発言を捏造した人気作家と、それを暴いたジャーナリスト。
ジョークのつもりのつぶやきが人種差別とみなされ、世界最大の炎上事件となってしまったネット企業の広報部長。

また、隣に座った友人と内輪ウケのジョークを言い合っていたところ、その内容と顔写真を前の席に座っていた女性につぶやかれ炎上、双方とも失職した例もあげられている。

何か言動に問題のあった特定の個人を大勢の人が晒し者にし吊し上げた結果、彼らは一様に職を失い精神的に大きなダメージを受けている。

一方、SM乱交スキャンダルで致命傷を負ったかにみえた国際自動車連盟会長は、ほぼ無傷で復活を遂げた。
売春婦の顧客リストが流出し、牧師や弁護士などの名前が明らかになったが、炎上せずに収束した例もある。

炎上する・しないの違いはどこにあるのか?
巻き込まれた場合、どう対処したらいいのか?
炎上後、復活するにはどうしたらいいのか?
当事者たちへのインタビュー、「恥」を知るためのAV撮影現場の見学や女装体験・・・など、様々な観点から考察していく。

著者は終始冷静な口調で「これまで何人もの人を公開処刑にした」などと、なかなか言いづらいことを告白したり、素直に思ったままのことを言葉にし綴っている。
そこまであからさまにに言うのか!と驚くほどだ。

炎上の元となった不用意な発言で、直接傷ついたのは誰だろうか?
吊し上げる者たちは、「これを聞いたらあの人が傷つくだろう。」と推測し、代わりに感情的になる者が多いのではないだろうか?
しかも、悪いことをしているという自覚はなく、むしろ正義感から良かれと思い告発して自己満足しているように感じられる。
そしてしばらく経つと、忘れてしまう・・・
そう考えると、やはり一番傷つくのは発言し叩かれた本人だろう。
だからといって、ソーシャルな場で不用意な発言をする者を擁護しているわけではないが。

日本での炎上はもっと低俗だ。
政治家の問題発言や芸能人の炎上騒ぎ、一般人では迷惑行為の証拠を自ら投稿した「バカッター」、「バカチューバー」が世間を騒がせている。

ローマ時代にコロッセオで行われた公開処刑は、当時人気の娯楽だったという。
火炙り、ギロチン、市中引き回し・・・様々な手段で行われてきた公開処刑の歴史は古い。
これからも「炎上」という名の公開処刑、公開羞恥刑はなくならないだろう。
また、炎上までいかなくても、ネット上のやり取りで誤解を招くことは誰にでもあり得る。
良識ある発言、そして自分の身は自分で守る事が大切ではないだろうか。


※日本でも最高裁判所が決定を下し話題になった「忘れられる権利」。
何か評判を落とすような自分に不利な検索結果が上位にこないように、「評判管理」を請け負う会社があるのだという。
例えば、顧客にとって都合のいい事が書かれているサイトを捏造し、それが検索結果の上位を占めるように操作する、などである。
調べると、日本にも同様の会社があると知り、驚いた。

※子どものなりたい職業ランキングでYouTuberが急上昇しているという。
(新1年生対象クラレ調べで25位、小1~6対象学研調べでも25位)
ネットリテラシー教育の充実が必要だと思う。

2017年4月20日木曜日

鳥肌が

「この文章ってどこまで本当なんですか」という質問が穂村さんの「怒りのツボ」だった⁉歌人・穂村弘さんのエッセイ集。

穂村弘著
PHP研究所



何気ない日常の中にある違和感、それに伴う怖さ、題名でもある「鳥肌が」立つような事柄について綴っている、歌人・穂村弘さんのエッセイ集である。

駅のホームで先頭に並ぶ際、後ろから突き飛ばされた時のために腰の重心を落とすという、用心深い穂村さん。

体重を計る時、必ず服を着て計るという穂村さん。
服の分重いんだと言い訳できるからだそう。

こんなに心配性だと、疲れてしまうのでは?と思うことや、クスクス笑ってしまうネタ、あるある!と共感する話が満載だった。

前にエッセイ集「蚊がいる」を読んだ時には、「穂村さんて妄想上手で気弱ないい人なんだな」なんて思っていたが、本書を読んだら穂村さんの印象がだいぶ変わってきた。

誰でも目にするけれど素通りしているようなことを掘り下げたり、気づいてはいるが、言葉にできないモヤモヤとした違和感をはっきりさせてくれたりと、独特の鋭さは変わらずすごいなと思う。

でも、「気弱な」というのは違うのではと感じ始めてきたのだ。
だって、この本だけでも「当時つきあっていた彼女」の話が何ヵ所も出てきて、肉食系な部分もチラチラ見え隠れしているのだから。

