2013年3月31日日曜日

武士道エイティーン

武士道エイティーン
誉田哲也著
文藝春秋

彼女たちの成長はまだまだ続く。



剣道に打ち込む女子高生の青春物語である「武士道シリーズ」の第3弾。
「武士道シックスティーン 」 「武士道セブンティーン」 に次いで、本作では18歳になった彼女たちが描かれている。

男勝りの 香織 とおっとりマイペースな 早苗
前巻までは、この対照的な二人の視線で交互に物語が語られてきた。
この「エイティーン」ではそれに加えて、モデルをしている早苗の姉、香織の剣道の師匠である桐谷先生、福岡南高校剣道部を指導している吉野先生など、彼女たちを取り巻く人物の視点からも語られていて、物語が大きく広がっていく。

個人的には、とりわけ桐谷先生の話が興味深かった。
先祖の職業に関する秘密、そしてなにより警察の逮捕術にも繋がる独特の武術が、体育会系の私としては読み応えがあったのだ。

それぞれの道を邁進していく彼女たちは、逞しくそして眩しい存在になってきた。
この「エイティーン」でもまたまた彼女たちには試練が待ち構えていたが、もう私が心配するまでもないだろう。

そして何より嬉しいことに、解説に続編が期待できるようなことが書いてあった。
ある方がこの「エイティーン」は「これで卒業、もうこの二人に会えないのだと思うと何だか寂しさが込み上げてきて未だに手を付けられません」とおっしゃっていた。
私もそれを聞いてもったいないような気がして読むのを躊躇していたが、読んでよかったと今なら思う。
こんなにも成長した彼女たちに出会えたのだから。
そして、これで終わりではなく彼女たちの物語はまだまだ続くのだから。

いつの日か、より成長した彼女たちに再会することを心待ちにしている。

2013年3月29日金曜日

植物図鑑

植物図鑑
有川浩著
幻冬舎

ほ、欲しい…この男が欲しい!



あちこちで見かけ気になっていた。
自分が読んだらどう感じるのかと思い手にとった。

あらすじは、
一人暮らしのOLが、自宅マンション前に行き倒れになっていた男を拾い、一緒に暮らすことになった。
その男・イツキ は植物に詳しく近所に生えている植物で絶品の料理を作ってくれる。
おまけに家事は完璧で節約家でイケメンで(たぶん)・・・
という内容だ。

行き倒れになっていた見ず知らずの男をいきなり家に連れ込む一人暮らしの若い女がいるかっ!
困っているからといって知らない女に「拾ってください」っていう男がいるかっ!
都合よく、野草を使った料理が得意で優しくて家事全般をしてくれる奴なんているかっ!

・・・というありえない設定だとわかっていながらも、すぐに夢中になってしまった。
そうは言っても別に恋愛目線で見ていたわけではない。
こんな男がうちに来てくれたら、楽できるし食費も節約できて健康料理が並び、痩せられるかもと考えていたのだ。

【だって奥様、月々4万円で2人分の食費とお小遣いを賄い、しかも家事を完璧にしてくれるんですのよ。しかも躾がよくて噛まないよい子なんですから拾いたくなるじゃありませんか!
もし通販で売っていたら買いたくなりませんか?】

などと少し斜に構えて読んでいたのにも関わらず、不覚にも中盤くらいから一気にハマってしまった。
乙女心を打ち抜かれてしまったのだ。

女の喜ぶツボをよく知っている男、身の回りのお世話をしてくれる男、そんな人いないのだと分かっていても夢中になってしまった。
草食系は好みではない、男は肉食系の方が断然いいっ!と思っている私だが、この イツキ は草食系のようでもあるがときには大きな決断をする。
なんて理想的なのだろうか。
作者が女性だから、願望を描いいたのだろうか。
たまにはこんな少女漫画の王道のような物語もいいな♪と思わせてくれた一冊だった。

2013年3月27日水曜日

さよなら、韓流

さよなら、韓流
北原みのり著
河出書房新社

「冬ソナ」から10年。韓流にハマった女の記録。

 



私の周りにも韓流にハマっている友人がいる。
彼女たちに「すごくいいから観て」と言ってDVDを押し付けられることもあった。
でも、時間がないからといって丁重にお断りしている。
だってハマったら怖いではないか!

