2016年10月27日木曜日

少女ソフィアの夏

トーベ・ヤンソン著
講談社
 



 祖母と孫娘の島での暮らしが描かれた22編の短編集。
そう聞くと、「ああ、おばあさんが孫娘を優しく見守るほっこり系のお話ね、わかるわかる。」なぁんて思うでしょ?
これが違うんだなぁ。
このおばあさん、普通じゃないんだから。

冒頭で、孫娘がいきなり「おばあちゃんいつ死ぬの?」なんて聞くからびっくりしちゃった。
だってなんの状況説明もなくて、「あなたは誰?そこはどこ?」の状態だったのに、そんなこと言うんだもん。
この二人の関係大丈夫?って心配するのわかるでしょ。

読んでいくうちにどうやら、ママは亡くなってパパとおばあちゃんと孫娘ソフィアと3人で、夏の間だけ島に来ているってわかるんだけどね。
でもパパの存在は薄くっておばあさんのキャラが濃いから、題名は「ソフィア」だけど主人公はおばあさんだと私は思うの。

鳥が死んでいるのを見つけた時に孫娘ソフィアが「埋めてやらないの?」と聞くと、おばあさんは「そんなことしなくていいんだよ。しぜんに葬られるの。」って答えるの。
これでいっぺんにこのおばあさんのファンになっちゃった。

ときにはパパとの約束を破っていいのか不安がるソフィアに「眠っているからわかりっこないよ。」と言って煽るおばあさん。
「家宅侵入?」と孫娘に言われながらも知らない人の家に鍵を壊して入るおばあさん。
孫娘といかさまを駆使しながらトランプをして、いつも喧嘩になってしまうおばあさん。

70歳も年下の孫と
本気で一緒に遊んで、
本気で喧嘩して怒って、
本気で向き合うおばあちゃん。
二人の独特な世界が展開されていくのを見ていると、祖母と孫だけど相棒とか親友のようにも思えてくるんだから。

べったりしていない二人は、子どもの気まぐれや残酷さ、年寄りの老いや頑固さも隠さず、それでいてとてもいい関係で見ていると微笑ましく思えてくる……あれ?ほっこり系じゃないって最初に言ってたのに、まぁ、いっかぁ。

そして、私もいい歳なのに童心にかえって一緒にわくわくしたり、知らない場所・知らない時代・知らない風景なのになぜか懐かしく、ノスタルジックな気分になっちゃったりするのよねぇ。

簡潔な文章で挿し絵もほとんどないけれど、だからこそ頭の中に自然豊かな島の風景が浮かんでくる物語でもあるの。
まるで動く絵画のような。

でも、私が思い浮かべる風景とあなたが思い浮かべる風景はきっと違う。
読んだ人それぞれの頭の中に大切な「夏」が描かれていく……そう思える素敵な世界だったよ。

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縁あってこの本を手に取り、きっと素敵な本だと確信したので、先入観を持たずに読もうと1ページ目からゆっくり読んでいきました。
あとがきを読んで、初めて色々わかりました。

本書はムーミンでお馴染みのトーベ・ヤンソンさんが「私の書いたものの中で最も美しい」とおっしゃる物語です。
「おばあさん」のモデルはトーベ・ヤンソンさんのお母さん、「ソフィア」は姪っ子で、舞台となっている島は彼らが毎年夏に4ヶ月ほど過ごす実在の島だそうです。
だから、思い入れがあるのでしょう、島の自然が生き生きと描かれています。
本当に簡潔な文章で、情緒たっぷりとか細かい情景描写とかないにも関わらず、不思議と景色が浮かび上がって来るのです。
これがトーベ・ヤンソンさんの魅力なのかな?と初心者のくせに思ったりしました。

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