2012年9月30日日曜日

夏期限定トロピカルパフェ事件

夏期限定トロピカルパフェ事件
米澤穂信著
創元推理文庫

「小市民」シリーズ第2弾。ミステリー色が強くなり、ふたりの関係も変化してきて・・・目が離せない青春ミステリー。



「春期限定いちごタルト事件」 に次ぐ第2弾。
登場人物は、高校生の小鳩くんと小佐内さん。
小鳩くんは、生まれつき余計なことに口を挟んでしまう性格のため、トラブルを引き起こしてしまう。
小佐内さんは、小柄で大人しそうな見かけと裏腹に「復讐」を愛し「狼」のような性格である。
その内面を隠すべく、二人はお互いに助け合いながら「小市民」として目立たぬように平穏に暮らすことを目標にしている・・・のだが、事件が彼らをほっといてはくれないのだ。
いや、もしかして彼らが事件を起こしているのか?

第1弾では、ポシェットの紛失などちょっとした謎を解いていた二人だが、この第2弾では大きな事件に遭遇する。
大変な状況になっても、推理できることが嬉しくてちょっぴり高揚してしまう小鳩くん。
そして、謎だらけだった小佐内さんの正体もだんだん明らかになっていく。
第1弾より、ぐっとミステリー色が強くなり、変わらず楽しく読める割には内容が本格的になってきた。

ふたりの関係はこれからどうなっていくのか?
最後が気になる終わり方なのでやっぱり次も読みたくなってしまう。

また小佐内さんは大の甘いもの好きで、要所要所にスイーツが出てくるのも楽しい。
今回は「小佐内スイーツセレクション・夏」を二人で食べ歩く。
中でも本書に登場するケーキ「シャルロット」。
泡がさらりと溶けていくような軽やかな口当たりに、見え隠れする程度のほのかな甘味。スポンジ生地の内側は、クリームチーズ風味のババロアだった。そのチーズの味わいは自己主張が強くなく、その穏やかな味わいをしみじみと楽しんでいると内側に隠されたマーマレードのようなソースが不意に味を引き締めてくれる。
読んでいるだけでうっとりしてしまう。食べてみたいなぁ。

※台風の中出かけた先で「ミスドの半額セール」に遭遇しました。激しい雨風の中、行列を作る人々を見て、「よく並ぶなぁ」と思いながらも最後尾に並んで買ってしまった私。
美味しいものが出てくる本は、「年中無休でダイエット中」の身にとってやっぱり危険だなと思いました。  

2012年9月29日土曜日

春期限定いちごタルト事件

春期限定いちごタルト事件
米澤穂信著
創元推理文庫

事件、男子高校生と女子高生、スイーツ、そして青春!



小鳩くんと小佐内さんは、同じ高校に通う高校1年生。
二人は慎ましい「小市民」を目指し、目立たないように日々暮らしている。
・・・つもりなのだが、二人の周りではちょっとした事件が頻発してしまう。

事件といってもポシェットが無くなったとか、試験中にドリンクのビンが割れたとか、身近な謎ばかりで気軽に読めるのが嬉しい。

「小市民」を目指しているならば、謎になぞ立ち向かわなければいいのに、なぜか巻き込まれてしまい謎を推理してしまうのである。

二人がなぜ「小市民」を目指しているのか。
中学時代のある出来事がきっかけらしいとほのめかすだけで、この巻では明かされていない。
また、小鳩くんと小佐内さんは、恋愛関係ではなくお互い助け合う約束をしているだけなのだが、そこは若い男と女なのだから、恋愛に発展していく・・・かもしれない。

事件は解決するが、そんな二人の過去と未来が気になるまま終わってしまうので、気になって次も読みたくなってしまう。

小山内さんは大の甘いもの好きで、特にストレスが溜まるとケーキバイキングに行って食べまくったりと、要所要所でスイーツが出てくるのもポイントだ。
遠い青春時代を思い出しながら、気軽に楽しめる一冊だった。

2012年9月27日木曜日

~遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白~ 飛田で生きる

~遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白~ 飛田で生きる
杉坂圭介著
徳間書店

 経営者として10年、その後スカウトマンとして飛田で働いている著者の体験記。



「飛田で店持ったら稼げるで」
31歳の時リストラにあいファミレスでバイトをしていた著者に、先輩がそう声をかけた。
それをきっかけに、飛田新地の料亭経営者となる。
10年間経営した後、「トラブル対応に疲れ果てて」店を知人に譲り、現在は女の子のスカウトマンとして働いている。
本書は、経営者として体験した飛田内部の様子を綴った著者のドキュメントである。

「さいごの色街 飛田」 では女性フリーライターが外部から取材をしていたが、こちらは男性経営者として内部から発信している。
そのため警察署への申請、1200万円かかった店の開店資金、月々かかる経費、女の子の確保や管理の難しさなど、著者の経験が詳しく書かれている。

具体的なサービスの内容も書かれているのだが、15分コース(1万1千円)の場合、おばちゃんにお金を渡すところからストップウォッチがスタートする。
お菓子と飲み物とおしぼりを渡し、少し言葉を交わしトイレで洗浄する。
その後部屋に戻りサービスする。
帰り支度を考慮すると実質7分程度なのだという。

女の子にとってはヘルスやソープと違い、見知らぬ男と長時間過ごさなくて済むので断然楽なのだというが、そんな短時間に大金をつぎ込んで何が楽しいのだろうか。
私には申し訳ないが、男たちの行動が理解できない。

表に出せない内容は書いていないのだろうが、なかなか知りえない情報を内部から発信したという意味では貴重な本だと思う。
しかし、経営者やスカウトマンとして女の子を自分の儲けの道具と見ている点が、個人的に好感が持てない。(経営しているのだから、当たり前のことなのだが)