彼女たちは韓流のどこに魅力を感じているのだろうか。
本書は「毒婦。」の著者が韓流にハマった記録である。
また、自称「モテない無名のオカマ」の少年アヤちゃん、牧野江里さん、上野千鶴子さんらとの対談も掲載されている。

「宮廷女官チャングムの誓い」を見て韓流に「落ちて」しまったという著者によると、
韓流の男は「エロ」であり、女が自分の欲望をストレートに出せる対象なのだという。
魅力は「端正な顔立ち」「男らしい肉体美」「優しい言葉」「エンターテインメントの質が高い」などらしい。

「端正な顔立ち」や「優しい言葉」はともかく、「肉体美」はその通りだと思う。
日本人の男性アイドルは、薄い胸板と細面の青白い顔でどうしてあんなに中性的なんだろうと思っていた。
見ていると好きとかカッコいいとかより、「体にいいものいっぱい食べて運動しようよ」と大きなお世話を口にしたくなってしまう。
(私の好みは、インパルス堤下や中山きんに君のようなタイプなので)

「少女漫画の中にしかいない人が実写で出てきた」という言葉はなるほどと思った。
友人も同じようなことを言っていたのだ。
実在するバーチャルなアイドルという感じなのだろうか。

韓流の聖地・新大久保では、「老若女女」がK-POPで身体を揺らし、
イケメンにハグやハンドマッサージをしてもらって満足するのだという。
男に比べてどれだけ単純で安全な遊びだろうか。
しかも女性ホルモンが活性化し、語り合う友人が増え…といいことづくめのように書かれている。
(家族よりも韓流を優先し、今日はファンミ、週末は韓国にと飛び回っている方もいると思うのだが。)

かわいそうに思ったのが、韓流男を好きな日本人男性ファンだ。
お目当て以外の男がイヤでしょうがなく、自分たちの世界を邪魔する日本の男は、完全無視されるか白い目でみられるという。
同じファンなんだからもう少し優しい目で見てあげてほしい。

ただこの韓流を取り巻く空気は、急速に変わりつつあるという。
フジテレビ前のデモや領土問題も関係あるのか、著者のもとには「9cmがいいのか」「非国民」などの罵りの言葉が送られ、叩かれているらしい。
そこには「韓国男にハマる日本人の女」と「それを許したくない日本の男」という単純な構図ではない、深い溝がありそうだ。

前のめりに熱く語られ、「はぁ、そうなんですか…」と思う場面が何度もあったが、知らない世界の話なので興味深く一気読みした。
ただ、これだけ韓国男の魅力について熱く語られると、なおさら韓流のDVDを観るのが怖くなってくる。
ハマったら読書の時間もなくなってしまいそうだし。

これから彼女たちはどこへ向かって行くのだろうか。

2013年3月24日日曜日

いつまでもショパン

いつまでもショパン
中山七里著
宝島社

ショパンを文字で堪能する。



「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」 に次ぐ音楽ミステリーの第3弾。
父は検事正、自身は司法試験トップ合格するも現在は音大講師をしている天才的ピアニスト・岬洋介が探偵役を務めるシリーズである。
(登場人物が重なっているだけで別のストーリーのため、本書を最初に読んでも全く問題がない。)

このシリーズの最大の魅力は、臨場感あふれるピアノ演奏である。
曲を知らなくても、知識なんかなくても音楽を堪能できるのだ。
(もちろん知っているに越したことはないが。)

