2017年2月18日土曜日

小説 この世界の片隅に

人間って強いようで弱いもの。だけど、人間って弱いようで強いのです



映画「この世界の片隅に」を観てきました。
戦時下の広島で暮らす「すず」が主人公です。
すずは、絵を描くことが大好きなのんびりした少女です。
縁あって呉に嫁ぐことになりました。
最初は戸惑っていた婚家での暮らしですが、いつしか馴染んできた頃、戦況が悪化していきます。
辛いことをたくさん経験しながら、すずは次第にたくましくなっていく、というお話です。

映画館が明るくなった時の感情を、なんと表現したらいいのでしょう。

  なんだろう、この気持ちは。
  悲しくて泣いているんじゃない。
  ましてや、悲惨で可哀想と同情しているのでもない。
  なんだろう、この感動は。
  なぜこんなに清らかな気持ちになるのだろう。



 この感動を抱えたまま本屋さんに走り、店員さんに「映画の原作本ありますか?」と聞いて渡されたのが本書です。
何も考えず、買って帰ってビックリでした。
原作はコミックで、これは映画をそのまま小説化したノベライズ版だったのです。
もぉ、お姉さんたら!

読んでみると、遊郭の女性との交流や夫の過去など、映画にはない場面がいくつもありました。
この本を読んで初めてそうだったのかと納得できたのです。
お姉さん、ありがとう!

映像をそのまま活字にしたような文章なので、あの感動がまた甦ってきます。

  戦争の苦しみに思わず洩らしたすずの本音。
  「なんでこんなことになるんじゃ。うちらが何をした

      んじゃ」

  玉音放送を聞いたすずの叫び。
  「最後の1人まで戦うんじゃなかったのかね?」

  娘を亡くした母の慟哭。


思い出しては、胸がつまります。
だけど、決して戦争の悲惨さを必要以上に表現した作品ではありません。
苦しい状況下で工夫しながらたくましく生きる人々の日常が、笑いを交えて描かれているのです。
映画館では何度も笑い声があがりました。

  戦争中でも、草木は茂り、セミが鳴く。
  新型爆弾が落とされても、日はまた昇り、風が吹く。
  終戦を迎えても、お腹がすきご飯を食べる。
  母を亡くしひとりぼっちになってしまった少女にも、

   いつしか笑顔が戻る。

人間って、自分の意思とは関係ない大きな何かに巻き込まれ、簡単につぶれてしまう弱い存在です。
でも、つぶれても立ち直る強さを兼ね備えているのです。
この世界の片隅に生きているちっぽけな私も、あなたも、みんなが笑うて暮らせりゃええのにねえ。
そんなメッセージを受け取った気がしました。

※映画を観ずに本書だけ読むのはおすすめできません。
ストーリーを追った内容なので、世界観までは表現できていないと思うのです。
のどかな風景など絵の柔らかさ、シュッシュッとデッサンする鉛筆の音などは、映画でなければ味わえません。

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