料亭を譲った経緯もよくわからない。
「疲れた」というが、儲かっていたなら続けていただろうと思う。
開業資金の内訳は細かく書かれていたのに、いくらで譲ったのかなど詳しい経緯は全く書かれていない。

女の子をスカウトして20万円。
その子が働き続ける限り、その子の売上の5%貰える。
多い日で10万円稼げる。
というので、スカウト業の方が遊べるし儲かるのだろうか。

なんにせよ、飛田に興味がある男性向けの本だなと感じた。

2012年9月25日火曜日

かき氷屋 埜庵の12カ月

かき氷屋 埜庵の12カ月
石附浩太郎著
主婦の友社

冬でも美味しく食べられるかき氷。頭がキンとならないかき氷。そんなかき氷専門店を開いている著者の12ヶ月。



大学卒業後、普通のサラリーマンとして働いていた著者は、たまたま立ち寄った長瀞で食べたかき氷に「脳天からカチ割られるほど」の衝撃を受けた。
36歳で会社を辞め、調理学校へ通ったり飲食店でのアルバイトをしながら、38歳の時ついに鎌倉に「埜庵」をオープンする。
その後鵠沼海岸に移転し、「かき氷専門店」として営業を続けている。
この「かき氷屋 埜庵の12カ月」は、そんな著者のかき氷に対するこだわりと情熱がグッと詰まった良書である。

一年中かき氷?
凍えるように寒い日にもかき氷?
屋台でなく店を構えて、しかもかき氷の専門店?
900円もするかき氷?
そんな疑問も本書を読むと納得するのである。

スタッフは、卒業以外で自分からやめた人もやめてもらった人もいないという。
これだけで、お店の温かい雰囲気や店主のお人柄がわかるのではないだろうか。

当初はかき氷だけでやっていくのは難しいと考え、ランチメニューにも力を入れていたが、かき氷のオーダーが一杯もないことに気づき、「かき氷以外のことはやめよう」と覚悟を決める。
(現在は夏の繁忙期以外に「きちんと手をかけて作った料理をお出ししている。」)

生産者の顔が見えるこだわりの果物を使い、時々現場を見に行くという著者。
冬でもおいしく食べてもらうためにシロップの粘度を上げたりと、様々な工夫を凝らしお客様のためにかき氷に情熱を注ぐ著者の姿勢に感動する。

特にこだわっているのが日光で丁寧に育てられた天然氷。
冷凍庫は通常-20℃だが、天然氷の質感が変わってしまうため設定温度-5℃の専用倉庫で保管し、削る際に-2℃に温度を上げてから削るのだという。

氷の中にゼリー寄せにしたぶどうやいちごを入れたり、塩コショウをかける「キャラメルミルク」など他では食べられないメニューが並ぶ。
美味しそうな写真がたくさん掲載されているので、目でも楽しめる一冊である。

そんな中で私が一番食べてみたいと思ったのが、「お米のアングレース」
粥状に炊いたお米に卵と牛乳を加えたカスタードソースのようなものを氷にかけ、イチゴをトッピングし、別添えの苺ソースをかけて食べるというものだ。

我が家からはとても遠いのだが、ぜひ足を伸ばしてそのかき氷を食べてみたいと思った。

埜庵のホームページを覗いてみたのだが、あまり力をいれていないのか、本書の写真に比べてイマイチなのが残念である。

2012年9月24日月曜日

AKB48白熱論争

AKB48白熱論争
小林よしのり
中森明夫
宇野常寛
濱野智史著
幻冬舎新書

単に可愛いから好き♥なのではなく、応援したくなるアイドル。このシステムを作り上げた秋元康氏が一番すごい。



小林よしのり・・・1953年生まれ。漫画家。
中森明夫・・・1960年生まれ。ライター。
宇野常寛・・・1978年生まれ。文化評論家。
濱野智史・・・1980年生まれ。社会学者・批評家。
以上4人の「大の大人」がAKBに「マジ」で「ガチ」ではまり、今年の総選挙と「さしこHKT島流し問題」について熱く語りあった対談集。

いやぁ、熱い。
これだけの論客たちが、社会・マルクス・カント・世界平和などを引き合いに出しながら熱く語り合うテーマが「女の子集団」なのだからすごい。

彼らが「公開処刑」と呼ぶ総選挙は、単に「推しメン」に投票するのではないらしい。
○○は選抜入りするだろうから、頑張っているけどなかなか報われない××に入れよう・・・
など、同情や作戦で投票するのだという。

また、「AKBを離れたら独り立ちするのは難しい」などと冷静に分析もしている。

そして、AKBは既存のアイドルとは次元が違い、Jリーグ・プロ野球と並ぶ娯楽に匹敵するのだという。
言い得て妙だな、さすがだなと思う。

一方で
「CDを買うのはお布施だと思えばいい。」
「『Beginner』を聞いたときは、感動で震えた。」
「みおりんは妖精なんだよ。」
あれだけ冷静に分析しつつも、推しメンについては熱くなってしまう姿が笑ってしまう。


この本を読んで、私なりに「人はなぜAKBを推すのか」を考えてみた。

・テレビや雑誌などのマスメディア情報だけでは本当のAKBを理解できない。
・これだけ売れていても彼女たちは基本的に、「体験型アイドル」「ファン参加型アイドル」である。
舞台と観客との距離が異常に近い劇場に足を運びその場の空気を体験したり、握手会で実際に目を合わせ触れ合うなど直に接触して初めて彼女たちの面白さが味わえる。
・昔のアイドルと違い、ブログ始め様々な媒体によって丸裸にされ、等身大の女の子の姿を見る。(とファンは信じている)、
・懸命に踊る姿、選挙やじゃんけん大会で競い合う姿を見て、好きという感情だけでなく「応援」したくなる、支えてあげたくなる。
・自分で育てているという思いを持てる。

