2014年3月22日土曜日

日本語に生まれて――世界の本屋さんで考えたこと

中村和恵著
岩波書店

好きなだけ本が読めるって幸せなことなのだ。世界を回って考えた「本」のこと。



著者は比較文学者という職業柄、世界中を飛び回っている方である。
どこへ行っても博物館・美術館の他に、本屋さんや図書館まで訪れるという。
そして、本を買いまくりダンボールで送るという筋金入りの本好きだ。
そんな著者が、世界各地を回りながら考えた「書物」についてのエッセイである。
あちこちに話題が飛ぶので旅の雑記帳のような雰囲気ではあるが、本や電子書籍・書店の未来について考えていく。

食を考えるエッセイ「地上の飯―皿めぐり航海記」を読んだ時にも思ったのだが、どうも私はこの著者の文章とは相性が悪いようだ。
文章が独りよがりのように感じられ、話題もあちこちに飛ぶので読みにくいのだ。
それでも内容的には面白く、読みにくさは感じても苦痛ではない。

何もなくて呆然としてしまうトンガの本屋さん。
「本の値段がわからないから売れない」というドミニカ島の雑貨屋兼本販売所の店員。
呪いの方法が書いてあり、代々受け継がれる秘密の本。
そんな面白い話題の合間に、植民地、人種差別、原発、言語、日本人と日本語など、著者が考えたことが多岐にわたって綴られていく。

世界には、母国語で教育が受けられない国、母国語の出版物がほとんどない国がたくさんあり、消えかかっている言語もたくさんある。
家でも外でも日本語を使い、日本語の出版物が溢れているこの日本が、世界から見たら特殊であり、いつでも好きな本を読める環境にあるということが幸せなのだとあらためて教えてくれる。

積読本の消化もできず、あれも読みたいこれも読みたいと図書館に目一杯予約を入れ、「読みたい本があり過ぎて困るぅ~~~」と言っている私は、なんて贅沢なのだろう。


世界の出版市場のおよそ1/5を日本が占めるという、出版先進国の日本。
先日、紙の書籍だけに認められていた「出版権」の対象を、電子書籍にも広げる著作権法改正案が閣議決定された。(2015年1月施行予定。)

著者がいて、出版社があり、編集者がいて、校閲があり、そして本屋さんがある。
当たり前のように日本語の出版物があふれ、私たちは楽しむことができる。
そんな世界が、この著作権法の改正・電子書籍の氾濫で変わってしまうのだろうか。
本好きの一人として、いつまでも本が溢れる世の中であってほしいと願う。

2 件のコメント:

  1. うーん、ひとりよがり、といわれたことはものすごく残念です。どちらかというと、変わった文体、文学的な文体、あるいは詩的な文体だと、いつかおもってくれたらうれしいなあ。無理かな。あ、すいません、書いた張本人です。でも読んでくださってありがとう。わたしの狙いとしてはひとりよがりとは正反対を狙った文章をこころがけています。自分に酔ってしまうこと、かっこいいとかおもってるみたいな文章、大嫌いなので。現代世界の状況は、とても複雑なので、工夫しないで書きますと、かたくてむずかしい文章になってしまう。そのほうが、楽なんです。なるべくふんわり伝わるように、雑談をいろいろして気楽に、笑ってもらったりしながら、大事なことや聞きづらい話をしていく、そういう狙いです。うーん、残念だったなあ。またがんばります。

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    1. 中村和恵さま わぁ!単なる素人の勝手な意見にわざわざコメントくださってありがとうございます。
      深い考察がこれでもかっと詰め込まれているので、私がいっぱいいっぱいになってしまうのかもしれません。
      内容的には上に書いたとおり面白く、興味深いお話が満載でした。
      次作も楽しみにしております。

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