2012年6月24日日曜日

100年前の女の子

100年前の女の子 船曳由美著
講談社

100年前に女の子だった著者のお母さんの生活をいきいきと語り下ろした一冊。民俗学的にも興味深い本であった。


明治42年、館林に近い栃木県高松村に「テイ」という女の子が生まれた。
実の母とは生後1カ月で生き別れとなり、あちこちの家に里子に出される。
小学校入学時に生家に戻り、祖母や、後妻に入った継母に育てられる。
そんなテイの幼少期を中心とした半生が綴られている本である。

四季折々の自然と共に生きていく村人たちの様子が、いきいきと描かれている。
初めは、おばあちゃんの昔話を聞いている感じで読んでいた私も、そのうち村の暮らしに引き込まれて行く。

初夏の茶摘みから始まり、お盆となり、お正月を迎え、満開のお花見・・・そしてまた次の一年が繰り返される村の暮らし。
そこには、昔から語り継がれたしきたりがあり、様々な行事があり、そして、多数の神様が見守っているという暮らしであった。

村を訪れる富山の薬売り、紅売り、物乞い・・・。
棺桶が「座棺」であった、修学旅行で日本橋の三越に行きお土産まで貰って帰った、
など、民俗学的な観点からも非常に興味深い。
初めて聞く話ではあるが、どこか懐かしさを感じる。
これが、日本の原風景なのかもしれない。

1909年生まれの テイ が、幼い頃の事を語り始めたのは、米寿を過ぎた頃からだという。
「それまでは、重い石で心の奥に封印しいるかのように幼い頃の思い出を決して話さなかった。」
冷たくて固い、出入りの男衆の背中ににおんぶされて出かけるときには、必ずどこかの家に連れて行かれるときなのであった。
そのため、大人になってからも、寝床でうつぶせに寝ると、夢の中で下の布団があの固い背中に変わっていくので、決してうつぶせに寝ることができなかったという。
90近くになるまで、幼い頃の事を口に出すことができなかった程の辛さ。
100歳になって「わたしにはおっ母がいなかった」と泣いて娘に抱きつく テイ の思い。
それらを思うと胸がつまる。

100年前の少女の健気さ・我慢強さ・聡明さに感心し、自分を省みて、恥ずかしくなる。
そして何より、著者の母親への愛の深さに感動する物語であった。

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