でも、結局は「男はかわいいお姉ちゃんが好き」で、「秋元康は類まれなる才能で巨大集金システムを作り上げたんだ、すごいなぁ」と思うのだが。

2012年9月22日土曜日

証拠調査士は見た! ~すぐ隣にいる悪辣非道な面々

証拠調査士は見た! ~すぐ隣にいる悪辣非道な面々
平塚俊樹著
宝島社

私には関係ないと言い切れないトラブルの数々。





「証拠調査士」とはあまり聞かない職業だが、海外ではメジャーなのだという。
警察は事件の証拠がないと動けない。
弁護士は法律のアドバイスをするのみで、証拠を集めない。
探偵は証拠集めもするが、裁判では採用できない証拠も多い。

そのため
証拠調査士は単に頼まれた証拠を集めるのではなく、依頼主が裁判や揉め事の交渉でうまくいくような集め方をします。証拠を集めて弁護士や警察などを動かし、トラブルを解決に導くのです。

本書は、証拠調査士・危機管理専門コンサルタントである著者が、トラブルの実例と対処法を解説している本である。

・会社を経営している資産家の夫とその妻を狙う「別れさせ屋」の悪徳弁護士。
「地球上で一番悪いのは、ヤクザでも詐欺師でもない。間違いなく悪徳弁護士である。」と著者は言い切る。

資産がなくてもうかうかしていられない。
・巨額横領事件の犯人が勝手に作った、身に覚えのない借金を返済する羽目になった男性。
・マンションの欠陥を指摘した人に、次々襲いかかる大手企業の嫌がらせ。
・やめさせたい社員を、会社とグルで排除する産業医。
特にオリンパスの内部告発者に対する産業医の対応は、笑ってしまうほど悪質だ。

もっと身近なところでは、「一流デパートで傷モノを売られた」「母が宗教団体に貯金を騙し取られた」「ネットで購入した商品が届かない」「海外から見に覚えのない多額の請求が」・・・
いつ誰が巻き込まれてもおかしくないようなトラブルに背筋が凍る。

著者は、「犯罪者は弱者を狙うため、狙われないように強くなりましょう」とアドバイスする。
女性には女性の、背が低い人には低いなりの、各人に合致した強さを身につけることが必要だという。
そして一番重要なのは「人と人とのつながり」と聞いて、怖い話ばかりの中その言葉になんだか少しホッとした。

※事件の性質上、一部を除き匿名で書かれているのは仕方がないだろうが、「ある企業で」「ある男性が」「詳細は明かせないが」と延々と言われると、眉に唾したくなってしまうのが残念である。

2012年9月19日水曜日

学校制服の文化史:日本近代における女子生徒服装の変遷

学校制服の文化史:日本近代における女子生徒服装の変遷
難波知子著
創元社

明治から昭和初期までの女子制服の移り変わりを丁寧に解説した本。



本書は、日本服飾史・服飾文化論を研究している著者が、博士学位論文を加筆修正して研修者向けに出版したものである。
今まで服飾史では、服装の変遷の過程を述べるため、なぜ制服が必要になり成立したのか指摘していない。
また、教育史では制服が及ぼす統制・管理について研究がされてきたが、制服をめぐる生徒や保護者の受容の問題についてはあまり検討されなかった。
そこで著者はそれらを踏まえ、歴史的観点から制服の成り立ち・普及・背景を、具体的な事例に基づいて検証していく。

と、研究者らしく大変真面目に制服についての歴史を語ってくれているのだが、ぶっちゃけて言えば次のとおりである。

鹿鳴館時代の和装⇒洋装⇒和装の混迷期を経て、1900年頃から・・・

女学生:
皇室や華族の方がはく憧れの袴を、私なんかが履いていいのかなって初めは戸惑ったけど、履いてみるとめっちゃ楽チン♪
動くとき、裾の乱れや生足チラリに気をつけなくてもいいから動きやすいし。
帯も結ばなくていいなんて忙しい朝には助かるぅ~。
ついでに髪型も袴に合わせて変えちゃえ。
鬢付け油ベトベトで横に張り出した結髪って乱れたら直してもらうの大変なのよね。
だから体育の時間なんて、手を上げると髪の乱れに気を遣いあまり動けなかったけど、袴に束髪や下ろし髪ならダンスだってテニスだってしたくなっちゃう♡

学校:
金持ちの生徒はどんどん派手になるし、貧乏な生徒は劣等感に苛まれるしって、困っていたところに全員同じ袴を履かせるようになってよかった。
子供をたくさん産める健康な女にするには体育の授業も必要だが、着物じゃ動けないって悩みもこれで解決だ。
でも、最近学生ではないのに「なんちゃって制服」を着て「堕落女学生」とスキャンダル記事が世間を騒がせたな。
うちの学校の評判まで落とされたらたまらない。
そうだ、バックルに校章をつけたバンドをさせて、差別化を図ればいいんだ。
それに袴の長さを勝手に変えておしゃれしているつもりの奴もいるが、見苦しい。
長さや着こなしの規定も作っちゃおう。
リーゼントのように庇髪を大きくしすぎている奴もいる。
これも取り締まらなきゃ。
西洋人にもこれで野蛮とは言わせないぞ。代替テキスト

