2016年11月8日火曜日

ピカソになりきった男

その絵画、本物ですか?贋作者が語る贋作の作り方。

ギィ・リブ著
キノブックス



「その朝、俺はピカソだった。」という一文で始まる本書は、贋作作家として、ピカソ、シャガール、マティスなど有名画家の贋作を製作していた男の告白である。

1948年フランスで生まれたギィ・リブは、娼館を営む両親のもとで、教養・芸術の類いとは無縁に育つ。
その後、家出して路上生活をしながら荒んだ生活をしていた。

そんなギィ・リブだが、幼い頃から絵を描くことが好きで、巡りあった人々から審美眼を学び、図案師の修行などで絵画の腕を鍛えていく。

その後、贋作製作の道に進んでいくのだが、贋作といっても本物の模写だけではない。
画家が「描いたかもしれない新作」までをも生み出すのだ。

本書のクライマックスはその製作過程にある。
「良い贋作を作るには、偽造するアーティストについて、そのテクニックから、彼個人と周りの人の話まで、完全に知らないと不可能だ」と語るギィ・リブは、ありとあらゆる文献を漁り、その当時の画家の心理状態まで調べ上げ、当人になりきる。
画材ももちろん当時のものを使い、古く見せる工夫をする。
読んでいると、その努力、その飽くなき探究心、その憑依ぶりに感動すら覚えてしまうのだ。
でも残念ながら、その努力の方向が間違ってるのだが。

画家のサイン、証明書、画商の暗躍……
アートの世界の伏魔殿ぶりにも驚くばかりだ。
自分が模倣されているのを知りつつ順応している画家や、画家同士で模倣しているケースもたくさんあるらしい。
画家本人が贋作を本物だということすらあるのだから、もう何がなんだかわからなくなってくる。
この世界に「絶対」はないのだろうか。

ギィ・リブの贋作の多くが、現在もなお「本物」として市場に流通しているのだという。
あなたが感動しているその絵画も、もしかしたら贋作かもしれない。

※読んでいると必然的に彼の「作品」を見てみたくなるのだが、検索しても出てこなかった。
当たり前か……

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