例えば、疾走感を表すのに、「緩やかに走る」「滑走するように走る」「闇雲に走る」…
と豊かな表現力で読者を音楽の世界に誘ってくれる。
しかも今回はイケメンピアニストの 岬洋介 がショパンコンクールに出場する!
コンクールで弾く彼の本気の演奏に聞き惚れる、いや読み惚れることができるのだから
ファンにとっては聞き逃す、いや読み逃すことができない。
全身全霊を込めた岬の演奏は、期待を裏切らない素晴らしさだ。

代々ショパンエリートであり優勝することが必然と言われているヤン、盲目の天才・榊場・・・
決勝に残った8名の演奏はどれも感動的で、最後は誰が優勝してもおかしくないなと思いながら聴き比べていた、いや読み比べていた。
そして最後には大きな感動が待っていた!

あっ、そういえばこれはミステリーだった。

コンクールが行われるワルシャワではテロが勃発し、通称「ピアニスト」と呼ばれる世界的テロリストが潜伏しているとの噂があった。
厳戒態勢のコンクール会場で手の指10本が全て切り取られた遺体が見つかった。
「ピアニスト」の仕業なのか?「ピアニスト」とは何者なのか?

というあらすじだが犯人探しより、ショパンコンクールの行方が気になる一冊だった。

2013年3月19日火曜日

赦す人

赦す人
大崎善生著
新潮社

団鬼六の凄まじくもやさしい人生。



SM界の重鎮、団鬼六(1931-2011)。
あまりおおっぴらには読まない小説、それもその中の一つのジャンルであるSM小説で名を成し、
世の中にこれだけ受け入れられたのはなぜだろうか。
本書は、団鬼六本人が同行するという贅沢な取材旅行に赴き、彼の人生を探っていく評伝である。

団鬼六は、昭和6年滋賀県彦根市に生まれた。
映画館のオーナーの孫としてまた元女優の息子として上流階級のような少年時代を過ごし、
定職にも就かず相場に明け暮れ家出を繰り返す父に「人生は甘いものだ」と様々な勝負事を教え込まれて育つ。

大学卒業後は、まさにジェットコースター人生を歩んでいく。
シナリオライター、英語教師、小説執筆、雑誌創刊、映画製作、鬼プロの設立と倒産・・・
と目まぐるしく職を替え、
お金があればあっただけ散財し、なくても借金してまで散財する。
それも周りを喜ばせるために。
最盛期には月に500枚もの原稿をこなしていたにもかかわらず、4億円で建築した鬼六御殿を追われたりと、お金と女性には生涯にわたって翻弄され続けるのだ。

著者は愛と尊敬の念を抱きながら、光と影、天国と地獄を交互に経験していくこの希代の作家の虚実入り混じった言動を少しづつ読み解いていく。

25歳で書いてみようと原稿用紙に向かい、下書きなしにいきなり書き出して最後までスラスラ書いた作品が新人賞の最終候補にまで残ったというエピソードには驚いた。。
著者は、そんな鬼六の話を聞いて絶対音感ならぬ「絶対小説感」という言葉が頭に浮かんだという。

読み終わり、この激しい人生を歩んだ男にすっかり魅了されてしまった。
自伝エッセイで面白おかしく人生を振り返っていたが、その裏には筆舌に尽くしがたい苦悩が隠されていたのだ。

なんとサービス精神が旺盛な人なんだろうか。
なんと情け深い人なんだろうか。
騙され裏切られそして傷つけられてもなお人間を愛し続け、赦す・・・
彼の度量の大きさ、懐の深さには驚くばかりだ。

破天荒な人。
人生を遊び尽くした人。
この優しくて憎めない人は、今でも天国で周りの人を喜ばせ続けているのだろうか。

※参考:抱腹絶倒の自伝エッセイ「悦楽王」

2013年3月17日日曜日

紙の月

紙の月
角田光代著
角川春樹事務所

1億円を横領した女の転落。



本書は、勤務先の銀行から1億円を横領しタイに逃亡した女の物語である。

何がきっかけで彼女は地獄へと転がり落ちたのだろうか。
夫婦間の齟齬から満たされない心を慰めるために?
若い男と知り合い、自分が必要とされていることに喜びを見出したから?
手持ちが足りなくてふと顧客の5万円に手をつけてしまってから?