↓庇髪がエスカレートしてしまった

















その後政府も、女学生には和服と洋服のどちらがいいのか、または折衝案の改良服かと右往左往する。
そして第一次世界大戦での欧米女性の活躍、関東大震災の際着物のため避難に支障をきたした、などから時流は一気に洋服へと向かっていく。

教育関係者:
やっぱり動きやすさから見たら洋服が一番だろう。
パンツは必ずはかせなきゃならないな。
でも、いきなり洋服着なさいっていってもコーディネートすら知らない彼女たちはトンでもない格好するから、こっちでこれ着なさいって決めたほうが楽だな。
だけど、そんなことしたら服装を自分で決める能力が養われないんじゃないか?
じゃあ、セーラー服、ジャンパースカートなどいくつか提案して、この中から選びなさいっていう方法がいいかもしれない。

生徒:
ジャンパースカートになったのは嬉しいけど、やっぱりセーラー服が着たい♡
襞も増やして上着の丈を短くして、スカートは長くして、自分で改造しちゃおうっと♪

という感じで、大人の女性の私服も混迷期なため、政府も学校側も試行錯誤していく様子がよくわかる。
興味深くいい本なのだが、もっと読みやすい例えばコミック「制服はじめて物語」のようなものがあるといいなと思う。

私個人としてはずっとブレザーの制服だったため、セーラー服に今でも憧れを抱いている。

2012年9月18日火曜日

65歳。職業AV男優

65歳。職業AV男優
山田裕二著
宝島社新書

1947年生まれ、65歳の著者が語った男優生活




毛皮屋を営んでいた著者は、売れ行きが鈍ったことから52歳で廃業する。
ローンもなく子供も手を離れたため生活の心配がない著者が、次に選んだ職業は、エキストラの仕事だった。
当初は通行人や再現ドラマのおじいちゃん役をしていたが、その後AVのエキストラの仕事が増えていった。
そして、「やっぱり女優さんと絡みたい」と思い、関係者に頼んで出演させてもらう。
そこから著者の男優としての歴史が始まったのだ。

本書は、そんな著者の体験談、女優さんの紹介、健康の秘訣、藤元ジョージ監督による現場の舞台裏などが書かれている。

作品の設定は定番の他、要介護者とケアワーカー、嫁と舅、老人好きのJKに逆ナンされる・・・などだという。
読みながら、『珍日本超老伝』 の中にも80歳過ぎて頑張っていた方が出てきたことを思い出した。
溜池ゴロー氏の本 でも熟女が人気と書かれていたが、現在この業界は中高年市場に活気があるため、出演者の年齢層も幅広くなり、高齢の男優も増え、50代の女性でも女優としてのニーズがあるのだという。

10代の頃は、男はみんな男優に憧れているのだろうと考えていた。
画面に映ってない場所にはスタッフがたくさんいて、皆が見守る中あられもない姿を晒す、販売・レンタルされたら大勢に見られてしまう・・・少し大人になれば、そんな大変な仕事なんだなと気づいた。
著者も「度胸と開き直りができないと務まりません。」と言っている。

ギャラは、女優が10万~200万円位/本もらえるのに対して、汁男優は2000~5000円/発、
男優は3~5万円/日の肉体労働。
女優さんが大柄な方、月経中の方、腋臭の方の場合は、大変。
など、知らなくても困らないトリビアがたくさん書かれていた。

そして、無類の女好きだと公言し、出会い系サイトで相手を見つけ、今も4、5人の彼女がいるという著者は、意外にも「家庭第一」なのだという。
う~ん、奥様すごい。

中高年の男性がこの本を読んで、「よし、俺も見習って頑張ろう」と元気になるのか、それとも「やっぱり俺はダメだな」と劣等感に苛まれ自信喪失してしまうのか、どちらにしろ危険をはらんでいるので気をつけたほうが良さそうな一冊である。

2012年9月17日月曜日

罪の余白

罪の余白
芦沢央著
角川書店

「自己愛」と「親子愛」の闘いの物語。大切な人を失った時、あなたならどうしますか?




大学で動物行動心理学を教えている 安藤 は、妻を8年前に亡くし、高校生の娘・加奈 と二人で暮らしていた。
大切な 加奈 が、高校のベランダから墜落死する。
自殺と思い嘆き悲しむ 安藤 のもとに、クラスメートを名乗る少女が現れる。
加奈 のパソコンに残された日記を読んだ 安藤 は、娘の悩みを知る。
そこから 安藤 の闘いが始まった---。
第3回野性時代フロンティア文学賞受賞作。


女子高生のヒエラルキーがリアルに書かれていて怖い。
私の高校時代にもなんとなくクラスでの「立ち位置」が決まっていたが、現役女子校生に話を聞くと今はもっとすごいらしい。
最近も「いじめ事件」が問題になっていることもあり、あり得るなというか、あるあると思ってしまう現実感が怖いのである。
そして、PCに残された日記の内容がわかった時、読んでいる私も緊張が高まり、一気にスリリングな展開へ向かっていく。
題材的に、悲しく辛い内容なのだが、最後に一筋の光が見え、少しは救われた気がした。

美しいが、無表情でまるで精巧なロボットのように見える安藤の同僚・早苗が、脇役ながら興味深く描かれていた。
人の感情を読み取ることができないため対人関係が苦手なのだが、嘘や社交辞令が言えず不器用で正直なところが好感が持てる。

そして、気になったのが作中に出てくる「ベタ」(闘魚)
ストーリーとは直接関係ないのだが、効果的な演出となっている。

この著者はこれがデビュー作だという。 体言止めの乱用で、一部脚本のト書きのように感じるところが残念なのだが、力のある方だなぁと思った。 これからの活躍を期待したい。

2012年9月15日土曜日

贖罪の奏鳴曲

贖罪の奏鳴曲
中山七里著
講談社

音楽ミステリーだけじゃない。法廷事件物もすごかった。



過去に殺人を犯し、医療少年院に入っていた弁護士・御子柴。
依頼人に法外な請求をするなど評判はよくない。
そんな彼が国選弁護人として、小さな製材所の事件を担当することになる。
元社長の父親が事故で脳挫傷を負い、入院中に人工呼吸器が止まり死亡した。
保険金目当てではないかと、母親が疑われた事件だ。
果たして弁護士の御子柴は・・・?

