2012年5月1日火曜日

平成猿蟹合戦図

平成猿蟹合戦図
吉田修一著
朝日新聞出版
「悪人」の吉田修一氏が書いた明るくスピーディーな小説。現代のさるかに合戦らしいのだが・・・




高校中退後、地元長崎・五島列島のスナックでホステスをする美月は、朋生と結婚し男児をもうける。
しかし、夫は新宿歌舞伎町でホストになる。夫を追いかけて行った美月は、歌舞伎町で様々な人物、韓国バーを切り盛りするママ、そこで働くバーテンダーらと出会う。
一方、有名なチェロ奏者の湊は交通事故を起こし、人をひいてしまう。
弟家族、そのマネージャーでやり手の夕子、年老いた祖母を巻き込んでいく。
そして、ある人物が国政を目指す・・・
8人の視点から物語が進むエンターテイメントストーリー。

「悪人」や「さよなら渓谷」などの重厚感あふれる小説を思い出しながら読むと面食らう。
とても、軽いのである。
いや、テーマは奥深く考えさせられるのだが、文章や登場人物が明るく交通事故など重い話でもサクサク読めてしまう。
登場人物が多いため、前半というか、半分近くまでその紹介のようなエピソードが続く。
導入部分が長いので、正直少し飽きてくる。
ただ、そこを過ぎるとあとはぐんぐん引っ張られて最後まで一気に読み終わった。

著者は、今までリアリティを追求してきたが、この作品ではそれをいったん緩めたという。
それで納得する。次から次へと展開していき、あり得ないでしょっ!と思うようなことも話の早さと軽さで乗り切ってしまうような小説であった。

人は、色々な側面を持っていて、「適材適所」の場所にはまれば意外な能力を発揮するのだと気付かせてくれる話だった。

この本の中に、おばあちゃんをみんなで敬い大切にする、赤ちゃんをみんなで可愛がり見守るというよく話が出てくるのだが、それには心が温まる。そんなのは当たり前とわかっていても、最近の小説やニュースではなかなかお目にかかれないので。     
ただ、猿蟹合戦をイメージしたなら、善と悪をはっきり書きわけて欲しかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。