2012年5月19日土曜日

日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」

日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」
水谷竹秀著
集英社

海外で経済的に困窮状態に陥っている在留邦人を「困窮邦人」という。 
フィリピンの「困窮邦人」を追ったドキュメント。    
第9回開高健ノンフィクション賞受賞作。



1975年生まれの著者は、現在フィリピンで「日刊マニラ新聞社」の記者をしている。

東京から直線距離にして約3000㌔、人口9400万人の島国フィリピン。
そこには「困窮邦人」がたくさんいるという。
フィリピンクラブで出会った女性を追いかけて渡航する。
所持金をすべて使い果たす。
お金が無くなった彼らは女性から見捨てられた挙句、ホームレスになり現地の人のお世話になる。
それが彼らの大雑把なパターンである。

この本は、そんな困ったちゃんたちにスポットを当てたドキュメントである。

親が倒れたため事業を引き継いだが、フィリピンクラブで遊びまくって資金4000万円をすったばかりか、ヤミ金に手を出して首が回らなくなり、フィリピンに逃げ込んだ30代の男性。

会社と家の往復で33年間真面目に暮らしていたのに、単身赴任先のフィリピンクラブで出会ったお姉ちゃんたちの魅力に目覚めて26年間連れ添った妻と離婚し、フィリピンに行ってしまう男性。

そんな男性たちの話を読んで、「自業自得」「自分でまいた種」という言葉が頭をかすめる。
ただ、読んでいくうちに、日本には適応できない人たちなのかもしれない、
彼らは日本にいるより、貧困でも「人とのつきあい」があるだけ、フィリピンに滞在する方が幸せなのではないか、と思うようになった。

人目を気にする、人の迷惑にならないように、と日本でストレスをためるより、「自分たちも迷惑かけっぱなしだから自分が迷惑かけられてもどうってことない」と笑うフィリピン人に囲まれていた方が楽なのだろう。
日本人には恥をさらしたくないが、フィリピン人には構わないというわがままさ・傲慢さも含んでいると思う。
ただ、世話をしてくれるフィリピン人たちも、決して裕福ではなくむしろ貧困層の方々である。

「取材を続けるうちに同情しなくなった」と著者は言うが、完璧には突き放せない、困惑した著者の優しさが文章からうかがえる。
そして、この本を読んだ私も著者と同じように出口の見えない迷路に迷い込んでしまうのであった。

この本を読んだ男性は、他人事だと笑えるだろうか。
たまたま、心が弱った時にフィリピンクラブを訪れ、彼らの陽気さに魅了される、という機会がないだけかもしれない。

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