2016年10月10日月曜日

唐牛伝

60年安保闘争を闘った男の宴のあと。

唐牛伝
佐野眞一著
小学館




1960年のいわゆる安保闘争において、全学連委員長としてシンボル的存在だった唐牛健太郎を中心とした「闘士」たちの評伝である。

「闘士」たちはその後、華麗なる変身を遂げていく。
ブントの頭脳として知られ、のちにノーベル経済学賞に最も近い日本人と呼ばれた男。
保守派の論客として名を成した者。
日本を代表する高名な文芸評論家となった者。
地域医療の発展に寄与した者。
その陰に隠れて、唐牛健太郎は、全てを断ち切るかのように表舞台から姿を消す。
その唐牛の足跡を、出生地・函館から徳州会・徳田虎雄の参謀になり病に倒れるまで、著者は丹念な取材で追っていく。

樺美智子さん始め傷ついた若者たちの責任を生涯の重荷として背負い、
自分を崇めたてる周囲の目を気にし、
芸者の庶子として生まれた負い目を感じながらも、
「闘士」としてのイメージとは違って明るい笑顔で人々を惹き付けながら駆け抜けた47年の太く短い生涯が浮き彫りにされていく。

全学連の周りには、左翼・右翼だけでなく大物政治家、公安、やくざ、陸軍中野学校出席者など謎めいた人物が蠢き、利用し利用される様子を読んでいると、驚きと疑問で頭がこんがらがってくる。

唐牛が「太平洋ひとりぼっち」の堀江謙一氏とヨット会社を設立した際、人づてに山口組田岡一雄組長に資金提供を頼むと理由も聞かずに「おう、わかった、わかった。」と言ってすぐにお金を提供されたくだりには唖然としてしまった。
唐牛にはそれだけ人間的魅力があったのだろう。

題名は唐牛伝となっているが、唐牛健太郎のことだけではなく、全学連の仲間たちのその後にも触れられている。
また、今ではほとんど聞かれなくなった左翼用語や流行語が出てきたり、当時の風俗が垣間見れ、SEALDsとは違った泥臭さ満載である。
私を含め安保闘争を知らない世代には新鮮味を感じるのではないだろうか。

最近の佐野眞一氏の著作は自己顕示欲が見え隠れして読み辛い部分があったが、本書は細かいエピソードまで盛り込まれ、骨太で大変読みごたえがあった。
ご本人もプロローグで述べているように、橋下徹氏の一件で休筆を余儀なくされ、心機一転・再スタートのつもりで書いたからなのだろう。
ただ、亡くなられた関係者も多く、また公安や世間の目を気にしてかあるいは佐野氏に人望がないためなのか、取材に応じない方々もいたため、消化不良気味なのが残念だ。

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