2012年8月16日木曜日

『薔薇族』編集長

 『薔薇族』編集長
伊藤文学著
幻冬舎

偏見を少しでもなくすために「薔薇族」を創刊した著者の苦労を綴った一冊。彼らの絞り出されるような苦悩に何度も涙した。



大学を卒業し、父親が経営していた小さな出版社を手伝うことになった著者。
あるきっかけから、同性愛の悩みを綴った手紙を受け取る。
日本のあちこちに悩んでいる男性が多い事を知った著者は、1971年、社会的にタブーの領域であったその分野の雑誌「薔薇族」(当時¥230)を創刊した。
「地方にいて孤立している彼らに少しでも連帯感を持たせ、日本の薔薇族たちが明るい方向へ前進するように」と。
そして、中学生から80代までと幅広い層から熱烈歓迎を受けるのだ。
驚くことに著者はノンケで妻子もいるという。

本書は、雑誌を創刊してからの著者の苦悩や葛藤を綴った本である。

海外からも手紙がくる、中国の少数民族が宝物のように読んでいる、「美少年の同性愛者と結婚したい」というBL好きの女子高生・・・等驚くような話がたくさん書かれていた。

当初知名度も低いため、書店の園芸コーナーに置かれたなど、笑える話もある。
しかし、本書の中心となっているのは薔薇族たちの切実な苦しみだ。

日本中に300万人ぐらいの男性同性愛者がいる(本書より)、そして大半がそれを隠して(ときには奥さんにまで)、普通に生活しているという。

定期購読者に「薔薇族」を送る封筒も特注で丈夫な二重封筒にし、中が見えないように気をつける。
彼らがどれだけ弱みに思い、ばれないかとびくびく暮らしているか、著者は知っているのだ。
そういう風に生まれたのは彼らのせいではないのに、オヤジ狩りのようにゲイバッシングと称して襲われたり、偏見に苦しんだりと辛い思いをしている薔薇族がたくさんいる事を本書は教えてくれた。

「子供のいない人生、伴侶のいない人生、私は家庭が欲しい。互いに助け合って生きてくれる人が欲しい。」
雑誌が見つかり母が心労のため倒れてしまい、「お母さん、驚かしてごめんなさい。」
読者からの絞り出すような苦悩の手紙に、何度も目頭を押さえる。 
大事故や大震災で犠牲になった恋人をニュースで知っても、故人との関係を伝えることも、葬儀に参列することもできずに悲しんでいる人たちが多数いるという。

そして、避けては通れないエイズ問題。

創刊当時よりはましになってはいても、まだまだ薔薇族たちの苦悩は続く。

興味本位で読み始めた私の頭を、ガツンと殴って気付かせてくれたいい本だった。

ただ、少年愛についての記述は、受け入れられない箇所がいくつかあった。

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