2012年7月24日火曜日

ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観

ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観
ダニエル・L・エヴェレット著
屋代通子訳
みすず書房

アマゾンの奥地に暮らす少数民族「ピダハン」。30年にわたって共に暮らし共に笑った著者渾身のノンフィクション。





アマゾンの奥地に暮らす少数民族「ピダハン」
この本は、現在400人を割っているという彼らと共に暮らした30年をまとめたノンフィクションである。

著者は、アメリカの福音派教会から派遣された言語学者兼伝道師として、ピダハン の村に赴く。
目的は、ピダハン語 を理解し、聖書を翻訳し、そして彼らを改宗させるためだ。
妻と子供3人と共に ピダハン の村で生活しながら、彼らと接していく。


ピダハン の文化はとてもシンプルで、道具類はほとんど作らない。
作るにしても、長くもたせるようにはしない。
芸術作品もほとんどなく、物も加工しない。
儀式もない。
食事も毎日食べるわけではない。
保存食もなく、備蓄もしない。
漁をして魚を獲ったら、夜中であっても家族を起こして全て食べる。

ピダハン達 は、そんなシンプルな生活の中で、忍耐強く、朗らかで親切であり、とても幸福そうに見える。
実際に見たものしか信じないという独特の価値観を持ち、他の文化を受け入れない。
自分たちの文化を誇りに思い、満足しているのだ。

著者は、長年彼らと接するうちに、今のままで十分幸せそうであり、「迷える子羊」でもない彼らを改宗することに疑問を抱き、自らも信仰を捨て、無神論者となっていくのだ。

未知の文化に飛び込んで、全人格をもってフィールド研究に打ち込んだ著者。
読みながら、ピダハン 独特の価値観に驚いていた私も、だんだん彼らに惹かれていく。

この本の中核を成すのは、ピダハンの言語に関する考察である。
ピダハン語 は現存するどの言語とも類縁関係がないという。
「ありがとう」「こんにちは」など社交上の言葉もなく、色の名前、数や左右の概念もない。
今まで考えられていた「普遍文法」「言語本能論」「リカージョン(入れ子構造)」等が、ピダハン の文化と言語に接するうちに、ガラガラと崩れていくのは見ものであった。

「今まで出会った中で一番幸せそうな人々」である ピダハン
世界観・価値観がこれほどまでに違う ピダハン に魅力を感じるとともに、いつまでもその文化を維持してほしいと願う。

参考: ピダハンのインタビュー動画

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