ゆすりで生計を立てているフリーライターの死体を、御子柴弁護士が遺棄するという驚きのシーンから始まるこの物語。
過去に罪を犯した御子柴弁護士は、果たして生まれ変わったのか、それとも悪人のままなのか・・・?『刑務所で死ぬということ』を読んだばかりの私には、とても興味深いテーマだった。
「心にナイフをしのばせて」や「少年Aこの子を産んで・・・」 の事件を彷彿させるような、「贖罪」について考えさせられる内容なのだ。

著者の作品は過去に「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」の2作を読んだのみだった。
その2作で演奏者たちを題材にしたミステリーの音楽シーンに魅せられていたが、法廷事件ものの本作も大変読み応えがあり面白かった。

特に、中盤辺りに書かれていたた圧巻のピアノ演奏描写からは、ラストまで一気読み。
そして、どんでん返しの連続で最後には驚きの結末が待っていた。

視点が御子柴弁護士サイドと警察サイドの交互に置かれ、過去やいくつかの事件が重なり、様々な要素が入り組んだエンターテインメント作品となっていて、読み応えのある作品だった。

著者の本をもっと読みたくなってしまう一冊だった。

2012年9月13日木曜日

刑務所で死ぬということ

刑務所で死ぬということ
美達大和著
中央公論新社

服役中の無期懲役囚が語った塀の中。




これは、2件の殺人を犯し「LB級刑務所」で服役中の無期懲役囚である著者が、塀の中の面々や過密化する刑務所内の様子を語った本である。

※「LB級刑務所」とは、刑期10年以上かつ犯罪傾向の進んだ者のみが収容される刑務所。
 年3万人前後の受刑者の中の約3%が長期刑受刑者。

ほとんどの方は、刑務所それも「LB刑務所」とは縁のない暮らしをしているため、懲役囚たちが何を考え、どう暮らしているのか知る機会はない。
そういう意味で、内部から発信する著者の言葉は貴重である。

漠然と、厳しい生活・辛い毎日、そして事件の反省と被害者への贖罪の日々を過ごしているのではないかと考えていると、本書を読んで愕然とする。

心から被害者・遺族のことを考えている無期囚に会ったことがない。
自らが長い服役をすることになった理由を、亡くなった被害者のせいにしている。
3食付いて娯楽まである今の刑務所は最高。
老囚にとっては話し相手のいる福祉施設。
反省するといっても「指紋を残したことがまずかった」「下調べをちゃんとすべきだった」と犯行の杜撰さを反省する懲役囚たち。・・・

著者自身も、現在月に70~250冊の本を読んでいるという、本好きにはある意味羨ましい生活をしている。
「少しも辛いところではありません」と言い切る著者の言葉にやりきれなさを感じる。
著者の意見のみで、刑務所の内情を決め付けるわけにはいかないが、再犯率の高さを考えればある程度真実なのだろうと思う。

二度と入りたくないと思わせるのが矯正施設の役割なのではないか。
隔離するだけで、罰として十分なのだろうか。
加害者の人権も大切だが、被害者感情は置き去りにされていないだろうか。

現実的には、年老いた懲役囚たちを改心させるのはとても難しいことのように思える。
だからこそ将来の犯罪者を少しでも減らすために、子供の教育それも落ちこぼれの救済や居場所の確保が必要ではないだろうか。

※純粋に受刑者にかかる費用・行刑費は、昭和58年まで刑務作業等により約100%賄っていたが、それ以降は足りていない。
人件費・施設費は税金が使われている。

2012年9月12日水曜日

一流の人に学ぶ自分の磨き方

一流の人に学ぶ自分の磨き方
スティーブ・シーボルト著
弓場隆訳
かんき出版

自分らしく好きなように生きたいな♪



「全米屈指の超人気セミナー講師が伝授する12の成長法則」「一流の人と二流の人の差は紙一重だ」「10万部突破」そんな広告を目にする本書。

「はじめに」で著者は、普通の知能と才能の持ち主でも一流のレベルに達することができると断言している。
そして本書では、理論ではなく実用的な思考・習慣・哲学を紹介している。
著者は、読者に「自分はどちらに入るか」考えてもらい、成功を後押しするためにこの本を書いたそうだ。

一流の人はこう、二流の人はこう、と様々な方のお言葉を引用しながら最後にこうしようと提案している。
例えば一流の人は「勝つことを期待している」、二流の人は「ネガティブな期待を抱く」、提案「ポジティブな期待を抱いて、セルフトークとイメージトレーニングに励もう」・・・
こういった項目が130以上並んでいる。

著者によると「一流の人は努力することを楽しもうと考える」
「二流の人は努力せずに楽をしようと考える」
のだそうだ。

いつも楽して痩せることばかり考えている私は二流以下だ。
一流になるのは大変だなぁ、私は別に二流いやそれ以下でもいいやと思う。
今までどおり自分の好きなことをしながら、自分らしく楽しく生きていきたい。
(だから痩せないのだろう。)

