2013年10月13日日曜日

東京にオリンピックを呼んだ男

高杉良著
光文社

日本の心。おもてなしの心。東京オリンピック招致に尽力した日系2世の物語。





本書は、1964年の東京オリンピック招致に尽力した日系2世・和田勇さんの物語である。

和田勇さん(Fred Isamu Wada)は、1907年(明治40年)にワシントン州で食堂を営む日系1世の両親の元に生まれた。
生活苦のため12歳で農園で働き始め、17歳で青果商に就職した際はその働きぶりが評価されて1年で店長に抜擢される。
その後独立し、努力と才覚で店舗を増やし、日系人の中心的存在となっていった。
太平洋戦争の際は、強制収容所入りを逃れるため、日系人を束ねユタ州で辛い農場開拓に挑戦する。
戦後は再び店を構え、多数の店舗を経営するまでになった。
日系人は日系人同士で付き合っていた当時、ポーカーを覚えたりしながら白人社会に溶け込む努力を重ね、白人たちからも尊敬される存在になっていく。

強力なリーダーシップを有し、経済的に余裕が出来ても身を粉にして働く、困っている人を見ると助けずにはいられない、祖国日本を愛し続ける・・・そんな人物なのである。
だからこそ、東京オリンピック招致に向けて協力を求められたのだろう。
私財をなげうち全身全霊を打ち込み「アジアで最初のオリンピックを開催する」という夢に向かって邁進するのである。
またその後は、米国のためにロス・オリンピックの誘致にも尽力していく。

困窮している時に知り合いの結婚祝いとして2カラットのダイヤの指輪をポンとプレゼント。
若いメキシコ女を2回買ったことがあると告白。
借金がある身ながら6000ドルを二つ返事で貸す。
豪快エピソードには事欠かないが、奥様はどんなに大変だっただろうと思う。
南米での招致活動にも同行し、内助の功を発揮する。
この奥様がいなかったら東京オリンピックはなかったのかもしれない。
これは、一人の尊敬すべきリーダーの話でもあるが、強くしなやかな奥様の物語でもある。

ある方が、喜寿を迎えた和田さんに会った印象を「古武士のような人」だと表現していた。
「日本の心」「おもてなしの心」を持ち、献身的に奉仕する日系人がいたことを日本人として誇りに思う。
2020年のオリンピックの開催地が東京に決まり、きっと和田さんも天国でお喜びになっていることだろう。

※本書は、1992年に講談社から刊行された「祖国へ、熱き心を」を、2020年のオリンピック招致に絡み、光文社よりソフトカバーで再出版されたものです。

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