私の中で穂村さんは、「妄想上手で気弱ないい人」から「鋭い感性をお持ちのやる時はやる、妄想上手ないい人」に変化してきているのである。

装丁が特徴的な本でもある。
表紙のウサギを抱いた女性にはエンボス加工が施されていて、凸凹している。
題名通り「鳥肌」を表現しているのだろう。
また、スピン(栞紐)が、派手なピンクの細い紐3本となっていて、全体的に攻めている印象の装丁である。
(装丁は「伝染るんです」を手がけた祖父江慎さん。)
ただ、ピンクのスピンはツルツルしていて掴みにくく滑りやすかったのだが。

「本をつくる」という仕事

「本」はどのようにして作られるのだろうか?本にかける情熱を知り、本のありがたみ、読める幸せを噛みしめる。

稲泉連著
筑摩書房



誰かが、文章を書き、印刷し、製本する。
それが書店に並び、手に取り、読むことによって、私たちは読書を楽しむことができる。
当たり前のように毎日手にしている本だけれど、本をつくっている方々の仕事ぶり、彼らの熱い思いにどれだけ気づいていただろうか?

本書は、本づくりに携わる方々の仕事ぶりを追ったノンフィクションである。

大日本印刷のオリジナル書体で、明治時代に作られた活字「秀英体」。
職人たちが作り上げた滑らかで抑揚があり、力強い活字。
その温かみを現代に取り戻そうというプロジェクトに携わった伊藤さんは言う。
「こんなに幸せなことはない、という思いで働いていた。」

製本所の4代目である青木さんは、ドイツで製本技術を学んでいた頃を思い出して、言う。
「一つひとつの技術を身に付けていくことが本当に楽しかった。」

活版印刷の持つ歴史や世界そのものに魅了された活版印刷工房の方は、「とにかく活版で本をつくれる環境を残して、次の世代に渡したかったんです。」という。

他にも、校閲者、製紙会社、装幀家、翻訳書の版権仲介者、児童文学作家が登場し、仕事について熱く語っている。

本をつくるには、ここまで多くの人が関わっているのかと驚き、感動する。
1冊の本の背後には、プロフェッショナルなたくさんの人たちの工夫と熱意があるのだ。
読んでいる私は、彼らの思いを少しでも受け止めているだろうか?

もっと装丁や紙の質感、フォントを味わおう。
読みたいと思い買ったものの、後回しにして積んでいる本だって、多くの情熱が注がれているはずだ。
積んでばかりいないで、手に取ろう。
本好きたちが多くの本を購入し、読んで楽しむことが、「本」にとって一番幸せなことなのだと思う。

※本書を読んで、新潮社の創設者・佐藤義亮氏に興味をもった。
「佐藤義亮伝」は1953年出版で手に入らないが、「出版の魂:新潮社をつくった男・佐藤義亮」「出版巨人創業物語」を読もうと思う。積まずに。

※製紙会社の章で興味深い話をみつけた。
1900年前後に製本された作品は、硫酸バンドという使い勝手の良い素材が使用され、紙が酸性だった。
そのため、酸化により紙の繊維が切れやすかった。
20世紀半ばに、世界中の図書館に収められたその時期の本が一斉に劣化し、ボロボロと崩れていくことが社会問題化されていた。
酸性紙以前の本は無事だったのに。
その後、中性紙が開発され、解決されたのだという。

2017年4月15日土曜日

世界の国で美しくなる!

♪苦しくったって~ ♪ しんどくったって~ ♪美人になるなら平気なのっ♪

とまこ 著
幻冬舎




本書は、美しくなるために世界各国を巡り、美容エステやマッサージなどを受けまくった体験記です。

タイで、M字開脚をしながら25リットルもの塩水を入れる腸内洗浄を体験し、天国と地獄を同時に味わったり、
ラオスでヨーグルトやら何やら塗りたくって薬草サウナに入ったり、
ドイツでまさかの混浴サウナに入ってしまい、裸天国を経験したりと、
著者のとまこさんは、次から次へと果敢にチャレンジしていきます。
ベトナムで、韓国で、トルコで、フィンランドで・・・
ホントに効くの?という怪しげな眉唾物から、極上の癒し系まで!

気持ちがいいものばかりではありません。
悶絶するほど痛いマッサージや、我慢大会か!というような熱さなど、美とは修行であることがよくわかります。

とまこさんは、何でもやってみよう!、楽しもう!、仲良くなろう!というスタンスで、不快なことも笑い飛ばしていきます。
その勇気とプラス思考、羨ましいなぁ。

へぇ、糸で産毛を抜く挽面(ワンミエン)ってそんなに痛いんだ。
インドの、眉間にゴマ油垂らすやつは「脳のマッサージ」と呼ばれて昇天するほど気持ちいいの?
それならやってみた~い。
耳掻き屋さんも痛くなくて気持ちいいんだ、なるほど。

小心者の私ができないことを、代わりに体を張って実験し教えてくれるように思えてきます。
ありがたいではないですか。

吐き出すほどまずいクロワッサンや、うっとりする参鶏湯を味わったり、怪しげな人物や面白い人に遭遇したりと楽しい旅行記でもあります。

やはり「美は1日にしてならず」、努力の積み重ねとお金が必要なんですね。
面倒くさがり屋の私も、少しはとまこさんを見習って努力しなくちゃと反省しています。

えっ、いくら努力しても土台が違うから無理だって?
あがくだけ無駄?
そんな事言うあなたは、女心がわかっていませんねぇ。
女は1グラムでも痩せたい、1ミリでも美しくなりたい ~例え誰にも気づかれないような些細な変化でも~ と願っている生き物なのですよ!