大人しい人、綺麗な人、友人たちからそう見られていた女。
犯罪など起こしそうもない女。
そんな彼女が本人もよくわからないままに転落していく様が、細かい描写で綴られていく。

冒頭で明示されているため結末はわかっているのに、女が1歩1歩危ない方向へと進むたび、
「ダメダメ。今なら戻れるから」と制止したくなってしまう。
どうする、どうする。
彼女が考えると一緒になって考えてしまう。
いつの間にか横領犯の側に立っている自分がいたのだ。
「八日目の蝉」を読んだ時も誘拐犯に同情してしまったように。

高級店に足を踏み入れただけでその雰囲気や店員の態度から、まるで自分が一段上のクラスの人間になった気がする。
高級品を身につけただけで、一流の人間になれたような気がする。
中身は変わっていないにもかかわらず。
お金とはなんと恐ろしいものなのだろうか。
ただの「紙」なのに。

使えば使うほど麻痺していく金銭感覚。
ふとしたきっかけてお金に溺れてしまう---そんな誰にでも起こりうる怖さが描かれた一冊だった。

2013年3月15日金曜日

私にふさわしいホテル

私にふさわしいホテル
柚木麻子著
扶桑社

作家はつらいよ。新人作家の悲喜交々。



本書は、新人作家が数々のトラブルにも負けず奮闘する姿を描いた痛快な文壇業界小説である。

主人公の加代子は、文学新人賞の大賞を受賞した。
それなのに同時受賞したアイドル女優ばかり注目され、加代子は全く話題にならず受賞作も出版されない。
しかし、加代子はひるまない。
あの手この手で作家の階段を昇っていくのだ!

新人作家は実力のみでのし上がるのは難しい・・・らしい。
だから加代子は執念とハッタリでチャンスをむしり取っていくのだ。
小説家らしく臨機応変に作り話を創作し、持ち前の演技力で熱演する。

山口瞳が「小説家のためのホテル」と称した山の上ホテルに有名作家気取りで自腹でカンヅメになったり、文壇の重鎮でいくつもの文学賞の選考委員を務めているベテラン作家に喧嘩を吹っかけたりと、後先考えずに突っ走ってしまう。
大学時代に演劇部で培った演技力を活かし、ホテルの従業員に扮したり、泣き落し作戦をしたり、
カリスマ書店員には媚を売ったりと八面六臂の(?)大活躍。
そんなことしている間に執筆でもしたら?とは言わないでおこう。

ちょっとやりすぎでは…と思う箇所もたくさんあるけれど、前向きな加代子を応援したくなる。
ビ○リ○シリーズの栞○さんより、よっぽど好きなタイプだ。

新人作家は、
 執筆は孤独で地味な作業。
 原稿料が激安なのでバイトしなければ暮らしていけない。
 ネットや書評家の批評に耐えねばならない。
 売れれば編集者のお手柄、売れなければ作家本人のせい
など、そんな愚痴のような描写は著者の経験から来ているのだろうか。

また、実在の人物や出版社を彷彿させる箇所は、
 この女好きの重鎮作家は○辺○一氏?
 この美少女は○矢り○さん?
 ○プ○大賞はやっぱりやらせ?
などとどうしても想像してしまう。
挙句の果てには朝井リョウさんなんてキザったらしい男として実名で出てくるのだ。
ここまで書いても大丈夫なのだろうか。
出版業界を敵に回してないだろうか。

