2013年8月29日木曜日

AV女優のお仕事場

溜池ゴロー著
ベスト新書



AV監督として1000本以上の作品を世に送り出してきた溜池ゴロー氏が、その豊富な経験からAV女優、カメラマン・メイクさんなど、AVに関わる人々や撮影の裏側を語っているのが、
この「AV女優のお仕事場」である。
「SEX会話力」 を読んで、すっかり溜池さんの優しさに魅了されてしまったが、本書でも女性に対する愛が溢れていた。

人前で肌をさらし、会ったばかりの男優とからむ。
そんな仕事をしているAV女優は、約2000名いるという。
女優たちは熾烈な生存競争に晒されて、8割が1年もたずに引退し、同じ数の女優が補充されていく。
そのうち、AV出演だけで生計の成り立つ女優は100人にも満たない・・・
それなのに、なぜ彼女たちは出演することを決意するのだろうか。
私には理解できないことだ。

最近は溜池ゴロー氏の撮影する熟女AVが売上を伸ばしているというが、まだまだ主流は童顔だが巨乳の美少女ものだという。
溜池さんは「供給する側のAV業界がきちんと軌道修正し、ロリコン作品を一切廃止すべきだと思っている。」というが、全くその通りだと思う。

女優は転落した不幸な女、精神を病んでいる・・・
私生活が乱れた高校中退の若い女・・・
というのは昔のイメージで、最近は不幸を背負った女優たちは少数派だという。
男優も昔は破天荒なタイプが多かったが、今は仕事と割り切っている若い人が増えているらしい。
どこの世界も世代交代は同じなのかもしれない。

ただ、「この業界は特殊に見られがちだが、そこで働く者はごく普通の社会人である」と強調しておられるが、それは溜池さんが売れっ子監督であり優しいからであって、周りに自然とそういう人が集まってくるのからだろうと思う。
小さな会社や筋の悪い人たちに、騙されたりひどい待遇を受ける人もいるだろう。
安いギャラで身も心も酷使される女優は、やはり弱者ではないだろうか。

また、著者は言う。
「妻が家庭外で他の男と関係を持つことが許せないというなら、妻を『自分のオンナ』としてもっと大切にすべきではないか」
いいこと言うなぁ。
やっぱり、溜池ゴローさん優しいなぁ。

2013年8月27日火曜日

英国一家、日本を食べる

マイケル・ブース著
亜紀書房
 
英国人一家の日本「食」珍道中。
 
 


毎日どんなものを食べているのだろうか?
改めて考えてみると、答えに窮する。
カロリー過多なことは確かなのだが。
自分ではなかなかわからない、日本人の食を外側から見つめ分析してくれる本が、
この「英国一家、日本を食べる」だ。

日本料理は脂肪もなけりゃ味わいもない。
何でもかんでも醤油に突っ込むだけ。
そう思っていたイギリス人ジャーナリストが、世界中の日本料理愛好家のバイブル「Japanese Cooking:A Simple Art」(辻静雄著)という本に出会い心を奪われ、
日本へ行って食べ物を調査し学ぼうと決意する。
こうして著者は、妻と6歳4歳の息子二人を伴って、東京・北海道・京都・大坂・福岡と移動しながら日本に3ヶ月滞在することになった。

一家は、ラーメン・天ぷら・寿司・流しそうめん…と異文化体験をしながら食べまくっていく。
著者は、ル・コルドン・ブルーで1年間勉強し、三つ星レストランでの修行経験もあるというだけあって、さすがに味の分析は鋭い。

日本人は食品の見た目を気にするとよく言われるが、著者もスーパーに並んだ果物や野菜の完璧な姿に慄く。
昆布漁を見学した際に、乾かした高級昆布を真っ直ぐにするため、蒸気を当てシワ伸ばし機を使って手作業できれいにするのを見て驚く。
それは驚くだろうな。
日本人の私でも、そこまでしていたとは知らなかったし、そこまで見た目にこだわるのかとびっくりしたのだから。

