2012年5月21日月曜日

すき焼き

すき焼き
松本栄文著
株式会社カザン

市場に出回ることの少ない「特産松坂牛」の飼育からすき焼きになるまでを追った本。一流の仕事人たちに敬意を払いたくなる一冊。



「特産松坂牛」をご存じだろうか?
「特選」ではなく「特産」である。
品質規格のA5ランク~C1ランクとは別に、「特産」というランクがある。
純潔の但馬素牛から肥育され、松坂牛生産量の一割に過ぎない貴重な牛、それが「特産松坂牛」だ。
この牛肉に対し、「ほとんど脂で食べさせている」というような物言いは勘違いだと著者は言う。

この本はその「特産松坂牛」である「てるよし」という名の牛の一生を追った本でもある。

霜降りに頼らない、肉質のキメの細かさを大切にと、サシではなく肉質で勝負する肥育家。
牛を人間と同じように扱い、敬意を表して「牛さん」と呼ぶ。
豊かな湧き水、安全で良質な藁、濃厚飼料を少なくする肥育法、手間暇かけて牛さんを大切に育て上げる。
屠畜場では、「てるよし」が緊張しないように最後の最後まで体をなでてやる。
「命と向き合う時間。てるよし有難う。」と。

肉屋では、機械でなく包丁で切る肉職人たち。
最近は、柔らかい生肉を扱える肉屋の職人が減っているという。

そして、「てるよし」はすき焼きになる。
「最後に残った白い牛脂は松坂牛の美味しさを凝縮した存在で、肉に自信がなければお客様にお勧めできませんよね。」と言う焼き子さん。

そんな一流の仕事人たちが、出てくる良質な本である。

なんといっても圧巻なのが、数々の写真たち。
表紙は白黒だが、中はフルカラーの写真が盛りだくさんで、これがなんとも美しいのである。
値段は¥3800と高めだが、この美しさ、内容の充実さ、そして一流の方々に出会える喜びを考えたら、それ以上の価値がある本だといえる。

今まで、「安い肉でも調理法によっておいしくなるから」と負け惜しみを言っていた私だが、松坂まで足を運び、極上の肉を一流の仕事人たちと牛さんに、敬意を払いながら食べてみたくなった。

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