2012年7月2日月曜日

二重生活

二重生活
小池真理子著
角川書店

小池真理子さんの長編小説。見てはならないものを見てしまった女は、その男の尾行を繰り返す。 男と女の関係は「刺激」というスパイスで、もっと盛り上がるのだ!!




女優の運転手をしている恋人卓也と同棲している大学院生・
仏文学の講義で教授が言った「街でたまたま見かけた或る人物を、何の目的も持たずに、尾行する人間がいたとしたらどうか。そういう人間の行為には、文学的意義、ないしは哲学的に考察されるべき意義が潜んでいる。」という言葉に深く感動する。
ある日、近所の幸せそうに見える家族の夫石坂を見かけ、つい尾行してしまう。
そして石坂が他の女と愛を囁き合う現場を目撃する。
珠は「文学的・哲学的尾行」を繰り返してしまう-----。

小池真理子さんといえば、都会的な男女を描いた小説というイメージがある。
この小説も、恵比寿の高級ホテルのスイートルーム、イタリアンレストランで飲むワイン、華やかな女優、など「都会的」な匂いがむんむん漂う。
登場人物たちもおしゃれで都会感がある。
そういう意味では小池作品らしいともいえる。

しかしこの話の中心は、文学的・哲学的とはいっても「尾行」である。
舞台はおしゃれなホテルであろうと、のぞき見である。
そして読むのは都会的でない俗物である私。
「ふんふん、それから?」と好奇心でいっぱいになってしまう。
罪悪感を感じずに尾行しているような気になり、人の秘密を知るという蜜の味を楽しめる。

おしゃれで、相手に遠慮しながら争う事を極力回避する。
そんな人でも、刺激を知ってしまうとその魅力に取りつかれる。
そうでしょ、気取った世界より、下世話な世界の方が楽で楽しめるよ、こっちへおいでよと誘い込まれるような引力がある。

都会的な雰囲気の中に「土のニオイ」を感じた物語であった。

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