一流を目指す志の高い努力家の皆さん、こんな私でごめんなさい。

2012年9月11日火曜日

ハーバード白熱日本史教室

ハーバード白熱日本史教室
北川智子著
新潮新書

ハーバード大学で日本史を教え、学生から高評価を受けている著者。彼女はどのようにして今の地位を築いたのだろうか。



1980年生まれの著者は、九州の高校を卒業後、カナダの大学で数学と生命科学を専攻した。
そこで、日本史の教授のアシスタントをしたことから、ハーバードの短期講座「ザ・サムライ」を受講し、サムライのかっこよさを強調する講義に違和感を覚える。
そして「日本はサムライが全てなのか、なぜ女が出てこないのか」と疑問に思い、プリンストン大学の博士課程で日本史を専攻する。
歴史の博士号は通常取得に5年以上かかるところ、3年で取得したという。
その後、この若さでハーバード大学で教えることとなった。

本書には、著者が日本史を教えるまでの経緯や、ハーバードの「先生の通知表」、実際の授業内容などが書かれている。

履修者1年目16人、2年目104人、3年目251人という驚異的な伸びを示す著者の日本史講座。
学生のように見られる小柄な若い女性が、周到な準備をし、絵を描かせたり、盆踊りを踊ったり、ラジオ番組や映像を作らせweb上に公開するといった授業で、学生たちから圧倒的な支持を受ける。
そして、「先生の通知表」で高評価を受け、「ベストドレッサー賞」や「思い出に残る教授賞」も受賞するのだ。

この本を読んだ知人が、「自慢ばかりで鼻に付く」と言っていたのだが、私はそうは思わない。
自己主張しなければ生きていけない海外で、日本人がここまで高評価を受けるのは、オリンピックで金メダルを取ったように喜ばしいことに思えるのだ。
女性・若い・アジア人種・英語が母国語ではないといったハンデがあるにもかかわらず、日本人が天下のハーバードで高評価を受けるのは、手放しで嬉しい。

そして、やがて世界を背負って立つ若者たちが日本史を勉強することによって、日本や日本人に少しでも興味を持つことは、将来の日本にとっても良い影響があると思う。

こんな誇れる日本人がもっと増えたらいいなと願いながら、著者のさらなるご活躍をお祈りしたい。

※余談だが、ハーバード大学の、講座ごとに学部生18人あたり1人のアシスタントがつくなど、優秀な学生をより優秀に育て上げるシステムにも驚く。
「これは新しい!面白そうだ!その挑戦受けてたとう!」という彼らの好奇心をくすぐるようなカリキュラムが人気だという。
楽勝科目ばかりを選んで履修していた自分がとても恥ずかしい。

2012年9月9日日曜日

傍聞き

傍聞き
長岡弘樹著
双葉文庫

「人を助ける」のが使命----そんな職業の主人公たちが登場する読み応えのある短編集。



本書には、更生施設の施設長、消防署員、刑事、救急隊員をそれぞれ主人公にした短編が4つ収録されている。

それらの職業は共通して、「人を助ける」という難しい使命を負っている。
彼らが苦悩しながらも、懸命に使命を全うしようとする姿に心を打たれるミステリーである。

特に表題にもなっている「傍聞き」は、シングルマザーである主人公の刑事が、子育てやお礼参りに悩む心情が細やかに書かれていて、日本推理作家協会賞短編部門を受賞したのもうなずける秀作だった。

読み応えのある作品だなと思いながら読み進めたら、3作目で「ん?」とデジャブを感じた。
この物語確かに読んだことある、やりきれない結末を覚えている・・・?

そう、かつて図書館で借りて読んでいたのだった。
それを書店に行った時にすっかり忘れて、購入してしまった。

よかった、私が忘れっぽい性格で。
二度も楽しめたのだから。
しかも1、2作目は読んでいる最中も全く思い出せず、初めての作品として読めたのだから。

こういうことはよくある、いやよくあった。
片っ端からどんどん読んでいると何を読んだか忘れてしまうのだ。
だから、読んだ本を記録する為に書評を書き始めた。
読み終わり考えながら書くという行為によって、脳に定着することを願って。

しかし、たまにはすっかり忘れて再読し、新鮮に感動するのもいいなと感じた。

2012年9月8日土曜日

ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~

ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~
三上延著
アスキーメディアワークス

ひねくれ者でごめんなさい。



北鎌倉にひっそり佇む古本屋「ビブリア古書堂」。
就職浪人の俺・大輔はここでアルバイトをしている。
店主の栞子さんは、極度の人見知り&内気だが、本に関する知識は膨大で、
本にまつわる謎ならたちまち解いてしまう。そして何より美人・・・

大人気のこのシリーズ。
1巻目は、気になってはいたが食わず嫌いでなかなか手を出せなかった。
しかし、読み始めたらすぐに夢中になった。
気軽に読めて本好きなら気になる古本屋を題材にしたミステリー、そんなあるようでなかったジャンルというのも目新しく面白かった。

2巻目も楽しく読めたのだが、男目線すぎる栞子さんの設定に少し興ざめした。
美しいが自分ではその美しさに気づかない、おとなしい女。
そんな主人公・栞子さんは男が萌える女なのか、理想の女なのか。
しかしなぜ、巨乳である必要があるのか。

そんな事を思いながら、3巻目を読んだ。

今までより萌え描写が少なくなり、ミステリーの要素が濃くなっていた。
栞子さんはもう立派な探偵だ。
古書に関するトリビアも出てくるし、感動的なシーンもいくつかありジーンとくる。
いつの間にか夢中になり、このシリーズの大ファンになっていた。
今までは少し冷めた目で見ていたのに。

