2013年8月13日火曜日

長く働いてきた人の言葉

北尾トロ著
飛鳥新社

普通の人の普通の仕事。普通ってなんだろう?



「職業は、普通のサラリーマンです」
よく聞くセリフだが、普通のサラリーマンってどんな職業だろうか。
たとえ同じ会社の隣同士に座っている同僚であっても、仕事内容は全く同じではないだろうし、仕事に対する姿勢・仕事に対して抱いている思いもそれぞれ違う。
そう考えると自分では「普通」と思っていても、人から見たらへぇ〜と思うようなこともたくさんあるのではないか。

この「長く働いてきた人の言葉」は、北尾トロさんが10人の長く働いてきた人にインタビューし、まとめたものである。
特殊な仕事に就いているわけでもなく、有名人でもない。
大成功し大金持ちになった方でもない。
「本当にこんな話でいいのかなぁ、こんな普通のことばかりで」と言いながら、自分の言葉で仕事や人生について語る人々ばかりである。
そんな「普通」の話がとても面白いのである。

弁護士ひとすじ33年のマチ弁の方は、依頼人はお金が欲しいのか、それとも相手に謝らせたいのか、本当は何を求めているのかよく掘り下げて考えるのが重要だという。

脱サラして喫茶店のマスターとなった男性は、「成功してやるぞというほどの意気込みでもなくて、しばらくやってみようかなぁ」という軽い気持ちでお店を始めたのだという。

31年間船員しかやったことがないという男性は、海の上では本や雑誌は本当に貴重で、ある時沖ですれ違ったマグロ船に読み終わった少年ジャンプをビニール袋に入れてポーンと投げて渡したら、後日マグロを一本お礼にもらったという逸話を披露する。

偶然遊びに行った映画撮影所で頼まれてお手伝いしてから、半世紀も続けている女性映像編集者。

印刷会社で社長経験がありながら降格し平社員となり、70歳になる今でも現役営業マンとして働く男性。

タクシー運転手、コンビニオーナー、床屋さん・・・

彼らはその職業に就きたくて就きたくて、努力して就いたというわけではない。
肩肘張らず、ゆるゆるとのんびり語る彼らの話に、「がむしゃら」「ど根性」という言葉は似合わない。

しかし、それなりに苦労と努力を積み重ねなければその仕事を長く続けていくことはできないだろう。
劇的な人生や過酷な体験ではないけれど、彼らなりに真剣に仕事と向き合ってきたことが伺えるのである。

登場する方々は皆さん素敵な方で、幸せそうな充実した生活をしているように見受けられる。
彼らのその魅力を引き出せたのは、北尾トロさんの「聞く力」「喋らせる力」によるものだと思う。
どんな仕事を選ぶかということよりめぐりあった仕事とどのように向き合うかなんだろうと思います。
ああ、その通りだ。
楽しいと感じるか、不快に思うかは、自分の気持ち一つで変わるものだから。
普通や平凡なんてない。
一人一人違っているのだから。

えっ!私?
私はいたって普通で平凡な毎日を送っています。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。