2014年1月29日水曜日

職業治験 治験で1000万円稼いだ男の病的な日々

八雲星次著
幻冬舎


「治験」は割のいいバイトである・・・とは聞いたことがあったが、それを職業とする人がいるとは!「プロ治験者」となった男のアブない記録。 




「新薬開発のためにご協力いただけませんか?」
「ボランティアを募集しています。」
製薬会社のそんな新聞広告を何度か目にしたことがある。
しかし、本書「職業治験」の中に出てくる「治験」とは、新聞広告で大々的に募集するような最終段階の治験ではない。
動物実験を繰り返し初めてヒトに投与する段階、「第一相治験」と言われるいわば「人体実験」とも言うべき治験のことである。
参加者たちは、あくまで自分の意思で治験に参加するボランティアという立場なので、治験で得られる報酬は労働の対価としてではなく、時間拘束に対しての負担軽減費という形で支払われるのだという。

著者は、一部上場の会社を2ヶ月で退職しブラブラしていた頃、治験ボランティアに登録した。
その後、「20泊21日のボランティアを募集しています」という電話が掛かってきて、53万円という報酬に魅力を感じ応募する。
するとそこは、漫画本があふれ、ゲームやネットがし放題の楽園のような世界だった!
しかも震えが止まらないほど美味しい豪華な食事付き!
(ただし、投薬日に何度も行われる採血の痛さを我慢しなければならないが。)
そこで治験業界では有名な「教授」に出会い、楽して儲けることに目覚めた著者は、治験参加を繰り返し、職業として生計を立てる「プロ治験者」となったのだ。

そして著者は、C型肝炎のインターフェロン、認知症薬、麻酔薬、統合失調症の薬、サプリメント・・・と様々な新薬の治験に参加していく。
その中には、臨床試験受託事業協会に加盟していない病院で行われる劣悪な環境の「裏治験」、日本人を対象として海外で行われる至れり尽くせりの「海外治験」まで含まれていて、こんな世界があったのかと驚きながら読みすすめた。

治験に群がる男たちも、なかなか個性的だ。
コミュニケーション力が欠如した男、禁煙厳守の病院で隠れて喫煙する男、風呂場の壁や手すりに自慰行為の残骸をぶち撒ける男・・・
共通するのは、怠惰臭を撒き散らし、定職は持たないが被験者になりたいという熱い情熱は持っている男たちである。

楽をしながら稼げる夢のような生活だと憧れる若者も多いかもしれないが、参加できるのは20代~40代の健康な男性である。
いつまでもできる仕事ではないのである。
しかも著者の年収は約160万円だというのだから、贅沢できる金額ではない。

そして彼らは働き盛りの年代であり、このようなアングラ的世界に漂っているのはもったいないように思える。
でも、新薬開発のために彼らのような治験者が必要なわけで、私も彼らの恩恵を受けているわけで・・・
「新薬を創るための社会貢献などとは一切思っていません。楽がしたかったのです。」
という著者の言葉を聞くと、なんとも複雑な気持ちになってしまう。
そして、お節介ながら彼らの将来を心配してしまうのであった。

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