※ちなみに、写真に写る著者のとまこさんは、「えっ!もっと美しくなりたいだと!チッ!」と、舌打ちしたくなるような若くて美しい方でした。

※ドイツで受けたアロマオイルマッサージのセラピストが男性だったというのを読んで、友人の同じような体験を思い出しました。
バリ島のエステで受けた同じくアロマオイルマッサージでのこと。
パンイチで待っていると、現れたのは若い男性だったそうです。
驚き固まった状態で、うつ伏せ・仰向けのマッサージを受けたので(乳房まで!)、リラックスするどころか凝り固まり疲れたと言ってました。
とまこさんは、リラックスして受けられたようですが。

紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男

抱いた女は4000人⁉貢いだお金は30億円⁉ 75歳、男の一代記。

野崎幸助著
講談社



「74歳の男性宅から、現金600万円と貴金属5400万円相当を盗んだ疑いで、27歳自称モデルを逮捕した。」(2016/2/22)
本書は、そんな事件で一躍有名になった男性の自叙伝である。

昭和16年に和歌山で生まれた著者は、苦労しながら貸金業や酒類販売業などで財を成した。
金持ちになって好みの女性と遊ぶことを目標に頑張ってきたのだ。
本人曰く、家も食事もいたって質素で、お金は女の子のために率先して使うと決めているんだそう。
今でも午前3時頃から昼頃まで仕事をして、昼寝のあとお姉ちゃんたちと楽しむ毎日を過ごしているらしい。

コンドームの訪問販売で、農家の奥様方から実演販売をよくせがまれたとか、
貸金業のお得意様は賭博好きの宮内庁職員などエリートたちだった、
といった仕事の話もとても興味深いのだが、個人的には女性関係が気になって仕方がない。

どうして75歳のおじいちゃんが若い女の子をとっかえひっかえできるのか?
なぜそこまで元気なのだろうか?

70代と言えば、夜トイレに何回起きるかとか、コンドロイチン・グルコサミンなどの話題で盛り上がるお年頃だというイメージを持っていた。
でもこの御仁はちょっと、いや、かなり違う。
今でも1日2回3回は当たり前なんだそう。
脳梗塞を経験されている過去があるのに!

仕事で成功、女の子とも性交、というと脂ぎった押しが強いタイプを想像するのではないだろうか?
しかし著者は、160㎝と背が低く、ひ弱な小心者で腰が低いタイプと自称している。
(動かすのはお好きなタイプだろうが。)
そして好みの女の子は、若くてグラマラスな美人。
ソープやデリヘルなどの玄人は好きじゃないとおっしゃる。
じゃあ、どうやって若い女の子と遊べるんだ、やっぱり金か、オレにも教えてくれ!と思った方は、どうぞ本書を読んでくださいね!

あまりの女好きに、当初は驚き呆れていたが、ここまで突き抜けていると可愛らしく感じてくるから不思議だ。
どれほど誇張しているのかわからないが、読み物として大変面白かった。

あきない世傳 金と銀〈3〉奔流篇

商い中心の話になり、俄然面白くなってきた!大坂の呉服商に嫁いだ幸の成長物語。

髙田郁著
角川春樹事務所



学者の家に生まれた主人公の幸(さち)は、子どもの頃から知識欲が旺盛だった。
父の死後、大坂の呉服商「五鈴屋」に女衆として奉公することになる。

ときは「商い戦国時代」。
知恵を武器に商いの戦国武将となるべく奮闘する幸の成長物語である。

第1巻源流篇では、兄と父を立て続けに亡くし、大坂の呉服商「五鈴屋」に奉公することになる。

第2巻早瀬篇では、その聡明さを買われ、ろくでなし店主・4代目徳兵衛の後添いとなるが、夫を不慮の事故で失う。

そしてこの第3巻奔流篇では、4代目の弟である5代目徳兵衛の妻となり、知恵と工夫で夫を支えながら奮闘していく。

「商いの戦国武将になる」と言っても、幸は「お主も悪よのう」でお馴染みの悪代官とセットである悪徳商人や、守銭奴・銭ゲバのような人物ではもちろんない。
聡明で商才はあるが、商いに情けは無用と考える夫と周りとの潤滑油のような存在だ。
そこに髙田郁さんならではの優しいエッセンスが振りかけられ、思わず応援したくなる芯の強い女性として描かれている。