読者としては作家の世界を垣間見たような気分でとても楽しめたのだが。

2013年3月12日火曜日

コンニャク屋漂流記

コンニャク屋漂流記
星野博美著
文藝春秋

なぜ他人の家族の歴史にここまで惹きつけられるのだろうか。



約400年前にメキシコ人一行の南蛮船が難破し、村人たちが生まれて初めて目にする外国人たちをお世話し、今もその記念の塔が残るという千葉県・御宿の漁師町・岩和田
その岩和田で漁師の六男として生まれた著者の祖父・量太郎が、晩年に手記を遺した。
そこから、著者は自分のルーツに興味を持ち、親戚や資料をあたり丹念に取材を開始する。
本書は、「コンニャク屋」という屋号を持つ著者の家系を遡って調べた家族史である。
(「コンニャク屋」とは、漁師ながらコンニャクを扱ったことがあるのでついたらしい。)

祖父は13歳で上京し、工場に弟子入り後独立、五反田でバルブを加工する町工場を始めた。
父が祖父の跡を継いだため、著者は「東京の町工場の娘」であったが、家庭には漁師の空気が漂っていた。
故郷・岩和田の人たちが祖父を頼りに頻繁に訪れ、慣れない大都会の暮らしを皆で支え合っていたためだ。

家には笑いが絶えなかったという。
危険と背中合わせの漁師にとって死は身近だ。
その不安と恐怖を吹き飛ばすのが笑いなのだ。
著者は漁師という仕事の厳しさに触れ、だから笑いが必要なのかと実感していく。

また、漁師の生まれではないのに、強烈な「コンニャク屋」の面々を許容していた母を不思議に思い、母のルーツをも探っていく。
そして、井伊直弼やプロレタリア作家の小林多喜二・宮本百合子まで不思議な縁で繋がって行く・・・

親戚の証言は裏付けできるのか、またどこまでルーツを辿れるのだろうかと、まるでミステリー小説のような気分で読み進めた。

調べていくにつれ次々と新たな事実が浮かび上がってくるが、著者の一族が特別波乱万丈・特別苦労をしてきたというわけではないだろう。
どの家系でも様々な人物がいて、いつの時代にも苦労はあるのだから。
そう考えると、本書は内容的にはいわば普通の個人的な家族史だ。
それなのに、なぜ他人の家族の歴史にここまで惹きつけられるのだろうか。

癖のない文章で大変読みやすく、
 面倒見がよく、ユーモアに溢れた明るい家庭
 日に焼けた海の男たちの仕事ぶりや豪快な遊びっぷり
そんなイキイキと「生きている」人たちが目に浮かぶようだった。

由緒正しい家柄・大金持ちの家庭ではない普通の日本人の暮らしぶりだからこそ、どこか懐かしく身近に感じられてくるのだろう。
遠い昔から人と人とが繋がって今がある、そう実感した一冊だった。

2013年3月10日日曜日

女体の森

女体の森
リリー・フランキー / みうらじゅん 著
扶桑社

いくつになっても男って・・・



グラビアをこよなく愛する者をグラビアンと呼ぶ・・・らしい。
本書は、そのグラビアンの代表であるエロフェッショナルな みうらじゅん氏リリー・フランキー氏 が、「週刊SPA!」に連載しているコーナー「グラビアン魂」を加筆修正したものである。

「グラビアン魂」は読んだことも聞いたこともないが、お二人で毎週毎週グラビアを見ながら、好き勝手に言いたい放題言いまくっているコーナーらしい。
(本書には、カラー写真はなく白黒の小さな写真が参考程度に掲載されているだけである。)

1958年生まれと1963年生まれのいい年こいたおっさん2人が、
「本当はいいところのお嬢さんだったとしても、笑顔の裏に暗い家庭事情を匂わせて欲しい」
「野菜とかで農家の人の写真が載っているのがあるけど、グラビアにはない方がいい。お父さんとお母さんが『私たちが育てました』って出てきちゃうと罪悪感がある。」
などと、延々とグラビアのワビサビについて語り合っている。

まるで昭和のモテない男子大学生たちが、誰かの下宿先でお酒を飲みながら、女の話をしているような雰囲気なのだ。

「なんで男のグラドルがいなかったんだろう」と「グラビアン魂オム」と称して猫ひろし始め男のグラビアを載せたり、挙句の果てにはそれぞれご自慢のお人形さんをグラビアに登場させたりと、いい加減にしなさいと叩きたくなるユルさ加減だ。