ラノベを敬遠されている方でも、この3巻なら満足するのではないだろうか。

ただ、私は栞子さんには萌えない。
女はおとなしそうに見えたって、従順なわけじゃない。
実はああ見えて裏では・・・と想像しながら読むのも楽しいかもしれない。

大輔だって、好みじゃない。
「もっとガツガツ行かなきゃ」と尻を叩きたくなる。
やっぱり男は肉食系でなくっちゃと私は思うのだ。

ひねくれ者でごめんなさい
でもこんな私でも、4巻目の発売を心待ちにしているファンの一人なのだ。

2012年9月5日水曜日

女中がいた昭和

女中がいた昭和
小泉和子編
河出書房新社

メイドもいいけど女中もね♪



女中さん、メイドさん、お手伝いさん、家政婦・・・
メイド服のフリフリ可愛いのもいいが、女中さんの着物に白い前掛けという抑圧されたような美しさも憧れる。
家政婦というと、TVの影響で覗き見とか無表情の怖いイメージが浮かんでしまう。
今はお手伝いさんという言い方が一般的だろうか。

その中でも絶滅したであろう女中さんについて書かれたこの本を読んでみた。

大正~昭和初期は、衣食住が洋風に変わる過渡期に当たる。
衣は着物だけでなく洋服の洗濯・アイロンがけをしなくてはならず、食も器や調理器具の種類が増え、住環境も洋間に絨毯・カーテンを設置するなど、和洋二重生活により生活が煩雑化していく。
その頃の家事は、技術を必要とし神経や気を使うという、過酷な時代だったのだ。

そのため、戦前までは負担の大きい主婦を補佐するため、特に裕福ではない家庭でも女中がいることは珍しいことではなかったという。
本書は、主婦一人ではこなしきれないほど複雑繁多だった家事を補うため雇われた女中について、仕事内容・環境など様々な角度から複数の専門家が解説した生活史である。

女中の仕事のやり方や心構えを説いたマニュアル本「女中訓」は、雇い主が女中に読ませたり、主婦が女中の指導や自分の家事マニュアルとして読まれていたという。
その中には、掃除や炊事を始め家事全般のやり方が細かく書かれていて、お客様への応対は丁寧に、衛生や看護の知識も必要、雇い主には忠実で、暮らし方は都会流でも田舎気質を忘れずに・・・ってそこまで要求するのかと驚く。

雇う側も雇われる側も、どんな人に当たるかは運も大きいなと思う。
家族のように温かく迎えてくれるご家庭なのか、ヒステリックにこき使われるのか。
女中の方も、よく気がつく働き者もいれば、盗み癖・怠け癖のある人もいただろう。

この時代は女中さんに限らず誰もがそうだったのだろうが、休みもほとんどなく朝から晩まで働いて大変だったのだなぁと思う。
しかも女中さんは雇い主と同居しているため、肉体的だけでなく精神的にも休まる暇がなかっただろう。

そんなプライバシーもない、同居しているのに家族ではない存在の女性--女中さん。
昭和30年代に急速に減っていったという。

女中さんという響きに惹かれる私には、とても魅力的な一冊だった。

メイド喫茶もいいけれど、本書を監修されている小泉和子さんが館長をされているという昭和のくらし博物館 、いつか行ってみたい。

英雄はそこにいる

英雄はそこにいる
島田雅彦著
集英社

その男は稀代の犯罪者なのか?それとも英雄なのか?手に汗握るハリウッド映画のような一冊。




シャーマンの末裔であるナルヒコは、修行を重ねた特殊能力により、未来を予知したり死者と会話することが出来る。
警視庁で迷宮入り事件の再捜査を専門にしている穴見警部は、そんなナルヒコに「捜査に協力して欲しい」と頼む。
重要未解決事件の中でも手掛かりの少ない、互いに無関係に見えた五つの事件は、特殊な遺伝子D4を持つ男が絡んでいる事がわかった。
そしてその背後には世界経済評議会・通称「ブラックハウス」という組織が見え隠れする。
果たして、D4はブラックハウスの手下なのか?それとも・・・?

本書は、ナルコシリーズ第1弾『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』に次ぐ第2弾らしい。
「現代に甦るヘラクレス神話」でもあるという。

前作も未読で、そんな知識もなく読み始めたのだが、十分楽しめる内容だった。
「シャーマン」とか、「特殊能力」とかそういう話が進んでいくのだろうと思いながら読んだが、ストーリーはどんどん広がって予想外の方向に向かっていく。

政治・経済・宗教・オカルトと様々な要素が絡まった壮大なストーリーで、誰が味方で誰が敵なのか分からないまま、手に汗握る展開が続く。
スピード感もあり、まるでハリウッド映画を見ているようであった。

正直、心の琴線に触れるとか感動するような類の話ではない。
特殊な遺伝子の話も唐突感があり、最後まで読んでもなぜ特殊な遺伝子でなくてはいけないのかわからないままだ。

ただ、読んでいる最中は物語に夢中になれ、他の事を考えなくて済むような、そして読み終わっても後を引かない一冊であった。
私はたいへん面白く読めたのだが、好き嫌いがはっきりする本だろうなと思う。

2012年9月4日火曜日

イラン人は面白すぎる!

