2012年7月18日水曜日

お待ちになって、元帥閣下 自伝 笹本恒子の97年

お待ちになって、元帥閣下  自伝 笹本恒子の97年
笹本恒子著
出版社:毎日新聞社

日本初の女性報道カメラマンの自伝。御年97歳!!


大正3年生まれの著者。
画家を目指し絵画の勉強をしていた時、知り合いの新聞記者から新聞に掲載するイラストのカットを頼まれる。
その縁で、「写真協会」の報道カメラマンとなる。ときは日中戦争の真っ最中。
フィルムの入れ方も知らず、「引っ込み思案のあなたには無理じゃないかしら」と友人に言われながらも奮闘する。
昭和25年には日本で初めての写真の個展を開く。
そして平成22年には、96歳で写真展を開催した。
この本は、そんな著者の人生を振り返った自伝である。

「日本初の女性報道カメラマン」と聞けば、勇ましいとか男勝りというイメージが浮かんでしまう。
しかし、この方は表紙の写真そのままの上品で可愛らしいおばあさまという感じの語り口調で、優しそうなお人柄がよくわかる。
「おばあちゃん」や「おばあさん」ではなく、やっぱり「おばあさま」という感じなのである。

関東大震災に始まって、2.26事件、日中戦争・太平洋戦争・・・日本史の教科書のような出来事が続く。
撮影した有名人も、川端康成、浅沼稲次郎、井伏鱒二、越路吹雪、三木武吉、マッカーサー・・・とやはり昭和史を彩る人物が多数挙げられている。

そんな時代に「職業婦人」として、しかも男社会に「日本人女性初の報道カメラマン」として仕事するということは、どんなにか大変だったろうと思う。
しかし著者は、「お買い物に行ってまいりました。」と同じような調子で、さらりと苦労を語っているのだ。

そして、題名にもなったエピソード。
マッカーサー元帥夫妻の写真を撮ろうとした時、フラッシュが発光しなかったのだ。
困った著者は、「エクスキューズミー、ここでお写真を撮らせていただけませんか」と頼み、立ち止まってもらう。
「天皇陛下とマッカーサーには声をかけるのは厳禁」の時代である。

優しそうな笑顔の中に、人に迷惑かけたくない、礼儀正しい、義理がたい、そんな強い芯が通っているような方だった。
いつまでもお話を聞いていたいような気分になる本である。
ただ、弱音を吐くような方ではないのだが、苦しい・悲しい等のマイナスの感情もお聞きしてみたいなと思った。

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