2012年8月12日日曜日

ロスト・トレイン

ロスト・トレイン
中村弦著
新潮社

「誰にも知られていない廃線跡の、始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる」 読者と共にロスト・トレインを求める旅へ



廃線跡を訪ねるのが趣味の会社員 牧村 は、ふとしたことから37歳年上の 平間さん と知り合う。
平間さん は生粋の鉄道ファンで、様々な事を教えてくれた。
牧村 にとって、年は離れているが友達のように接してくれるかけがえのない人だった。
ある日
「誰にも知られていない、幻の廃線跡がある。その始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる。」
そんな噂を教えてくれたあと、行方不明になってしまう。
平間さん の鉄仲間である旅行代理店勤務の 菜月平間さん を探す。
果たして 平間さん はどこへ行ったのか。


私自身は鉄道にあまり興味がない。
だから、鉄道ファンの心理もよくわからない。
電車のデザインが好きなのか、乗って景色を見るのが好きなのか、と鉄道ファンの知り合いにしつこく聞いたことがあった。
その人の回答は要領を得ないものだったが、きっと「乗っている時の振動と乗っている自分」が好きなのだなぁと私の中で勝手に結論付けた。

この本では、鉄道マニアたちが、何を求めて鉄道に乗るのかは様々で、色々なタイプがいるのだとわかる。
主人公の 牧村 はマニアではないが、廃線跡を訪ねて自分が生まれ育った街への懐かしさを感じるのが好きなのだ。
他にも写真を撮ったり、時刻表を集めたり色々な鉄たちが登場する。

しかし、彼らは特別個性的なわけではない。
鉄道が好きな普通の人々だ。
本書には衝撃的な表現もない。
静かに物語は進んでいく。
その語りかけてくるような落ち着いた雰囲気が、私にはとても心地よく感じた。

そして、「人の一生は鉄道と似ていて所々に乗り換え駅がある」という表現にうんうんと頷いた。
今、別に人生の岐路に立っているわけではないけれど、たまには立ち止まってじっくり考えることも必要だなぁと思う。

とても素敵な雰囲気の幻想的なミステリーで、出会えてよかったと思える一冊だった。

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