イラン人は面白すぎる!
エマミ・シュン・サラミ著
光文社新書

イラン生まれの著者が、悪いイメージを払拭すべく、イスラム教やイランとイラン人について楽しく語った一冊。



アジアで暮らし始めた当初、イスラム教徒との付き合いは難しいと感じていた。
子供にぬいぐるみをプレゼントしようとして、これは偶像崇拝禁止に抵触するのだろうかと悩んだ。
豚肉を調理したことのある調理器具で調理したものは、たとえ豚肉が入っていなくても食べられないと言われ、家に招待しても飲み物だけにとどめた。
ただ、もっと仲良くなればプレゼントは何がいい?と聞けばいいのだし、食事はお言葉に甘えて相手の家でご馳走になったり、イスラム教徒用のレストランに行けばいいと気楽に考えられるようになった。

付き合いのあったイスラム教徒は皆さんとてもいい人だったのだが、イスラムというとどうしても「原理主義者」「過激派」といった悪いイメージ浮かんでしまう。
日本人イコールオウム真理教と思われてしまうのと同じなのだが。

本書は、吉本興業所属の漫才コンビ「デスペラード」として活躍するイラン生まれの著者が、そんな悪いイメージを払拭すべく、イスラム教やイランとイラン人について、楽しく語った本である。

わかりやすい説明の中に、時折ネタなのかと思えるような話が出てくる。

・月収30万円以上のカリスマ物乞いがいる。
・「勉強したから100点取れると思ったのに、半分アラーが持ち去ったから50点になった」という子供のように、アラーを言い訳に使いまくる。
・断食中はイランで放送されていた「アンパンマン」の顔にモザイクがかかっていた。
・王族のクラスメイトが登校するとき、フタコブラクダに乗ってやってきたらみんな羨ましがった。
・「中国人は白黒のサッカーボールを見るとパンダを思い出すから、蹴るなんて行為はできないはず」という様な毒のある記事が毎日のように新聞に載っている。

などなど、芸人だけあって「ほんまかいな」と思うのだが、読み進めるうちにイランに対するイメージが変わってくる。

楽しい話ばかりではなく、イランの抱えているマイナス面も書かれている。
階級社会で貧富の差が激しい、レイプの被害女性が姦通罪で死刑判決を受けた・・・
厳しい現実も、祖国を離れ日本で暮らしている著者は冷静に分析している。

特にカダフィについてや「なぜ中東に他国の意思が介在しなくてはいけないのか?」という意見は、日本の報道ばかり耳に入れていた身にとって、目を覚ましてくれるような話だった。

イランとイラクを混同したり、スンニ派とシーア派の違いがよくわからないような方でも(私のことだ!)入門書として楽しく読める本である。

2012年9月2日日曜日

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり
よしながふみ著
太田出版

なぜ私はBLに萌えないのだろうか?





BLには全く興味がない。
腐女子に関する本「腐女子化する世界―東池袋のオタク女子たち」を読んでも、彼女たちのことは理解できなかった。

いい男大好きの私にしたら、ただでさえ競争率の高い男を他の女だけでなく男とも張り合わなくてはならない世界は、想像しただけで辛いではないか。
でも、BLのどこに萌えるのか、なぜBLにハマるのかということには興味を持っていた。
そこで、本書を読んでみることにした。

本書は よしながふみ さんが、萩尾望都 さん 三浦しをん さんなど6人の漫画家・作家と、漫画について熱く語りあった対談集である。
会話文なので読みやすいだろうと読み始めたのだが、私にとっては学術書並みに難しかった。
知らない漫画があまりに多すぎて、注釈を読んだり検索しながら読み進めなければならなかったのだ。

小学生の時は「なかよし・りぼん・ちゃお」その後「花とゆめ・別マ」「mimi」そして少年誌・青年誌とそれなりに読んできたつもりだったのだが、漫画好きな方からしたら、もう私なんて何も知らない赤子の様な存在なのだと気づいた。

そして、この本で色々学習させていただいた。
ゲイものとBLは違う。
同性愛の行為があるからといってBLとは限らない。
上司と部下など、シュチュエーションが大事なので、最初にプロフィールをきちんと説明する。
一棒一穴主義の純愛や、恋愛に対しては純情で仕事に対しては一生懸命、などが好まれる。
読者はそれぞれ萌えポイントが違うが、「切なさ」が重要。
男は女に憧れないが、女は男に憧れるのでBLが好まれるのではないか。
男の人に対して、自分がタチになれるという少女漫画では味わえない楽しみがある。
BL好きは、紡木たく「ホットロード」が好きではない・・・

などなど、へぇ~ボタンを連打しながら読んだのだ。

そして、私がBLに萌えない最大の理由は「BLの文法を理解していないから」だとこの本を読んでわかった。
少女漫画には少女漫画の、少年誌には少年誌の、細かく言えば少年ジャンプには少年ジャンプの、ローカルルール・お約束があり、それを理解していないと読んでも本質がわからないのだという。
つまり、私が読んできた漫画はBLにつながる系譜ではなかったので、BLの文法が理解できていないため、読んでも本当の面白さを理解できないから興味を持てないということだ。

確かに、兄の影響で読んでいた少年漫画がおもしろくて、「マカロニほうれん荘」「1・2の三四郎」が好きだったし、初めて書いたファンレターは 柳沢みきおさん だった。
そのほかはギャグやスポ根ものが好きだった。
「ホットロード」を好きになれなかったところは一緒なのだが。
大人になってからは、「龍-RON-」「JIN-仁-」のような本を好んで読んだ。
そういうジャンルばかり読んでいたから、BLが理解できないのは当たり前なのだ。

何事も練習やトレーニングが必要なように、BLを楽しむためにはBLにつながる系譜の漫画を読んで練習を積む必要があったのだ。
自然とBLの文法を理解できるように。

他にも、
想像の世界の恋愛よりも、目の前のリアル恋愛の方が楽しかったし、奥深い「フランス映画」より何も考えないで楽しめる「ハリウッド映画」が好きとか、そういう趣味や性格の違いもあるのだろう。


【この本を読んでの私なりの結論】
私はBLを読み解くための知識を有していないためBLに萌えることができない。