2013年10月20日日曜日

幕が上がる

平田オリザ著
講談社

高校の演劇部が舞台の物語。高校生ってやっぱり眩しい。キラキラ輝いていて眩しい。




小学校の発表会で宮澤賢治作「よだかの星」の劇をした際、大きな声が出るという、ただそれだけの理由で主役のよだかを演じた。
今から思うと単なる棒読みで、心を込めて演じる・役になりきるということの意味すらも分かっていなかった。照れや迷いを捨てきることができなかったのだ。
映像が残っていなくて本当によかった。

舞台を見に行くと、時々最前列の席がとれることがある。
間近で見る俳優さんたちは役になりきっていていとも簡単に涙を流し、喜びを体いっぱいに表現している。
心技体に加えて、理解力も必要な難しい仕事だろうと思う。

で、この 「幕が上がる」 である。
舞台は、北関東にある高校の演劇部。
目標は地区大会を突破して県大会に出場するという弱小のクラブではあるが、それぞれ懸命に努力していた。
そんな中、新学期に新任の美術教師が学校にやって来た。
美人な上に、大学時代演劇をやっていたという噂だ。
さっそく副顧問をお願いし、指導してもらうことになった。
その美術教師は、なんと「学生演劇の女王」という異名まで持つ人だった。
強豪校から転校してきたクールな天才少女。
ちょっぴりメンドくさい性格のお姫様キャラの看板女優。
演劇はど素人で「すげー」が口癖の顧問の先生。
そんな登場人物たちが県大会を目指して奮闘する青春物語である。

演劇部の部長である さおり の一人語りで綴られていくこの物語は、読みやすく、演劇に打ち込む高校生たちにすぐに惹かれていった。
今までも別にやる気がなかったわけじゃない。
ただ、どうすればいいのかわからなかったのだ。
上手く指導したり助言するだけで、彼らは格段に上達していく。

女子高生の心の中をちょっと覗き見させてもらうくらいの気持ちでいたのに、いつの間にか、頑張れ!頑張れ!と保護者の気分になって応援している自分がいた。

悩みながらも力を合わせ少しずつ形にしていく。
本番の舞台で緊張し、手が震える。
きっと大丈夫と確信したり、不安に思ったりと揺れ動く少女の心情が手に取るようにわかり、「ああ、懐かしいな」と遠い昔を思い出していた。

スマホやギャルメイクとは無縁の田舎の高校生たちだが、演劇に勉強に真摯に打ち込んでいる等身大の高校生たちに好感が持てる。
高校生たちってキラキラ輝いていて、眩しいな。
自分たちはそのことに気がついていないだろうけど。
遠い昔を思い出して、感傷的な気分にさせてくれた1冊だった。

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