第3巻に入り、店の名前を広める工夫をしたりと商い中心の話になって、俄然面白味が増してきた。
波乱含みのラストだったが、幸ならきっと乗り越えていくだろう。
期待しながら、次巻を待ちたい。

2017年4月5日水曜日

ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~

ついに完結‼ビブリア古書堂シリーズの最終巻。色々楽しませてもらいました!ありがとう、栞子さん。

「ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~」
三上延著
KADOKAWA




北鎌倉の駅前ににひっそり佇む古本屋「ビブリア古書堂」。
店主の栞子さんは、美人で巨乳。
そして極度の人見知りだが、古書に関しては膨大な知識を持ち、次々と本に関する謎を解いていく。

そんな人気シリーズも、これで最後かと思うと寂しくて、読み始めるのがもったいない・・・
なんて、思わんがな!
だって、前作から2年以上経つんだもん。
待ちくたびて、細かいストーリーを忘れちゃったじゃないの!
復習してから読まなきゃならなかったんだから!


最終巻ということもあり、色々な思いを巡らせながら読み始めると、いつも通りすぐに夢中になった。

今回の題材は、17世紀に刊行されたシェイクスピアのファーストフォリオ、戯曲を集めた最初の作品集である。(フォリオとは2つ折り本の意味。)
過去には6億円で取引されたこともあるという、今までとは規模が違う高額なものだった。

祖父が仕込んだ悪質な仕掛けに翻弄される栞子さんの様子が、恋人である大輔くんの視点から描かれている。

そこに、人物相関図を見なければ理解できない複雑な家族関係や、対立している母親との関係、そして栞子さんと大輔くんの恋愛が絡む。
祖父の弟子だったという怪しげな人物も登場し、伏線を回収しながら最終巻にふさわしい壮大なストーリーとなっている。

ああ、面白かった!
このシリーズ、堪能させてもらいました!
思えば、せどり屋などの専門用語や、本や古書の知らなかった世界を教えてくれたのもこのビブリアだったなぁ。

栞子さんは必然性もないのになんで巨乳なんだ!
大輔くんだっていつまでもアルバイトしてないで就職活動したらいいのに!
二人はいい大人の恋人同士なのに、なんでいつまでもモジモジしてるの?
などと、外野からヤジを飛ばすのも、このシリーズの楽しみの一つだったなぁ。

こうなってくると、母親との対立が消化不良とか細かいことなんか気にならない。
巨乳だっていいじゃないか、にんげんだもの。
恋愛だって人それぞれ。みんなちがってみんないい。
「みつをとみすゞと私」のような気になってくるのだ。

あとがきによると、シリーズ本編は完結したけれど、番外編やスピンオフという形で続くのだそう。
栞子さんたちは結婚して、いつまでたってもモジモジしたラブラブ夫婦で、二人の子どもはどうせ可愛くて本好きなんでしょ!
などと妄想を楽しみながら待ちたいと思う。


※ラノベということで偏見があるかもしれませんが、本に絡んだ謎解きや古書の世界が本当に面白いおススメのシリーズです。
確かに入り口は軽いですが、奥が深いのです。
実在の書籍を題材とした謎解きは、知識欲を刺激し、また読書欲をかきたてることでしょう。
突っ込みを入れながら読むのもまた一つです。
読み始めたら、2巻3巻と進むにつれ、ズブズブとはまっていく物語です。
最終巻が出版されたこの機会に、どうぞ一気読みしちゃってください。
(㊟個人の感想です。)

この音とまれ! コミック 1-13巻セット

筝にかける青春!全国1位を目指す箏曲部の物語。

「この音とまれ!」
アミュー著
集英社



「この漫画、面白いから読んでみて」
娘のそんな甘い言葉にのせられて手に取りました。
娘の思惑通り、1、2巻を読み終わると「13巻まで出てるの?じゃあ、お金渡すから大人買いしてきて。」と口走っていたのです。
だって、キラキラした青春と感動が詰まっている素敵な物語なんですもの‼

「この音とまれ!」は、「ジャンプスクエア」に連載中の、高校の箏曲部を舞台とした物語です。
先輩の卒業によって部員がたった一人となった時瀬高校箏曲部は、廃部の危機に直面していました。
そこへ、警察沙汰を起こした不良やその仲間、家元のお嬢様などが入部し、全国大会1位を目標に頑張るという青春コミックです。

主な登場人物を紹介しますね。

倉田武蔵・・・箏曲部の部長。同級生の男子からバカにされ、自信をもてないでいた。しかし、一筋縄ではいかない新入生たちを束ねていくうちに、だんだん頼もしく成長していく。

久遠愛(くどうちか)・・・親に見捨てられ自暴自棄になっていた。ナイフみたいに尖っては触るものみな傷つけていたが、箏の職人である祖父が創設した箏曲部に入部し、真剣に筝と向き合うようになる。イケメン。(※個人の感想です。)

鳳月さとわ・・・箏の家元である鳳月家のお嬢様だが、今は破門されている。口も性格も悪い美少女。巨乳。(→少年漫画ということから、必要な要素なのだろうか?)