また、モチモチ・サクサクなど、日本人は食べ物の舌触りや食感を味と同じように重視するという指摘は、ああ、そうかもと新たな発見だった。

その他、裸にオムツみたいな物を着けて戦う、太った人たちの稽古場(相撲部屋)で把瑠都と勝負したり、ビストロSMAPの撮影現場を見学したりと、日本人でもなかなかできない体験をしていく。
そしてなんとあの究極の料理屋「壬生」に行き、その美味しさに喜びで体が震えてしまったというではないか!
なんと羨ましい!
私はきっと一生そんな体験できないだろうな。

様々な経験を積んだにもかかわらず、息子たちが一番気に入った場所は、ドッグカフェだったというのは、ちょっと複雑な気分だ。

パリと比べて、「犬のフンが落ちていない」「誰もチップを要求しない」・・・などと日本の素晴らしいところを発見してくれるたびに、褒めてくれてありがとう!うんうん、そうでしょう!と嬉しくなる。

イギリス人の著者に、日本の食の歴史や日本のいいところを教えてもらい、大変勉強になった。

日本人の食卓は欧米化され日々変化しているが、決して和食がなくなることはないだろう。
伝統的な日本食はやっぱりいいなぁと思う。
でも、洋食や洋菓子も捨てがたいんだなぁ。

2013年8月24日土曜日

いるの いないの

京極夏彦作
町田尚子絵
東雅夫編
岩崎書店

巷で話題のこの怪談絵本。
怖い、怖いと評判だが、怖いと言っても怪談、つまり作り話でしょ。
しかも絵本だから大丈夫だよ!と自分に言い聞かせながら読み始めた一人の夜。

とても古く、天井が高いおばあちゃんの家で暮らし始めた少年。
太い梁のずっと上の暗いところに何かいるのではないかと怯える少年に、
おばあちゃんは「見なければ怖くないよ」とやさしく笑いながら答える。
そう言われても気になってしまうのが人間だ。
「いるかもな、と思うと見ちゃう」のだ。

この本を侮っていた。
昼間の明るい時間に読むべきだった。
一人じゃない時に読めばよかった。
あの場面が目に焼き付いて離れないじゃないか!

しかし、読み終わりしばらくすると笑いがこみ上げてくるのだ。
怖がる自分がおかしくて。
作・絵・企画の上手さに。

これは大勢で楽しみながら読む本だ。
例えば教室でキャーキャー言いながら。
例えば家族で楽しみながら。
ただし、小さい子はトラウマになりそうなのでやめておいた方がいいだろう。

怖いポイントは「和」だと思う。
かつて女友達と夏限定のお化け屋敷に入ったことがある。
深く考えずに入場したのだが、古い日本家屋を模したその中は、
押入れから、キャー!
暗い廊下の先に、キャー!
そのまま途中で動けなくなり、「後がつかえてますので進んでください」との放送が入り、
強制退場させられた。
そこらの遊園地にあるお化け屋敷なら笑いながら進める私の、
ちょっとしたことなら動じない年齢になった私の、黒歴史である。

洋モノより和モノの方が絶対怖い。
日本人にとって想像しやすいからだろうか。
お風呂場でシャンプーしながら目をつむり、ふと後ろに気配を感じてしまう時、
そこにいるのはやっぱり「和」の何かだろう。

怖くて楽しめるこの怪談絵本。
でもあのページが頭にこびりついてしまった・・・

2013年8月23日金曜日

泣き童子 三島屋変調百物語参之続

宮部みゆき著
文藝春秋

不思議な話を語って語り捨て、聞いて聞き捨て。怖くて悲しくて温かい物語。



江戸は神田三島町の袋物屋・三島屋では、「変わり百物語」が行われている。
主人の姪である おちか が、客人たちが持ち込む不思議な怪談話を聞くという趣向だ。
客は話を語って語り捨て、おちか は話を聞いて聞き捨て、あとは二度と云々しないのが決まりの百物語。
ただ聞くだけなんて簡単だと思うなかれ、苦しくなったり悲しくなったり怖くなったり大変難しい役目なのだ。
そして人々の話を聞きながら傷ついた おちか の心が少しづつ癒されていく・・・
「おそろし」「あんじゅう」に続く「三島屋百物語」シリーズの第3巻である。

