2013年3月19日火曜日

赦す人

赦す人
大崎善生著
新潮社

団鬼六の凄まじくもやさしい人生。



SM界の重鎮、団鬼六(1931-2011)。
あまりおおっぴらには読まない小説、それもその中の一つのジャンルであるSM小説で名を成し、
世の中にこれだけ受け入れられたのはなぜだろうか。
本書は、団鬼六本人が同行するという贅沢な取材旅行に赴き、彼の人生を探っていく評伝である。

団鬼六は、昭和6年滋賀県彦根市に生まれた。
映画館のオーナーの孫としてまた元女優の息子として上流階級のような少年時代を過ごし、
定職にも就かず相場に明け暮れ家出を繰り返す父に「人生は甘いものだ」と様々な勝負事を教え込まれて育つ。

大学卒業後は、まさにジェットコースター人生を歩んでいく。
シナリオライター、英語教師、小説執筆、雑誌創刊、映画製作、鬼プロの設立と倒産・・・
と目まぐるしく職を替え、
お金があればあっただけ散財し、なくても借金してまで散財する。
それも周りを喜ばせるために。
最盛期には月に500枚もの原稿をこなしていたにもかかわらず、4億円で建築した鬼六御殿を追われたりと、お金と女性には生涯にわたって翻弄され続けるのだ。

著者は愛と尊敬の念を抱きながら、光と影、天国と地獄を交互に経験していくこの希代の作家の虚実入り混じった言動を少しづつ読み解いていく。

25歳で書いてみようと原稿用紙に向かい、下書きなしにいきなり書き出して最後までスラスラ書いた作品が新人賞の最終候補にまで残ったというエピソードには驚いた。。
著者は、そんな鬼六の話を聞いて絶対音感ならぬ「絶対小説感」という言葉が頭に浮かんだという。

読み終わり、この激しい人生を歩んだ男にすっかり魅了されてしまった。
自伝エッセイで面白おかしく人生を振り返っていたが、その裏には筆舌に尽くしがたい苦悩が隠されていたのだ。

なんとサービス精神が旺盛な人なんだろうか。
なんと情け深い人なんだろうか。
騙され裏切られそして傷つけられてもなお人間を愛し続け、赦す・・・
彼の度量の大きさ、懐の深さには驚くばかりだ。

破天荒な人。
人生を遊び尽くした人。
この優しくて憎めない人は、今でも天国で周りの人を喜ばせ続けているのだろうか。

※参考:抱腹絶倒の自伝エッセイ「悦楽王」

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