滝浪凉香・・・数学教師、箏曲部の顧問。音楽一家のサラブレッドだが、嫌気がさし音楽から遠ざかる。やる気がなく投げやりだったが、部員たちの努力する姿を見て、だんだんと変化していく。イケメン。(※あくまでも個人の感想です。)

その他、久遠愛についてきただけで筝には何の興味もなかった仲間たち、部を引っ掻き回すためだけに入部した女子など、寄せ集めのまとまりない部員たちが、全国1位を目指していくのです。

それぞれがそれぞれの事情を抱えながら、筝に情熱を注ぎ懸命に頑張る姿は、眩いばかりです。
そのキラキラした青春がとても羨ましいのです。

肝である演奏シーンの描写ですが、当初はイマイチ感動が伝わってきませんでした。
重要な場面だからもう少し丁寧に描いて欲しいなと思っていましたが、ストーリーが進むにつれてそれも解消され、圧巻の演奏シーンが続き、引き込まれていきます。
初めてみんなの音が1つになったとき。
音1つで会場の雰囲気が一変するとき。
思いをのせた演奏が届いたとき。
ああ、筝の音色っていいなぁと感じるのです。実際には聞こえてないのだけれど(^_^;)

著者のエミューさんは、3歳から筝を始め、筝奏者に囲まれて育ったそうです。
高校箏曲部で指導しているというお母さま、お姉さまにこの連載について相談もされているといいます。
だからこそ、厚みがある読み応え十分な筝描写ができるのですね。
作中に出てくるオリジナル曲は、お母さまとお姉さまが作曲されていて、実際に聞くことができます。
・初めてみんなで弾いた「龍星群」
・全国予選のために練習している「久遠」

予選で出会ったライバルたちとその背景も描かれており、だんだん壮大なストーリーになってきました。
これから彼らがどうなっていくのか楽しみです。

※筝と琴が違う楽器だと初めて知りました。
筝(こと/そう)は、柱(じ)という可動式の支柱を動かして音の高さを変える、
琴は柱がなく、弦を抑える指のポジションで音の高さが変わる、
という違いがあるそうです。

※3/3に14巻が発売されました。

※無料試し読みやヴォイスコミックもあります。

〆切本

大先生方、笑っちゃってごめんなさい。皆さんも〆切に苦しんでいたのですね。なんだか安心しました。



本書は、夏目漱石、谷崎潤一郎、泉麻人、西加奈子…大作家から現代作家、漫画家まで、〆切にまつわるエッセイ、手紙、漫画等を集めたアンソロジーです。

編集者にカンヅメにされる作家。
憧れませんか?
いえいえ、売れっ子作家になりたいわけではなく、高級ホテルで「お願い、待って。もうちょっとだから‼」などと呟いてみたいなぁと思っただけです。
でも、本書を読んだらそんなお気楽発言なんかしちゃいけないのが、よぉくわかりました。
だって、皆さん本当に笑っちゃうほど、必死に困っているんですもの。(笑)

「風邪気味なもんで、今日中になんとか」
「風邪は治ったんですが、ワイフが風邪ひいちゃって、家事をしなくちゃいけないもんで、今日中になんとか」
「ワイフの風邪は治ったんだが、ワイフの祖母が風邪ひいたんで、実家に看病に行ったら、その間に猫が風邪ひいちゃって…」
というミエミエの言い訳をするのは、高橋源一郎氏。
それを聞いた編集者はどう思ったんでしょうか。

遅筆で有名だった井上ひさし氏は、編集者に「殺してください」と申し出たそうな。
そんなこと言われても困りますよね。

そんな言い訳や、苦労話が90本も収められています。
人が苦しんでいるのを、笑いながら読んでしまってごめんなさい。

「原稿が遅れているいいわけをどうしようかずっと考えているので原稿を書く暇がない」とお嘆きの作家の皆さん、そんな暇があったらとっとと書いてくださいな‼
そう思ってしまうのは、編集者と素人だけなのかもしれません。

編集者とはこんなにも大変な仕事なのかと、同情の念を抱きます。
(吉村昭氏曰く、「締め切り過ぎてやっと小説をとった時の醍醐味は、なににも換えられないな」という編集者もいるらしいですが)
どうぞその苦しみを吐き出して、苦労話をお書きください。
編集者からみた「〆切本」も笑える…、いやいや、売れると思うのですが。

「締め切りが迫らなければ考える気がしない」とおっしゃる山田風太郎氏。
モチベーションや集中力のために、そして発売日や大人の事情のために、〆切が必要なのはわかります。
ということは、今もどこかで苦しんでいる作家さんがいるのでしょう。
どうか、編集者たちを苦しめずに早く仕上がりますように、お祈り申し上げます。

(でも、ちょっとは高級ホテルでカンヅメにされて「あー、書けない!」というポーズをしてみたいかも。)


※何人かの方は、〆切前に書き上げるとおっしゃってました。
性分だそうです。
私も夏休みの始めに宿題を終わらせてしまうタイプでした。
でも高校時代、原稿用紙80枚の小説を書く「80枚創作」という課題には苦労しました。
〆切日の通学電車の中で仕上げた思い出があります。
※恩師のエッセイも載っていました。先生はきっちりタイプだったのですね。

2017年2月18日土曜日

人魚の眠る家

脳死した娘は患者なのか、それとも死体なのか?「死」の定義とは?