・AVには想像力はいらないが、グラビアには妄想という才能が必要。
・グラビアとは本来、写真製版法による凹版印刷の印刷技術のことである。

など、なるほどと思うことや勉強になることも書いてあったが、正直何度も途中で読むのやめようと思った。
くだらない男の妄想になんて付き合ってられないっ、と思いつつも結局最後まで読み通してしまった私自身にも呆れてしまったのだが。

2013年3月7日木曜日

本にだって雄と雌があります

本にだって雄と雌があります
小田雅久仁著
新潮社

本棚に見慣れない本が突然現れたら・・・それは本の子供「幻書」かもしれません。



本にも雄と雌があり、子供まで産む。
そうやって生まれた本を祖父は「幻書」と呼んだ。
しかも幻書は、鳥のように羽ばたきながら飛ぶのだ。

祖父の家に泊まった時、「書物の位置を変えるべからず」との掟を破り、
エンデの「はてしない物語」を、カミュの「異邦人・ペスト」とサルトルの「嘔吐・壁」の間に
不用意に押し込んでしまった。
すると翌朝、「はてしなく壁に嘔吐する物語」という本が生まれてしまった!

そんな体験をした博が息子に、大学教授で書物蒐集癖のある祖父・輿次郎と女流画家の祖母・ミキを始めとした家族や幻書について語った物語である。
「あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。であるからには理の当然、人目を忍んで逢瀬を重ね、ときには書物の身空でページをからめて房事にも励もうし、果ては後継をもこしらえる。」
そんな文章から始まる本書は、あまり区切りがなくぎっしり詰まった活字、そして癖のある文章が延々と続くので、読み始めは戸惑ってしまった。
また、合間合間に本気なんだか冗談なんだかわからないような言葉やダジャレが頻繁に挟まれ、話もあっちへ行ったりこっちへ行ったりと脱線し、困惑してしまう。

しかし、すぐにその語りかけるような独特の文章にも慣れ、そのうちニヤニヤ・クスクス、その後声を上げて笑うようになっていた。
まるで、バカバカしい冗談を言い続けている人の話を聞いているような気分で読んでいた。

おかしいだけでなく、戦争中の話、不思議な話、様々なエピソードが積み重なり、読み手を遠くの広い世界へと連れて行ってくれる。
どこが本筋なのかよくわからないまま、笑ったりホロリとしたりしていると、最後には大きな感動が待っていた!

幻書を題材に、点が線になりそのうちどんどん広がって最後はボルネオまで・・・
そんな本と家族への愛にあふれた、温かいファンタジーだった。

※なお、この本を読み終わると、
  ・本棚に見慣れぬ本があるか確認したくなる。
  ・本の並び方を考えてしまう。
  ・死後、ボルネオに行きたくなる。
  ・象を見ると足の本数を確認してしまう。
  ・しゃっくりが出る度に、100年もしゃっくりが続いたらどうしようと心配してしまう。
 などの症状が出ますのでご注意ください。

2013年3月5日火曜日

藝人春秋

藝人春秋
水道橋博士著
文藝春秋

三島由紀夫に似た文体・・・かどうかはわかりませんが。



お笑い芸人でありながら、大騒ぎするタイプではなくいつもどこか冷めた目をしている。
健康オタクだというのもお笑いっぽくない。
そう思っていた、たけし軍団の浅草キッド・水道橋博士

石原慎太郎氏から突然電話があって
「君の文体はな、三島由紀夫に似てるんだ」「純文学を書きなさい。私が見てあげるから」
と言われた・・・
そんなエピソードを週刊誌で見かけてから、ずっと気になっていた。

本書は、水道橋博士から見た14人の有名人たちと、いじめ問題について書かれた「TVの裏側の物語」である。

軍団の先輩で度を超えた大真面目と大馬鹿がそのまんま同居している「年中夢中」な 東国原英夫氏
岡山大学附属中学で同級生だった「日本のロック界に革命を起こした」甲本ヒロト氏

