2012年6月16日土曜日

太陽は動かない

太陽は動かない
吉田修一著
幻冬舎

読みながら、「スパイ大作戦」「007」の音楽が鳴り響く。ハリウッド映画を見ているようなスピーディーなアクションスパイ小説。


表向きはアジアの情報を発信しているAN通信。
しかしその正体は、機密情報を入手し、競争相手を競わせ高く売り飛ばす、産業スパイ集団だった!!
「情報ってものを売るときには、相手が買わざるを得ない状況までとことん追い詰めてから売りつけるもんだ。」
24時間連絡が取れなければ組織への裏切りとみなされ、胸に破裂する爆弾が埋め込まれている情報員たち。
各国がしのぎを削る新エネルギーの開発を巡って繰り広げる情報戦。
果たして勝利するのは誰なのか---?

「悪人」は、犯人の逃亡という単純なストーリーだが、心理描写が丁寧に書かれていた傑作だった。
この本は、それと同じ作者が書いたとは思えないような小説である。
登場人物たちが本当は何を考えているのか、心情はどう変化するのか、わからないまま、そして考える暇もないまま一気にラストまで引っ張られて行く。

狐と狸のばかし合い---というと、昔話のようなのんびりしたイメージがある。
ところが、これは読者ものんびりなんかしていられない。
ベトナムの暑さで汗だくになったかと思えば、上海に飛び雑踏にまぎれる。
香港でセレブのパーティーに出没し、東京、天津、香港、種子島・・・とめまぐるしく舞台が変わるのだ。

そして、状況も刻一刻と変わる。
スケールの大きさとスピード感に圧倒されながら、こちらも必死でくらいついていく。
頭を使い、ハッキングをし、女も男も体を張った情報戦。
勝つか負けるか、生きるか死ぬかの瀬戸際と、最後まで目が離せない。

だからと言って、どこか知らない世界の話・荒唐無稽の話、とは思えないのである。
実在の地名や固有名詞、事件が混在しているので、今実際にこういうことが起きているかもと考えてしまう。
入念な下調べをしたであろう、深みのある小説になっていた。
実力のある方が、エンターテイメント小説を書くとこうなるのかと、感嘆する。

蓄電池のことで腑に落ちない点があったのだが、それを差し引いても私好みの傑作であった。
シリーズ化されることを熱望する。

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