《あらすじ》
薫子は、夫・和昌の浮気が原因で別居していた。
話し合いの末、娘・瑞穂の私立小学校受験が終わったら離婚することになっていた。
そんな中、娘・瑞穂がプールで溺れ、意識不明となる。
脳死の可能性が高く、医師から臓器提供の意思を確認された。
一度は臓器提供を決断した夫婦だったが、 ピクリと手が動いたことがきっかけで娘は生きているのだと思うようになる。
臓器提供を断り、離婚ぜすに娘と生きることを決断した。

薫子は、脳波の反応もなく寝たきりの娘を自宅に連れ帰り、手厚い看護をする。
自発呼吸ができる横隔膜ペースメーカーを装着し、人工神経接続技術で瑞穂の体を動かし、筋肉を鍛えたりと努力を続けていくが・・・


重たいテーマの小説である。
「色々な機器を装着させて無理矢理生かすのは、神への冒涜ではないか」
「臓器移植は、命をお金で買う行為だ」
脳死した娘は患者なのか、それとも死体なのか?
臓器提供を待つ人がいる中、生かしておくことは親の自己満足なのか?
答えを出せない問いが、次々と読者に投げ掛けられる。

例え自分では死後の臓器提供に同意していても、いざ家族がそうなったらどうだろうか?
心臓が動いている限り、
寝ているだけでもいいからそばにいてほしい、
奇跡があるかもしれない、
愛する者の死を認めたくない、
そう思うかもしれない。

色々考えさせられた物語だったが、
どうすればいいのか、
どれが正解なのか、
結論はどうであれ、悩んだ末に出した答えが一番なのだと言っているように感じた。

小説 この世界の片隅に

人間って強いようで弱いもの。だけど、人間って弱いようで強いのです



映画「この世界の片隅に」を観てきました。
戦時下の広島で暮らす「すず」が主人公です。
すずは、絵を描くことが大好きなのんびりした少女です。
縁あって呉に嫁ぐことになりました。
最初は戸惑っていた婚家での暮らしですが、いつしか馴染んできた頃、戦況が悪化していきます。
辛いことをたくさん経験しながら、すずは次第にたくましくなっていく、というお話です。

映画館が明るくなった時の感情を、なんと表現したらいいのでしょう。

  なんだろう、この気持ちは。
  悲しくて泣いているんじゃない。
  ましてや、悲惨で可哀想と同情しているのでもない。
  なんだろう、この感動は。
  なぜこんなに清らかな気持ちになるのだろう。



 この感動を抱えたまま本屋さんに走り、店員さんに「映画の原作本ありますか?」と聞いて渡されたのが本書です。
何も考えず、買って帰ってビックリでした。
原作はコミックで、これは映画をそのまま小説化したノベライズ版だったのです。
もぉ、お姉さんたら!

読んでみると、遊郭の女性との交流や夫の過去など、映画にはない場面がいくつもありました。
この本を読んで初めてそうだったのかと納得できたのです。
お姉さん、ありがとう!

映像をそのまま活字にしたような文章なので、あの感動がまた甦ってきます。

  戦争の苦しみに思わず洩らしたすずの本音。
  「なんでこんなことになるんじゃ。うちらが何をした

      んじゃ」

  玉音放送を聞いたすずの叫び。
  「最後の1人まで戦うんじゃなかったのかね?」

  娘を亡くした母の慟哭。


思い出しては、胸がつまります。
だけど、決して戦争の悲惨さを必要以上に表現した作品ではありません。
苦しい状況下で工夫しながらたくましく生きる人々の日常が、笑いを交えて描かれているのです。
映画館では何度も笑い声があがりました。

  戦争中でも、草木は茂り、セミが鳴く。
  新型爆弾が落とされても、日はまた昇り、風が吹く。
  終戦を迎えても、お腹がすきご飯を食べる。
  母を亡くしひとりぼっちになってしまった少女にも、

   いつしか笑顔が戻る。

人間って、自分の意思とは関係ない大きな何かに巻き込まれ、簡単につぶれてしまう弱い存在です。
でも、つぶれても立ち直る強さを兼ね備えているのです。
この世界の片隅に生きているちっぽけな私も、あなたも、みんなが笑うて暮らせりゃええのにねえ。
そんなメッセージを受け取った気がしました。