マリッジブルー気味の嫁入り前の娘が語る、必ず男の気持ちが離れてしまうという池にまつわる言い伝えの話「魂取の池」

おちか が、「心の煤払い」と称して札差が主催する年末恒例の怪談語りへと出向き、皆で不思議な話を聞く「小雪舞う日の怪談語り」

など6編が収録されている。

前2作同様「怖くない怪談」と思って読み始めたのだが、どうしてどうして、ぞっと背筋が寒くなるではないか。
人間の「マグル」ではなくて怪物の「まぐる」が出没する話や、黒子の親分が語る重篤な病人を看病する話など、巧みな話術で引き込まれてしまう分、怖さが倍増する。

しかし、怖いだけでは終わらないのがこのシリーズ。
怖さの中にも物悲しさが見え隠れし、最後に心が温かくなる。
この3巻目が今までで一番感情が揺すぶられてしまった。

ぞぉーっとして、しんみりして、最後にほっこり・ホロリするこの物語。
好きだー!このシリーズが大好きだー!
と世界の中心がどこかはわからぬが、大声で叫びたいくらい好きになってしまった。
ヘンな本ばかり読んで、汚れちまったこの私の心を癒してくれるのである。

これで17話まで進んだ百物語。
著者の宮部みゆきさんは、99話まで目指すというから先が楽しみだ。

各地で猛暑日が続く今夏、こんな「温かい怪談話」を読んでみてはいかがでしょう。

調律師

熊谷達也著
文藝春秋

ピアノの音にニオイを感じる---そんな共感覚を持つ調律師の悲しみ。



共感覚・・・五感に対して一つの刺激が与えられたとき、別の感覚も同時に引き起こされる知覚現象。
例えば、文字を読みながら色を感じたり、音を聞きながら色を感じたり、形を見て味を感じたりする。
そういうものだと頭で理解しても、実際に体験してみないとわからない感覚だ。

この「調律師」の主人公も、共感覚の持ち主である。
ピアノそれも生演奏に限って、ニオイを感じるというのだ。

国際コンクールで優勝するほどのピアニストだった主人公の鳴瀬は、ある事故がきっかけでピアニストの道を断念する。
天才ともてはやされた過去と決別して、ピアノの調律師として生きる道を選んだのだ。

調律師の事務所に所属しながら、生ゴミのニオイを感じる少女のピアノを調律したり、中学校の体育館に設置してある横転させてしまったピアノを点検したり、といった7つの短編が収録されている。

10年前に、妻を失い自らもピアニストとしての再起を諦めざるを得なかった事故。
過去に何があったのか徐々に明らかにされると共に、主人公の悲しみも浮き彫りにされていく。

調律師を題材としたお仕事小説としてもまた面白い。
弦を叩くハンマーの間隔の調整、鍵盤の間隔や角度・・・
調律師がすべき事は盛りだくさんだ。
しかも、打弦距離を0.2㍉短くするなど、細かくて丁寧な作業が要求される。
それを、鳴瀬は音とニオイを確認しながら調律していく。

調律師は、音感もあればあったに越したことはないが、最も必要なのは正確なリズム感---二つの音を同時に鳴らした時に発生する「うなり」が、毎秒何回発生しているか正確にカウントできる能力だという。

子供の頃、ピアノを8年も習っていたのに今では「猫ふんじゃった」しか弾けない私だが、演奏を聴いたりピアノに関する小説を読むのは好きだ。
それに加えて、理解できないからこそもっと知りたいと思う共感覚の持ち主が主人公とあって、大変興味深く読んだ。
私が弾く拙い「猫ふんじゃった」は、どんなニオイがするのだろうか。
いいニオイじゃないことは確かだが。

2013年8月18日日曜日

虚像の道化師 ガリレオ 7

東野圭吾著
文藝春秋



帝都大学の物理学科准教授・湯川が、学生時代の友人で捜査一課の刑事・草薙が持ち込んでくる事件を解き明かすガリレオシリーズの第7弾。

「幻惑す(まどわす)」
宗教法人で儀式の最中、信者が建物から飛び降り、脳挫傷で死亡した。
「念」を送ったため、指一本触れていないが突き落としたのと同じだと、教祖が自首してきた。

