2012年11月4日日曜日

貴婦人Aの蘇生

貴婦人Aの蘇生
小川洋子著
朝日新聞社

哀しくも温かい物語。


新郎は母の兄である伯父さん、51歳。
新婦は亡命ロシア人である青い瞳のユーリ伯母さん、69歳。
結婚後、伯父さんの趣味である剥製だらけの洋館で仲良く暮らしていたが、伯父さんが心筋梗塞で死亡した。
21歳の大学生である私が、伯母さんと洋館で暮らすことになった。
伯母さんは、ロシア最後の皇帝ニコライ二世の四女アナスタシア皇女であるという噂がたつ。
果たして、二人の暮らしはうまくいくのか、また伯母さんは本当に皇帝の娘なのか。


独特のキャラクターが登場する小川洋子さんの小説の中でも、特に個性的な人物がたくさん登場する。
亡くなった伯父さんは、把握しきれないほどの剥製を家中に置いていた。
伯母さんは、その剥製に震える手でお世辞にも綺麗とは言えない刺繍をする。

そして、主人公の恋人は強迫性障害を患っていて、ドアの前でグルグルと8回転し、扉の四隅を親指で押さえつけ、めいっぱいジャンプするという奇妙な儀式をしないと入ることができない。
途中でわずかなズレでもあると最初からやり直すほど徹底している。

一見突飛でユーモラスな設定に思えるが、小川洋子さんの柔らかい文章に包まれ、物語は静かに進行する。
場所や設定も曖昧なのだが、妙なリアリティがあり、心の中にすっと溶け込んできた。
噛み合わない登場人物たちがいつしか一つにまとまって、素敵な物語を織り成していく。
そして、いつのまにか登場人物たちを愛おしく感じていた。

哀れみを感じ、温かい気持ちにもなる。
おかしくもあり、せつなくもなる。
そんな心に残る物語だった。


※個人的には、こちら↓の単行本の表紙の方がふんわりしたやさしい雰囲気が出ているように思う。

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