2013年1月11日金曜日

母の遺産―新聞小説

母の遺産―新聞小説
水村美苗著
中央公論新社

ママ、いったいいつになったら死んでくれるの。待ち望んでいた母の死。今日、母が死んだ。



体調不良と夫婦関係に悩む大学講師の美津紀。
長年複雑な感情を持ち続けた母が死んだ。
上昇志向が強く分不相応の暮らしを望んた母の死を、いつの頃からか願うようになった。
本書は、そんな満たされない50代の主人公・美津紀を、緻密な心理描写で克明に描いた長編大作である。

結婚以来別居している母の死を望み、猫可愛がりしてくれた祖母まで「愚かな老婆でしかなかった」と表現する美津紀。

夫の実家で使われている「駄食器」
ウォーキングする年のいった女たちを「胴のくびれも何もないみっともない体型を平気で晒し、なぜあんなに必死で歩いているのか」
そんな人を見下したような、意地の悪い表現も多い。

平均以上に恵まれている境遇にもかかわらず、不幸を嘆き続けるような中年女・美津紀。
自分の事は棚に上げて人を批判しているように感じられ、主人公に共感することができなかった。

負のエネルギーが充満しているようで嫌悪感すら感じた。
それなのに、読むのを止められない。
長編にもかかわらず、一気に読まずにはいられなかった。

兄弟姉妹間での格差、女性の自立、結婚・離婚・浮気、親の介護、尊厳死、そして遺産相続。
今を生きる者には避けて通れない問題、誰にでも一つは当てはまるような問題を、目の前に突きつけてくるのだ。
嫌悪感を抱いたのは、目をそらしている問題と否応なしに向かい合い、心がえぐられるような気がしたからかもしれない。

分厚く重たい本書だが、内容的にも心にずっしりのしかかるような話だった。

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