「偽装う(よそおう)」
湯川と草薙は、学生時代の友人の結婚式に出席し、近くの別荘地で有名作詞家夫妻の殺人事件に遭遇する。

その他、人工的に耳鳴りを起こすことができるのか(「心聴る」)、劇団内の殺人事件のアリバイを覆す(「演技る」)など、4編が収録されている。

読んでいるとどうしてもメガネをかけた福山雅治を想像してしまう。
いやぁ、湯川と草薙もよく事件に遭遇するもんだと思うが、東野圭吾氏もよくトリックのネタが尽きないなぁと感心する。

正直、このシリーズはもう卒業しようかなと思っていた。
映像のイメージが強すぎるのだ。
しかし、読み始めるとやっぱり面白くて一気に読み終えてしまった。

「心聴る」では、OLの耳鳴り、不倫の上での自殺、幻聴による暴力事件と、一見関係なさそうな3つの事件がどのように繋がるのか、先が気になって仕方なかった。
だから止められないんだなぁ。

個人的には、このシリーズに限っては長編より短編の方が好みである。
登場人物の心理を細かく追うよりも、純粋にトリックが面白いと思うからだ。

もうすでにガリレオシリーズの8が発売されている。
またきっと読むんだろうな。

2013年8月13日火曜日

長く働いてきた人の言葉

北尾トロ著
飛鳥新社

普通の人の普通の仕事。普通ってなんだろう?



「職業は、普通のサラリーマンです」
よく聞くセリフだが、普通のサラリーマンってどんな職業だろうか。
たとえ同じ会社の隣同士に座っている同僚であっても、仕事内容は全く同じではないだろうし、仕事に対する姿勢・仕事に対して抱いている思いもそれぞれ違う。
そう考えると自分では「普通」と思っていても、人から見たらへぇ〜と思うようなこともたくさんあるのではないか。

この「長く働いてきた人の言葉」は、北尾トロさんが10人の長く働いてきた人にインタビューし、まとめたものである。
特殊な仕事に就いているわけでもなく、有名人でもない。
大成功し大金持ちになった方でもない。
「本当にこんな話でいいのかなぁ、こんな普通のことばかりで」と言いながら、自分の言葉で仕事や人生について語る人々ばかりである。
そんな「普通」の話がとても面白いのである。

弁護士ひとすじ33年のマチ弁の方は、依頼人はお金が欲しいのか、それとも相手に謝らせたいのか、本当は何を求めているのかよく掘り下げて考えるのが重要だという。

脱サラして喫茶店のマスターとなった男性は、「成功してやるぞというほどの意気込みでもなくて、しばらくやってみようかなぁ」という軽い気持ちでお店を始めたのだという。

31年間船員しかやったことがないという男性は、海の上では本や雑誌は本当に貴重で、ある時沖ですれ違ったマグロ船に読み終わった少年ジャンプをビニール袋に入れてポーンと投げて渡したら、後日マグロを一本お礼にもらったという逸話を披露する。

偶然遊びに行った映画撮影所で頼まれてお手伝いしてから、半世紀も続けている女性映像編集者。

印刷会社で社長経験がありながら降格し平社員となり、70歳になる今でも現役営業マンとして働く男性。

タクシー運転手、コンビニオーナー、床屋さん・・・

彼らはその職業に就きたくて就きたくて、努力して就いたというわけではない。
肩肘張らず、ゆるゆるとのんびり語る彼らの話に、「がむしゃら」「ど根性」という言葉は似合わない。

しかし、それなりに苦労と努力を積み重ねなければその仕事を長く続けていくことはできないだろう。
劇的な人生や過酷な体験ではないけれど、彼らなりに真剣に仕事と向き合ってきたことが伺えるのである。

登場する方々は皆さん素敵な方で、幸せそうな充実した生活をしているように見受けられる。
彼らのその魅力を引き出せたのは、北尾トロさんの「聞く力」「喋らせる力」によるものだと思う。
どんな仕事を選ぶかということよりめぐりあった仕事とどのように向き合うかなんだろうと思います。
ああ、その通りだ。
楽しいと感じるか、不快に思うかは、自分の気持ち一つで変わるものだから。
普通や平凡なんてない。
一人一人違っているのだから。

えっ!私?
私はいたって普通で平凡な毎日を送っています。

テルマエ・ロマエVI

ヤマザキマリ著
エンターブレイン

なんと最終巻ですって!!