※映画を観ずに本書だけ読むのはおすすめできません。
ストーリーを追った内容なので、世界観までは表現できていないと思うのです。
のどかな風景など絵の柔らかさ、シュッシュッとデッサンする鉛筆の音などは、映画でなければ味わえません。

2017年2月6日月曜日

夫のちんぽが入らない

20年も入らない!?血と汗と涙と精子の物語。




なんとも刺激的な題名の本書は、20年もの間、入らないという苦悩を抱え続けた妻の告白である。

物心ついた頃から人と関わることが苦痛だったという著者のこだまさんは、大学入学を機に一人暮らしを始めた。
ほどなくして、同じアパートに住んでいた先輩と交際することとなった。
その晩から、彼らの長い長い闘いが始まったのだ。

どうしても入らない。
入れようとすると激痛を感じ、血だらけになってしまう。
何度挑戦しても入らない。

ああ、初めて同士ならよくある話かもと思いながら読んでいたのだが、この二人、経験者だったのだ!

その後、就職し、結婚し、ケンカせず仲良く暮らしていても、入らない。
ローションを使ったりと、努力と工夫を重ねても入らない。
その苦悩が妻の立場から淡々と綴られていく。
文字通り、血と汗と涙と、そして精子の物語なのだ。

その後、仕事の悩みも重なり、こだまさんはネットで知り合った男たちと次々と体を重ねていく。
他の男とはできるのに、夫のは入らないのだ!

なぜかはわからない。
夫が「キング」と言われるほど大きいから?
いやいや、それが理由とは考えにくいのでは?
どうして夫のだけ入らないの?
なぜ、見ず知らずの男に誘われてホイホイついていくの?
疑問だらけになりながら読み進めた。

夫は風俗に通い、病気まで持ち帰ってしまうが、それでも二人は穏やかに暮らしていく。
そして、仕事・子ども・夫婦関係について、大きな決断をしていくのだ。

周りから「子どもはまだか?」と聞かれる。
夫の風俗通いを止めることができない。
・・・・

首を傾げてしまう場面もいくつかあったが、こだまさんの苦しみは十分伝わってきた。

でもまぁ、夫婦のことはその夫婦にしかわからない。
二人が穏やかに暮らしていけるなら、それでいいのだと思う。
「普通」なんてどこにもないのだから。

2017年1月30日月曜日

風の向こうへ駆け抜けろ

努力する人は美しい地方競馬で奮闘する弱者たちの挑戦。
 



競馬には、農林水産省が管轄する中央競馬(JRA)と、各自治体が運営する地方競馬があり、両者には歴然とした差がある。
レベルも賞金額も違うのだ。
しかし、交流戦もあり、地方からG1を狙うことも可能である。

本書は、地方競馬に所属する少女の挑戦の物語である。

主人公の瑞穂は、騎手免許を取得したばかりの17歳。
訓練を終え、広島の地方競馬の弱小厩舎に所属することになった。
行ってみると、そこはやる気のない者の吹きだまりのような場所だった!

アル中親父、80過ぎの老いぼれ、コミュニケーションをとろうとしない美少年、そして投げやりな調教師。
その上、所属する馬はまともに走れない馬ばかり。
そんな弱者たちの集まりの中で奮闘する瑞穂だが、嫌がらせやアクシデントなど、様々な試練が待ち受けていた。

しかし、瑞穂のひたむきな努力により、だらけていた厩舎もいつしか変化していく。
やる気のないように見えた彼らは、過去の辛い体験から心に深い傷を負っていたのだ。
もともと馬への愛情は人一倍強い者たち。
諦めかけていた夢を追い求め、人と馬が一丸となって、目標に立ち向かっていく。

競馬界のしきたりや馬の躍動感が、丁寧に描かれている。
著者はもともと乗馬が趣味で、一年かけてみっちり取材したんだそう。
だからこそ、馬に対する愛情溢れた表現ができたのだろう。
特にレースの疾走感は圧巻で、思わず力が入ってしまう。

手に汗握り瑞穂たちを応援しながらも、いつしか自分が励まされていることに気づく。
不器用でも、挫折しても大丈夫。
人生はまだこれからだよ。
「ファンファーレは、今鳴ったばかり。スタートもゴールも、まだずっと先にある」
のだから、と。

本を閉じ、「風」が駆け抜けていったような爽やかさを感じている。
競馬好きはもちろん、馬のことを何も知らない人にも、希望と感動を与えてくれる物語である。


※魚目(さめ)という言葉を本書で初めて知った。
馬の目はいわゆる黒目がちで、白目部分が少なく、ほとんどが黒目である。
しかし、ごく稀に強膜や虹彩の色素が欠落して生まれてくる馬がいるという。
中でも虹彩が蒼白い馬を魚目というのだ。
検索してみると、まさに魚の目のようだった。

