2012年11月1日木曜日

家守綺譚

家守綺譚
梨木香歩著
新潮社

秋の夜長にぴったりの物語。



売れない作家、綿貫征四郎 は、亡くなった親友 高堂 の父親から、
隠居するので実家の守をしてくれないかと頼まれる。
渡りに船の話に飛びついて、その家に住むことにした。
庭の手入れはご随意にと言われたので、全く手をかけない。
「私の本分は物書きだから」と非常勤講師の職も「辞めてやった」。
そんな 征四郎 が四季折々の自然と共に暮らす様子が描かれている。


冒頭から、亡くなった親友の 高堂 が屏風の中から現れる。
そんな出来事に遭遇したら悲鳴を上げて逃げ惑うような気がするが、
そんなこともせず「どうした高堂。会いに来てくれたんだな。」と受け入れる 征四郎
庭のサルスベリに惚れられて「木に惚れられたのは初めてだ」という。

そんな超常現象ともいうべき出来事を、すんなり受け入れる征四郎の姿を読んでいると、
読み手の私も疑問を持たずにクスクス笑いながら読み始めた。

そこで、「どうして死んだ人間が屏風から出てくるのか?」「なぜ木が人に惚れるのだろう?」と頭が??でいっぱいになる方にはこの物語は受け入れにくいだろうと思う。


夏目漱石を思い出すような文章で、美しい日本語の中に紅葉・啓蟄、など日本の四季が織り込まれている。
読んでいると清々しい空気の中、澄んだ池のほとりを散歩しているような気分になった。

主人公のどこかトボけた様なおかしさ、その中にある暖かさも魅力的である。
まるで、大人のための童話集のようだ。


静かに進みながらクスクス笑いが混じっているような物語、秋の夜長に読むにはぴったりの本だった。

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