阿部寛主演で映画にもなったこのシリーズ。
浴場設計技師の古代ローマ人・ルシウスが、お風呂のお湯を通じてなぜか現代日本にタイムスリップしてくるコメディ漫画だ。

当初、ローマ帝国と平たい顔族の国・日本を行ったり来たりしていたルシウスだったが、
温泉場に長期滞在することになり、さつきといい雰囲気になった。
ところが、そのルシウスが突然消えてしまい、さつきは落ち込む。
というのが前巻までのあらすじである。

今回は、ルシウスを追ってさつきがローマ帝国にタイムスリップしていく。
そして、さつきのおじいちゃんが謎の人脈を駆使したり、鍼灸マッサージの神業を披露したりと大活躍する。
ああ、なんと痛快なおじいちゃんだろうか!
おじいちゃんに、この疲れてボロボロになった心と体を癒して欲しい!

「奢ることもなく常に謙虚で」
「あれだけの文明がありながら過剰な自信も自負心もありません」
「皆、とても優しくて」
ルシウスが、我々平たい顔族のことを褒めてくれると「いやぁ、それほどでも(〃▽〃)」と
照れながらも嬉しくなってしまう。

この「古代ローマのお風呂タイムトラベル物語」はこれにて終了らしい。
とても面白いのだが、少しマンネリや中だるみを感じていたので、飽きられる前に終わらせるのは賢い選択だと思う。
が、おじいちゃんや馬のハナコ始め、脇役たちのその後をまた連載するという。
きっとまた同じように楽しい物語になることだろう。
おじいちゃんに再会できる日を、楽しみに待っていようと思う。

過去のレビュー
テルマエ・ロマエⅠ~Ⅳ
テルマエ・ロマエV

2013年8月9日金曜日

残月

高田郁著
角川春樹事務所

高田郁さん、どうか、どうか澪を幸せにしてあげてください。


幼い頃に両親を亡くし、天涯孤独となってしまった主人公・澪。
故郷・大坂での料亭修行を経て、今は江戸・神田の料理屋「つる家」の調理場で腕をふるっている。
店主を始めとした温かい人々に囲まれながら日々精進しているのだが、そんな健気な澪を次々と試練が襲う・・・
みおつくし料理帖シリーズの8作目である。

澪を悲しみのどん底に突き落とし、読者に衝撃を与えた前作から1年余。
作者の高田郁さんはなんてサディスティックな方なんだ、ここまで苦しめなくてもいいじゃないかと思っていた。

本作も試練の連続で澪を困らせるのだが、天満一兆庵の若旦那の消息、ふきの料理人としての成長ぶり、そして幼馴染の野江にも一筋の希望の光が見えてきたではないか!

生きていて良かった、と自分で思えることが、何より大事なんです。
りうが呟くその言葉は、登場人物だけでなく私の胸にも染み渡る。
そう、今は辛くともいつか「生きていて良かった」と思える日がきっと来るから。
(そうですよね?高田さん!)

澪には是非とも幸せになって欲しい。
いつの日か天満一兆庵を再建し、身請け銭を作り、野江を身請けする・・・そんな澪の夢が叶いますように、そう願わずにいられない。

※前巻でショックを受け、まだ本巻を未読な方にも安心して読める内容だと思います。
そして、このシリーズを未読の方はマズイですよ~としか言いようがない。
ぜひとも1巻から読んでみてください。

性欲の研究: エロティック・アジア

井上章一編
平凡社

いたって真面目な本です、念のため。



関西性欲研究会。
普段おおっぴらには使えない性的な言葉を真面目に研究して堂々と言いたい・・・
そんな目的で発足されたという。
メンバーは大学教授などの肩書きをもついわゆる「先生」と呼ばれる立場の方々で、
そんな先生方が真面目に日本・韓国・中国における性の歴史を語っている論文集である。
「性欲の研究」という題名は研究会の名前からつけたのか、本書では直接的に性欲について言及しているわけではない。