2017年1月23日月曜日

高齢者風俗嬢

60歳を超えた超熟女の風俗嬢が増えているという。なかには80歳超えも⁉しかも客は若者⁉



風俗嬢の人気は若さと美貌で決まる、というのは昔の話。
現在は、60歳を超えた超熟女たちも現役で頑張っているという。
本書は、そんな高齢風俗嬢たちの実態に迫るルポルタージュである。

著者は、「16歳だった~私の援助交際記」(幻冬舎)で100人近い男との援助交際やドラッグ体験を衝撃告白した女性である。
その後、22歳のとき未婚で子どもを出産し、アダルト系のライターとなり、現在は編集プロダクションを設立している。

医学部へ進学した子どもの学費を稼ぐために風俗で働く46歳の熟女。
60歳を過ぎてからAVデビューした昭和11年生まれの超熟女優。
60分15000円~のお店で働く自称82歳のデリヘル嬢。
AVの撮影現場に向かう途中、倒れて救急車で運ばれた67歳の現役女優。
と、年齢もさることながら想像の上をいくインタビューが続く。

1000人男がいたら1000通りもの好みがあるそうで、超熟女たちも需要があって意外と人気なのだという。
「昭和のおもてなし」で客の心を掴んだり、みだしなみに気を配ったりと、彼女たちも努力を惜しまないそうだ。
なかにはフィストまでOKの強者も‼

また、女性の外見や雰囲気により客層は異なるという。
ある方は年上のおじいさまが多くつき、ある方は30~40代の客が中心で、またある方は20代がほとんど、という具合に。
18~20歳の男の子に人気の60代の超熟女もいるというから驚きだ。
癒しを求めているのだろうか?

気になったのは、著者が「女性が風俗の仕事を楽しんでどこが悪いのか」というスタンスで書いている点だ。
シングルマザーで忙しく子どもの世話ができないなら、パートの安月給より短時間高収入の風俗の方がいい、元気な貧困老人なら福祉に頼らず風俗で働いた方がいい、そう勧めているように思えてならないのだ。

確かに本書に登場する超熟女たちは、イキイキとしている。
若い男の子と接して高収入を得られる、女性ホルモンも分泌されますます若返る…それは事実なのだろう。
ただ、その陰で風俗で働くことにより、心身ともに傷ついた女性も大勢いると思うのだ。
病気感染のリスクや、密室で見知らぬ男と接する危険性もある。
家族にバレて家庭が崩壊するかもしれない。
そういった危険性も併せ持つことをもう少し突っ込んで欲しかった。

2017年1月14日土曜日

なんでわざわざ中年体育

中年女子・角田光代さんの挑戦。



「なんでわざわざ中年体育」
この題名、自分のことを言われているようで胸に刺さります。
だいぶ前から私は、ダンス(ヒップポップを中心にラテン・サルサなどがミックスされたもの)を続けています。
当初は痩せたらいいなくらいの軽い気持ちで始めたのですが、その面白さにすっかりはまってしまいました。
もういい歳ですから、大きくジャンプしたり激しく動いたりはできませんが、それなりに楽しんでいます。
その上去年から、不定期ながらヒップポップの個人レッスンまで受け始めてしまいました。
今さらダンサーになれるわけじゃないのに(-_-;)
自分でも、どうしたいのか、何を目指しているのか、ちっともわかりません。
だから「なんでわざわざ」という言葉が胸に刺さるのです。

本書は、「Number Do」で連載された角田光代さんの運動に関するエッセイをまとめたものです。

角田さんは1967年生まれ。
立派な「お年頃」です。
体を動かすのはお好きじゃないといいながらも、マラソン・ヨガ・ボルダリングなどに挑戦していきます。

グリーンスムージーやベアフットランニング(裸足感覚で走る)など、様々な「そのスジの第一人者」たちから直接指導されるという羨ましい体験をされています。
なかでも増田明美さんと一緒に走ったり、ニューバランスでフォームのチェックを受けたりは、お金払ってでもしてみたい人がたくさんいるのではないでしょうか。

走るのは9年以上続けているという角田さん。
嫌だ、しんどい、歩きたいとおっしゃいながらも、何度も大会に出場されて完走されているのですからすごいです。
マラソンをやってる人は皆さん、きつい・苦しいと言ってますが、それでも続けているということは、きっと未経験者にはわからない魅惑の何かがあるんでしょうね。

仙骨を骨折すると、「走らなくていいのだ」と安堵する一方、「走らなくて大丈夫なのか?」と不安に駆られる角田さん。
ボルドーでのワインを飲みながら走るマラソン大会で、仮装のテーマが「正装」と聞くと、なぜかハッピとちょんまげをチョイスして走ってしまう角田さん。
ふふふ。
イヤだ、キライだとおっしゃっても、十分楽しんでおられるようですよ。

中年体育は、加齢に抗っているのかと痛々しい目で見られてしまうのでしょうか?
いえいえ、人に迷惑かけてるわけじゃない、自己満足で楽しめばいいのです・・・よね?