2014年3月7日金曜日

伊藤くん A to E

柚木麻子著
幻冬舎



A:伊藤くんに邪険に扱われながらもひたむきに想い続けるデパート店員。
B:伊藤くんに好かれてしまい、ストーカーじみた行為に迷惑している塾の受付アルバイト。
C:親友が伊藤くんを好きと知っていながら、伊藤くんの童貞を奪ってしまうケーキ屋店員。
D:憧れの伊藤くんに処女は重いと酷いことを言われ、焦って体験しようとする後輩。
E:一世を風靡しながら、落ち目になってしまった伊藤くんの先輩シナリオライター。

それぞれ少しずつ交差している、年齢も職業も様々な5人の女性から見た「伊藤くん」を描いた連作短編集。


塾講師のアルバイトをしながらシナリオライターを目指している。
顔はいいが、プライドが高くて友達がいない。
自分のことで頭がいっぱいで周りが見えていない。
そして童貞。
そんな伊藤くんは冒頭から暴走し、女を振り回していく。

長年自分に片思いしている女を邪険に扱い、相手の気持ちを考えずに「好きな女ができたので相談に乗ってくれ」とのたまうのだ。
あまりに自分勝手な伊藤くんに頭きて、「いい加減にしろ~ヽ(`Д´)ノ」と本を投げ出したくなってしまった。
でも、「まぁまぁ、落ち着いて。まだ始まったばかりだから。もう少し先を読んでみようよ。伊藤くんの違う一面が出てくるかもよ。」と自分で自分を宥めながら読み進めたのだ。

するとだんだん伊藤くんのことが可哀想に思えてきた。
女たちは本音でぶつかり、伊藤くんに傷つけられ、そして立ち直っていく。
きっとそれを糧に明るい未来へと羽ばたいて行くのだろう。
でも、伊藤くんは自分が傷つかないように安全な場所にいて、ただ眺めているだけ。
そんな「苦難の経験値が低い人」って、かえって可哀想だと思うのだ。
そうは思っても、こんな男がもし身近にいたら近寄りたくないが。

ところで伊藤くんもイタいが、女たちもそれぞれ周りが見えず突っ走っている。
そういったことは、誰にでも心当たりがあるのではないだろうか。
後で振り返ってみると、顔が赤くなるような恋愛の苦い思い出。
・・・もちろん私も含めて。

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