2017年5月16日火曜日

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち

平凡な人の人生が、ある日突然破壊される!ネットリンチの怖さに迫る。

ジョン・ロンソン著
夏目大訳
光文社



本書は、自らのコメントなどで炎上した結果、社会的地位・職を失った人たちや、吊し上げた側のインタビューを通し、ネットリンチとはどのように起き、そしてどのような被害をもたらすのか明らかにしていくドキュメントである。
(原題は「 So You've Been Publicly Shamed」 )

著者は、ロンドン在住のコラムニスト、ノンフィクション作家で、「サイコパスを探せ」などの著作がある。

ある日、著者は、Twitterで自分を騙るbotアカウントを発見した。
IT関係者や研究者ら3人が、著者になりすましていたのだ。
削除に応じない彼らとの対話を動画サイトで晒し、削除させることに成功する。
その出来事をきっかけとして「炎上」に興味を持ち、当事者たちにインタビューしていく。

ボブ・ディランの発言を捏造した人気作家と、それを暴いたジャーナリスト。
ジョークのつもりのつぶやきが人種差別とみなされ、世界最大の炎上事件となってしまったネット企業の広報部長。

また、隣に座った友人と内輪ウケのジョークを言い合っていたところ、その内容と顔写真を前の席に座っていた女性につぶやかれ炎上、双方とも失職した例もあげられている。

何か言動に問題のあった特定の個人を大勢の人が晒し者にし吊し上げた結果、彼らは一様に職を失い精神的に大きなダメージを受けている。

一方、SM乱交スキャンダルで致命傷を負ったかにみえた国際自動車連盟会長は、ほぼ無傷で復活を遂げた。
売春婦の顧客リストが流出し、牧師や弁護士などの名前が明らかになったが、炎上せずに収束した例もある。

炎上する・しないの違いはどこにあるのか?
巻き込まれた場合、どう対処したらいいのか?
炎上後、復活するにはどうしたらいいのか?
当事者たちへのインタビュー、「恥」を知るためのAV撮影現場の見学や女装体験・・・など、様々な観点から考察していく。

著者は終始冷静な口調で「これまで何人もの人を公開処刑にした」などと、なかなか言いづらいことを告白したり、素直に思ったままのことを言葉にし綴っている。
そこまであからさまにに言うのか!と驚くほどだ。

炎上の元となった不用意な発言で、直接傷ついたのは誰だろうか?
吊し上げる者たちは、「これを聞いたらあの人が傷つくだろう。」と推測し、代わりに感情的になる者が多いのではないだろうか?
しかも、悪いことをしているという自覚はなく、むしろ正義感から良かれと思い告発して自己満足しているように感じられる。
そしてしばらく経つと、忘れてしまう・・・
そう考えると、やはり一番傷つくのは発言し叩かれた本人だろう。
だからといって、ソーシャルな場で不用意な発言をする者を擁護しているわけではないが。

日本での炎上はもっと低俗だ。
政治家の問題発言や芸能人の炎上騒ぎ、一般人では迷惑行為の証拠を自ら投稿した「バカッター」、「バカチューバー」が世間を騒がせている。

ローマ時代にコロッセオで行われた公開処刑は、当時人気の娯楽だったという。
火炙り、ギロチン、市中引き回し・・・様々な手段で行われてきた公開処刑の歴史は古い。
これからも「炎上」という名の公開処刑、公開羞恥刑はなくならないだろう。
また、炎上までいかなくても、ネット上のやり取りで誤解を招くことは誰にでもあり得る。
良識ある発言、そして自分の身は自分で守る事が大切ではないだろうか。


※日本でも最高裁判所が決定を下し話題になった「忘れられる権利」。
何か評判を落とすような自分に不利な検索結果が上位にこないように、「評判管理」を請け負う会社があるのだという。
例えば、顧客にとって都合のいい事が書かれているサイトを捏造し、それが検索結果の上位を占めるように操作する、などである。
調べると、日本にも同様の会社があると知り、驚いた。

※子どものなりたい職業ランキングでYouTuberが急上昇しているという。
(新1年生対象クラレ調べで25位、小1~6対象学研調べでも25位)
ネットリテラシー教育の充実が必要だと思う。

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