【内容】
・対談
 フランス文学者・鹿島茂氏×井上章一氏
 東洋と西洋の違いについて、中世・江戸時代まで遡って考察していく。

 日中比較文学者・劉建輝氏×井上章一氏
 ソープランドの歴史を振り返りながら上海の風俗事情を探っていく。

・論文
「整形美人と新儒教精神」
 韓国が整形大国になった歴史的背景と今日の実態について。
「ハルビン紀行の日本人」
 ハルビンの舞台で踊る裸のロシア娘を、日本の男たちがどう受け止めたのか。
「中国の女装の美少年『相公(シャンコン)』と近代日本」
「日中おまた事情」
 日本と中国における理想の男性器について

・コラム
クレヨンしんちゃんから「幼児の性」について考察する。
仏教の女犯について

ねっ、真面目でしょ!
でもこう見えてもいたいけな乙女(自称)のため、ここには恥ずかしくて載せられないようなタイトルのものもいくつかあるのだが。

その他
・岸信介のシンボルがいかに大きかったか直接本人に尋ねた大宅壮一氏の猥談好き
・国際的に有名な「世界のクマシロ(神代)」監督
など初めて知る話もたくさんあり、この世界はなんと深いのだろうかと感心しきりだった。

また、現代のニューハーフ業界では、完全去勢した「無し、無し」の「娘」より、睾丸は摘出したがペニスは残している「有り、無し」の「娘」の方が人気があり、商業的価値が高いのだそう。
理由には触れていなかったので、なぜなのだろうかと疑問が残ってしまった。

生活していく上で、知らなくても全く困らない知識がギュッと詰まった興味深い本書。
こんなことを真面目に研究するなんて、なんて面白そうな研究会なんだろう。
会員になりたい・・・でも、こんな錚々たるメンバーの中には入れまい。
補欠会員、いや雑用係補佐ではどうでしょうか、井上さん。

オーダーは探偵に―謎解き薫る喫茶店

近江泉美著
メディアワークス文庫



就職活動に疲れきった大学生・美久は、ひょんなことから(→便利な言葉だなぁ)
井の頭公園のそばにある喫茶店「珈琲 エメラルド」に迷い込んだ。
そこの壁には【貴方の不思議、解きます】と書かれた紙が貼ってあった。
店長は20代半ばの長身で優しそうな穏やかな人。
そしてその弟は、王子様のような美しい少年・・・なのだが、口を開けば毒舌を吐く意地悪な高校生だった。
まるでドリップコーヒーのように、良いところが全部外見に抽出されて、内面が出がらしみたいにスカスカな。
しかもその弟は、天才的な探偵だった!
ひょんなことから(また使ってしまった!)美久はその喫茶店を手伝う羽目になってしまった。

ドジで人がいい女子大生。
優しい店長。
イケメンだけど性格が悪い高校生探偵。
そんな彼らが、「妻の霊を探してください」とか「お雛様に会いたい」という依頼を受けたり、「目玉焼きにかけるのは醤油かソースか」で喧嘩している夫婦の仲裁に乗り出す。

どこかで聞いたことあるような設定や登場人物、
色々な話をミックスしたようなストーリー・・・
いやいやそれは言うまい。
初読なのにデジャブを感じながら楽しく読める小説である。

表紙の男の子は好みのタイプじゃないので、勝手に理想の王子様を想像しながら読み進めた。
どんな内容だって、読み手が楽しめればそれでいいじゃないか。

イケメン兄弟の親は一度も出てこないので、何をしているのだろうかと不思議に思う。
依頼を受ける際、経費以外の金銭は受け取らず、代わりに命と等しく重たい物をもらう黒い契約書をかわすとはどういう意味なのか。
他にもまだまだ気になることがたくさんあるので、先が気になってしまう。
続編も、是非読んでみたい。

でも目玉焼きは、パンに合わせるなら塩コショウ、ご飯と食べるなら醤油でしょ。