2014年1月15日水曜日

命がけで南極に住んでみた

ゲイブリエル・ウォーカー著
(Gabrielle Walker)
仙名紀訳
柏書房

なぜ人は南極に惹かれるのだろうか?過去と未来の秘密が詰まった特異な大陸・南極の魅力に迫る。



先日、南極の雪の下から1914年当時の探検隊が残した写真のネガが発見され、現像に成功したとの記事を目にした。
そこに写っていた1世紀も前の彼らは、どんな気持ちで南極大陸に足を踏み入れたのだろうか。
とてもロマンを感じるニュースだった。

本書は、南極に魅せられたイギリス人ライターが体験し見聞きした、いわば「南極の解説書」である。
題名からきっと面白おかしく南極体験を綴ったものだろうと思っていたのだが、著者はノンフィクションライターになる前に大学で化学を教えていたというだけあって専門的で、ボリュームも内容も濃い、読み応えのある重厚な1冊だった。
原題は「ANTARCTICA : An Intimate Portrait of a Mysterious Continent.」というシンプルなタイトルなので、手に取りやすい題名に変更したのだろう。

食料も飲み水もなく、あるのは氷だけ。
唯一人類が常在したことのないこの特異な大陸は、昔から冒険者たち・科学者たちの興味の対象だった。
著者は、そんな南極大陸の過酷な気候を体験し、南極に取り憑かれた「南極人」たちにインタビューをしていく。

氷は下に向かうにつれて時代的に古くなるため、分厚く覆われた氷の底辺近くの「氷床コア」を取り出し気泡を調べると、古代の大気の状況が解明できるのだという。
そのため、科学者たちは、ドリルで穴を開けながら何時間もかけて氷床コアを引き上げていく。

また、南極は隕石の宝庫でもあるという。
落下した隕石は凍ったまま保存されるため変質しにくく、建造物が少ないため隕石が見つけやすいということもあり、たくさんのボランティアたちが協力して隕石発見に向けて活動している。
しかし、例え隕石を発見しても当局に手渡すだけで、何の特典も与えられず持ち帰ることもできない。
それでもこの隕石発見プロブラムに、毎年何百人もが応募するのだという。

他にも
どこよりも空気が澄んでいて遠くまで望見できるため設置されている「天文観測所」や、最も静かなため建設された「地震観測所」。

一定の周期で満ちたり枯渇したりを繰り返している「氷底湖」。

血液が凍らない魚。他の地域より1000倍も大きいウミグモ。時には3mにもなるというヒモムシ。など特異な生物たち。

などなど、内容は本当に多岐にわたり、科学的知識の乏しい私はあっぷあっぷしながら読んでいた。
それに加えて、読みにくい直訳風の翻訳文、あちこちに飛ぶ話題、そしてボリュームの多さに何度も挫折しそうになった。
それでも読み通したのは、興味深い内容が満載だったことに加えて、大変な苦労をしてまでも滞在する「南極人」たちが取り憑かれた南極の魅力を知りたかったからだ。

南極大陸は各国が資源開発を念頭に置きながらも、法的にはどこの国の領土でもない。
まだまだ謎だらけのこの大陸が、政争対象にならないことを願う。

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