2013年10月22日火曜日

ハピネス

桐野夏生著
光文社

幸せそうに見える母親たちの葛藤。桐野夏生さんの、こういう小説を待っていた!



「公園デビュー」という言葉を初めて知った叔父が、「なにそれ?人のことを気にせず、行きたい時に行きたい所に行けばいいのに。」と言っていた。
それはもちろん正論なのだが、女のそれも子育て中の母親たちの関係は複雑なのだ。
そんな複雑な女の世界を描いているのがこの「ハピネス」だ。

主人公は、憧れだった都心のタワーマンションに住んでいる有沙。
夫は「お願いだから離婚してください」というメールを一方的に送りつけてアメリカに単身赴任しているため、3歳の娘と二人暮らしをしている。
セレブ感漂うおしゃれなママ友たちのグループに入り、一緒に子供を遊ばせている。
彼女たちは一見幸せそうに見えるが、それぞれ家庭や子育ての悩みを抱えている。
それは、児童虐待、貧困、DVといった深刻な悩みではないけれど、誰にでも起こりうる身近な悩みである。
そんな母親たちの葛藤を、この物語はリアルに映し出していく。

女同士が集まれば、軋轢が生まれるのは当然のこと。
有沙も、夫の職業、タワーマンションの高層棟か低層棟か分譲か賃貸かなど、見えない階級意識に息苦しさを感じている。

人と比べてしまう、浮かないように周りに合わせる、家庭内の弱みを見せないようにする・・・都会で生きるためには必要なことかもしれない。
しかも子育て中、特に子供が小さいうちは親も側についていなければならず、そこに子供同士の関係も絡んでくるのだからもっと複雑になる。
バカバカしい、人は人自分は自分、と割り切ってゴーイングマイウェイを貫けば、母親ばかりか子供も浮いてしまうのだから難しい。

都会的なママ友グループで、精一杯皆に合わせている有沙はとても危うく、大丈夫?周りに流されないで!と励ましたくなってしまう。
このままママ友たちとのドロドロの関係がずっと続く話なのかと思いきや、中盤あたりから有紗に変化が訪れ、物語は違う方向へ走り出す。

女の汚い部分を描くのが上手い桐野夏生さんの、こういう小説を待っていた!
特に子育て中の女性にお勧めしたい本でもある。
読んで「どうしてハッキリ自分の意見を言わないんだろう、私とは無縁の話だ」と思う人は幸せなのかもしれない。
多くの女性たちが、ママ友たちとの関係に悩んでいるのだから。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。