草野仁氏 の章では、
頼まれて出場した長崎県の相撲の国体予選で相撲部でもないのに優勝する。
初めて体験したレスリングで大学のレスリング部の部員に勝つ。
高2の時、100m走で11秒2を記録した・・・
そんな東大卒の文武両道なスーパーひとしくんのふしぎを発見していく。

「私がロックフェラーセンタービルを売った男です」「オレがあのロックフェラーセンタービルを買った男なのね」と言い合う自意識過剰な国際弁護士・湯浅卓氏 と脳機能学者 苫米地英人氏 の大言壮語なエピソードでは抱腹絶倒させられる。

一方、稲川淳二やいじめ問題についての章では、悩み葛藤しながら綴っている様子にホロリとさせられた。

その他、あっけらかんとした 堀江貴文、デタラメでハチャメチャな異才 テリー伊藤、一時期懇意にしていた ポール牧・・・など幅広い個性豊かな面々について、驚異的な記憶力と冷静な観察眼で分析し、石原慎太郎氏絶賛の文章力で読者を惹きつけ、芸人の巧みさで笑かしてくれる。

文体が三島由紀夫に似ているかどうかは全くわからないが、笑いながら読んでいても、彼の苦悩や悲壮感が伝わって来る。

息子に武(たけし)・娘に文(高田文夫氏より)と名付けるほど、殿や高田文夫氏の才能を心から崇拝し、「あなたに褒められたくて」お笑いをやっているという。
しかしどうやっても自分には越えられないと諦め、達観しているその姿勢に感動を覚えた。

お笑いの世界では、この先も彼らを越えられないのかもしれない。
いや、越えられないだろう。
でも、もうこのままで十分なのではないだろうか。
文章力ではもう大幅に超えているのだから。

2013年3月3日日曜日

本屋さんで待ちあわせ

本屋さんで待ちあわせ
三浦しをん著
大和書房



本や漫画好きで知られる三浦しをんさんの書評集。
本が好きだというのは知っていたが、いやぁここまで好きだとは知らなかった。

ほかにするべきことあるだろ、掃除とか洗顔とかダイエットとか。と言いながらも本を読み、ベッドの半分が本で埋まっているのだという。
そうなのか。
そこまでして初めて「読書家」というのなら、私なんて到底足元にも及ばない。

掲載されている本はいわゆるベストセラーではなく幅広いジャンルで、しをんさんの好みがよくわかる。
人様の本棚をへえ〜とかふ〜んとかいいながら覗いているような気分で、ワクワクしながら読み進めた。
星新一、あさのあつこ、穂村弘、加藤鷹・・・もちろん漫画やBLまで網羅されている。
とくに「東海道四谷怪談」には多くのページが割かれており、色々と教えてもらった。

しをんさんがバイトしていたという古書店。移転前の店舗にはよくお世話になっていたので、ちょっぴり縁があるなぁと勝手に思い嬉しくなった。
そして、ゴリラ系の男性にたまらないエロティシズムを感じる私としてはとの文章を見たら、うわぁ、私と一緒だぁ!と余計親近感が湧いてきた。
でも、BLには興味は持てないのだが。

読んだことがある本も何冊かあったが、全く知らなかった本が多く、読みたい本が増えてしまうという危険な本でもあるので注意が必要だ。

本は人間の記憶であり、記録であり、ここではないどこかへ通じる道である。
特別な作法も充電器も必要なしに、時間と空間を超えた異世界へ、私たちを連れて行ってくれる。
まさにその通り。
私もしをんさんに異世界へ連れて行ってもらってますよ。


※すぐにでも読みたいと思った本
「少将滋幹の母」(谷崎潤一郎)
「サンカとともに大地に生きる」(清水精一)
「花宵道中」(宮木あや子)
「執事と画学生、ときどき令嬢」(小林典雅)